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閑話 ~アレクセイの苦難~

祝50,000PV突破という事で、お礼となるかどうか分かりませんが、これを投稿します。

これからも暇な時に呼んでいただければ幸いです。

「ううむ……あまりうまくいきませんね」


 ワタシの名はアレクセイ。栄えある魔族20評議会の一員にして魔族でも最高の知識を有していると自負し、自ら〈百識〉の二つ名を名乗りながら日々研究に明け暮れるのが我が日課。

 時には脆弱な人族の血肉や臓物を贄に召喚魔法の実験を行ったり、新開発した魔法の威力を試すために村や街を灰燼に帰したりと、魔導の極致を目指して日々研鑽に明け暮れておりました。

 最近の課題は生物の性転換と言う何に使うのかもわからない魔法ではあるが、これにはワタシの命と数百年の月日を賭して築き上げた研究成果がかかっているので、なんとしてでも成功させなければいけない物なのだが、威力や範囲。後はどれだけむごたらしく他の種族を殺戮できるかのみを追求してきたワタシでは考えた事も無いような魔法の制作ともなると、資料にも知識にもないので一からの手探りなのでどうしても進みが遅くなってしまう。

 さすれば身が入らないともいうの当然でしょうね。


「ふぅ……。少し休憩としましょう」


 あまり根を詰め過ぎても良い結果が得られないでしょうから、適度な休息を挟みながら研究に没頭するのが一番です。何せ特に期限を設けられている訳ではないのでね。こんな事をあの少女に言えば、ワタシだけでなくこの研究所ですら簡単にこの世から消え去るのは目に見えているので絶対に口にしませんよ。

 という訳で、魔王様への経過報告を兼ねて魔族領の中心地である常夜城へと訪れたわけですが、昔は良かったですねぇ。その名が示すとおりに黒一色に統一されていて清潔に整えられていたのですが、現在は魔王様の意向で赤や紫と言った色彩が多く使われるようになり、カーテンは擦り切れておりそこかしこにホコリが残っている。

 それに名前も……確か漆黒炎(ダークフレイム)地獄城(ヘル・キャッスル)などというよく分からぬ名称になってしまった。今代の魔王様の方針はワタシの性分と合いませんのであまり訪れたくなかったのですが、配下の魔物の働きを報告するために必要な事なので訪れたまでです。


「あらあらぁ? 貴方が研究室の外に居るんなんてぇ、随分と珍しいわねぇ」

「これはフェルトゥナ卿。お久しぶりにございます」


 間延びした口調が聞こえると同時に、ワタシはその場で片膝をついて首を垂れる。何せ遥かに格上の存在ですからね。

 彼女はフェルトゥナ・アディスン。20評議会の中でも1分野においては魔王様に匹敵すると言われる5指の1人で、彼女は主に魔物使い(テイマ―)として下級であれば同族すら屈服させる力の持ち主。

 最近は魔物にスキルを組み込む研究をしていると聞いている。その知識の深さはこのワタシも一目置く存在である。


「そんな事しなくていいのよぉ? わたしはぁ、今日は気分がいいのぉ」

「はぁ……」


 おかしいですね。気分がいいという割には随分と殺気立っておられる。一体何があったのか気になるところではありますが、それでさらに機嫌を損ねられるのはこちらとしても喜ばしい事ではないのでグッとこらえてゆっくりと立ち上がる。


「貴方はぁ、わたしがどぉんな実験をしてたか覚えてるかしらぁ」

「ええ。最近は……確かその魔物が本来持ちえないはずのスキルを付与し、どうなるのかの実験を行っていると聞いています」


 確か……〈完全回避〉という物・魔あらゆる攻撃に対して自動で回避行動を取ると言ったスキルが完成したのでその実験をすると言っていたのが3日ほど前で、その頃はフェルトゥナ卿の機嫌はかなり良かったと部下から聞いている。

 そんなワタシの答えに、フェルトゥナ卿は手のひらに何やら緑の粉を生み出し始めた。


「これねぇ。〈完全回避〉をつけた魔物の死骸なのよぉ」

「それは……不運でしたね」


 死骸という事は死んでいるという事に他ならない。

 しかし、ワタシが聞いた限りではスキルは問題なく起動していたとある。ではなぜ死んだのか。そしてフェルトゥナ卿が不機嫌なのか。普通に考えれば、何かしらの不具合が発生してその隙を偶然に脆弱なる存在に駆逐されたというのが妥当でしょう。

 なのでワタシもそう考えての回答を口にしたわけですが、その瞬間。フェルトゥナ卿の攻撃が真下から襲い掛かって来た。


「あらあらぁ。わたしの攻撃を避けるなんてぇ、いつの間にそぉんなに強くなったのかしらぁ?」

「え、ええ。少しありまして」


 凄いですねエリクサーの恩恵と言うのは……。文献で、一瓶飲み干せば自身の構造が変化すると聞いてはいましたが、まさかフェルトゥナ卿の影攻撃を察知出来て回避する事が出来るとはね。いやはやあの少女には感謝しかありませんね。でなければ今ので数か月は研究が滞るほどの痛手を受けていたでしょうから。

 しかし。なぜフェルトゥナ卿はこれほどお怒りで……そうか。


「これは失礼いたしました。フェルトゥナ卿が失敗と言う愚を犯すなどあり得ない事でしたな」


 つまり彼女は、失敗に怒っているのではなく我が子とも呼べる魔物を殺された事に怒っているのだ――と思っておきましょう。他の存在の真意などワタシの研究には不必要な情報ですからね。


「うふふ。わかればいいのよぉ」

「しかしそうなると、何故魔物は死んだのですか?」


 〈完全回避〉などと銘打っているのです。我々よりはるかに劣る他種族がそれほどのスキルを手に入れた魔物を通常の方法で殺すのは不可能のはず。

 ……おかしいですね。何故このタイミングであの少女の事が脳裏をよぎったのでしょう。もちろん彼女が生半可な強さではないのは心に深く刻まれているが、いくら強かろうと攻撃が当たらなければ勝負にもならないはずなのに。


「それがねぇ……この子の記憶を覗き見たんだけどぉ、小さい女の子にやられちゃったのよぉ」

「小さい……ですか」


 なぜだろう。それを聞いただけであの少女の姿がより鮮明に脳裏を駆け抜ける。

 だがしかし。まだ確証がある訳ではありませんが――万が一そうであったとしたら、ワタシはいかなる攻撃も避ける存在すら殺しうるとんでもない相手と主従の契約を結んでしまった事になりますね。


「そうなのよぉ。それでねぇ、スキルが見えない攻撃に対応してなかったっていうのが分かったのよぉ。あの娘に感謝しないといけないわぁ」


 今度は突然に上機嫌になった。決して短く無い付き合いですが、いまだにこの御方の機嫌の上がり下がりがよく分からない。と言うか不可視の攻撃なんてこの世に存在するのでしょうか。<暗殺>も見えないと言えば該当するでしょうが、気配は存在しますので、回避の対象です。


「……ところでフェルトゥナ卿。その少女の容姿について教えていただいてもよろしいですか? 部下共に近づいてはならない危機存在として知らせたいので」

「構わないわよぉ。えーっとぉ……銀の髪でもぉすっごく可愛い女の子よぉ。年齢は10歳くらいねぇ。いつかバラバラに解剖してどぉんなスキルを持っているのか見てみたいわねぇ」


 確定してしまいました。銀の髪で10歳程度。おまけに〈完全回避〉する魔物を退治できる実力の持ち主となればもうアスカしか存在しませんね。ほんとうにあれは人なのでしょうか。


「なるほど。とても参考になりました」

「それじゃあねぇ」

「ええ。それでは」


 とりあえず。フェルトゥナ卿は上機嫌で去って行った。やれやれ。折角の小休止が小休止とはなりませんでしたね。ホッとしたら胃が痛くなってきました。治癒魔法を……

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