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#9 初めての報酬

「ほいっと」


 森から村に向けて歩き始めて1時間くらい。道中はレベルアップもかねて〈万物創造〉でソフトボール大の石を創造しつつ、人・動物・魔物を〈万能感知〉で色分けして表示させ、魔物だろうと思う気配に向かって放り投げてはその反応を潰す。

 その度に体内に何かが満たされていく感覚を感じ取る事が出来るが、最初の場所って事もあってその量は非常に微々たるものなので、当然レベルアップは〈経験値半減〉と〈成長遅滞〉も合わさってなかなかしない。


「ったく。全然たどり着かないな」


 地図を手に入れたはいいけど、縮尺なんて便利な表示があるはずもないから、これがどのくらいの距離なのかが全然分かんねぇな。

 連中、ギック市とやらまでは50キロくらいだって言ってたから、地図を見る限りだとこっちがそれ以上かかるって事はないんだろうけど……馬車も全く通りかからんし、路面状況も随分と悪くなって来たからいい加減歩き続けるのも嫌になる。

 いくら追っ手を撒くためとは言っても、人通りのほとんどない村を目指すのはちょっと早計過ぎたと後悔しても後の祭りだ。ここまで来て背を向けるなんて逃げるみたいで格好悪いし、来た道を戻る事を考えるとうんざりするって。

 ちなみにいま俺がいるのは、少し閑散とした林道。さっきの森と違って幾分木々が枯れてるように見えるし、土も栄養が足りないのか随分と地面も硬いし石が多量に混ざってて、所々に岩も鎮座してる。

 申し訳程度に馬車がすれ違いで通れるくらいの幅は確保されてるけど、どうしたって大都市と聞いてるギック市に通じる道と比べれば悪路と表現するしかない訳で、いくら〈身体強化〉で微塵も疲労感がなくとも、馬車や冒険者なんかがわざわざ訪れるような環境でない事は明らかだ。

 道中が悪路な上に、この辺りにはスライムにゴブリンにダチョウを小型化したみたいな飛べない鳥に黒い悪魔Gに似た虫など、RPGでも初期レベルの魔物っぽいのしか出ないとしても、やっぱ数が揃うと面倒極まりない。

 そんな面倒を跳ねのけた先に待っているのが平凡かそれ以下の村では、よほどの特産が無ければこんな感じなるってモンだろ。


「――――」


 今の断末魔で何匹目かな。100を超えたくらいで数えんのが面倒になって止めたから別にどうでもいいか。おかげでようやくレベルが3になったし、この〈万物創造〉の全容についても少し理解でき始めて来たからな。

 どうやらこのスキルは、俺の世界の物だけでなくこっちの世界もの物も創造出来るらしいんだけど、それを可能にするためには具体的3つの条件が必要になる。

 1つ――その物の名称を正確に理解する。

 2つ――その物の全体像を視認する。

 3つ――口の中に一部でもいいので含ませる。

 この3つを満たして初めて、一覧に明るく表示されて創造可能になる訳なんだけど、1はネットで得た知識があるから一覧にはある程度は表示されてるけど、いざ選択しようとすると条件を満たしてないって文字が出るんだよな。主に聖剣とか妖刀とかな。

 2もいくつか思いついた方法のうち、唯一武器として創造できた木刀に倣って木を削ってそれっぽく形を整えるだけで、武器欄に木斧や木槍として新しく一覧に表示されてくれたが、やっぱり条件を満たしてないって表示が顔をのぞかせる。

 ここまでは30分くらいで思いついたいくつかの方法がヒットしたから良かったものの、後に続く条件が思いつかなかったんで、スキル詳細を解放してズキズキ痛む頭を押さえながらなんとか探し出した最後の条件が、なぜかこれだった。

 ハッキリ言って信用できる内容じゃないし、なにより木を口の中に入れるのが抵抗あんだよね。

 とはいえ、木刀は某三刀流キャラの真似をしていた黒歴史から。

 閃光手榴弾は興味本位で購入し、映画みたく口でピンを外した黒歴史から、それぞれ口に含んでいるんで創造できたんだが、いやぁ……若いってキッツイな。思い出した時は思わず恥ずか死するところだったぜ。

 だが、石鹸だの服だのは口に入れた覚えがない。赤ん坊の頃にやってたのかと考えると無い事は無いだろうけど、さすがに石鹸は無理があるだろ。そんな事をしたら親が止めに入るっての。

 なんて事を考えながら物は試しと入れてみた結果は上々。おかげで武器各種と盾の他に、木だったおかげか丸太とか防護柵まで創造可能になった。

 試しに防護柵の最高品質は何なんだろうと〈品質改竄〉で最高品質を確認してみると、神壁なんて単語が表示されたんで、そっとウィンドウを消してなかった事にした。


「ん?」


 気持ちを切り替えて石を創造してのレベルアップに勤しんでいたら、〈万能感知〉がまた魔物の接近を知らせてくれた訳なんだけど、今回は今までのと違って随分と大規模でその進行速度もかなり速い。その理由として、魔物の集団の前を走る一頭の馬と2人の人間の存在がある。馬と同じ速度で動いてるって事は、きっと馬車に乗っているだろうこれを魔物は餌と認識して追いかけてんだろう。

 この速度なら、あと5分もすれば俺の視力で見える距離まで近づいて来るだろうけど、両者の距離と速度を考えれば馬車の方が幾分か早く追いつかれるっぽいな。

 むふぅん。これはチャンスですぞ。連中の前に颯爽と現れて魔物を追い払ってやれば、命の恩人であるこのオレの願いを聞き入れて、きっと馬車に乗せてくれんだろ。最悪男でも我慢してやるが、それが女性であればさらにテンションが上がるぜぃ!


「っし。助けるとしますか」


 なに。全速力で向かえばほんの数秒の距離だ。


「せぇ……のわっ!?」


 そんな訳で、5割くらい解放した〈身体強化〉で地面を爆発させるほどの一歩を踏み出した瞬間。景色が早送りされたみたいに流れる速度に前傾姿勢ってのが合わさってすっ転ばないようにするのが精一杯。

 なんで、何本かの木や巨大な岩をこの身体でもってなぎ倒したりぶっ壊しながら山道を落ちるように下り、最後には足が追っつかなくて大転倒。


「おぉビックリした」


 結果。たった数秒で馬車まで数10メートルの至近距離まで詰められて、自分の目でようやく魔物の全貌が明らかになりったが――


「あーあ。汚れちまったよ……」


 木をへし折ったり岩をぶっ壊したり地面を転がりまくって顔面とか全身が泥だらけ。2割は身体が軽いなぁくらいだったから何とかなっかなと思ってたら、5割は別次元だな扱うにはそれ相応の訓練を積まないと難しそうだけど、どうやら〈身体強化〉は当たりスキルっぽいな。

 泥や土ぼこりを払いながらその集団に目を向けてみると、魔物は狼を倍以上に巨大化させて四肢に魚の鱗みたいなのを生やした生き物。それが〈万能感知〉と一緒に確認してみると、20――1つ減ったんで19匹ほどの反応がある。強さが分からんけど、あのくらいなら何とかなるだろ。

 いきなり出て行くとあっちも驚いて操縦を狂わせるかもしれないから……まずは間引きとしてここから先頭集団への投石攻撃で3匹の頭部を吹き飛ばすと、その死体に足を取られて後続が次々に巻き込まれたり、それを回避しようとして一気にスピードを落とした。


「な、なんや!?」


 俺の横を馬車が通り過ぎる際に聞こえたのは……関西弁? フードをかぶっていたから人相まではよく分かんないけど、これは女性の声だ!? 何という幸運だろうか。村までの足を手に入れた上に相乗り相手が女性だなんて……これは是が非でもお近づきにならなければいけないな。うんうん。

 彼女達はこの不思議な出来事をこれ幸いと足を止める事無く駆け抜けていった訳だけど、後ろの幌馬車の中にいたらしいもう1人の胸の大きいが顔色がかなり悪いお姉さんが後ろの確認のために顔を出してくれたんで、林の中から姿を現して手を振っておいた。

 相手はおっとりタイプの美人さんだった~♪ これで俺という存在を認識してくれれば、確実にお礼をしてくれるに間違いないだろう。今から楽しみで仕方ないぜ。グゥエヘへへ。


「グルアアアアアアアア!!」

「ていっ」


 このあたりで、ようやく鱗足の狼の1匹が俺に牙を突き立てようと襲い掛かって来たけど、そんなのは〈万能感知〉の前ではバレバレだし、〈身体強化〉があれば避けるよりも反撃に打って出る事も容易だから、剣で唐竹割にしてこれで4匹目。


「さて……あんま時間をかけすぎると2人が遠くに行ってしまうだろうから、速攻で終わらせてしまおうかね」


 立ち止まったままだったのですっかり囲まれた訳だけど、それはそれで都合がいい。

 手始めに、ビー玉サイズの小石を大量に創造して投げつけてみる。

 散弾銃の要領で数匹まとめて穴だらけにしてやろうと考えてやってみたんだけど、思いの外うまくいって一気に3匹を肉片にする事が出来、軽く駆けだして包囲から抜けつつ、背後からの爪を難なく避けての振り返りざまに散弾をもう一発。更に3匹が肉片に。

 この辺りになって来ると、さすがの魔物と言えど知恵が回るようでむやみな突撃と密集陣形は危険だと判断したらしく、地面の散弾跡を見てかなり間をあけての包囲へと切り替えた。


「学習能力は高いと……でも――」


 無駄だよねぇ。俺には〈身体強化〉のスキルがあるから、密集しようが散開しようがこっちの面倒が増減する程度の差にしかならないんで、出来れば密集したまんまでいてくれた方がよかったんだけど、こうなっては個別撃破に切り替えるしかない。まぁ、散弾から単発にすればいいだけなので問題なく一匹一発で殺し、接近してくれば剣で両断。

 全部合わせて5分もかからずに、19匹いた鱗足の狼は全部首を斬り落として死体にしてやった。ここから頭だけで襲い掛かって牙を突き立てられるなんて某もののけ映画みたいな展開にならなくてよかったなぁなんて関係ない方向に考えが進み始めた頃になって、背後からの接近を〈万能感知〉が知らせてくれる。これはさっきの馬車の女性達で間違いない!


「う、嘘やろ……あんだけの数の鱗狼スケイル・ウルフが全滅しとるなんて」


 関西弁を使う方の子だ。胸の方はかなり残念だけど、それはそれとしてかなり可愛い。

 既にフードを取っているので、赤いショートヘアに少し吊り上がった瞳から気の強さが見えるけど、怖い印象はあんまりない。

 頭に猫の耳っぽい物があるからいわゆる獣人なんだろう。服装がチューブトップに胸丈のジャケットにショートパンツ。腰には何本かの短剣を下げて頑丈そうなブーツは脛にあたる部分に金属の板を張り付けて盗賊っぽいスタイル。

 何か信じられないものを見たって感じの表情をしてるけど、RPGでも最初の頃に出会う魔物はこんぼうやひのきのぼうなんかでも勝てる設定だから、驚いているのはこの子のレベルが低いだけだろう。俺もレベルだけ見れば3だし、きっと同じくらいだろう。


「こんちは。追いかけられてるように見えたんでお節介にも介入したけど、もしかして殺しちゃまずかったですかね?」


 あれだけ必死に逃げてたんだ。その線は薄いだろうけど念のための確認だ。万が一にも損害賠償でも請求されてもその時は欲する物を創造すれば文句は言わないだろう。


「い、いや……ホンマに助かったわ。これ全部、おま――あんたがやってくれたんか?」

「まぁそうなりますかね。ちょっとレベル上げをしたかったんで全部横取りさせてもらいました」

「そ、そらよかったわ。さすがに数が多くて対処しきれへんかったから助かったわ」

「こちらも人が通りかかって丁度良かったです。非常に申し訳ないんですけど、願いを2つほど叶えてもらえませんか?」

「そら助けてもろたんやから構へんけど、ウチ等にできる事にも限度っちゅモンはある。その辺はさすがにどないもならんで勘弁してくれると助かるわ」

「では……銅貨を1枚とこの先にある村まで馬車に乗せってもらえませんかね」


 こうして。村までの足と街での取引用の金が手に入った。

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