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#115 分かりやすいほどの手のひら返C

「さて質問だ。こういう事は頻繁なのか?」


 〈地獄狼(ケルベロス)〉の特殊個体(ユニークモンスター)を一撃で葬り、残った素材は情報代金として譲る事にした。こいつらの素材も、既に下級に位置する鱗狼(スケイル・ウルフ)から〈品質改竄〉で獲得済みだ。チートマジ便利過ぎ。

 まぁ……別に移動中でもできるんだけど、今は素材回収のために剥ぎ取りをしているので足が止まっているし、なにより手の空いてる人間が多いから暇つぶし的な側面もある。

 ちなみに、地獄狼と蜥蜴兵長(リザードリーダー)のどっちが強いんだと尋ねたんだが、何故か全員から、え? 分かんないの? って顔をされた。

 どっちも一撃で沈んだんだからしょうがなくね? と反論すると、全員が肩を落としながら地獄狼の方が何倍も強いと教えてくれた。うーん。よく分からん。


「いや。さすがにここまでのレベルになると王都近辺で見かけるのはおかしい」

「そうっすね。この辺りだとせいぜいが騎馬犬人(コボルト・ライダー)くらいっすから」

「お前等はそれに勝てるのか?」

「ボク達なら同数の5匹までだったら対処しきれるかな。もっとも、それだけの数がこの辺りに現れたなんて話は全く聞いた事がないけどね」

「随分と悠長な話だな。あんなんが現れて街が襲われても綺麗で可愛い娘達の安全は確約されてるんだろうな」


 そのあり得ないの更にあり得ないがすでに2回。もしかしたら俺が投石攻撃でぶち殺しといた奴の中にもこいつ等が恐れるレベルの魔物が居たのかもしれん。そう考えるとこの辺はザコ魔物しか出ない分、冒険者の質もまた低いはず。

 事前に仕入れた情報から、こう考えるのが自然の流れ。って訳で、万が一にも同じようなのが出て来たりすると討伐は確実に失敗。最悪の場合は王都やシュエイから騎士団なりが派遣されてくるかもしれんけど、瞬間移動がある訳でもないんで到着は遅くなる。

 となると、当たり前だけど人死にが出る。その中に綺麗で可愛い女性が居たとしたら、俺はこの国を滅亡させるかもしれん。女性を除いて。


「一応村々には常駐する騎士が居たと思うが、あのレベルの魔物は想定していないはずだ」

「確かに。蜥蜴兵長(リザード・リーダー)や地獄狼なんかがポップするような事態は、明らかにこの辺りの冒険者や騎士のレベルでは対処しきれぬ。これを大きな厄災の前兆と捉え、この仕事を達成次第、一度ここから離れるのも良いかも知れぬぞ?」

「それもいいんだけどさぁ、ちょっと聞いてもいいか?」

「どうしたんだ?」

「いや……これはあくまで俺の仮説なんだけどさ。この辺がダンジョンになってるって可能性はないのか?」


 ダンジョンはある日突然に生まれると聞いてるからな。王都周辺を呑み込むほどの特大規模な物が生み出されない可能性はゼロじゃないはずだ。ゲームの世界でもありとあらゆる形で存在するし、普段あり得ないポップという現象を考えれば、この辺りがそうなっているという可能性は決してゼロじゃないはずだと思う。

 俺のそんな疑問に対し、レイニーなんかはさすがにあり得ないだろうと口に出したが、リーダーのイグルグは顎に手を当てて苦々しい顔をし始めた。


「ダンジョンか……確かにポップするのはダンジョンの特徴の1つではある訳だが、それではこれはどう説明する?」

「そうなんだよなぁ」


 イグルグが指をさすのは死体となった地獄狼。

 そう。ここがダンジョンであるならば、死体となった魔物は基本的に素材だけになる。それは一度経験しているだけに嫌と言うほど理解出来る。まぁ……あそこにしか行ってないから他がどんな感じか知らんけど、コイツ等が知ってるって事は他も大差ないんだろう。

 この世界に、死んでも素材にならないダンジョンってのがあるなら俺の仮説の信憑性も増すってモンだが、どうやら連中も知らないようで賛同してくれることはなかった。まぁ……こっちもあくまで可能性の1つとして提案しただけだしな。

 解体を終えて移動を再開する訳だが、俺は〈万能感知〉に入って来た魔物に石を投げるだけだし、〈疾駆する者〉はほとんど歩いてるだけだから暇な訳で、話題は自然と冒険者として生きてきた事で遭遇した危険や幸運話なんて物になっていく。


「――という訳で、あの時はイグルグの冷静な判断が無かったら我々はこうしていられなかっただろう」

「そんな事はないさ。ヴィイだって命がけで奴の尾を切断してくれたから、骨が折れる程度で済んだんだぞ。感謝するならこっちの方だ」

「ふむふむ。王都周辺は平和で魔物も少ないと聞いていたが、意外と修羅場をくぐってるんだな」

「アスカさん。さすがにそれは馬鹿にし過ぎっすよ。そりゃワイバーンとか森角狼(ユニコーン・ウルフ)なんて化物と比べりゃチンケっすけど、おいら達だってCランクとして頑張ってるんすから」

「悪い悪い。あんま他の連中の活躍を聞いた事が無くてつい……」

「まぁいいさ。アスカちゃんがそれだけ常軌を逸している存在なんだから。というかそれだけ強ければ勇者なんじゃないかって思えて来るんだけどね」

「違うって。人族のはあそこに居た食い意地張った奴なんだろ? だったら俺はその辺にいる旅人以外に選択肢は残されてないだろ」


 第一。六神ぎゃふん(死語)じゃなくて、勇者として世界を救ってくれなんて要求の方だったらマジで断ってただろうな。あいつはよくもまぁそんな超絶面倒臭い事を引き受けたもんだ。どうせ異世界転移キタコレ! ってな感じでの安請け合いか何かだろうけど。


「旅人ねぇ。レナさんもそうだったが、常軌を逸した強さを手に入れるにはそう言うのが必要なのか?」

「そうなんじゃないか? 旅っつーのは基本的に歩き回るって事だからな。そりゃワイバーンだったり森角狼なんてモンに出会う可能性が高い――つまりはレベルを上げる機会が多いって訳だ。そりゃ強くもなるだろ」

「ううむ。理屈としては間違っていないが、レベルの低いアスカ嬢に言われるとどうも納得できぬ」

「まぁそう言うもんだと思っとけ」


 いくら疑わしかろうが納得してもらうしかない。さすがに〈スキル〉の内容まで教えてやるほどお人よしではない。女性であれば話は別だけど、こいつらは〈万能感知〉でも疑いようのない野郎共との確認は取れているので、あまりにしつこい場合は闇討ちする事も視野に入れるつもりだが、イグルグがいればその心配はないだろう。


 ――――――――――


 そんなこんなで、適当に魔物を倒したり。リエナから龍族勇者の情報を聞いたりとしているうちに、ようやくシュエイ一歩手前にあるグリュの街に到着した。


「ここは一体どんな街なんだ?」


 馭者のおっさんに尋ねてみると、なんでもここは、陶器などの工芸品を生産する工業都市の様な事を主産業としているらしく、商隊の半分近くが燃料の木炭や釉薬に必要となる材料を積んでいるために一気に身軽になり、明日にはシュエイにたどり着けるという寸法らしい。


「それにしても、宿すらないってどういう事だ?」


 街という規模にありながら、建築物のほとんどは何かしらの工房となっており、他の建物も職人の自宅であったり倉庫であったりと宿泊施設が皆無だ。別に適当な理由を告げてこっそりコテージを使用すれば何の問題もない訳だが、何の文句も言わないのは怪しまれるだろう? だからあえて文句を言ってるのだよ。


「ここはシュエイから10時間程度の距離だからな。そこから来る大抵の奴はこのひとつ先の村まで一気に向かうのがほとんどなんだ。なので小規模の商人ギルドがあるだけでも十分にやっていけるんだよ」

「なるほどなぁ。そんじゃあ俺は適当な家を探して一夜の宿を借りるとするわ」


 よし。これで俺が勝手に動き回る理由っぽくなっただろう。後は人気のない場所を探し、コテージをカモフラージュしてから久しぶりに風呂に入るとするかね。


「待ってくれないかアスカ嬢。そんな面倒な事をしなくても、護衛達は金爵の屋敷に泊めるように仰せつかっているんで、そんな事をしなくても大丈夫だぞ」

「……そうかい。それじゃあ遠慮なく」


 ちい……っ。折角1日ぶりの風呂とフッカフカのベッドで眠れると思っていたのに邪魔をしやがって。シュエイに着いたら少し意地悪をしてやろう。


 ――――――――――


 うん。俺もそんな悪い事を考えていた時期が少しばかりあったような気がするが、それはきっと一時期の気の迷いだったんだろう。


「ふぅ……っ。悪くないな」


 現在の俺は、旅の汚れを落とすという目的の元。風呂に入っている。

 ちなみに〈疾駆する者〉達やおっさんはこの後に入ってくる予定なんで、さっさと上がらないといけないのが面倒だが、野郎の浸かった湯に入るのはそれ以上に最悪だからな。

 さすが大都市に店を構えている商人だけあって、案内された屋敷には風呂があった。それも贅を凝らした一面大理石の浴室に、魔石を混ぜ込んだ浴槽部分は人の体重に反応して低反発みたいにぴったりフィットしてかなりゆったりと出来るが、少し油断すると眠りそうになるのでそろそろ上がるとしますかね。

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