#120 恥ずかしながら……またやってしまいましたっ!
「う、嘘だろう……あのランドルヴ様が……」
そう呟いたのは部下であろう騎士A(敵)。うんうんよく分かるよ。自分が絶対強者だと思っていた上司がこぉんなに超絶可愛い少女にただの一発も当てられずにもうへばっているんだからな。まぁそうなってる理由も既に分かっているんだけどな。
その理由とはズバリ――MPの使い過ぎだ。
あのハンマーに込められたスキルはどうやらMPを使うタイプの物のようで、最初の内は確証がなかったけど、それが10になり20になり。50にもなるとさすがに異常に気付かない訳がない。魔力欠乏症の辛さはこの世界に来てから嫌と言うほど味わってきた。欠乏症鑑定士4級くらいの実力はある俺が言うのだから間違いない。まぁ……そんな資格は存在しないのだがね!
「ほらほらどうしたよおっさん。さっきまでの威勢の良さはどこに行ったんだ? ええ?」
「ぐ……っ」
「ふーほーへー。なになに……物――」
「うがああああああ!」
はっはっは。これだけ過敏に反応するって事は、どうやら俺の考えているスキルで大方合っているようだ。後はどんな手段で暴露してやるか。それに限るぜ。ふふふのふ。
「はい。後2分~」
そうこうしている内に、制限時間は残り少なくなって来た。タダの伊達眼鏡なんで時間は自由だけども、あんま長すぎると客も飽きるだろうからな。少しサービスしてやるか。
「っぐおおおおおおお!」
「せい、やぁ」
「が……っふ!?」
大上段からハンマーを振り下ろそうとしたおっさんの腹に蹴りを見舞ってみると、思いの外簡単に鎧がひしゃげて派手に吹っ飛んでいったが、その際に悪あがきをしたようでわずかに目算がズレて服が消え去ってしまい、上半身があらわになってしまった。
「おっとっと」
別に見られた所で何も恥ずかしがる事はないが、その辺の連中にとってこの超絶美少女である俺の肌を見るというのはかなりのご褒美だろうからな。別に減ったりしないんでどうでもいいが、いい思いをされるのは癪なんですぐに別の服を着こんでおっさんの反応をうかがう。
「ぐ……っ。何ちゅう威力じゃ。よもや生身でオリハルコンの鎧をへこませるとのぉ」
「ニセモンなんじゃないか?」
オリハルコン自体はすでに創造出来るが、鎧や武器への加工となるとムチャをしないと創造できないんであまり数はないけど、どれもこれもあの程度でへこむようなやわなもんじゃない。まぁ……それを造るだけでドーピングをしなきゃなんないモンより、〈付与〉をつけた鉄装備や魔物素材由来の装備の方が何かと使い勝手がいいんで、アニー達にはそういった物を装備させているし、今まで見て来た冒険者も、イグルグなんかの前衛盾役なんかを除いては大抵これに該当する。
アニー達曰く――見た目がええのは貴族連中に売れるんやとの事。重いし動きづらいしバカ高いのだからまぁ納得ではある。
少しだけ話すがズレたが、ようはオリハルコンはメッチャ硬いって事だ。全力だとどうか分からんけど、打ち込んだ一発はおっさんという年齢を考えて相当に加減をしていたんだからな。
「馬鹿を言うでない! これは正真正銘オリハルコンじゃわい。オリハルコンを見た事も無いような小娘が知った風な事を言うでないわ!」
「いやいや。これでも世界旅してまわってっしオリハルコンくらい目にした事あるっての。それとくらべて汚ぇからニセモノなんじゃないかって言ってんだよ」
俺の作った装備も、アニー達の知識の中でも、オリハルコンってのは基本的に真っ青な色をしているというのに、おっさんの鎧の青は所々くすんでたり薄かったりして見栄えが超絶に悪い。なんか腕の悪い塗師の更に失敗作って感じにしか見えない。すぐに凹んだし。
「フン。欠片の色しか知らぬようじゃから冥土の土産に教えてやろう。オリハルコンはその含有量によって色の濃淡が現れるんじゃ。ワシのほどの男の鎧となると、その含有量は3割じゃ!」
「あぁ……聞いた事がある」
思い出した。無茶した方が獲得経験値が上がるって理由で創造した総オリハルコン製のアニー用の胸当て(どこがとは口が裂けても言えない)を見せたところ、烈火の如く怒鳴りつけられた挙句に2度と表に出したらあかんでと滅茶苦茶念を押された時にそんな事を聞いた記憶がある。
何でも、オリハルコンってのは今のところダンジョン都市のダンジョンの深層以外には魔族領くらいにしか存在しないらしく、たとえ少量でも持ち帰る事が出来れば、国が大金でもって買い取ってくれる国宝級の鉱石。
理由は単純。爪の先のオリハルコンを混ぜ込むだけで物理と魔法に対する防御力が跳ね上がるから。なのでその程度の大きさでも白金貨が必要になるレベルだからだ。
まぁ、俺の〈万能感知〉にかかればエルグリンデの近くにもそこそこの量が埋蔵されているのを知っているので、教えてもいいかなぁなんて思って発しかけた言葉を、般若の様なアニーの顔を見てグッと飲み込んだ。そんなレベルの鉱石を3割も含んだ鎧……ヘボい。
「クカカ……やはり長生きはして見るものじゃのぉ。このように死合える相手と見えようとは思わなんだ。今日は良き日じゃ。死ぬには最高にめでたいわい!」
「だったらさっさと腹を切って死ね。こちとらさっさと街に入ってゆっくりしたいんだから」
どのみちあと1分もすれば武器の情報は露見する。そう考えているからなのか、ジジイの顔つきが急激にスッキリとしたものへと変わっていた。こうなった人間は大抵クソみたいな行動に打って出るのが定石だ。
となると、いの一番に狙いをつけるのは――
「チッ!」
「まぁ……無抵抗の連中になるよな」
背後に痛めつけられた少女(ボロボロのため美醜は不明)達を守り、消し飛んだ靴の代わりをはく暇がないので、両足とも裸足のまま続行。この程度の事は、漫画やアニメなどでこれでもかと見て来たからな。
「どうしたジジイ。手元が狂ったにしては随分と耄碌したじゃないか」
そう。今俺が守っている少女達は、俺とはほぼ正反対の位置にいた。まぁ……これもジジイがいざという時のためにそういう位置関係にしたかったんだろうから、あえて乗ってやったに過ぎないけどな。実際こうして間に合ったんだから、その行動もただの無駄なあがきとして処理された。
「おっと。〈看破〉終了だ」
そうして時間はちょうど5分。俺はこんな世界に時計がないだろうからと〈時計〉というスキルを習得したので、少し意識を時間が知りたいなぁという方向に傾けるだけで、現在時刻も正確に把握出来るしストップウォッチ機能や天気や湿度まで知る事が出来る。
もちろんデフォの目覚まし機能もあるんだが、朝っぱらから自分を思いっきりぶん殴りたくないから、あえて目覚まし時計を使っているのだ。
「ば、馬鹿な……ワシは12騎士団団長の1人じゃぞ。それが……こんな小娘に」
「負けを認めたか。それじゃあ俺はこれで失礼させてもらうぞ」
既に、いつでもお前の弱点を言いふらせるぞと言う銃口を突きつけられてしまったジジイの心は完全に折れている。ここで奮起してまだ襲い掛かってくるようであったなら、こっちも周囲の兵士連中に段階を踏んで説明させたうえでの正当防衛として、腕の一本くらいは消し飛ばしてやっただろうけど、実力の差を目の当たりにしてさすがにそこまでやるほど馬鹿じゃないみたいだ。
後は彼女達にコッソリとエリクサーをかけてやり、助け出したのは俺やで! と教えればそれはそれは好感度がうなぎ上りになる事間違いなしだろうそうだろう。
ってな訳で、少女2人を担いでおっさん達に事のいきさつを話して馬車に戻ったら、〈疾駆する者〉の面々からは信じられないと言った風な顔をされたので、後で口止めをしておこう。
今はボロボロになった少女達にまずはある程度――この世界基準でポーションや回復魔法で治るレベルってどんくらいなんだろうか分かんないけど、さすがに傷一つない姿に戻すのがおかしいって事くらいはさすがにわかってる。
「てりゃ」
とはいえ、それを隠す手段はいくらでもあるからさっさとエリクサーをひと吹きすると、まぁいつものように光に包まれて、あっという間にオカルト面がとても可愛らしい少女と妖艶さを感じる女性という、俺にとっては大当たりな姿に戻っていた。
「痛く……ない?」
「ねーちゃ?」
「リリン!? その顔……どうして」
「ねーちゃも」
「え? え!? 一体どうなって」
「俺が治した」
「っ!? 誰!」
姉妹の仲睦まじさを一通り干渉してから声をかけてみると、姉だったらしい可愛らしい少女の方が、素早く反応して腰から何かを抜くような動作をして目を見開く。
「念のため回収させてもらってるぞ」
こっちとしては全くの脅威にならないが、そういう物を持たせておくと最後まで抵抗しようとして話し合いになかなか発展しないからな。け、決してエロ目的じゃないとだけ言っておこう。
「ねーちゃ……」
「貴女……さっきの男の仲間?」
「いんや。俺は美人と可愛い子の味方のアスカだ。今回はスマンな。俺のせいで2人に迷惑をかけた。詫びとして怪我は全て治させてもらった。不調に感じる部分はないだろう?」
さすがに四肢欠損みたいな重症があったらエリクサーまでは使わなかったけど、見たところ五体満足だしおっさんにやられたっぽい以外の傷も見当たらなかったところから、冒険者とかじゃなくて商人の見習い的な事をしているんだろうと辺りをつけている。首輪とかがない所を見ると奴隷って訳でもなさそうだしな。
「ねーちゃ。うで……動く」
が、どうやら俺が思っていた以上に妹の方は重症だったみたいだ。




