#125 凶器? ナニソレ。美味しいの?
「うむ。やはり両国国技――げふんげふん。だな」
闘技場前に到着し、改めてその全容を視界に収めると、そこそこ昔に建てられたんだろう。外壁の汚れや破損具合がなかなかいい風合いを出していて、これだけでも観光の目玉として十分成り立つだろうけど、今回の目的はあくまで闘技場の見学だ。すぐ隣の遊園地にへ向かう美人のエルフ集団がいて、その後ろをついて行って幼い少女のフリをし、一緒に遊び回りたい欲求が喉から出かかるのを必死に飲み込み、門前の受付(敵)にフリーパスを見せて難なく施設内に足を踏み入れる。ちなみにVIP席は綺麗で可愛い女の子じゃなく執ジジイだったんで速攻辞退した。
「ふむふむ。賑わってるねぇ」
入り口を抜けてすぐの位置には、きっとこの闘技場の剣闘士であろう野郎共の大きな絵が飾られていて、その下では串焼きやエールなどと言った軽食や剣闘士を模した仮面などのグッズが販売がされていたり、腕試しの一環として参加者を受け付けていたりしているせいかかなり賑やかだし、多少度を超えた喧騒が起こっている場所もあるが、血の気の多い連中が集まれば自然とこういう諍いも起こるだろう。
とりあえず可愛いウサギ耳の獣人の売り子ちゃんから串焼きと、酒を頼んだが完全に無視されて果実水を購入。
焼き立てで塩も強めに振ってあるおかげか、少し硬かったけどそれが肉を食ってるって感じがしてそこそこ食えるモノとなっていたが、やはり可愛い娘の手作りってのは味が違うねぇ。たったそれだけと言うなかれ。俺からすればA5ランクの肉よりこっちの方が美味いと感じるくらいだ。
そんな俺的極上肉を食いながら普通に入れ替えた赤ワインをチビチビ飲みつつ、階段でとりあえず最上階まで足を運ぶ。といっても3階までしかないんで大した距離じゃない。
座席はさすがに升席って訳にはいかなかったようで、石を切り出して作ったであろう長椅子はほぼ満席。やはりこういう見世物は異世界であろうと人気があるみたいだな。
天井には見覚えのある屋根がぶら下がっていて、その四方にはきちんと計算したかどうか知らんけど四つのふさふさっとした物がつけられている。名前は知らん。
「やってるねぇ」
すり鉢状になっている中央では、今まさに戦闘が行わていた。
1人は2メートルを越えてるんじゃないかってくらいに大きく太った毛深い大親友。恐らくはゴリラ獣人であろう両手斧使い。
その対戦相手は、普通より長めの槍斧を手に何の飾りもないつるんとした兜に金属製の胸当てを装備した手足が異様に長い多分人族の男。こっちは友人くらいだな。
体格的にはゴリラ獣人の斧使いが圧倒的に有利ではあるが、槍斧使いの男はスピード重視のヒットアンドアウェイで小さな傷を与えて有利に事を進めている。
「ぬぅおおおおおおお!」
試合はそのまま槍斧が勝つのかと思われたが、最後の最後にゴリラ獣人から真っ赤なオーラが吹き出したと思えば、今までの鈍い動きが嘘のように素早くなり、大上段から振り下ろされた一撃が相手の槍斧をへし折り、人間ごと両断してもその速度は衰えずにリンクを盛大にぶっ壊し、その衝撃で会場全体が僅かに揺れた。とんでもない威力だな。
「勝者。ラリゴリラ」
「オオオオオオオオオオオオ!!」
審判の宣言と共に、会場からは怒号の様な歓声が沸き上がり、まさにといった名前のゴリラ獣人はまださっき使った何かしらのスキルが解除されないのか、手当たり次第にリンクを破壊したり両断された死体をさらにぐちゃぐちゃにしても飽き足らず、観客席にまで襲い掛かろうとした瞬間。首に着けられている輪っかが青から黄色に変化し、その全身をかなりの威力の雷撃が駆け抜けてすぐに泡を吹いて倒れた数秒後には医療班らしき担架を持った数人が運んでいてしまった。初っ端からとんでもないモンを見せられたな。
別にショックだったわけじゃないが、さすがにあっけにとられた。
『えー。ラリゴリラ選手によってリンクが破壊されてしまったので、しばし休憩といたします』
そんなアナウンスが流れると、入場口らしきところから続々と魔法使いが現れ、一体何をするのかと眺めていると、なんて事のない。魔法で新たにリンクを作っている。しかもお世辞にも早いとはいいがたい。これなら休憩とするのも頷ける。
とりあえず今日は、リエナの本来の戦闘力を確認するために来ているからな。動く気は全くないと言わんばかりにデンと構えていると、隣からしわがれた笑いが聞こえたので目を向けた先では、ハゲで小太りの眼帯をした丹下団p――げふんげふん。ジジイがいた。
別に無視をしても良かったんだが、リンクが形成されるまでまだ時間があるし、何より目と目が合ってしまった。通じ合う事はないが暇つぶしに話をするのは吝かではない。
「なんかおかしなことでもあったのか?」
「いやいや。お嬢ちゃんがあまりに呆けた顔をしとったんでな。気に障ったなら謝るわい。スマンかったのぉ」
「別にその程度で怒りゃしないさ。そう言う爺さんは、1人でこんな刺激の強いモンを見て心臓は大丈夫なのか?」
「かっかっか。わしはこれでも、昔は冒険者として名を馳せたもんじゃわい。この程度で逝くようなやわな鍛え方をしとらん」
そう言いながら、胸をドンを力強く叩いただけで咳き込んだ。年甲斐もなく若者ぶるからそう言う目に合うんだよ全く。
「ほら。飲みさしだけどないよりマシだろ」
「げほげほ。すまんのぉ――ってこりゃワインではないか!? お嬢ちゃん一体幾つじゃ?」
「女に年齢を聞くたぁいい度胸だ。ここで爺さんに酒を無理矢理飲まされそうになったと泣き叫ばれたくなかったら、大人しくそれを呑んでおいた方がいいぞ?」
「おおぅ……なんちゅう恐ろしい事を言うお嬢ちゃんじゃ」
俺の脅しに屈した爺さんは、大人しくワインを流し込んでひと心地ついたようだな。
「いいって。それよりもこの闘技場っていつからあるんだ? ワインの礼として暇だから聞いてやるよ」
「なんか釈然とせんがええじゃろう。ここが出来たのはおよそ700年ほど前とわしは聞いておる。何でも、製作者はこの世界に召喚された勇者様らしくての。そのお方のスキルによって、この建物は今の今まできちんと形が保たれておるのじゃ」
またか。この世界――というか神の連中はどうにも地球文化が大好きすぎみたいだな。それで召喚されるのが死んでる奴ならまだマシだが、もし日常生活を送っていていきなり連れて来られてこんな事をさせられるのって、本人的にはどうなんだろうな。
もちろんファンタジー小説とか漫画を読んでいれば、喜び勇んで承諾するだろうけど、全員が全員当てはまる訳じゃない。あのゴミ貴族がいい例だろう。あれは絶対にこの手の類の話を見ていない。というか知らないかもしれない時代の人間の可能性が高い。自分を貴族とはほざいてたしな。
「ほえーっ。勇者ってのは凄いんだなぁ」
「まったくじゃ。ちなみにその勇者様はこの闘技場の初代武王として、いまもああして闘技者達を見守っておられるのじゃ」
爺さんの指さす先を見てみると、そこには見覚えのある虎のマスクに見覚えのあるチャンピオンベルトを両肩に担いだような状態の胸像が埋め込まれている。あいつがここを作った勇者か。まぁ間違いなく日本人だろうけどな。
そんなこんなで爺さんと話し込んでいる間にリンクの修復がようやく終わり、再び戦闘が始まったんだけれども、特筆する事がないほどちんたらとしたものばかりの凡戦(俺的に)だったので、早くリエナは出て来ないのかとイライラし始めた頃。なぜか再び魔法使いが何人も出てきてリンクを囲み始めた。
「なんだなんだ? いったい何が始まるんだ?」
「あぁ……お嬢ちゃんは初めてなんじゃな。あれは武王様が最も得意としておった対戦形式。ぷろれすの準備をしておるのじゃよ」
「……ふーん。あいつ等は何をするんだ?」
まぁ……あの見た目でそれをしない訳がないよな。というかむしろそれが本職なんだろうから、ここでそれが行われるのは至極当然なのはいいとして、一体全体どうして魔法使いが出てくるのかが疑問だ。
「あれは相手が死なぬように結界を張る為じゃ」
「ならさっきの時もかけておけばよかっただろ。あれじゃ人的資源の無駄遣いだろうが」
「犯罪奴隷は減らしても減らしても増え続けておるんじゃ。なのでこうして減らすのも重要じゃが、ぷろれすには冒険者の参加が多々あるからの。なるべく死なぬようにとの配慮じゃ」
さすが命の価値が低い中世ファンタジー。まるでティッシュを捨てるがごとく人を殺すか。まぁ相手が犯罪者だから当然っちゃ当然か。
しかし……だからと言ってそこまでする必要はあるのかね。
プロレスっていやぁ、受けの美学が今なお廃れる事無く受け継がれていて、基本的に避けるといった概念はほぼ存在しないとはいえ、生身で戦っても怪我こそすれ死に繋がる可能性はそこそこ低い。
リンクを柔らかくするんだって言うならまだ納得できるけど、まさかの結界である。しかもその準備は着々と進んでいるようで、よーっく目を凝らして確認してみると、ビニールみたいな何か薄い膜がドーム状に展開しようとしているのが確認できる。
「おや? もしかしてお嬢ちゃんには結界が見えておるのか?」
「薄ぼんやりとだけどな。それより……今から始まるのってプロレスって話だけど」
「ああそうじゃよ。武王さまが広められたぷろれすは、数ある戦闘の中でも1・2を争う人気でのぉ。毎回参加者が多いんじゃよ」
そんな説明を聞きながら、俺は入場している連中に目を向ける。
1人は背中の翼と尻尾から龍族なんだろうと分かるけど、その首に奴隷の証がなかったので、金を払った参加者なのだろうと思う。
その対戦相手は首輪をしてるんで奴隷なのが一目で分かる低身長はドワーフなんだろう。
互いに上半身裸でがルールなのか顔にはマスクをかぶっているが、その手には一発退場レベルの凶器というかただの武器が握りしめられていた。




