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#111 答えは食材にアリ

 明けて翌日。徹夜が出来ない身体なんで、カツサンドを食べさせてあげるからとリエナと交代で見張りをしたが、勇者の治める村だからなのか俺の実力を目の当たりにしたからなのか。結局不逞の輩は現れなかったので、多少寝不足ではあるがなんの危険もなく朝を向かえる事が出来た。

 これで王都到着まであと6日という事になった。出来るなら今日中にシュエイに到着はしておきたいが、朝はしっかり食べないと力が出ないんで飯の準備でも始めるとするかねと馬車を出て宿屋の厨房を借りようかと入ってみると、そこにはまた馬鹿みたいに豪華な椅子にふんぞり返ってる勇者がそこに居た。


「待っていたぞ女。そこに座れ」

「いちいち命令しないでもらえるかしら? それと私にはレナって名前がちゃんとあるから呼びなさい。馬鹿勇者」

「その呼び方は止めろ。どこぞのクソガキを思い出す」


 当然無視したいところではあるが、こいつがいると俺が作りたい料理を作れない。今日は久しぶりにおにぎりと豚汁のセットを食おうと意気込んでいたのに、開始早々とんでもない邪魔者がやって来たもんだよ。

 不満顔で仕方なしに対面に腰を下ろしてやると、斜め後ろにいたリングレットと野郎騎士が木箱を置き。ナガトが中を見ろと指示してくるのに若干のイラつきを覚えながらも蓋を開けて中身を確認してみると、中には米と豚肉と見た事のない紫の玉みたいなもの。それとかなり質の悪い醤油らしきものと味噌らしきものが入った小さなツボが内容のすべてだ。


「そっちの紫のモンはジンガ―っつうもんで、白い粒が米って食い物。そっちの液体が醤油。そっちのまぁ見た目が悪ぃのが味噌ってモンだ。どっちもオレの世界じゃ一般的な調味料だが、こっちの世界でってなるとこれが精一杯だ」

「だからなに? 私にそれを使って料理をしろとでも言いたいのかしら」

「その通りだ。テメェがカレーを作れるって事は、クセーノって奴からいくつか料理を聞いてんだろ? その中にあるモンで何か作れ」


 やれやれ。言うに事欠いて命令かよ。やはりこいつはただのバカだな。これだから勇者なんか言われて担ぎ上げられた馬鹿と関わり合いになるのはゴメンなんだ。ここはさっさと断ってリエナさんのための料理をぱぱっと作るとしますかね。


「そんな命令に従うつもりはないわ。私は別にここの領民でもなければ部下でもないもの。それにいちいち命令口調なのが気に入らない。それが人に物を頼む態度だと本気で思っているのなら、考えを改めた方がいいわね」


 そもそも。野郎に作ってやる飯なんて基本的にはこの世に存在しない。あるのは綺麗で可愛い女性に食べてもらってお近づきになる為の、その余りを恵んでやる程度だ。そのくらいであれば考えてやらんでもないが、ナガトみたいな馬鹿にはそもそも食わせる予定がなかったんだ。それを勝手に踏み込んできて勝手に食い散らかしやがって……これが村の外の目撃者が少ない場所だったら叩きのめしてやっているところだ。


「なんだと……っ!」

「本当の事を言われて怒ったのかしら? 他人の料理を勝手に食べた事を鑑みても、勇者と言えどもその行動は子供そのものね。この程度で冷静さを欠くようじゃたかが知れるわ。あなた達もよくこんな子供の下で働けるわ。そこの馬鹿勇者が好きなのかしら?」

「テメェ!」


 俺の挑発に対して簡単に乗っかったナガトは、白昼堂々。自分が治める領地の店の中で刀を抜こうと腰に手を伸ばしたところで、斜め後ろからの強烈なハリセンの一撃が叩き付けられた。もの凄くいい音だった。


「ってぇ……なにしやがんだ!」

「いつもいつも言っているはずだ。目上の相手にはきちんと敬語やそれ相応の態度を取れと。それと私はナガトの事など特別好いてもいない!」

「そうだぞ。そんなんだからクソみたいな大臣連中にこんな土地に押し込められたんだろうが。ま。こっちとしてはあんな連中から離れられて清々してっけど、大前提として男が女にそんな態度はやっぱダメだと思うぞ。ちなみに俺っちは友人としてなら好きだぜ」

「うっせぇ! テメェ等には分かんねぇんだよ。こちとらマズイ飯ばっか食わされ続けて飽き飽きしてんだよ! だから菓子を作って金を集めた。金さえあれば醤油や味噌くらいは作れっからな!」


 思った通りだ。この世界の料理なんざまともに食った記憶はないが、目にする物のほとんどが見た目だけで終わる残念な品質の物しかな存在しない。よほど高級な店だったりで食せばまだマシかもしんないけど、日本で生まれ育った身としてはどうしたって不満しか出て来ない。

 そこに突然のカレーだ。大してありもしない理性がなくなるのも無理はないと言える。不憫ではあるが可哀想とは思わない。答えるなら単純に、運が悪かっただけだ。


「驚くほどの自分本位ね。だったら私みたいな素人じゃなくてお屋敷のシェフにでも頼みなさい。行程を説明すれば作ってくれるでしょうから」

「駄目だ。醤油も味噌もまだここにある分しかねぇ。確実な成功を得る為にはテメェみたいな俺の世界の料理を知ってる奴じゃねぇと任せらんねぇ。だから作れ。相応の礼はしてやる」

「……じゃあそこの――リングレットと言ったかしら? その娘をくれないかしら」


 金も要らない。

 武器もいらない。

 地位も名誉もいらない。

 となると最後に残っているのは、転生の主目的である女性との触れ合いとなる。

 その点で言えば、リングレットは俺が転生した理由にたる容姿をしている。刺々した口調をしているのに初心なところがまたいい。

 それであれば、カレーだろうが納豆だろうが喜んで差し出すさ。

 しかし。俺の提案に対してナガトの反応は芳しくない。


「悪ぃがそれは出来ねぇな。こんなんでもリンはオレの仲間だ」

「それはこちらが言うの台詞なのだと思うんだけど。王にすら敬語を使わず未だに文字の1つも覚えないロクデナシで、私やソールがいなければ書類整理も出来ないのだから」

「うっせぇ! オレは魔王をぶっ倒すために神にこの世界に連れて来られたんだ。テメェ等の都合押し付けといてその程度のわがままがなんでいけねぇんだよ!」


 さすがの2人もナガトにそう言われては反論する事が出来ないみたいで、押し黙ってしまった。どうやら多少なりとも罪悪感のような感情を抱いているみたいだ。そこは貴族になっていい目を見てるだろうがくらい言い返してやればいいのに。俺ならするね。


「だからって私も巻き込まないでほしいわね。貴方がここに来た理由に一切関係ないんだから」

「まぁそう言わんでくださいよお嬢さん。願いを聞いてやったらこっちでも相応の謝礼はしますんで、ここは1つナガトの願いを聞いてやっちゃぁくれませんか?」

「旅をするのに必要な物は自分で手に入れられるから必要ないわ」

「ならどうして私を望んだ?」

「好みだからかしら」


 ニヤニヤとした笑みを浮かべると、当の本人は意味が分からないとばかりに首をかしげたが、ナガトは俺の言葉の意味を正確に把握したようだがあまり趣味じゃないのかため息を一つついただけ。最後の野郎騎士はただただ面白そうに笑っているだけだった。


「さっきも言ったがリンはやれねぇ。代わりの報酬を提示しろ」

「しつこいわね。貴方達程度に支払える報酬はリングレット以外ないのよ。それが出来ないならさっさと帰ってくれないかしら」

「なら作れ。美味けりゃ帰ってやる」


 ナガトとそんなやり取りをしていたら、〈疾駆する者(スターター)〉の面々がおっさんと一緒になって降りてきた。そろそろ飯を作ってリエナの所にもっていかないと出発という運びになってアスカに戻る時間が無くなってしまう。

 その瞬間。ふと悪くない提案が脳内を駆け抜けた。


「分かったわよ……。ただし。お礼はちゃんと貰うわよ」

「オレにできる事ならなんだってやってやるよ」


 言質は得た。それこそ大した期待はしないけど、先に食わせて既成事実を作って言い逃れできないようにしてから提示するつもりだ。クックック……せいぜい礼をやると言った事を後悔するがいい。

 って訳で、木箱を手に厨房へと向かう。

 こっちの料理はおにぎりと豚汁のセットだが、あっちは何にしようかね。

 豚肉はメインとして十分だが、それをそのまま塩胡椒で焼いただけなんてのは少し味気ないし、何よりナガトが求める日本の味ではない。

 だからって味噌焼きにするには味噌の質が悪すぎるし味をしみこませるためには時間がかかる。

 かといって醤油で味付けした程度じゃこの世界の料理人でもというか、リリィさん以外であればそうそう失敗はしないはずだ。

 日本的で簡単に作れる料理……か。そう言えばまだ紫色のが残ってたな。

 とりあえず欠片を一口放り込んでみると、なんてことはない生姜の味が広がり。鮮烈な辛みが鼻を抜ける。名前もジンガーとか言ってたし、どうやらこの世界の生姜と考えていいな。


「……なるほど。最初からそれが食いたかったって訳か」


 あの馬鹿が求めているのは生姜焼き。それであればそれほど時間はかからない。ついでに味噌があるならグレードを落とした豚汁も一緒に作ってやるとするか。

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