#100 面倒事回避ルートに入りたい
うん。どうやら嘘を言っている訳じゃないみたいだな。
しかしこいつがここの本当の領主って事になると、あの子供も将来はこうなるのか……まるで想像できないな。
「これは異な事を。我はつい先ほど領主殿に謁見してきたところであるぞ?」
「あいつは俺の息子で2代目になる予定の男だ。嫁に似て頭はいいんだが腕っぷしがイマイチでな。だから領主としてしごいてやってんだ。あいつはちゃんとやってっか?」
「さてな。我はご子息殿の人となりを知らぬ故断言はできぬが、少々覇気が足りぬ。あれでは多少の脅しに屈してしまうのではないかと疑問が残る」
「違いねぇ。それよりもあんたみたいな立派な聖騎士がこんな地下牢に何し来たんだ」
「うむ。此度の騒ぎについて貴殿等の行動の意図を知ろうと思い参上した。可能な限りの情報提供を望む。報酬はこの程度でどうだ?」
俺が取り出したのは白金貨が50枚ほど詰められた革袋。それを鉄格子ごしにカスダ準男爵に渡してやると、明らかに顔色が変わった。もはや無用の長物なんでもっとくれてやりたいくらいだが、そうするとアニーとかに後々でグチグチと説教されるような気がしたんで、とりあえず1つだけにしておいた。
「あんたホントに聖騎士か? これだけの大金……どこから持って来たんだよ」
「はっはっは。無用な詮索はせぬ方が賢明であるぞ。して……報酬としては如何ほどか」
「十分すぎる。何を話せばいいんだ?」
「騎士団長がこの地に来たいきさつと、奴が訪れてからの異常に関する案件をいくつか」
「……本来は機密事項なんだがな」
そう建前を口にしながらカスダ準男爵が口を開く。
そもそも騎士団長が派遣されるに至った理由だが、何度目かの山賊狩りに際して、前任が油断から足に怪我を負ってしまったらしく、長い休養が必要になったために代わりの人材として本来であれば副団長を代理として立てる所を、急遽あの女が伯爵の命を受けてやって来たとの事。
仮にも自分の治める領地の一部の経営を任されている立場としては無碍にすることも出来ず、渋々受け入れたとの事。
当初は、男だらけの騎士団の中に女性が加わるという事で少なからず団員達は沸き立ったらしいのだが、地獄に近い訓練の数々によってその認識は改められ、結果としてあの女を女として接するのは止めたようだ。
最初のうちはその程度で、仕事も真面目にこなすし領民からも怖いが頼りになる人だとの評価を得ていたので準男爵もそれなりに信頼を置くようになり、徐々に徐々にこの街に無くてはならないような存在となっていった。
変化が訪れたのは赴任して半年。今から2か月ほど前からで、その頃から少しづつ山賊による被害が増え始めたせいで物流が滞るようになり、街の中でもいざこざによって騎士団が足を運ばなければいけないと言った案件が増え始め、騎士も準男爵も休む間もなく昼夜問わずに働き続けたと。この辺りはさっき聞いた勤務時間が決まっていないとの弁と一致する。
そして決定的になったのが1月前。山賊に連敗を喫し、住人同士の不和も高まって抑えきれなくなったころに獣人が暴れ回ると言った事件が起き、騎士団長の鶴の一声で事件を起こした当人とそれを何ともできなかった準男爵が投獄される運びとなり、空いた領主の席にはまだ半人前の息子が宛がわれ、騎士団長の傀儡に近い状態のまま今に至る……と。
「なるほど理解した。つまりこの街は崩壊の危機にあるのだな?」
「まぁそんなトコロだろう。何しろ山賊の増大に麻薬の密売。いずれ国の監査が入って事が明るみになれば、晴れて正式な犯罪領主。俺の首だけで事が済んでくれれば御の字なんだがな」
「それは難しいであろうな。何しろ敵を懐深くに抱えているのだ。いくらご子息が異を唱えたところで、あの女が得た信頼は絶大。たとえお主を女だと申しても女であると答えるやも知れんぞ?」
「はっは。違いねぇ。それよりもここまで来れたって事はあんたは強ぇんだろ? 頼みを聞いちゃくれないか? 報酬なら出す」
「引き受けるかどうかは内容次第。とりあえず話してみるとよい」
予想通り。依頼の内容は山道に深く根を張る山賊達の討伐であったが、そんな事は当然のごとく既に済ませているので、ここぞとばかりに謎の旅人が討伐したという事をその容姿をも含めて強調して話しておいた。それを俺と同一視したところでこの姿も別人なので美女探しの旅に一切影響を及ぼさないのがいい点だな。
「うぅむ……たった一晩でそれほどの事をやってのけるとは、それはとんでもない奴だな」
「全くだ。我も腕に覚えありだが、それほどの事をやってのけられるほどの力は持ち合わせておらぬよ。という訳で、我を雇わずとも問題の大部分は解決しておるよ。ではな」
ここでこいつらを救出するのは簡単だ。少し力を込めて鉄格子を押し広げれば簡単に大人1人が通り抜けられるくらいのスペースは作れるけども、そこから先を考えると血なまぐさい結末に居行き着くんで、そう言うのは俺が居なくなってからにして欲しいんでさっさと立ち去る。
「最後に独り言を……近いうちにこの山を越えた先の侯爵がこの街に寄る予定でな。出来れば彼女が去るまでは事件が起きないようになってくれる事を祈るばかりだ」
「そうだな。我もそうなるように神への祈りを捧げておこうではないか。供え物はこれでいいだろう」
最後に、くれてやっても構わないレベルのポーションをそれぞれの牢屋の中に過剰なほど投げ込んでやり、汚い花火跡の下に首のない死体を置いてエリクサーを一滴垂らしてから全力疾走で証拠隠滅を成功させた。
一通り情報は手に入れた感じだが、準男爵のあの口ぶりからすると伯爵はクロとみて間違いはないかも知れない。という事はやはりシュエイに向かうのは面倒事に巻き込まれるだけだからできれば向かいたくはないんだが……問題はどう説明するかだな。
あれでアニーもリリィさんも正義感は強いし、侯爵とアクセルさんに関してはこの国の人間ってのもあるし国に仕えるんだから、それに牙むく存在を野放しにするようには到底思えないんだよなぁ。そもそも道程が前倒ししまくってるんだから、そのくらいの事をしてもまだ余裕で間に合うって言いそうだ。
だからといって、理由も話さずに最短距離じゃない方向への進路変更なんて怪しさ爆発だからな。何かしらごまかすための嘘を作り出さないとなんない。どっちにしろ面倒だけど、まだこっちの方が面倒くさいという点においては軽い。
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「ただいま~。アニー達はまだ戻ってないのか?」
「主がお望みであれば連れ出してきましょうか?」
「侯爵の意向次第だな」
「私としては急ぐ旅ではないので構いませんよ」
結局いい考えが浮かばないまま戻る事になった訳だけども、待ち合わせ場所の宿屋にはアニーとリリィさんの姿はどこにも無かったので〈万能感知〉で確認してみると、まだ領主邸で騎士団長たちとの話が続いているみたいだ。一体何を話してんのかね。
丁度いいから今の内に済ませるか。
「……ところで侯爵さま。時間に余裕があるっていうのなら、ちょっと寄り道してもいいですかね?」
「寄り道ですか? 私としては構いませんが、一体どちらに向かうのですか?」
「こういうルートを取ろうかと思ってんですよ」
こんな事もあろうかと、ここに来るまでの道すがらの露店でクズレベルであったけど地図を購入。それを〈品質改竄〉と〈万物創造〉のいつものコンボで世界中を網羅した完璧な地図――はグー〇ルマップ搭載のスマホみたいになったんで、この世界の文化レベルを考えるとあからさまに怪しまれる事うけあいなんで、とりあえずはここから王都までの街が記されている程度の物を広げてシュエイを迂回したルートを指でなぞる。
「特別変わったルートという訳ではないですが、アスカ殿はどうしてこの道を?」
「さっき街を出た時に助けた美少女が教えてくれたんですけど、こっちのルートは今の時期になるととても景色が綺麗らしいんですよ。どうせ急ぐ旅でもないというのであれば、散々見飽きた草原より、そういった光景を横目に旅をするのもいいかなーなんて」
「そうなのですか? アクセル」
「ええ。確かにこの時期のそのルートは、一面の大地を色とりどりの花が咲き誇ってそれはそれは幻想的だと聞いております」
「それは見てみたいわ。ではそのようにルートを変更しましょう」
よし堕ちた。これで後はあの2人が帰ってくればすぐに出発できるように準備を進めておき、何か喋らせる隙を与えずにさっさと走り出してしまえばいい。




