#122 男にとってベスト5くらいに入るお礼なんじゃないかな!?
という訳で、ウェルカムという気持ちで飛んできた服を顔面で受け止め、ちゃんと礼儀にのっとってくんかくんかしてからゆっくりと服をどかしてみると、姉はリリンちゃんの胸に顔をうずめてクスンクスンと泣いていて、その介抱をするリリンちゃんも俺に蔑むような目を向けてきている。さすがに悪い事をしすぎたかな。
「あー……その、悪かったな。あまりにも色気がなくて」
「うわあああああああんっ!」
「おに……あくま……」
「……わーったよ。詫びって訳じゃないけど、コートくらいくれてやるから泣き止め」
これ以上騒いでると、さすがに〈疾駆する者〉の面々が何の騒ぎだと乗り込んできかねない。一応。女性だけという事で遠慮してもらっているし、多分すぐ済むからと馭者のおっさんに銀貨を握らせてわざわざスペースを開けてもらってるんだからな。
「あら悪いわね。それじゃあ遠慮なく」
「な……」
俺がそう言った途端のとんでもない手のひら返C。さっきまで泣いていたのかと思えば、その目は全くと言っていいほど充血していないし涙の跡1つ見当たらない。く……っ。まさか〈万能感知〉すら欺くとは……貧相なスタイルであっても女性とはやはり恐ろしい。
そんな驚愕に呆然としている俺をよそに、嬉しそうにコートを羽織ってフードを目深にかぶって顔を隠すようにしている2人から、感嘆の声が聞こえてくる。
「凄いわね……これ。一体何で出来てるの?」
「ふかふかでかるい」
「覚えてない。という事はまぁ安物だって事だと思う」
そもそも。馬車を手に入れた時点で、後は<万物創造>でいくらでも快適空間に早変わりすっからコートの必要性を感じてなかったせいか、他のひもじい連中になら売れるかもって考えて作った程度だからその性能は全然まったく覚えてない。一応〈防汚〉がついていた事と、アニーに滅茶苦茶怒られた事くらいは憶えているんだが、それ以外が微塵も残っていない――つまりはタダでくれてやっても問題がないって事だ。
「ナニソレ。自分の持ち物なのに覚えてないってどういう事よ」
「まぁいいじゃん。とにかくそれで顔を隠す事が出来るんだから万々歳だろ」
「そうかも知れないけど……危険はないのよね?」
「大丈夫だと思うぞ? そう言うのは仲間にちゃんと調べてもらってるからな」
日々の経験値稼ぎのために、俺は無駄な創造を繰り返している。それはもう面白半分であったり世のために人のためにと造り出した物も数知れず。世に出せばかなりの富と名声が約束されること請け合いだと自信満々でプレゼンをする相手が、この世で魔王より恐ろしいアニーだ。
彼女は俺の作った魔道具の説明を聞き、実際に効果のほどを目の当たりにさせて見せて合否の判定を受け、合格であれば晴れて商品としてアニー経由で商人ギルドに。勿論儲けはノーサンキューなのでそのまま2人にプレゼント。当然ながら金銀パールはない。
不合格であれば、仲間内で使うと言った住み分けをして来た中に、アニーによると人目に触れちゃあいけないレベルのモノもあり、それは自分達の命の危機や、国が落とされそうな緊急時以外には決して使うなと耳にタコができる程ネチネチと言われ続けている。
しかし。こんなコート1つにそこまでの〈付与〉をつけた記憶は全くない。なのでくれてやっても大丈夫と判断した。この程度の事でいいちいちアニーに確認を取るまでもないだろう。
「仲間って……随分年が離れてるのね」
「あの連中は違う。俺だけシュエイに用事があって離れているだけだ。誰も彼も美女揃いだ」
「ふーん。まぁいいわ。ありがたく受け取っておくわ」
「おう。別に要らないもんだから返したりしなくていいぞ」
「そうなの? 凄く高品質な物のように見えるんだけど」
見た感じは紺色でシックな簡素な物で、その辺の露店で見かけるのよりは多少素材がいいような感じはする。でもその素材が何なのかを全く思い出せないし、役立てようとも考えてなかったからそのあたりの事は最初から考えていない。要はしんどい目に合って経験値を稼ぐためのものでしかないからな。
というか、もっと大事な事があるんでそのあたりの話はさっさと終わらせる。
「そんな事よりもだ。もう少し下着に気にかけろよ。そっちの言葉を信じるのであれば、2人はプ――じゃなくてサキュバスなんだろ? そんな色気のないモンんじゃ誰も魅了されないぞ」
スタイルも貧相で、ポージングも未熟未熟ゥ! そんなんじゃ思春期の中学生くらいであれば前屈みに出来ても、それより上ってなるとさすがに難しい。そもそもドロワースが俺の趣味じゃない。サキュバスがどういった生態をしているのか。それが人にとって害にならないなら、手伝う事もやぶさかではない。
「なんで貴女みたいな子供にそんな事を――って、よーっく見るとアタシ達よりよっぽどサキュバスっぽいじゃない!? ズルいわ!」
「うん。あすかきれい」
「それほどでもあるな――ってそんな事はどうでもいい。助けたしコートもくれてやったんだ。サキュバスの生態ってのに興味があるんでちょいと教えてくれんかね。お嬢ちゃん方」
「何で急におじいちゃん口調? 別に構わないけどそれを知ってどうするつもり?」
「いずれそっちの国にも向かうつもりだからそのためにな」
「まぁいいわ。別段知られて困るものじゃないし」
という訳で、第1回(2回目はない)・アンジェのなぜなにサキュバスの始まり始まり~。
まず基本情報。サキュバスは霊族の中でも比較的少数の種族で、一応男女ともに存在しているらしいがその割合はいわずもがな1:9。俺としてはまさに天国だ。
スペックとしては魔法が得意で、特に魅了とか催淫といった精神に異常をきたす状態異常系の物を得意としていて、魔力が高いサキュバスであれば一瞬にして村の1つくらいは落とせるんだぞと胸を張ってアンジェが説明してくれても、全くと言っていいほど説得力がない。
「フンッ!」
「あ痛ぁ!」
俺のそんな視線に気づいたんだろう。目にも留まらぬ早さで拳が飛んできた。これが鉄拳だったらと思うと背筋が凍るけど、さすがにクリティカルヒットでカンストダメージなんて受けた日にゃ、いくら強い俺でもHPは1000もないんだ。死んでしまう。
話がズレたので軌道修正。
とにかく。サキュバスってのは俺が知っている通りの存在であることが分かった。
しかし。手当たり次第にそんな事をやっていたら、いずれその力に脅威を感じるようになり、やがては……という最悪のシナリオが容易に想像出来る。いくら世界が変わろうとも、人の根っこってのはそう簡単に変わるもんじゃない。
俺としては至極真っ当でも、2人にとってはどうか分かんない。とりあえず警告の意味を込めた質問として疑問を投げかけてみるとあっさりと答えが返って来た。
「それなら平気よ。〈強制催淫〉は慣れれば自分で強さを調節できるし、それを使って悪い事をするのは紫の神様が凄く嫌っているから、よほどの理由がない限りは天罰が下るようになってるのよ」
天罰ねぇ……地球の頃じゃ考えもしない防衛策だな。やっぱ異世界だと実感するし、六神頑張ってるなぁと改めて感心する事しか出来ない。本当にぎゃふん(死語)と言わせる事に抵抗を感じるなぁ。止める気は全くないけど。
という訳なので、サキュバスの意志に反しての魅了や、それらを使って他国の要人を暗殺なんてルートからのバッドエンドは、文字通りのゴッドハンドによって未然に防がれている。一安心だ。
本当はもうちょい詳しく聞いておきたかったけど、ようやく中門が目前に迫ってきているんでな。ここを抜けたら街の中で、特に親しい訳でもない2人とは別れなくちゃいけなくなる。
「なるほどなぁ。大分参考になった」
「このくらいお安い御用よ」
「じゃあ最後だ。好きな色とかあるか?」
「リリンは……くろ。おちつく」
「アタシは紫ね。神様の色だから」
「なるなる。じゃあ……こんな所かね」
出来ればサイズとかを測ったりしたかったけれど時間がないので、商売目的のために量産しておいたパンツにガーターベルト。それと一応のブラ。
「なにこれ」
「下着類だ。仮にもサキュバスを名乗るなら、このくらいの物をつけないと男は襲い掛かって来ないぞ。くれてやるから精々精進するがよい」
「これが下着ですって!? 凄く精巧で肌触りもこんなに滑らか。確かに今までのと比べて何となく色気を感じるけど、ちょっと恥ずかしいわね」
少し頬を赤く染めながら下着の伸縮性を確認するアンジェとは違い、リリンはフリルがついていたりリボンが付いている物を中心に手に取って目をキラキラさせている。
「もらっていい?」
「言っただろ? 俺は綺麗で可愛い女の子の味方だと。黙って受け取りねい。サイズが合わないのがあったら売るなり捨てるなり自由にしていいぞ」
これらに関してはアニーやリリィさんからも特に怒鳴られたりする事はなかった。むしろもっともっと作ってもっともっと売りまくって一大産業とするべきや! とまで言ってきたが、さすがにそこまでするのはメンドイんで丁重にお断りし、とりあえず一日S~LLくらいまでの上下セットを10ほど作ってはアニーに渡していた。もちろん代金は金じゃなくて情報だ。
「ありがと。じゃあリリンもおれい」
そう言いながらのそのそとこちらに近づいてくる姿の何と色香の漂う事か。お礼ならその胸に顔をうずめさせてくれぇい! とでも言ってみようかな~なんて事を考えてぼーっとしていたせいか、気が付けばリリンの顔が間近に迫っていて、頬に柔らかい感触が。
これってもしかして……キスって奴かい?




