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#134 人肌恋しいよぉ……

「ちょっと失礼」


 一言断ってから席をはずし、少し速足で爺さんの所まで行ってみると、どこぞのエロ貴族がする嫌という事を堂々と行っていて、両隣に座る美しいお姉さま方が困ったような笑顔を浮かべているので、本来であればハリセンとかでツッコミを入れたいところを、若干強めに耳を引っ張って端の方に移動する。一席一席は3畳ほどの広さなんで、互いに端までよればなんとかなる。


「あがががが!? い、いきなり何をするんじゃ」

「聞いたぞジジイ! ここには伯爵も来るそうじゃないか」

「そ、それが何だというんじゃ」

「お前なぁ……リューリュー達が死んだ事になっているんだ。だったらお前が死んだかどうかの確認をするためにこの店にやって来るかも知れないだろうが!」

「おぉ……確かにそうかもしれんな。髪が生えた嬉しさですっかり忘れとったわい」


 ケラケラ笑いながら頭を撫でる。駄目だこのジジイ。自分が命を狙われていた重大さに全く気付いていない。さすがに今ここで殺しに来るような真似はしないだろうけど、呪いの力に頼ってまで殺しに来たのに無傷でいる姿を確認されるのは少しマズイと思う。

 別に爺さん1人で見つかるのなら俺としては痛くもかゆくもないんだけど、こうして仲がいい感じの所を見られると俺が助けてやったんじゃないかと思われて余計な警戒心を抱かせる事になりかねないので、それだけは何としてでも避けたいところだ。こんな事にも気づかないとは……久しぶりの潤いに俺も浮かれていた証拠だな。


「とにかく。伯爵が店に来る前に出るぞ」

「そんな心配せんでも大丈夫じゃよ。小僧がこの店に顔を出すのは月に一度くらいのもんじゃか――あがが」

「お前は俺の話を聞いてなかったのか? 生死の確認にこの店に来るかもしれないと言っているんだよ。ほとぼりが冷めるまでお前は隠れてろ」


 という訳なので、エルナさんに急用が出来たので帰る旨と、俺と爺さんの関係やこの店に来た事なんかの口止めとして白金貨を10枚ほど渡しながら伝えると、かなり怪しんだものの取りあえずは了承してくれた。

 表の顔がいい人を演じているのなら、元・総団長の爺さんが今日も店に来たかどうか。訪れた時は最優先で連絡を寄越せくらいでとどめるだろう。そんな馬鹿な人選をする愚を犯すような人間でもない限り、これでひとまずは安全だ。

 更に安全を重ねる為に、さらに白金貨を10枚渡して裏口を使わせてもらってより安全に店を後にした。

 後は〈万能感知〉で不逞の輩が近づいて来るのを素早く察知する事が出来れば、逃げることは容易だって訳で、俺達は逃走経路が複数確保できる博多の屋台的な場所で飯を食う事にした。そう言えばあの店で頼んだ料理……後学のために食いたかったなぁ。


「やれやれ。わしはもう少し楽しみたかったんじゃがのぉ」

「それは伯爵を殺してからでもいいだろ。とにかく、爺さんもしばらくはさっきの部屋で大人しくしてもらうぞ」

「うぅむ。しかしのぉ。わしとしては日に5度は女子に触らんと死んでしまう病気にかかっていてのぉ。ずっと部屋にとじ込もるというのは賛成できんわい」

「んな事言ってる場合か?」

「わしにとっては死活問題じゃ」


 まぁ……かくいう俺もその意見には大いに賛成だ。

 今までは、自ら行動に移さなくてもリリィさんが勝手に抱きついて来てくれたりしてたから特に気にも留めてなかったけど、いざこうやって一人旅をしていると妙に寂しさを覚えるようになったが、一度依頼を受けた以上は完璧にこなすつもりだ。

 とりあえず目下の問題は爺さんのわがままだな。別にこのまま別れた後に死なれても問題はないのかもしれないけど、さすがにここまで打ち解けた相手をむざむざ殺すってのも忍びないし、なにより伯爵の思い通りに事が進むのは癇に障る。要は邪魔をしたいのだよ。


「我慢できないのか?」

「できておったら文句は言わんわ」

「だよなぁ……しかしリューリューに犠牲になってもらうのも気ぃ悪いしな。見るだけじゃダメか?」

「内容次第じゃ。刺激が強ければ強いほど活力となるぞい」


 大丈夫との言質は取った。それであるならこっちの世界――特に日本は宝庫だったからな。問題はないだろうって訳でサクッと創造。さすがに周りに人が沢山いる中で裸系の物を出す訳がないだろう? ちゃんと水着写真集を選んでいるとも。


「ならこれをくれてやるから我慢しろ」

「なんじゃ? むふぉおおおおおおおっ!? お嬢ちゃん。わしは一生の忠誠をおぬしに誓うぞい」

「いらんわ。それよりもそう言うので満足か?」

「もちろんじゃもちろんじゃとも。むほーっ。このように破廉恥な格好をするとは……実にけしからん」


 そう言いながらも鼻の下は伸びまくりだし、全く説得力がない。まぁ? 俺としては最初からこの爺さんに尊厳とか強者の風格とかは全く感じちゃいないんで、周囲と同じように軽蔑とかしたりはしない。

 とりあえず飯を食おう。適当に足を運んだ場所なんでさほど期待するつもりはないというか、今日は飯を作る気分じゃないんでこっちの世界の料理で済ませよう。得てしてこういう場所の飯は美味いって可能性はそこそこ高い気がするからな。


「すみませーん注文いいですか」

「はーい。ただいま伺いまーす」


 ん? 今の声って……なるほど。ここが言っていた働き口だったのか。


「よ。きちんと働いてるんだな」

「あっ!? 貴女は――」

「仕事中だろ」

「うぐっ! し、失礼いたしました。ご注文をどうぞ」


 頬を引くつかせながら笑顔を絶やさない。うん。商売の基本だね。

 とりあえず名前だけだとイマイチイメージしずらいんで、アンジェに店員としての知識がきちんとあるのかという試験の意味も込めていくつか質問を投げかけると、少したどたどしい所があったり思い出そうとしていたりと不安な部分はあったけど、働いたばかりってのを考えると相当凄いと思う。

 そんな中から肉料理と魚料理とサラダにデザートに汁物と一通り頼んだ。


「以上で。しかし接客業するとはな。リリンは大丈夫なのか?」


 あの子は明らかに人見知りする性格だし、言葉もたどたどしい。見た目だけで言えば男の客を呼び寄せる最高の人身御供なんだが、アンジェが嫌がる。姉として守ろうと必死だからな。


「あの子はあまり人前に出したくないんで、調理場に入れさせてもらってるわ」


 ちらっとそっちに目を向けてみると、僅かに見える厨房には確かにリリンの姿が確認できる。


「ちゃんと出来るのか?」

「家庭的な子だからちゃんとできるわよ」

「逆に姉は全く出来ないって訳か。威厳がないな」

「うるさいっ!」


 最後にドン! と水の入ったコップを置いて立ち去ろうとする背中にここの店員は乱暴だなぁ。と店長らしき恰幅のいいおばさんにも聞こえるように言ってやると、案の定ひっぱたかれた。いい気味だ。


「おぬしは女子が好きだったのではないのか?」

「もちろん大好きだぞ。だが今は店員と客だ。そこら辺の線引きはちゃんとしないとな」


 1つの店に籍を置く以上、そこのルールには従わなければいけないし、己の行動1つで店に及ぼす影響は決して無視できない。それがこんな――と言うのは店側に悪いけど、小さなお店だろうと、いや。こんな小さな店だからこそ、評判というのは大事なのだ。

 つまり! これは愛ある教育であって決していじめではないのだ。まぁ……少し涙目になったアンジェが可愛いなぁっては思ったけどね。

 なんて事を爺さんに説明したが、写真集から目を離さず生返事を繰り返す相手にそれほど熱心に話すのも面倒なんですぐに切り上げたけどな。


「お待たせしました」


 暇つぶしにラノベを読みながら待っていると、アンジェとリリンの2人が料理を運んできてくれた。

 ちなみに肉料理はハンバーグっぽい物。魚料理は香草焼き。サラダは数種類の野菜に塩を振り、熱して溶けたチーズと混ぜられた物。汁物は動物の骨で出汁を取った物に数種類の野菜とベーコンが入った物。デザートは干した果物だ。


「美味そうだ。どれどれ……」


 うん。ハンバーグっぽい物はしっかりと中まで火が通ってるけど肉汁はあまり残っていなくて、噛み締めるたびにじわっとしかしみ出してこない。

 魚料理は少し海から遠いという事もあって若干塩味がきつく、これをパンなんかにはさんで食べればまぁなんとかならないでもない。

 サラダは野菜が新鮮でとても瑞々しいが、チーズがねっとりと絡みついているのですぐに熱が入ってシャキシャキ感は時間が増すごとに薄くなっていく。味付けも塩がキツイ。

 スープは出汁の味が濃厚でビックリしたけど、骨の処理が甘いせいで灰汁が多いのに、それがきちんと処理されていないせいで全体的に濁っている。デザートの干した果物は言わずもがな。

 結果。具材は全体的に悪くないんだけど、全体的に調理の詰めが甘い。まぁ異世界の屋台だし、大衆相手だからこれでも十分だろう。


「どう? とっても美味しいでしょ」

「まぁまぁだな」


 この世界基準で言えば悪くはないが、俺基準で言えば不満だらけだ。特に灰汁をしっかりと取っていないのはいただけない。折角動物の骨を使うという事をしているのに台無しだ。

 別に取り繕うつもりもないし、料理を残すつもりもない。出された物はきちんと食べる。コレ。常識。

 という訳で、さっさと食事を続けようとした俺の前に包丁が飛んできたので料理が駄目にならないように受け止め、飛んできた方向に目を向けると、まぁ当然だろう。怒り心頭の料理長であろう大男がずしずしとした足取りで近づいてきた。

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