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#11 初めての村

 マグマに染まった地面がゆっくりと炭化した木々を呑み込み、辺りには喉すら焼かれそうなほどの超高熱が、訪れる者の侵入を拒むように拡散していく。

 そんな光景を眺める魔族――アレクセイは魔力を大量に消費したせいもあり、軽い頭痛と大きな倦怠感にわずかに呼吸を乱していた。


「ク……ッ。下等生物一匹にLv4魔法はやりすぎましたかね」


 魔族という種族は、他種族を圧倒するほどの魔力の持ち主ではあるものの、肉その体自体も魔力で形成されているために驚異的な修復速度持っているが、Lv3魔法の使用後にLv4魔法を行使すれば、相応に魔力を消費するので弱体化するのは免れない。

 この事が同族に知られればその魔力を奪い取ろうと狙われ生命の危機にさらされるが、この世界で魔族弱体化に関する情報は同族でも上位の存在しか持っていない情報であるため、アレクセイもアスカと言う人の領域を軽々飛び越える存在の抹消を優先した。

 そして、アニーとリリィはこの世界でも標準的な獣人であり、レベルも戦闘職と比べれば低く、ここまで弱体化した現在でもその優位性は微塵も揺るがないと確信し、ゆっくりと降り立つ。


「あ、ありえへん……」

「これが……魔族の力」


 顔面蒼白で、投げられたままの体勢で指一本動かす事が出来ずにいる2人の前に、三日月のように歪んだ笑みを浮かべるアレクセイ。

 それがゆっくりと歩み寄って来る。ただそれだけで、2人はカチカチと歯を鳴らしながら今までの短い人生の走馬燈が駆け抜けた。


「ククク……良い恐怖の表情です。これであればあの村の住人と共に贄として使えそうですね」

「に、贄……やて?」

「ええそのとおりです。実は少々試したい召喚術があるのですが、そのためには絶望に染まった魔物以外の下等生物共の魂が供物としていくつか必要なのですよ。この先の村人共の恐怖への染まり具合は十分なのですがもう少々数を欲していたので助かりました。これで最後の仕上げへと向かえますな」

「最後の……仕上げ」

「贄として血肉を捧げていただきます。魔物もろともね」


 そう言葉を発するアレクセイの顔は恍惚と狂気が入り混じって、見る者に圧倒的な恐怖を与えるほどの異常さを孕んでおり、既に限界近くまで恐怖にさらされていた2人はそれを契機に意識を失い、魔族の手によって目的地であるオレゴン村へと運ばれていった。


――――――――――


「おービックリした。こればっかりはマジで死んだかと思った。超痛ぇしめっちゃ熱ぃわ」


 つーか今居るのってマグマの中じゃねぇの? こんな中にいて熱い程度で済んでるってマジ凄ぇわ。あの駄神は微塵も使えないが、奴がくれた〈万能耐性〉は有能すぎんだろ。

 もちろん痛いし熱いし火傷もしたけど、たったレベル3でマグマの中で髪一本燃えずに平然と立ってられる時点でおかしいんだから、十分軽傷と言っていいだろ。弱い〈回復〉が少しづつだけど治してくれてるしな。


「さて。さすがに見逃してくれるほどお人よしでもなかったか」


 身体は無事でも服は当然ながら糸一本残さず完全に燃え尽きたんで、新しい着替えを創造し、着替えをしながら周囲を確認してみても、2人の姿はどこにもない。

 臭いを嗅ぐ限りは焼死体となってマグマの中に居る線は薄そうだし、〈時計〉を確認すると気絶してたのは1分にも満たなかったんだから、さすがに人間が焼ける臭いが消えてなくなるまでは時間が足りないと思う。というかそれくらいなら絶賛悲鳴を上げてる最中くらいだろ。

 もちろん。他の方法で殺されている可能性もあるけど、こっちには伝家の宝刀〈万能感知〉があるのだ。対象を2人とさっきのコウモリ野郎に絞って検索をかけてみればあら不思議。およそ10キロくらい先に2人の反応があるではありませんか。コウモリ野郎のがないのは気になるけど、今は2人が無事だったことを喜んでおこうかね。特にあの揺れ動く大山は人類の至宝です。これを守らねば世界中の同志達より袋叩き似合う事は必至っ!


「さて……そうなると必要なのは武器だな」


 完全に隙を突いたって訳じゃないけど、サッカーボール大の鉄塊を弾丸並の速度で蹴りつけてやったのにかすり傷程度のダメージしか与えられなかった。

 きっと軽自動車位なら余裕で穴を開けられるくらいの威力が出ていたはずなのに、結果があれだと生半可な武器じゃあのコウモリ野郎を殺すのは不可能だろうし、かと言って魔法で挑もうにも何故か取得したはずの〈魔導〉スキルがうんともすんとも言わないんじゃどうしようもない。

 現状で何とかできる可能性があるものとして挙げれるのは、聖剣か魔剣か神剣だろうな。

 HPとMPの全てを持っていかれる程の高性能であれば恐らく傷つけられるだろうし、そうじゃなければ人類なんてとっくの昔に滅んでるに違いないので、きっとそこそこ低い品質でもダメージを与える事が可能なのかもしれないけど、駄目だった場合は死ぬまで確実に魔法をぶっ放され続ける未来が待っている。

 とは言えそれはさすがに選択し難い。聖剣一本作るだけでぶっ倒れて5時間くらい気絶してたら殺されるかもしんないからな。

 それに、もしかしたらアニーかリリィさんが有効な手段を知っているかもしれないから、対魔族用の武器の品質を決めるのはとりあえずの再会を果たしてからでも問題はないだろ。

 

 着替えを済ませて5分。全速力って訳じゃないけどそれなりの速度で走ったからすぐに到着したそこは、目的地であろうオレゴン村っぽい場所だった。案内板がある訳じゃないんで正しいかどうか知らんが、こんだけ歩いて違うんだったら地図にも載るだろうし、アニーとリリィさんが居るからそうだと思う事にする。

 こんな場所だからか家っぽい建物は20ほどしかないし商店もない。

 この辺りまでくると林も森くらいに緑豊かになってるから、狩りをしたり端の方に見える農業で収穫した野菜なんかを全員で分け合って暮らすようなそんな場所なんだろうな。まさにテンプレの田舎村と言わんばかりの光景だ。


「しかし……人がいないな」


 〈時計〉によれば、現在は24時。地球だったら完全な真夜中だけど、こっちは一日36時間だからまだ夕方から夜の間くらい。どんなタイムスケジュールで過ごしてるか分かんないけど、魔物がはびこる世界で見張りもたてずに全員が寝静まったりしてるのはどう考えたって異常じゃね?


「おーい。誰かいませんかーっ!」


 この先に2人が居るのは分かっているし、既に設定を変えてるから他の住人もいるのを知っているとはいえ、無断で村の中に足を踏み入れるのはどうかと思うんで大声で呼んでみると、誰よりも素早く2人の気配が動き出して、家屋の一つの扉が壊れんばかりの勢いで開け放たれた。


「アスカはんやないですか。どうして……」

「う、嘘やろ。あんた……あの状況で生きとったんか!?」

「まぁね。ところで2人は何でこんな所に――」

「「入ったらあかんっ!」」


 突然大声を出すもんだからビックリしたけど、取りあえず言われるがままに一歩下がって入り口らしき柵の外に出ようとしたけど、なんかに背中を押されるように後退できなくなってる。どうなってんだ?


「間に合わへんかった。もう終わりや……」

「何してんねんこのアホ! これで助けを呼びに行かれへんくなったやんけ!」

「終わった事を言ってもしゃーないだろ。とにかく状況を説明してくれや」

「あてらも全部を知っとるわけやありまへん。とにかく村長のトコに来てもろてええですか?」


 そう説明するリリィさんに連れられてやって来たのは、この村で一番豪華な屋敷――と言っても土壁茅葺の他との違いは四方を生け垣が囲っている程度の差に過ぎない本当にわずかな差だ。


「邪魔するで村長。新しい犠牲者を連れて来たわ」


 アニーがそう言いながら屋敷の中に入っていくのに続くと、中も御多分に漏れずちゃんと田舎っぽい。土間とか囲炉裏とかは日本っぽい雰囲気があるのが好感が持てるね。


「なんと……このような辺鄙な村に足を運ぶ奇特な人間がまだおられるとは」


 よっこいせと重い腰を上げ、そんな自虐をしながらこっちに歩み寄って来たのは白髪で深いしわの刻まれた顔でありながらも、農作業か狩りなのか分かんないけどどっちかで鍛えられた肉体が年齢を感じさせない老人。若干ヤの人に見えなくもなかったんでビビったのは秘密。


「よくもまぁ自分の村をそう悪く言えるもんだね」

「事実じゃからな。お嬢ちゃんがそうなのかい?」

「ああ。俺はアスカ。しがない旅人って事でひとつよろしく」

「わしはこのオレゴン村の村長のゴンズじゃ」

「それで? 何だってこの村はあんなことになってんだ」

「あれはアレクセイが張った逃亡防止用の結界じゃよ」

「ふーん。それって誰?」


 それを皮切りに、ゴンズ村長の説明が始まった。

 何でもあのコウモリ野郎がアレクセイと言うらしく、それがある日突然この村に訪れて召喚実験をするので下等生物であるこの村の住人の魂を求めたらしい。

 抵抗しようにも相手は魔族。ロクな武器もない村の住人では勝てない事と、アレクセイが言うには必要な魂がまだ揃わず、恐怖の染まり具合も足りないとの言葉に即座に殺される事はないとの思いも、住民たちの抵抗力を奪ったらしい。

 しかし。それが地獄の始まりとなったと村長は語る。

 その日を境に、日頃の倍以上の魔物が毎日のように村に押し寄せるようになり、アレクセイが半死半生の人とも呼べない何かを運び込んではその焼却を命じるので、生きるために酷い臭いに顔をしかめながらもそれを行ったらしい。

 そんな日々が半年も続いたまさに今日のついさっき、アレクセイがご苦労様でしたとの言葉と共に、村人全員の死が決定した事を伝えたのだ。


「――という訳で、この村はこれからアレクセイに滅ぼされてしまうのじゃよ」

「具体的にはどうやって殺されんの? 魔法かなんかか?」

「今までにないほどの魔物が押し寄せ、恐怖と怨嗟の色を濃くしながら……と言っておったかのぉ」

「なるほどなるほど。時間はどのくらい残ってんだ?」

「あと6時間くらいじゃが……こんなことを聞いてどうするつもりじゃ?」

「決まってるだろ。コウモリ野郎をブチ殺すんだよ」


 折角たどり着いた村だ。ここからさらに別の村に向かうなんて面倒はまっぴらごめんだからな。それを邪魔すると言うのであれば、俺は断固として戦いますとも。

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