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#106 お菓子な領主は……

「んなっ!? こんな所で蜥蜴兵長(リザード・リーダー)が出て来るだなんて信じられないっす!」

「ボク達じゃ勝てないぞ!」

「それでも戦闘準備だ!」

「応っ!」

「グギャアアアアア!!」


 突然の出来事に、さすがに対応しきれなかったCランク冒険者達は慌てて武器を構えて黒トカゲに向かって襲い掛かるが、槍の横薙ぎ一閃だけで全員が大きく吹き飛ばされてしまう。どうやら連中より遥かに強いみたいだな。


「すりゃ」


 まぁ、俺からすればさっきのゴブリンと大差ない程度にしか感じられないんで、頭上から投石一発で絶命させる。一応〈万能感知〉でもポップする1秒前くらいであれば反応が捉えられるようになり、俺やユニであれば反応する事が出来るけど、さすがにアニー達には荷が重いな。死にはしないけど怪我くらいはしそうで少し心配だ。


「う、嘘だろ……」

「蜥蜴兵長が一撃……それもただの石ころでだなんて」

「ありえねっす」

「フッ。さすがはボクが認めたアスカちゃん。素晴らしい腕前だ」

「とりあえず馬車を止めて御者を代われ。その間におっさんは商品が駄目になってないか確認した方がいいんじゃないか? 凄い音がしたぞ」

「あ、ああ。それじゃあヴァニッシュ。しばらく頼んでいいか?」

「は、はいです」


 指名されたのは魔法職っぽい貧弱青年。どいつもこいつも魔法使いってのはもやしばっかりで同じ顔に見えるが、まぁ遠距離であるなら馭者をしていたところでさほどの戦力ダウンにしかならないだろうからナイス判断だ。

 ちなみに、俺が倒した蜥蜴兵長は、素材自体はすでに持っているから通行の邪魔にならんように放り投げると、冒険者連中から悲鳴が上がった。

 まぁ、あの蜥蜴の皮はそこそこ優秀な防具の素材となるらしいから捨てるなんて思わなかったんだろうが、あの程度の物ならどうとでもなるんで欲しけりゃくれてやるよと言ったらマジで!? みたいな顔をしながら何度も確認するんで、剣を片手にさっさと剥ぎ取れと脅すと連中が喜び勇んで剥ぎ取り作業を始めたんで、今の内にリエナさんとの関係を深めようと馬車内に足を踏み入れると、そこには槍の被害にあったであろう穴の開いた木箱を抱えているおっさん馭者がこれでもかと言わんばかりに落ち込んでいた。


「どうしたんだおっさん。それが被害者か」

「ああ……お嬢ちゃんかい。見ての通りだ。商品が駄目になっちまってな」


 よくよく見れば、おっさんの足元には割れたガラスが散らばっていてびしょびしょに濡れていた。どうやら液体の入った瓶が残らずやられちまったみたいで、この落ち込みようを見るとそれなりに高価な品物だったんだろうな。


「一体何が駄目になったんだ? 酒か?」

「ハイポーションだ。これだけの量を仕入れる金額もさることながら、数が揃うなんて滅多にないからと奮発したんだが……これじゃ旦那様にあわせる顔がねぇ」

「ん? 旦那様って、ここにある商品はおっさんのじゃないのか?」

「わしがそんな大商人に見えるか? ここにあるのは全部シュエイに本店を構えるウラグストク金爵様のモンだ。わしはその馬車での運搬を仰せつかっただけのいわば下っ端の1人だよ」

「金爵――ってなんだ?」


 侯爵とか伯爵なんかは聞いた事があるが、金爵ってのは初耳だ。どのくらい偉いのかね。


「金で買える爵位の事だ。これを持っていると商人として箔がつくってんで大抵の奴は手に入れる。あんま大きい声じゃ言えないが、タダのお飾り爵位さ」


 ランク的には子爵と男爵の間くらい。とびぬけて偉い訳でもなく貶される訳でもない何とも中途半端な立ち位置だが、それでも貴族となれるんだがその金額実に白金貨1枚。しかも5年更新で払えない場合は自動的に爵位没収らしい。なにが嬉しくそんな面倒な物を欲しがるのかねぇ。理解に苦しむ。


「ふーん。おっさんはその商人に顎でこき使われてるって訳か」

「まぁそんなところだ。しかし困った……これだけの数の損失ともなると、わしの給料だけでは何年かかる事やら……いや、それよりもこの仕事を辞めさせられるだろうな」

「魔物が突然目の前に現れましたとか言えばいいだろ。おっさんに落ち度はないんだし」


 神器ダンジョンの奥深くで、ポップの原因は六神の部下がやってたってのを知ってから、ゲームとかで何で橋を渡るだけで魔物の生息が変わるんだろうなぁって疑問が氷解した。

 それに当てはめると、この不可思議なポップの原因もまた六神のどれかの部下が適当にいじってんだろう。後で大目玉を喰らうといいわ!


「そんな言い訳が通用する御方じゃないんだよ」

「いやいや。黒蜥蜴の素材あんじゃん。あれ見せりゃいいだろ」


 投石一発で沈む程度のとるに足らないザコ魔物だとはいえ、Cランク冒険者が手も足も出ない奴だ。それの素材を見せて、こんな奴に襲われたら護り切れないよね? だから許してちょんまげ的な説明をすればいいはずだろう。


「言ったところで、そんな商品を外側に配置するお前が悪いと言われるのがせいぜいなんだよ。実際に壊れやすいモンは馬車の中心近くに置いて乗ってる人間に支えてもらったりすんのが常識でな」

「あまりの忙しさにそれを怠った……と」

「……ああ」


 がっくりと落ち込みながらもう奴隷になるしかとかぶつぶつ呟いているんで、ここはチャンスとばかりに〈万物創造〉で造り出して魔法鞄(ストレージバッグ)から取り出したように偽装しておっさんの前に差し出してやると、かなり驚いた顔をした。


「ならくれてやるよ」

「い、いいのか? ハイポーションってのはこれだけの数になると金貨5枚はくだらないのに」

「気にするな。とは言え当然ながらタダって訳にゃいかねぇのは世の常だ。代わりと言っちゃあなんだが、リエナさんをどうすればいいか分かってるよな?」


 言外に手枷足枷を外して自由にさせろと言っているだけだが、そう簡単に首を縦に振るとは思っていない。

 ここで2つ返事で了承した場合、リエナさんと手を組んで商隊が全滅させられてしまうかもと想像するのはそう難しい事じゃない。

 冒険者連中が手も足も出なかった魔物をたかが石ころで葬った俺に、同じ龍種ですら手を焼いていたほどのリエナ。これが手を組めば50人からなる商隊程度に5分もかからん。そこら辺までこの一瞬で考えたかどうかはどうでもいいが、即答しないって事は危険だと感じてる証拠。


「さすがにそれは無理だ。お嬢ちゃんの素性もよく分かんねぇってのにそんな真似は出来ねぇ」

「そうかい。ならどうするよ。これを何とかしなけりゃお前さんは地獄行きだぞ?」


 ハイポーションを簡単に用意できるならそう突っぱねても問題ないが、そうできるだけの財力も、俺から奪い取るって武力も持ち合わせていない。まさに八方ふさがり!


「その条件は飲めん。だから……売ってくれ」

「なら銀貨5枚だな」

「安っ!? お前さん気は確かか?」

「もちろん。まぁ金を払ってもらうんだ。リエナを自由にって条件は出せないから、牢には好き勝手に入らせてもらうぞ? それが飲めんなら銀貨5枚で譲ってやるよ」

「まぁ、そのくらいなら大丈夫か。条件を飲む」

「交渉成立」


 ふっふっふ。これでリエナさんにも他の人間にも優しい人格者として俺の良い印象を植え付ける事が出来ただろう。こうやって好感度を稼いでいけば、シュエイに着くころになれば俺と一緒に居たいと言ってくれる可能性が上がるはずだ。

 それを確実にするためにも、普段では断固拒否する男へ貢物を献上したんだ。その分しっかりと働いてもらわないとな。げっへっへ。

 とりあえず損失分の補填を終えて外に出ると、例の冒険者達がパンパンになったカバンを眺めながらホクホク顔をしていた。あの程度の素材であそこまで幸せそうな顔が出来るなんて、おめでたい連中だ。


「終わったのか?」

「ああ。アスカ嬢のおかげで蜥蜴兵長の素材も手に入って大儲けだ」

「そろそろ弓を新調したいと思ってたところだったんすよ」

「誠に感謝するばかりだ」

「お礼と言ってはなんだけど、今晩ボクと愛について語り合わないかい?」

「俺は女の子が好きなんで遠慮するよ。それよりもさっさと走り出さないと次の村にいつまでたってもたどり着かないぞ」


 そう急かして慌てて馬車を走らせる。何だかいつの間にかこの商隊を束ねるような立場にランクアップしてる気がする。

 こっちとしては面倒事はやりたくなかったんだが、リエナさんの為だと思えばやる気・元気・井〇と言わんばかりに頑張るしかないか。


――――――――――


 とりあえず。道中は蜥蜴兵長とやらが馬車のすぐ横に出て来る以上に危険は起こらず、8時間ほどかけてブヤ村に到着したが、お菓子の村と言われるだけあって外壁の外に居ても甘い香りが風に乗って届けられ、護衛の連中や馭者のおっさんまでもウットリとした表情をしている。

 が、俺から言わせてもらえばかなり焦げ臭い。恐らく砂糖を焦がすカラメリゼをしているんだろうけど、明らかに技術が追い付いていない。もしかしたらどっかの誰かが製菓技術を持ち込んだのかもしれないけど、それを扱うにはもっと知識をつけないと品質の向上はない。まぁ忠告はしないけど。


「どうしたんだいアスカちゃん」

「何でもない。さっさと宿を決めて新たな出会いを求めて散策したい」


 分かる……分かるぞ。〈万能感知〉を使わなくても分かる。ここには美人のお姉さんが2人くらいはいると俺の勘が告げている! この機を逃せば二度と会えなくなる訳じゃないけど、やはり早い時期に顔を合わせて遠く離れた地で再会となれば少なからず運命と感じてくれるかもしれない。


「同意見だ。それじゃあさっそく――」

「ギルドで素材の買い取りをしてもらうぞ」

「直接店に卸さないのか?」


 この世界の冒険者は、基本的に魔物の剥ぎ取りが出来るようにきちんと仕込まれる。だからと言って解体所がないかと言われれば否との回答が帰って来る。

 解体の際に出る血の臭いに魔物が寄ってくるため、大型の魔物となるとどうしたって解体に時間がかかる。そう言う場合のためだったり、そもそも解体を面倒臭がったり腕が悪かったりする連中なんかのためにギルドに解体できる人間が常駐している。

 という訳で、大概の素材は冒険者自身の手によって解体され、それをギルドではなく商店と直接取引をするのがこの世界。だから俺はその情報を利用して、あのガキ共に情報の大切さと莫大かどうかは知らんが金脈を教えてやったのだ。今頃は俺への感謝で毎日むせび泣きながら飯を食っている事だろう。


「普通ならそうだろうけど、ここは菓子の村だけあってそう言う店はギルド以外ないんだ」

「その辺がこの村唯一の欠点なんすよね」


 なるほど。確かに右を見ても左を見ても並ぶのかお菓子の店ばかり。

 ちなみにこの村以外で販売・常食されている甘味をおっさんに聞いてみたところ、大抵は干し果物かハチミツ漬け。グッと高級志向になってようやく砂糖の出番があるが、この街で販売している物と比べると甘さが物足りないのに高値らしい。

 だからこそ。このブヤ村の甘味は飛ぶように売れる訳だが、ここで疑問を感じる事実が一つ。


「何でこんな狭くて設備がザコなんだ?」


 パッと見た感じ、かなりの人口密集地となっていてどう考えても手狭だ。ごった返すほどって訳じゃないけど明らかに人口密度が高い。これがもう少し規模が大きい街であるなら気にならないレベルだったろうけど、この規模には不釣り合いすぎる。

 菓子で有名になるほどであるなら資金も潤沢だろうし、それでなくともこの世界基準に当てはめるなら、ここは王都からさほど遠くない。金を稼ぐという点で見ればいくらでも拡大に便宜が図れるはずだろうに、どこを見ても規模拡張の気配はない。ならば理由があるはずだろうとおっさんに問うてみたら、答えは単純。ここはとある貴族の領地で、本人もこれ以上広げるつもりがないのだそうだ。


「ふーん。その貴族とやらは随分と欲のない人物なんだな」

「ああ。住民にも重い税をかけたりせず。領地経営にも精力的な人格者としてとても人気がある。そこいらの貴族からは疎まれたりしているが、本人が恐ろしく強いから手を出そうにも出せないのが現状だと言われているな」


 なるほど。どうやら貴族の大部分は俺がラノベとかで見て来た貴族そのものと遜色はないみたいだ。

 その一方で、マリュー侯爵やカスダ準男爵みたいな良識的な貴族もいる……か。すぐ近くの悪の権化と言わんばかりの貴族がいるというのに大した度胸だ。


「それになんと言っても、ここの領主は勇者ですからな。人気になるのも当然と言えるんだな」

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