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#128 俺はアスカじゃねぇ

祝・10,000ユニーク達成という事で、もう一話。これからもどうぞよろしくお願いしますm(__)m

『おおーっとおおッ!! これは一体どういう事でしょうか!? まだ開始の合図が出てないはずですが。これは反則にあたるのではないでしょうか』

『そりゃあそこまで虚仮にされれば、誰だって手が出るわい。本来なら反則をしたんじゃから色々と罰があるじゃろうが、今回はあやつが勝手に挑んだんじゃから適用はされん』


 驚く実況と呆れる爺さん。そして遅れて鳴り響くゴングの音に、観客のボルテージは一気に加速する。


「あいつつつ……いきなりやってるれるじゃないか」

「アスカムカつく。だから殴った」

「おっとっと。今の俺はあくまでスーパーストロングメアリーだ。ちゃんと区別できないなら、戦う事無く立ち去るがそれでいいのか?」

「長いからメアリーで」

「じゃあまずは、俺を思いきりロープに投げ飛ばせ」


 怒りに任せて俺にアッパーをぶちかまして来たリエナがすぐに追撃するために接近してきたので、以上のやり取りをするために組み合って力比べをしている風を装い、事が済んだので少し力を抜いてロープまで派手に吹っ飛ばされる。

 これが普通のワイヤー製のロープであったなら、あっという間にちぎれて場外となってしまうだろうが、中身はミスリルやダマスカスと言った様々な金属を糸状にして柔軟性と強度を両立させた特別性となっているので何の心配もいらない。もちろん〈万物創造〉と〈品質改竄〉で作り上げた逸品だ。わざわざ金属を縄にするなんて面倒臭い事を手でやる訳がないだろう?

 そんなロープを大きく歪ませ、矢のように発射――されるとリエナが反応できないかもしれないから気付かれないように速度を落とし、まるでそれしか出来ないんだぞって感じで真っすぐ駆け抜ける。


「ぬぅ――」

「甘い」


 そんな無防備な俺に対し、リエナは何の見せ場もないただの拳打を放って来たんで、軽く避けて腰に抱きつくと、その勢いのまま数歩進んでから地面に叩きつける。一応直前に投げる事を言っているから受け身くらいはしてくれている。


『なんとおおおおおおおっ! リリティアナの一撃を避けたスーパーストロングメアリー。その勢いを利用して反撃とばかりに地面に向かって投げつけたアアアアアアアアア!!』

『今のはキツイ一撃じゃな。その辺の闘技奴隷であれば耐えられぬかもしれんのぉ』


 そんな解説を聞きながら、俺は未だ立ち上がれないフリをするリエナに容赦なく踏みつけ攻撃を繰り出すと、周囲からは一発踏み込むたびにより大きなブーイングと歓声がわき上がるけど、もちろん加減しているし派手な音が出るようにちょいと細工もしてあるので、リエナは痛がっているフリをしてもらい、タイミングを見計らって足を取られて地面に叩きつけられる。


『チャンピオン・リリティアナ。スーパーストロングメアリーの一瞬の隙をついての反撃。これは効いたのではないでしょうか』

『どうじゃろうな。スーパーストロングメアリーからはまだまだ余裕しか感じられん。恐らくは大して効いてはおらんだろう。あのリンクも、どうやら音が派手に出るような細工をされているようだし、思ったほど危険は少ないのかもしれんぞ?』


 さすがに爺さんにはバレたみたいだが、その辺は観客が盛り上がれば問題ないんで、なかなか立ち上がろうとしないところを、リエナに両足首を掴まれてのジャイアントスイングに持ち込まれた瞬間。何故か一際歓声が大きくなった。


『あ、あれはああああああああっ! 武王さまがお持ちの48の殺人技と言われている「G・スイング」ではないのかあああ!?』

『武王さまほどの膂力と倒れた相手の足首を立ち上がる前に掴み掛らねばならない難度Dの大技。まさかこの歳になって実物を拝む事が出来るとはのぉ……ありがたやありがたや』


 別に殺人技って程でもないんだけれど、リエナの力でちんちくりんの俺という掛け算の結果。水平どころか若干上向き方向になるほどの勢いで振り回されている。


「リエナ。もう少し勢いを落とせ。この角度で投げられたら場外負けになるぞ。お前もそれは嫌だろう?」

「む? このくらい?」

「いい感じだ。あと5回転くらいした後にあのポールに向かって投げ飛ばし、俺がもたもたしている間に後頭部に全力でもいいんで蹴りをした後に覆いかぶさってくれ」

「わか……った!」


 言うや否やブン投げられた。

 狙いはわずかに逸れたけど、大まかには合ってるんで問題ない。それに支柱もオリハルコンとかでまず間違いなく壊れないので遠慮なく叩きつけられてフラフラとしている間に、背後から蹴られてバッタリと倒れると、リエナの柔らかい感触が顔面に押し付けられた。ムフフ……最高だぜ!


『1……2……おおっと2.9っ!!』

『いい反応しとるのぉ。さすが伝道師を名乗るだけはあるわい』


 ふふふのふ。リエナ的には全力でフォール勝ちを狙いに来たんだろうけどそうはイカの塩辛じゃ。

 ちなみにフォールのシステムは原形をとどめていないこの世界のプロレスにもきちんと受け継がれているので、いきなり何してんだあいつ等って反応はない。むしろ、ギリギリで返した事に感嘆の声が漏れているくらいだ。


「さて……盛り上げるのはこれくらいにして、そろそろいたぶるぞ」

「次は負けない」

「いい度胸だ」


 という訳で、まずはあいさつ代わりのラリアットで盛大になぎ倒し、軽い呼吸困難に陥っているリエナの頭を掴んでのエルボー3連発。もちろん加減はしているから死んだり意識を飛ばしたりするわけじゃないけど、さっきまでと違って簡単に口の中を切ったようでそれを吐き出した。


「やっぱり面白い」

「俺は面白くない」


 ――――――――――


 それからも、俺はプロレスの悪役(ヒール)として立派に戦った。

 それはもうブーイングを貰おうが何しようがお構いなしにボコボコにしてやったし、同じくらいボコボコにされてやった結果。まぁ当然ながら俺が勝利を収めた。フリとは言え負けるの嫌いだからな。

 ちなみに試合時間は1時間を超えていたが、観客は飽きる事無く盛り上がり続け、そこら中で疲れ果てたようにぐったりとしていた。


『勝者・スーパーストロングメアリーっ! さすが伝道師を自称するだけあって、危なげない試合運びでしたね』

『うむ。リリティアナの方もかなり頑張ってはいたが、相手が悪かったと言うしかあるまい。あのタフネスと実力は武王さまに匹敵するものがあるかも知れぬな』

『さすがという事でしょうか。おや? スーパーストロングメアリーが何かを求めているようですね。どうやらこのマイクを寄越せと言っている様子です』

『ほぉ……まさかとは思うが、まいくぱふぉーまんすをするつもりかもしれんのぉ』

『あの伝説のですか!? くぅ~っ! さすが伝道師です! 最後までニクい演出をしてくれるぅ!!』


 まぁその通りなんだけど、勝手に盛り上げっているところ悪いがそれほど自信がある訳じゃない。そつなく悪役を終わらせてさっさと帰るに限る。そう何度も何度も闘技場に顔を出して盛り上げてやるほど暇な人間じゃないんでな。

 という訳で、マイクを受け取る。


『今日のお前等は運がいい。なにせ偽りのチャンピオンが地に伏すところを目撃できたのだからな』


 俺のその言葉に、大勢の観客からはブーイングが起こる。もちろんそう言う観客が多くなるように試合を運んだから、こっちとしては計画通りとほくそ笑みたくなるくらいだ。


『私に対する最上の歓声痛み入る。しかしこれで分かっただろう? 貴様等が目にしていたプロレスがどれだけ愚かで無様な物であったかを。これがプロレスだ。これが武王の行っていた試合だ。それを肝に銘じて精進するがいい。ではさらばだ』


 もちろん。悪役として俺だって凶器は使用した。しかしそれはあくまで殺傷能力という点においては刃引きした剣よりはるかに安全なスプーン(本当ならフォークがモアベター)だ。後は毒霧とかもやった方がよかったかもしれないけど、何となくキャラじゃないんで自重した。

 とにかく。見た目も派手な肉と肉がぶつかり合いに、相手の攻撃を受けきる覚悟と根性。俺の考えるプロレスは大方こんなもんだ。後は選手自身が観客をどうやったら喜ばせられるのかという努力を惜しまずに研さんを積めば、自然とプロレスになっていくだろう。

 という訳で、大の字に倒れたまま動く気配のない(勿論生きている)リエナをそのままにして颯爽と立ち去り、急いでトイレに駆け込んで着替えを済ませて幾星霜――はこっちの寿命が持たないんでほんの十数分間を置いてから席に戻ると、既にほとんどの観客は帰っていたが爺さんはキッチリ俺の帰りを待っていた。


「遅かったのぉ。それにしても凄い試合じゃったが、身体は大丈夫なのか?」

「あの程度でどうにかなってたら旅なんてできないだろ。それよりも報酬の件だが心当たりはあるか? 無かったら腕の骨をへし折るが」


 一方的に交わした約束だが、約束は約束だ。あれだけ盛り上げてやったんだ。綺麗どころとの飲酒の3つや4つさせてくれるのが筋ってモンだと思わんかね。もちろん代金は爺さん持ちだ。


「それなんじゃが、わし行きつけの店でいいなら案内するぞい」

「キレイどころは居るんだろうな。言っておくが、こちとら20代から30代前半くらいの綺麗で可愛い女性でなければ足の骨をへし折るからな」

「もちろんじゃよ。わしだってそのくらいの娘っ子が大好きじゃわい。まぁお嬢ちゃん並のはさすがにおらんが、なかなかええ店じゃから安心せい」

「なら一安心だ。早速行こうじゃないか。あんたの奢りでな」


 うむうむ。どうやらこの爺さんはなかなかに好き物のようで一安心だ。自然と足も軽くなるってもんさね。

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