#101 目標――シュエイ陥落でスタートです
そう決めてからほどなくして、アニーとリリィさんが帰って来たので綺麗な景色を見るという本音隠しの嘘ルートの決定を説明した所、2人同時にそれは絶対に駄目だとの明らかな拒絶の言葉を受けた。
その表情と〈万能感知〉で伝わってくる怒気の反応を見る限り、確信がある訳じゃないが伯爵のおひざ元であるシュエイに行かなければいけないと感じ取っているんだろう。商売を生業としているだけあってそういった事に関しては結構鼻が利くようだが、俺達はあくまで侯爵の護衛として行動しているため、自分達でルートを決められる訳がない。
たとえ侯爵が死地に行きたいと言えばこっちは断れない。まぁ……最悪の場合は依頼自体を破棄してしてしまえばその束縛はアッサリと無くなってしまう訳だが、アニーとリリィさんからの信頼度や愛情度はストップ安で急降下するだろうこと請け合いだ。
「もう決まった事だ。大人しく馬車に乗れ」
侯爵の前でシュエイに向かうような言動をされると困るんで、アクセルさんと侯爵は既に馬車の中へと入ってもらっているし、既に出発の準備は終わっている。なによりいきなりルートを変更した事によって、次の街までの距離はシュエイに向かうより少し長めになっているし、何よりそちらの街道があまり使用されないらしくそれなりに荒れているはずらしいので、そろそろネブカを出て行かないと門が閉まる前までに入れなくなってしまう可能性がある。
「せやけど……」
「アスカ……なんとかならんのか? 詳しくは言われへんのやけど、伯爵のトコに行かんといつまでも獣人が食い物にされ続けるかもしれへんのや」
彼女達も自分達の力だけではどうにもできない事は理解しているんだろう。ここで苛立ちを露わにして出て行くようであったら、俺は別に追いかけたりはしない。それはアニー達が決めた事であり、俺が決めた事じゃない。
それに際して装備を返せともいう事も言うつもりはない。確かにアニー達が装備しているのはこの世界基準で考えれば相当な高品質だとしても、1つの都市を落とせるほどの物じゃない。せいぜいが一個中隊を相手どれる程度。そんなんじゃネブカすら落とせない。
「無理だな。何をするのか知らんが、そのただならぬ殺気を見る限りはとても侯爵にとっての安全を考慮していないのは明らかだ。そんな人間の言葉を信じて依頼を失敗させる訳にはいかない」
別に仕事熱心って訳じゃない。単純に行きたくないだけだ。わざわざ首を突っ込んで英雄視されるなんてまっぴらごめんだからな。そういう事は役に立たない勇者にでも任せておけばいいんだからな。連中はそういう事を解決するのがレベル上げの一環なんだから。
「せやったら――」
「払えるのか? この俺に種族一つを救うに値する対価を」
「それは……」
俺であれば高い確率でシュエイの街の全戦力を相手にしたところできっと問題にならない。最悪の場合はお菓子でマリアでも呼んでしまえば簡単に支配下に置く事は出来るとはいえ、それを自分の都合で頼むのはかなり身勝手が過ぎると言いたい。
食料も馬車も寝床も安全も俺がほとんど用意しているとはいえ、パーティーを組んでいるのであれば基本は五分五分の関係だ。だが、それ以上の何かを得るには莫大な対価が必要になる。
金は白金貨をポンと出せる所を見ているんだから選択肢に入れるのは難しいし、なにより伯爵家を潰そうとすることに対する報酬ともなれば、白金貨100枚出しても足りないだろう――この世界の基準では。
かなり薄情に思われるかも知れないけど、こっちだってそんな事に毎回毎回首を突っ込んだら命がなくなる可能性がゼロではなくなるんだ。2人もそこまで無理強いは出来ない事が十分にわかってくれているから、いつもみたいにまくし立てて来てはいないと信じたい。
「1人ができる事には限界がある。何でもかんでも救おうとするのは美談だけど、待っているのは破滅だけだ。人生を平穏無事に全うしたいなら薦めない生き方だ」
この生き方の代表格がまさに勇者だと言えるんじゃないかな?
魔王を倒すために異世界から呼び寄せられたその存在は、他を圧倒するステータスに六神からさらに突き放すようにチート能力を与えられる。まぁ、俺からすれば鼻くそだけどね。
これがどこまで正確に伝わっているのか知らないけど、きっと大多数の奴には自分を助けてくれる正義の味方といった認識を持っていると思うからこそ、正体を晒しての救助活動なんてやりたくないんだ。
助けられて当然というその思考回路が、どこまでも増長させる。
助けられただけでは満足せず、それ以上の事を要求される。そしてそれに応えればさらに上といった具合になって、結局は勇者が死ぬかそれ以外が死ぬまでは終わらない。そんな気が狂いそうなルートに足を踏み入れるのはまっぴらごめんだ。こちとら美女と18禁な関係になりたいがために生きているんだから。
「分かりました。ほんなら飛び切りの美人をアスカはんに紹介させてもらいますよって、シュエイに向かってくれまへんか?」
「うーん。リリィさんの紹介かぁ」
飛び切りの美人とお知り合いになれるのは諸手を挙げて歓迎したいところではあるけど、相手は幼女大好きリリィさんだ。想像するに7~13歳の間と言ったところだろう。
ちなみにこの守備範囲の狭さは、いつだったか勝手に白状した物を参考にしているのであしからず。
とにかく。まずは街を出ることが最優先だ。どのみちここでくっちゃべっていても1ミリも進まないし、最終決断が下るのはおよそ50キロ先の丁字路のあたりだからという事を説明し、それまでの道中で俺を説得できるかどうかがアニー達の口の上手さを見せる所だ。
そんな訳で出発。本物の領主が再び表舞台に立てるかどうかは勇者の活躍か先か。俺が絆されて伯爵を殺す方が先か。まぁこのままであれば間違いなく前者だろうな。
「さて……とりあえずその件の美女について話を聞こうじゃないか」
ネブカを出てすぐに、俺達は馬車の中。それもコテージにある俺の部屋に居る。
こっちとしてもそれは好都合だったけど、まさかあっちから提案してくるなんて思いもしなかったな。
「ほんなら手短に言います。あてが紹介するんは銀狼族のルナ言うちゃんとした大人の女性や」
「意外だ……リリィさんが大人の女性の知り合いがいたなんて」
「あてかてちゃんとした知り合いくらい居ますよって!」
大仰に驚いて少し砕けた空気を撒き散らしながらも、俺は見逃さなかった。リリィさんが銀狼のルナと口に出した時、アニーがほんの一瞬だけ驚いた表情をしたのをな。
それだけで相手がどの程度の存在なのかがよく分かるという物。さすがに貴族とか姫クラスの奴は出て来ないだろうけど、それなりに大物とみていいだろう。よくて大店の商人の3女くらいに思っておこう。美人であればたとえ四肢が欠損していようと無問題。だってエリクサーがあるから。
「で? で? その娘の容姿とか性格とかはどんな感じなんだ?」
「ルナはんは長い髪に切れ長の目に長いまつげのほっそりとした京美人いう称号を得てるお人や。あてからすればアスカはんと同じくらい綺麗で可愛いで」
「うんうん。それはそれは素晴しいな。何歳くらいだ?」
京美人って言葉は、きっと関西弁を教えた俺より前の転生者から教わった物かなんかだろう。そもそも獣人は関西弁使いが多い。恐らくは何代か前の獣人勇者が相当に人格者だったんだろう。馬鹿勇者ナガトや龍族のゴミ勇者じゃこうはいかない。
「今年で180歳くらいやったかな」
「リリィさん。俺は美人な女性と聞いているんだけど? さすがに年上が過ぎるな」
「話は最後まで。ルナはんが180や言うても、銀狼族は1000を生きる長命な獣人なんや。見た目はあて等とそないに変わりまへん。一応似顔絵を持っとりますんでこれを見てからでも遅くはない思いますよって」
「おお! おお……?」
そう言って取り出された一枚の紙に書かれたルナとやらの容姿は、確かに凄かった。凄かったんだが……これってどっからどう見ても花魁っぽいんだよなぁ。
別に花魁自体が悪いって訳じゃない。現代にだってキャバクラやガールズバーなんて物へと形を変えて連綿と受け継がれて来ている商売の一環なんだからな。心配なのはその技術力の高さだ。
もしシュエイを伯爵の魔の手から解き放ったとしよう。そうすればルナさんとの橋渡しをしてもらい、獣人を救ったお礼としてお知り合いにあり、アレクセイがこの容姿のまま男に戻してくれたらはれて本来の目的が果たせるようになるわけだけども、相手は百戦錬磨。かたや魔法使いになって4年の〈性技〉を持っているだけのド素人。一方的に搾り取られるのは好みじゃないし楽しめない。
「なんかアカンですか?」
「いやぁ……悪くはないよ? 悪くはないけど少し遊び人っぽい感じがしてねぇ」
「どの口が言うとんねん。それにそれは京美人が身に着けなアカンもんやて伝わっとるからしゃーなしに着とるだけであって、ルナ自体は大人しい性格やで」
「それを聞いて安心した」
うんうん。やはり男たるもの女性より早く果てるのはプライドが許さない所だったから一安心だ。




