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#108 一肌脱ぎますか

 待っている間。出来る事なら親睦を深める為に何気ない会話というやつを楽しもうかとも思ったんだが、既に敵対的な対応をしてしまった以上、いきなりの方向転換は媚びを売っているように見られかねないんでグッとこらえるしかない。

 とりあえず余計な動きをしないよう見張るという意味で隣を確保し、苛立たしそうな表情も可愛いなぁと思いながら久しぶりに〈写真〉で保存なんかをしていると、ほどなくしておっさんが帰って来た訳だけど、隣のポニテ騎士を見て驚いた顔をしながらこっちに歩み寄って来た。


「レナさん。あんた一体何やらかしたんだ? その人は勇者様に仕える騎士・リングレット様じゃねぇか」


 ふむふむ。この美少女はリングレットというのか脳内にメモメモ……っと。


「別に何もしていないわ。強いて分かりやすく説明するのであれば、怠慢な騎士に代わって迷惑な暴漢を勝手に取り締まっただけよ」

「なんだと!」

「事実でしょ。という訳なので、少し詰め所で事情聴取をしなくてはいけなくなってしまって。しばらく離れても大丈夫かしら?」

「構わんさ。そろそろ雇った連中も帰ってくるころだろうし、騎士が出張ってくるほどの事をした場所に来る馬鹿な輩がさほどいるとは思えないからな。夜までに帰ってきてくれればこっちとしては問題ない」


 おっさんからの許可も得たんで、俺はリングレット先導の元。詰所と言っていた場所までやって来たんだけども……この世界で見て来た建物の意匠から大きく外れた建築様式は、どっからどう見ても交番だよなぁ。あれはコンクリート製か?


「何をしているんだ。早く入らないか」

「分かっているわ。随分と世界を旅してきたのだけれど、この建物は他と違う感じがしたから気になっただけよ。石とも木ともレンガとも違う不思議な見た目ね」

「これはナガトが造った物だ。なんでもモルなんとかって物を使っていてすごく頑丈らしい」


 石灰モルタルか。脳筋馬鹿かと思っていたけど、意外や意外。そう言った知識にも明るいとは思ってもなかったな。もしかしたらナガトもこういう小説とかを読んでいる所謂オタクの1人なのかもしれんな。

 ちなみに中は、この世界基準の椅子と机が置かれていて少し拍子抜けしたが、さすがに高校生レベルの奴にそこまで求めるのは酷ってもんか。


「それで? いったい何が聞きたいのかしら?」


 椅子に浅く腰を下ろし、背もたれに寄りかかりながら足を組む。その姿をはたから見れば、とても絵になるであろうことを脳内で想像しながら内心でほくそ笑んでいると、机の上にわざとらしいほど大きな音をたてながらなにやら魔道具を置き、リングレットが不機嫌だと言わんばかりに眉間にしわをよせて睨み付けてきた。おお怖。


「いちいち男の騎士を挑発するのは止めてもらいたい!」

「鍛錬が足りないだけでしょ? それとも自分が出来ないからって言う嫉妬かしら?」


 そう告げながらわざとらしく胸を寄せて上げ、スカートの端を捲り上げる。たったそれだけで女に飢えているであろう男騎士はごくりとつばを飲み込み、鼻の下を伸ばしている。ニセモンとは言え大人の女性としての肉感と冒険者としてのスレンダーさを掛け合わせたハイスペック美女に仕立て上げたんだからな。

 リングレットもかなりの美人さんだが、レナには敵わない。おまけにこの性格だ。靡く男もそうそう居ないだろう。俺はウェルカムだけどな!


「っ!? ば、馬鹿にしないでもらおう! 私だってそれくらい――」

「さっさと話し終わって帰りたいんだけど?」

「ぐ……っ! まず手始めに連中が近づいてきた経緯を教えてもらおうではないか」


 言われるがままに、声をかけられてから全員を叩きのめすまでの経緯をある程度はしょって説明すると、リングレットを始めとしたほかの連中も感心したようにほぉ……とか。へぇ……とか声を漏らす。とりあえずこっちに不利になるような反応じゃないんで放っておこう。さっさと帰ってリエナさんにアスカとしての俺がいかに素晴らしい存在かを擦り込んでおかねばならないんだからな。


「なるほど。貴女の話を聞く限り、非があちらにあるのは明らかのようだ」

「無実が証明できたようね。それなら帰らせてもらうわ」

「まだだ。今は連中からも話を聞いている最中。それが終わるまで非常に遺憾ではあるけど、ここで待機してもらわねばならない決まりなんだ」

「……罪人の証言を聞くなんて私の耳がおかしくなったのかしら?」

「これはナガトの意向だから、私としては文句は言えない」


 アニーさんに言わせれば、この世界で罪を犯せばほぼ確実に被害を与えた方が10悪いという事で、問答無用で裁かれる。

 より文化の進んだ日本で暮らしていた俺としては随分単純だなと思いはしたけど、ここではこれが常識なんで文句はない。

 俺は基本的には罪を犯さないし、万が一にもやってしまったとしても、駄のつく神のスキルの前ではいくらでもなかった事に出来るから何も問題はない。

 そう考えると、このやり方を提唱したナガトのやり方は、俺の常識に当てはめれば十分に納得できるやり方ではあるとはいえ、それに巻き込むのは勘弁してほしいもんだよまったく。

 結局。それから30分以上も経ってようやく連中の事情聴取をしていただろう騎士が入って来て、俺の無実がちゃんと証明されて釈放となった。別に何かしたって訳じゃないけど、座りっぱなしなのは少し疲れた。


「まったく。もう少し早く出来なかったのかしら。おかげでお尻が痛くなっちゃったわ」

「文句があるなら騒ぎを起こさなければいいだけだ」

「その前にああいった輩をのさばらせなければいいんじゃないかしら?」

「最近は何故かああいった連中を頻繁に見かけるようになって私達も手を焼いてる」

「それが事実がどうかは知らないけど、せいぜい被害が拡大する前に対処する事ね」

「言われずとも分かっている」


 最後に。俺がボコってやった連中がどんな結末を迎えるのかを聞いてみたが、連中には同様の抗議が既に何件も冒険者ギルド経由で届けられているために、数日は牢屋で暮らしながら騎士監視の下、街の雑用をやらされるとの事。

 ハッキリ言えば甘すぎる判決のような気がしないでもないが、俺としては実害はないしその代償と言わんばかりの怪我を負ったからとでも理由付けするのかね。

 それでも、そこからさらに罪を重ねれば犯罪奴隷として劣悪環境の鉱山行きとなると脅されているので、連中も心を入れ狩るだろうとの事。んな事あり得ねぇっての。


「貴女達で手が足りないと言うのなら勇者にも手伝わせればいいのよ。彼……いま居るんでしょう? 気配を隠しもしないなんて余程自信があるのか未熟なのか分からないけど、普通の騎士より役に立つのは明らかじゃない」


 一度会っているだけに、〈万能感知〉で検索をかければすぐに一際豪華な屋敷の中にその反応があるのが分かる。誰かと一緒に居るみたいだけど、男か女か動物かまでは判別しないでおこう。奴にもプライベートってモノがあるだろうからね。


「そんな事でナガトを呼べるわけがないだろう。ナガトはナガトで忙しいのだから」

「あら。もしかして子作りとかかしら?」

「っ!? ふふふ、不埒だぞ! 女性がそのような事を口にするなど!」

「それは貴女の価値観でしょう? 私の価値観では別に問題ない事になっているわよ。勇者ともなれば体力も凄そうだから相手をするのも大変でしょう? だから忙しい理由の1つとして挙げただけ。間違っているのならまだしも、そこに文句を言われる筋合いはないわ」


 この世界の勇者人気がどれほどのもんか知らんけど、対魔王兵器として知らぬ者はいないとばかりの称号だ。ステータスもスキルもこの世界の人間とは格が違う――と思う。

 おまけに、あいつは目つきは悪いが顔の作りはそこそこイイ。こうなると女子人気ってのは高まらざるを得ない。一種のミーハーって奴。それを生かして息子や娘でも誕生させる事が出来れば、親子ともども人生の勝ち組路線に進路が切り替わり、王族なんかともつながりが出来る可能性だってある。となれば色目を使う女性も多いだろう。

 そんなハーレムに対して羨ましいとは思うが、魔王討伐とか無償奉仕とかでメリットが多すぎるから俺はパスだ。完成された美はそれはそれでお近づきになりたいが、美女の原石を探すのも大好きだ。


「ナガトはそんな事をしてるから忙しい訳じゃない! 部外者に言えはしないが、決してその……不埒な行動をしている訳ではない!」

「そういう事にしておいてあげるわ。それじゃあまた。会わない事を祈っておくわ……初心な騎士さん」


 これで再び自由を手に入れる事が出来た。後はおっさんの所に戻って、この時間となるとさすがに一晩泊まるしかなくなるだろうから、ここは是非とも馬車の見張りを志願しなければ。そして将来の楽しい道中のためには何としてでも勝ち取らねばなるまいて。


「だから違うと言っているだろう!」

「ん?」


 何だ? 人がいい気分で妄想しているっていうのに、随分な邪魔の仕方をするじゃないか。

 ついさっき無罪放免で解放されたっていうのに、すぐにまた問題を起こすのはどうかと思ったけど、扉の隙間から見えた言い争っている人物の横顔が知り合いとあっちゃ、首を突っ込まない訳にはいかないよな。

 面倒臭いけど扉を開けて中に入ってみると、そこは冒険者ギルドだったみたいでそこかしこに剣や槍なんかの武器を携えた男連中が椅子に座ったり受付に文句か何かを言っていたりとそれなりに物騒で賑々しい。

 なので俺の入店にも気づく人は少なく、何も言われる事なく近くを陣取る事が出来たんで、事の成り行きを見守ってやるとするか。あいつ等が怪我でもしたらこっちにしわ寄せがもろに出て来るからな。


「馬鹿言ってんじゃねぇよ。テメェ等みたいなザコ冒険者が蜥蜴兵長(リザード・リーダー)を狩れるわけがねぇだろうが。つまりは不正採取って事になって没収扱いなんだから金を受け取る資格がねぇ」

「これは狩った本人が要らないと言ったから貰っただけだ」

「んな馬鹿な話があるかよ。蜥蜴兵長って言やぁBランクのオレ達ですら手こずる奴で、これだけ状態が良けりゃ金貨1枚はいくモンをポンと手放す馬鹿がどこにいるってんだ? 連れて来いよ」

「今は……居ない。だが明日になれば戻って来る。その時にそいつをここに連れてやる!」

「ハッ! 誤魔化すんならもう少しそれらしい言葉を並べやがれってんだ」


 なるほど。つまりこいつ等は、一緒に旅した護衛の連中が持ってきた素材がランクに分不相応で納得できないからいちゃもんをつけているって訳か。

 そして、そんな連中相手に強気に出られるほど実力が拮抗している訳でもない――と。仕方ないから少し手助けしてやるか。おっさんの護衛も任せたいし、そんな事のためにわざわざこんな場所まで出向きたくねぇ。

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