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#104 別れと出会い(美人)

 さすがに俺と比べて数段味の落ちるモノとなったであろうけど、自分で作ったという付加価値のおかげで全員が満足したような表情で食事を終えたし、周囲の人間は物欲しそうにこっちを見ていたのも、食事が終わった事で名残惜しそうに次々と目的地へと旅立ってゆく。

そんな中で俺は、肩掛け魔法鞄(ストレージバッグ)に片手剣といういうはたから見れば冒険者っぽいいでたちで全員と向き合っている。


「それじゃ。王都で会えたら、君と握手」

「なんなんそれ」

「言ってみただけだ。とにかく安全に考慮した旅をしろよ? 傷1つつけるだけでも俺があそこのジジイに絞られるんだからな」


 未だに斑ローブの全容が分からない以上、俺が離れるのは少し不安だけどその時は頼むとアンリエットに温泉の入った瓶をいくつか持たせてあるので、怯ませるくらいは出来るだろう。その隙に全力で逃げ出すなりなんなりすれば、あの斑ローブ程度であれば何とかなるだろう。


「わかっとります。こんな事頼んでおいてなんやけど、アスカはんこそ気を付けて」

「ご主人様。いってらっしゃいなの」

「アンリエットもあまり無茶するなよ?」

「ふふん。そんな心配はわちが入れば無用なのだ」

「お前が一番心配なんだよな。くれぐれもやりすぎたりするなよ? まずはアニー達の戦闘能力を観察し、それらで対処できないほどの緊急事態にならない限りは、それより少し強い程度に加減するんだぞ?」

「むぅ……アスカはしつこいのだ。わちはそこまで抜けてないのだ」

「まぁいい。万が一にもお前のやりすぎがこっちにまで届くような事があれば、お菓子の売買を止めればいいんだしな」


 とまぁこんな具合の事を口に出しておけば、本当に余程の事がない限りは魔族としての真の実力を発揮する事はないだろう。一応本気を出したらどうなるのか聞いてみたところ、シュエイなら一撃で消し飛ばす事が出来るらしいとの言を聞いた時には、俺とアンリエット以外が顔を青くしていたが、そこまでの力を解放すると、反動として数百年の間かなり弱体化してしまうらしいとの事なので、いがみ合っている他の魔族に寝首をかかれるようになってしまうのでまず本気を出す事はないという事を聞いてほっと胸を撫で下ろしていた。


「とにかく。あの甘く美味なお菓子を食べられる限り、わちはアスカのいう事をちゃんと聞くのだ」

「ならせいぜいアニーの言う事をちゃんと聞いておけよ。一応状況なんかを聞くために時々パーティーチャットを入れるつもりだ。アニーもマリアの悪事や失態は遠慮なく報告してくれよ?」

「分かっとる。こないな事でアスカの不興買う訳にいかへんからな。そんな魔族に喧嘩売るより恐ろしい事が出来る訳あれへんわ」


 よし。そろそろ出発させないと本当に野宿になってしまうかもしれない。俺はまぁ別に問題ないけど、侯爵側はそうはいかない。さらに詳しくあげるのでれば、あのジジイがいささか面倒臭いお小言をグチグチしてきそうで嫌だから、可能な限り細心の注意を払ってもらいたいものだ。


「えーっと。次に会うのは1週間後くらいって事で」

「了解です。アスカさんも御武運を」

「しかし……本当にそんな短期間で本当にシュエイを落とされてしまったら、人族だけではアスカ殿を止める事は実質不可能と言わざるを得ない事になってしまいますな」

「別に街全体を破壊する訳じゃないって。こそこそっと伯爵邸に忍び込んで素直になってもらうだけだし、万が一にもそうなってしまった場合だろうといくらでも取り戻せるしね」


 人が死ねばエリクサー。建物が壊れれば〈万物創造〉と、この2つがある限りは俺はいくらでも罪を帳消しにする事が出来る。勿論その場合はアスカという存在としてではないけどな。

 とりあえず今生の別れとなる訳でもないし、早ければ明日中には何とかなるかもしれないというのは少し楽観的に見すぎだけど、そう悲観的になるつもりもないので、軽い挨拶を最後に俺から先にシュエイへと向けて歩き出すとすぐに丘を越えたためにアニー達の姿は見えなくなったが、パーティーチャットが繋がっていればその動向は逐一報告が入って来るので、マジでピンチの時は各々に設定してある呼び寄せ石で瞬間転移する予定だ。

 女性のピンチに颯爽と現れるヒーローの俺が、悪党どもをバッタバッタとなぎ倒せばアニー達の好感度はうなぎのぼり間違いなしだろう。グゥエヘへへ――


「ぶへらっ!?」


 う……ぐぐ……余計な事を考えながら歩いていたせいで思いっきり木に激突してしまった。これが某ギャルゲーであったならそのまま死亡エンドになるところだろうけど、あいにくとあんな虚弱主人公よりはるかに頑丈なんで少しビックリした程度で済んでる。


「いちち……さーってと。それじゃあ少し急ぐとしますかね」


 ここからシュエイまでは、俺が急いでいけば門が閉じる前までには余裕でたどり着けるけど、普通の馬車や冒険者の足であればここからでも3日以上はかかるので、道中には村がいくつかある。そこで新たな出会いがあるかもしれない事を考えれば決して見逃せない。

 なのでまずは、ここから40キロほど離れたブヤ村ってところを目指す。

 この村は、この世界でも珍しくお菓子が名物として販売されていて、世界各国からそれを求めて商人が多く訪れる場所らしいのだが、俺のお菓子と比べると天と地ほどの差があるとはアニーの弁。ちなみにマリアもそれには同意していた。

 人が多く集まればそれだけ美人さんと出会える確率が上がる。という訳で、状況によってはその村で一泊する事も視野に入れる予定で、そのためには少しでも早くたどり着かなきゃいけないんだろうけど、馬車での移動をさんざんして来たからいざ歩いての移動ってなるとグッとやる気が削がれていくんで、ここは通りかかった馬車に出も乗せてもらうとしますかね。

 という訳で目の前を通り過ぎようとする商隊がいるんでそこに頼むとするか。冒険者もそこそこいるから安全面も問題ないだろ。一度だらけると決めると索敵も面倒に感じてきたからな。


「おーい。シュエイまで行くんなら乗っけてってくれんかね」


 手を振りながら馬車に近づいてみると数人の冒険者が僅かに警戒して来たけど、こっちは特に気にせずに馭者をしている男に声をかけた。


「お嬢ちゃん。こんな所で1人だなんて……冒険者かい」

「いんや。ただの旅人だよ。それより歩くのかったるいから乗せてくれよ。金なら払うからさ」

「こっちとしては、一緒に護衛してくれるってなら交渉してやってもいいぞ?」

「それが面倒だから金を払うって言ってんの。ほら。これくらいあれば文句はないだろ」


 いちいち値段交渉で余計な時間を取るのも面倒なんで金貨1枚を投げ渡す。するとすぐに冒険者の内の1人が御者台へと走り二言三言。

 さすがにあれだけあれば文句はなったみたいで、乗車を許可されたから意気揚々と乗り込むとそこは荷物がいっぱいであまり人が乗り込めるようなスペースはなったが、こちとら外見だけは10歳の超絶美少女なんで少しの隙間があれば十分。要は自らの足で歩く事なく目的地にたどり着ければいいんだからな。

 というわけでシュエイまでひと眠り――という訳にもいかないのが現実か。


「……」


 ふと視線を感じたのでそっちに目を向けてみると、そこにはゴッツイ手錠に足枷をつけ、馬車の半分以上を占める程デカく堅牢そうな牢に閉じ込められた女性の鬼気迫る鋭い眼光と重なった。


「おふぅ……」


 何という事だ。道中で1人か2人程度出会えれば御の字かなぁなんて思っていた高レベルの美女に、まさかこんなに簡単に出会う事が出来るだなんて、どうやら俺は持っている人間のようだが何故ここまで厳重に閉じ込められているのか。分からないなら知ってる人間に聞けばいい。という訳で隙間から抜け出して馭者おっさんの隣に腰を下ろす。


「なぁおっさん。あの牢に入ってるおぜうさんはどこの誰で何をしたんだ?」

「あれかい? あれは龍族の奴隷だよ。何でもかなりの暴れん坊らしくてね。シュエイにある闘技場で戦闘奴隷として雇い主が購入してね。移送の途中なんだ」

「ふーん。なら金さえ出せれば俺が買っても構わないのか?」

「おいおい本気かい? あれは龍族の中でも炎龍種って言う一際凶暴な奴の中でも龍の血が色濃く発現したらしく、あそこまでやってもCランクの冒険者よりはるかに強いんだぞ? それにこいつはすでに買い手がついてる。もし買いたいんであればそっちに相談する事だな」

「分かった。……それよりも喋ったり食い物を与えたりしてもいいのか?」

「まぁ……危害を加えたりしなければ大丈夫だとは思うが、どうなっても責任は持たないし、被害を被るようなら金を払ってもらうぞ?」

「分かってるよ」


 とりあえず許可は得た。シュエイに着くまでにこの女性をなびかせる事が出来れば俺の勝ちだ。ゆっくりのんびりの旅だと思っていたのだけれど、こういったハプニングは歓迎御礼だぜ。

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