#114 お前の物は俺の物。文句があるなら強くなるんだな
「なぁ。そろそろ飯休憩にしないか?」
「ん? もうそんな時間か。アスカ嬢と一緒に旅をすると時間の感覚がおかしくなりそうなくらいのどかなせいで、まだまだ進むところだったよ」
俺としてはいつもとそう変わらない移動だが、おっさんや〈疾駆する者〉達にとってはここまで敵のての字も見られない安全な旅は久しぶりとの事だが、俺が聞いた話では王都に近づけば近づくほど魔物の数も質も下がり続けるはずだ。
そんな疑問を、食事の用意をしながら投げかけてみる。ちなみに昼食はこの世界基準の塩味のキツイ干し肉に硬くてマズイ黒パン――なんて俺が食いたくないし、何よりリエナはそんな物じゃ納得しないだろうって事で自ら買って出て、コーンスープと食べたくなったツナサンドを作ってやり、あとはステーキを5枚ほど焼いて終了。
「なんだいこりゃ」
「魚の肉の油漬けをほぐして、マヨネーズって言う調味料で味付けしたモンを挟んだんだ。そっちのはコーンスープって飲み物だ。俺は好みだが、食えないなら言ってくれ。そうすりゃ別のモンを用意してやるよ」
「魚なんて随分と久しぶりに食うからそんな事はないさ。ありがたくいただこうじゃないか」
「そうっすねぇ。そもそも塩辛い干し肉にボソボソのパンを齧ろうとしてたんすから文句なんてある訳ないじゃないっすか」
とりあえず怪しまれるような事にならなくて済んだみたいだ。ツナサンドもコーンスープも受けは上々。やはりこの世界で魚を食うというのは港町ぐらいなもののようで、全員が大満足してくれたようで、何の憂いもなくステーキ片手にリエナの元へ。
「肉の匂い。寄越す」
「食べる前に情報が先だ。龍族ってのはどんな考えを持っていてどんな暮らしをしてるのかを教えてくれれば、ちゃんと食べさせてやろう」
「龍は種別に暮らす。リエナは火。だから火山の近くに集落ある」
他の龍種も、水なら滝や湖や海等の近く。土なら山や洞窟と言った具合に、己の持つ属性の恩恵を十全に発揮できる場所を住処とするのが常識。まぁ……中にはそう言った常識に当てはまらない変わった奴も存在するらしい。
次に生活水準だけど、こちらは人族と違って随分と原始的らしい。
日が昇れば目を覚まし。日が落ちれば眠りにつく。なので商売という概念はさほど浸透しておらず、貨幣が存在しているのはそれぞれに足りない物を手に入れる為との事。日用雑貨とか石鹸などの消耗品が主な購入目的らしい。
法らしい法は龍族の始祖とやらが作った物に、信仰対象であるらしい緑の神からの信託。そこに各集落の長が決めたモノを加える事でルールとなって秩序をもたらしているらしい。
そんな龍族の中で、リエナは中規模集落の長の娘として暮らしていたらしく、絶大な権力と男にも負けないくらいの実力者であったために、より強い遺伝子を残すためにと父親である長の命で、各集落の中の1人として勇者であるゴミ貴族との子作りを命じられたらしい。
しかし。何しろあいつはクソがつくほどプライドが高いクセに基本はヘタレ。どう考えたって強い遺伝子なんか残る訳がないし、力と権力におぼれているテンプレのざまぁタイプだ。大成する未来が見えない。
だから、リエナもそれを何となく感じたのか拒否した挙句にボコボコにしたんだろうけど、結果としては罪人にさせられてシュエイの闘技場に売られる羽目になった――と。
「つまり――強ければ特に問題はないって事か?」
「ん。アスカなら平気」
法がまかり通るのはあくまで他種族に対してのみ。龍族は基本的に脳筋なので、始祖龍が決めた強ければ正義という物が何よりも順守されるようで、向かってくる奴を片っ端からノしていけば大手を振って歩けるとの事。つまりは綺麗で可愛い女の子を連れている野郎をぶっ倒せば、その娘が俺に鞍替えしてくれるって事なんじゃないか?
「なぁ。女を他人の手から奪うのってどうなんだ?」
「別に構わない。龍の女。強いオスの種求める」
言い方が生々しいが、とにかくOKという言質は得た。後は実際に龍族の地を訪れて実践してみればいい話だ。魔族相手に勝てるならそう難しい事じゃないだろう。今から行くのが楽しみになって来たぜ。
という訳で、僅かながら必要な情報は手に入った。次はこの辺りに関するものを、昼飯も済んだし移動がてらおっさん達から手に入れるとしますかね。
「なぁ。シュエイってどんなところだ?」
「そうだな。一言で言えば悪くない街だろうな」
「ああ。飯もアスカ嬢の作るものには大きく劣るが美味いし、物価も王都ほど高くないからな」
「王都までそこまで距離がある訳でもないっすし、ぐるりと囲む外壁は魔族も避けて通るって言われるほど堅牢で防衛力も高く、住民の安全もかなり確保されているんす」
「おまけに道行く女性は軒並み美人でね。さすがのボクも全ての女性とは一夜を共にできていないんだ。こうしている間にも悲しむ女性がいると思うと非常に申し訳ないんだよ」
思い思いの評価を聞いている限りだと、やはり表向きは住みよい街を維持する努力をしているように聞こえるな。1人関係のない奴の邪念が混ざっているが。
だが、俺が聞きたいのはそう言う情報じゃないんだよなぁ。かといって黒い噂を聞かないか? なんてこっちから尋ねるのも怪しまれそうで嫌だしなぁ。
「しかし……近頃は良くない噂を聞くようになったな」
「ん? よくない噂?」
キタキタ。それだよそれ。さすが〈疾駆する者〉で一番年上っぽい大剣使い。お気楽な若輩メンバーとは目の付け所が違うねぇ。
ここで喰らい付くように質問攻めをするのは愚の骨頂なので、興味がなさそうにしながらも一応聞くだけは聞いておくかみたいなスタンスでの問いかけに、ゆっくりと語り始める。
「うむ。なんでも3月ほど前から時折地下の下水道から不可解な音が聞こえると、ギルドにたびたび調査依頼が寄せられるらしく、その度に冒険者を向かわせているのだが結果が思わしくないらしくてな」
「死人が出てるのか?」
「いや。どうにも心がやられてしまうらしい。余程怖い何かを見たのか、突然錯乱して周囲の物を破壊して回ったかと思えば、餓死寸前まで部屋に引きこもったりとの異常が頻発するようになり、今では誰も近づかなくなってしまった……と」
「なるほどな」
うーむ。話を聞く限りだと〈狂乱種〉の副作用によーく似ている気がしないでもないが、あまり突っ込んで質問するとその面倒な所に行くのかと勘違いされそうで嫌だなぁ。
そこが麻薬製造しているという確証があるのであればぶっ潰すけど、全く別の問題が起きている場所だったら、解決するだけで余計な警戒をされる恐れがある可能性がない訳でもない。何しろ同じ穴の狢だ。裏のつながりというのは往々にして根深くて太いというのがゲームや漫画での常識だ。
出来ればそう言った具合の話はもう少し手に入れておきたいけど、あまり怪しまれるような行動はシュエイまでは自重しておこう。この姿で目立つと後々大事に巻き込まれるだろうからな。
ってな訳でこの話はこれでおしまい。別の話でもしようかという所で再び至近距離でのポップ反応があったので即座に知らせると同時に魔物が出現。今回は真っ白な毛並みを持った三つ首の犬――おなじみケルベロスっぽい奴だ。
そいつは現れると同時に馬に襲い掛かろうとしたところを、俺の加減した投石攻撃を避ける為に大きく後退し、ようやく〈疾駆する者〉達が商隊を守るように位置取りながら武器を構える。
「あれは〈地獄狼〉か? それにしては色が……」
「特殊個体って事なんじゃないか?」
俺の知ってる奴は全身真っ黒だからな。こっちの世界のはどうか知らんけど、違いがあるのだとすればそう考えて行動した方が色々と対処しやすいだろう。ユニも他の比べてデカかったし、今のところ。両者の違いに対して目で見て分かるくらいには存在する。経験談が少なすぎるから確実ではないがな。
「んなっ!? 〈地獄狼〉ってだけでも手に負えないってのにその上特殊個体ってなると……」
「なら任せとけ」
「すまないっすね」
「気にすんな。適材適所って奴だ」
〈疾駆する者〉の反応を見る限り、やはりこういった状況は異常と考えていいな。とりあえずこの状況を何とかしてから色々と確認作業をしようか。




