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#105 所変われど定位置キープ

 という訳で許可を得たので、龍族の――馭者のおっさんに金を握らせて聞き出したリエナと言う名前の女性の前に腰を下ろす。それも手を伸ばせば牢屋ごしであろうとその鋭い爪が届く距離であるが、そう言った事が出来ないような制約が付加されているのか動く様子はない。


「こんちは。俺はアスカって言うんだけど飯食うか?」

「……」


 まずはにこやかなあいさつ。ついでにお近づきのしるしとして食べやすいようにと一口サイズのカツサンドを鉄格子の隙間から差し入れてやったんだけど、それには見向きもせずにギラギラとした戦意をみなぎらせた目を、決して逸らす事無くこっちを真っすぐ睨み付けて来る。


「腹いっぱいか? これでも料理には少し自信があるんで食べてもらえると嬉しいんだけどな。もちろん毒とかは入ってないから安心してくれていいよ」


 と。言葉だけじゃ信用してくれないだろうから、紙皿に置いておいた物全てを一口づつ入れて安全性を自ら証明してみても、リエナの表情は警戒心むき出しで睨み続けるんで、俺は逆にニコニコ笑顔を崩す事無く真っすぐ見つめる。美人と顔を合わせているだけでも時間というのはあっという間に過ぎていくからね。たとえ睨みだろうと至福の時間だ。

 そのまま特に会話がないまま、馬車が止まったので何事かと顔を出してみると、どうやら魔物が近づいて来たようで丁度戦闘が始まったみたいだ。確か王都に近づけば近づくほど魔物の質と量は弱体化するって話は本当のようで、ほんの100匹のゴブリンが護衛の冒険者と戦っていた。戦っていたんだが……


「なんか……弱くね?」


 もちろん冒険者がだ。正直あの程度の数のゴブリン程度であれば、魔法職のリリィさんであろうと素手で蹴散らせる簡単すぎる且つ一方的な戦闘に出来るというのに、5人一組のパーティーはかなりいい戦いを繰り広げていた。つまりは一瞬で決めきれていないという事だ。

 もしかして……魔物の質も下がった代わりに冒険者の質も落ちてるって事なのか?

 いや待て。今まで出会った冒険者連中はそれなりに戦えていたはずだ。あの奴隷商の連中のとかしかまともに戦闘らしい戦闘ってのは見てない訳だけど、それでもあんなゴブリン連中よりはるかに強い……強いはずだ。俺から見ればどれも大差ないけど、たかが100匹程度の群れ如きに手こずりすぎだろ。


「なに言ってんだい。よく見てみな。肌の緑がかなり濃いだろう? あれはビターゴブリンっつって、油断すりゃDクラス冒険者でも危ない相手なんだぞ? それを相手にこっちはたった5人で戦えてるから連中は腕利きでランクもCにしては人気がある。だからわざわざ高い金を払って依頼したんだから負けられちゃ困るよ」

「あれでねぇ」


 これだけ自信満々に言うのであればそういう事なんだろう。まぁ……負けたら負けたで逆に金をとって道中の安全を売ってやってもいいか。という事で大丈夫であるのなら面倒くさい事をしなくて済むので、再びリエナの前に腰を下ろす。


「……」

「のどが渇いたりしてないか? 飲み物もあるぞ?」


 とりあえず甘い飲み物としてリンゴジュースを出してみるが、リエナは微動だにしないでじっと睨みつけて来るだけ、本当に何をしても反応がないなぁ。本当に生きているのかすら疑わしくなって来たし、そろそろ睨み付ける以外の別の動きが欲しくなって来たんで、少し殺気を放つ真似事をしてみる。漫画的には確か……こう……殺すぞって感じを――


「うわっ!? ど、どうしたんだお前達! 落ち着け!」

「おっといけねぇ」


 どうやら殺気を出し過ぎていたみたいで、リエナが反応するよりも先に馬車を引く馬の方が先に驚いて暴れ始めてしまった。やはり慣れない事はするもんじゃないし、もっと手っ取り早くて確実っぽい方が俺の性に合ってるという事で、頑丈そうな鉄格子を俺が通れる分だけ広げて足を踏み入れる。もちろん元に戻す事は忘れない。


「っ!?」


 目を見開いて驚いてくれたのはいいけど、その代償として明らかに警戒心を強める結果になってしまったのは仕方のない事。こちとらまだリエナの声すら聞けてないんだからな。多少の無茶はご愛敬って事で許してくれ。


「さて。とりあえず話をしようじゃないか。喋れるなら受け答えをして欲しんだけど」

「……お前何者」

「うひょう。可愛い声だねぇ~。俺の名前はアスカっていって、リエナさんみたいに綺麗で可愛い女の子や女性とお知り合いになる為に世界を旅して回ってる真っ最中でね。よければリエナさんともそんな不格好な物をつけていない姿で、より親密になれればと思ってるんだよ」


 そう言いながら手錠のついた手を握りしめる。この世界に降り立った時であればこんな事が出来る程対女性レベルは決して高くはなかったけど、最近は旅の仲間であるアニー達と少なからずスキンシップをしていたおかげでこういうレベルであればそつなくこなせるようになってきていた。やはり慣れってのは凄い。


「変な奴。リエナに話しかけてくる。大体命狙う。でもお前違う」

「そりゃそうだ。可愛いや綺麗は正義との言葉があるように、リエナさんみたいな女性は世の宝。それを殺すなんてその方が罪だと俺は断言する! まぁ……俺の邪魔をしなければだけどね」

「お前の話。よく分かんない」

「分かんなくていい。これは俺のポリシーだからな。という訳で俺は、リエナさんを買うと決めた。よければ俺と一緒に旅をしないか?」


 ここでリエナからの了承さえ貰えれば、後はどうとでもなる。欲深い相手であるならばすべての白金貨を吐き出してしまえば片が付くし、義に厚い相手であれば余命いくばくもない嫁が……的な達成困難な要求を満たしてやればいい。

 とにかく。一番の問題がリエナさんが俺と一緒に居たいと思ってくれることだけだ。それがなければ、いくら買ったとしても両者とも納得できないはずだ。リエナさんがそうじゃなくても俺は納得しない。


「いい。リエナ犯罪者。お前に迷惑掛かる」

「そうかい。まぁ時間はあるからその考えを改めさせる努力でもするよ」


 時間は1週間。それまでにシュエイを叩き潰しながらリエナさんの心も落とさなければならない。こいつぁ忙しくなりそうだぜぇ。

 ついでに冒険者達はゴブリン相手に辛勝を勝ち取り、手早く討伐証明の耳を削いで護衛に戻って来た。どいつもこいつも殺意を覚えるような(イケメン)ばかりで、何度背後から石をぶつけて亡き者にしてやろうかと思ったが、リエナさんへの心証が悪くなるだろうしそれで負けた場合は俺が相手をしなきゃなんなくなるのでグッとこらえた。


 ――――――――――


「っせい」


 1つ投げては~リエナさんのため~。

 2つ投げては~リエナさんんため~。

 さっきの戦闘の遅さを見て、このペースじゃシュエイに到着するまで1週間まるまる使っちまうだろうとの直感が働いた俺は、アニー達の好感度を考えて仕方なしに護衛をかってでた。

 もちろんタダではない。条件としてリエナさんを寝る時以外は檻から出して俺のそばにいてもらう事を提案したが受け入れてもらえなかったので、ならばそれをなんとかできる程度の腕前がある事を見せてやろうと、こうしていつもと変わらない幌の上で石を投げるという毎日を送っている。こうしていればいずれは認めるだろう。


「なぁ嬢ちゃん。本当に見えてんのか?」

「正確には感じ取っていると言った方が正しいな。さすがにそこまで目は良くない。それに魔物に襲われてないのが何よりの証拠だろうが」


 話しかけてきたのは護衛を任されたザコ冒険者達のリーダー。30代のそこそこガッシリとした体格の(イケメン)である。実力のほどを問いただしたら最近Cランクになったばかりの1人前に毛が生えた程度である事が判明したが、その辺りは口に出さないように努力した。さすがにそれは悪いからな。


「ならうちの索敵はどうなんだ?」

「かすかにすら見えないし感じないっすよ」

「凄いじゃないかアスカちゃん。良かったらボクにその技術を教えてくれないかな?」

「遠慮しておくよ。油断すると別の語らいになりそうで怖い」

「バレバレっすよレイニー」

「それに、お前程度が本気になったところでアスカ嬢に敵わないだろうよ」

「フ……障害があるからこそ、恋とは熱く燃え上がるものさ」


 ケラケラ笑いながらも一応油断なく周囲の警戒は行っている。なんでも王都からこの辺りまではダンジョンみたいに魔物がポップするらしく、いくら数を増やして護衛を密にしたところで、1人や2人はこれにやられるのだそうだ。今もその最悪のパターンが現れたんだからな。

 今回現れたのは真っ黒な鱗に鉄製の胸当てと槍を装備した2足歩行のトカゲで、それが現れるなり何の迷いもなく馬車に向かって槍を突き立てた。

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