#113 肉断ちの前にプライドなど皆無っ!
「……」
「せいっ」
「……」
「とりゃ」
「……なぁ」
「うん? どしたい」
「あんまこういう事を聞くのはどうかと思うがあえて尋ねるんだが、アスカ嬢は本当に人なのか?」
「そりゃそうだろ。耳も尖ってないし尻尾もないし角がある訳でもないんだ。どこをどう見たら人間なのかって質問が出てくんだよ」
ずっと黙ってたかと思ったらいきなり何を言い出すんだろうね。ステータスにもきちんと種族は人間だと表記されている。性別は♀だがきちんと人間なのは間違いない。というか他の種族についてあまり詳しく知ってる訳じゃないが、尻尾があったり翼があったり耳が尖ってたり牙が生えていたりなんて分かりやすい特徴はどっこにもないんだ。
「にしては強すぎるんすよね。レベルを聞いてもいいっすか? ちなみにおいら達は平均で30っす」
「俺は最近20になったところだな」
「そ、そうなのか……」
きっと高レベルを期待したんだろうが、まさか自分達より低いとは思ってもみなかったんだろうね。一様に驚きの顔をしているが、それ以上突っ込んだ質問をするのは暗黙の了解で禁止されているのか、聞きたそうにしながらも目配せをして、それ以上は止めておけよとイグルグの鋭い視線が〈疾駆する者〉を捉える。
「ところでアスカちゃん。レナちゃんっていったい何者なんだい?」
「あいつは旅の途中で知り合ったんだ。そン時はドラゴンとかを一緒にぶっ倒した事で仲良くなってな。あいつの作る飯は見た事もないくせに美味くてな。あんた等も食ったか?」
「ああ。カレーという品をいただいたが、香辛料がふんだんに使用されてて非常に複雑玄妙な味わいに驚いた事しか覚えておらぬ」
「不思議な見た目だったっすね。最初に見た時は便でもぶち込んだのかと疑ったっすよ」
「あー。あれには俺もビックリしたなぁ」
なんて飯談義をしながらも、身体だけは〈万能感知〉で捉えた魔物に向かって機械的に石を投げつけるも、さすがに馬車のそばにポップするモノにまでは余程の事がない限り手を出さない。だってそれらは〈疾駆する者〉の領分だし、こっちばっか働いて報酬を得ようなど千年早いっ! 死なないのであればきびきび働くのがこの世界の掟だ――って、異世界生活一か月にも満たない奴が何言ってんだか。
こんな感じで遠くのは俺。近くて対応できるのは〈疾駆する者〉といった具合で役割分担しながら、俺は時々リエナの居る牢屋に足を運んで幾回目か。なぜか簡単な手合わせをする羽目になっていた。
はじめは単純に情報収集だった。
人の住む範囲内の常識は身についたと思うので、そろそろ他種族の常識なんかも身に着けて、いざ侯爵をエルグリンデまで送り届けた後に、本来の目的である異世界全国美女探しの旅を再開するつもりなんだ。もちろんあのクソギルマスを重症にし、オレゴン村で混浴を楽しんでからとはなるだろうけど、そう遠くない未来には別種族の地を踏む。これは決定事項である! 異論は許さん。
と考えると、やはりその種族その種族特有の法律的ななにかがあるのはもはや必然。という訳でまずは龍族の一般常識についていくつかの質問をしたのだが、リエナはそれを聞いた途端に獰猛な笑みを浮かべながら「勝負」と口にした。
ちょっと理解が追い付かないんで詳しく説明してもらったところ、龍族には欲しい物は力で手に入れるいわゆる脳筋スタイルの生き方が長きにわたって浸透しているようで、欲しいものがあれば自分を倒して手に入れろという事らしいので、俺は現在牢の中に入ってリエナと対峙している。
さすがにマジのバトルをするにはここは狭いし、なにより奴隷として商人の命なしに他人を傷つける行為は禁止されているとの事なので、今回は単純な力比べをする事にした。
ルールは簡単。リエナがその場で踏ん張るので、俺が一歩でも動かせたら俺の勝ち。逆に10秒以内に動かなければリエナの勝ちとなる。その場合の報酬はステーキ10枚になるが、望めば100枚だろうが千枚だろうが喜んで創造させていただきますとも。
「……来る」
「おう。それじゃあいくぞ」
少し準備がいると聞いて、俺は黙ってそれを待った。きっとステーキのために持てる力の限りを吐き出してでも耐えようという魂胆なんだろう。〈万能感知〉がリエナから立ち上る不思議なオーラみたいなのを検知したが、それが何なのかは後で聞こう。
ホントならその手に触れてゆっくりと堪能したいところだけど、生憎と10秒しかないのでゆっくりとにじり寄るなんて時間的余裕はない。すぐさま近づいて――ここで抱きしめたらどんな顔をするのかな。
身長は龍というだけあってかなり大きく、露出した腕や足なんかは接近職を感じさせるくらいにはしっかりしてるけど、女性特有の柔らかさは残ってるっぽく映るほど引き締まっているっていうのに、胸とお尻はしっかりとアニーをぶっちぎりで置いてけぼりに出来る程自己主張していた。
それを奴隷特有のボロ布ごしじゃなく、是非とも一切の遮蔽物がない状態で拝みたいものだ。
「4……3……」
「おっとっと」
いかんいかん。邪な考えをしていたせいで5秒無駄遣い。
さっさと終わらせるかとリエナの腰のあたりに抱きつき、持ち上げるように重心を背中側へと傾けるだけで、その両足はアッサリと引きはがされて半回転して降ろせば俺の勝ちだ。
「え……」
「これでいいな? さぁ情報を」
「もう一回」
「まずは情報が先だ。そう言う約束だろ」
「もう一回」
「いや……だから……」
「もう一回」
はぁ……これはどうやら、相当な負けず嫌いみたいだな。表情はいつもと変わらないけど、〈万能感知〉を持っているからこそ分かってしまう。子供の俺に負けたからなのか、リエナはもの凄く怒っている。これは何を言っても無駄な領域だろうと分かるほどに頭に血が上ている。
「まぁ……こっちも仕事があるからあと一回だけな」
「ん。今度は本気出す」
そう呟いて二回目の力比べを行った訳だけども、結果は変わらず俺の勝ち。最初と比べてごにょごにょ(女性なので重――なんて言えない)にはなっていたけど、俺からするとほんの微差なんで、特に苦労する事がないまま再放送。
更にもう一回とごねるリエナを、〈万能感知〉の範囲内の魔物の数が増え始めて来たから一度掃除をするためにとの理由で牢を離れて幌の上に飛び乗っての投石で速攻で数を減らし、〈疾駆する者〉の怪我の具合を尋ねたり。馭者のおっさんに旅の行程の進捗具合なんかを尋ねてからリエナの所に戻ってみると、ものの見事に不機嫌全開と言わんばかりにこちらに背を向けて話しかけるなオーラを纏っているではないか。
「リエナ。負けたからって怒るのはお門違いだぞ。世の中には自分より強い奴がいるんだから。その度にそうしてるといつまでたっても成長しないぞ?」
「……」
やれやれ。精神論に訴えかけてもダメか。まぁ俺も完膚なきまでに叩きのめされた相手からそんな慰めの言葉をかけられた所で、なに高みから見下ろしてんだこのクソ野郎って気分しか持てないと思うからな。
「……勝負は力だけで決まるじゃないだろ。スピ――速度・魔法・状況・装備・健康状態。色々な要素が複雑に絡み合って戦闘ってのは行われるモンだ。それの1つで負けた程度でリエナが負けた訳じゃないだろ。少しは機嫌を直して報酬を寄越してほしいんだけど?」
「……」
「ふぅ……っ。いつまでもそうしたいなら別にいいけど、そろそろお昼ご飯の時間なんだが……受け答えが出来ないようなら今日は野菜たっぷりのサラダ定食にするか」
「肉っ! 肉っ! 肉食べる肉食べる肉食べる」
「あーあ。何も聞こえないなぁ。ごめんなさいって言葉が聞こえればまた聞こえるようになるかもしれないなぁ」
「むぐ……っ。ごめん。リエナ悪かった。肉食いたい」
「はいはい。それじゃあ昼を楽しみにしておけ」
肉を食いたいがためにこうもアッサリと手のひらを返されると面白くなってくるな。
まぁちゃんと謝ってもくれた訳だし、昼にはちゃんと肉を用意してやるとしますかね。




