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#98 異世界だろうと男って奴ぁ……

 さて。俺の提案にどんな反応を示すかねと思っていたら、真っ先にアニーが反論してきた。


「ちょっと待てや。それやったらあっちが獣人が暴れた言うて捏造する事も出来るん違うか?」


 まぁ……一番手っ取り早くかつ住民の納得できる落としどころはそれだろう。何しろ麻薬が使われているなんて知らなければ、獣人が突然に領主邸を襲撃したとしか見えないんだからな。種族関係の悪化を度外視するならそれが一番手っ取り早く納得させるのも容易い。


「それは愚策と言うモノであるな。我がここに来るまでに確認した限りでは、準男爵側は多くの兵を失っている。それらが精鋭かどうかは知らぬが、1から精強な兵を作るというのは存外難しく、また大金を投入せねばならぬ。武具は研ぎ直したり補修をすればすぐに使えるようになるが、人ではそうはゆかぬ。先ず騎士となるに適した者を集め、精神を鍛え。肉体を鍛え。学を与え。技術の修練を繰り返すだけでも数年はかかる。それがこの条件を飲むだけで元通りになるのであれば、おいそれと馬鹿な真似はせぬであろう。それをして兵が再び死体へと変わるかもしれぬと考えられぬほど愚かでなければであるが」


 こちらにはエリクサーという反則レベルの切り札があるんだ。その真偽を確かめずにそんな愚行に走るとは思えないが、俺の言葉に対して驚きをあらわにしたのは、その考えにいたってなかった言う確かな証拠であり、エリクサーという俺にとっては飲み水と何ら変わらないレベルにまで落ち込んだ物を正確に把握していないという事だ。

 まぁそれはアニー達も同様で、その言葉に僅かながら片眉を跳ね上げた程度で済んだのはよく頑張ったと言えるだろう。


「……まずはそちらの言葉が真実かどうかを確かめさせてもらいたいわね。死体が息を吹き返すような事があれば、たとえ数年で動かなくなっても新人の教育位の時間稼ぎにはなるもの」

「然り。我もさすがに死者を黄泉の国から引き戻すなどと言った戯言を真に受けるほど愚かではないからな。その証明はこの目で確としておきたい」


 凄い割り切り方だな。俺はエリクサーにそんな副作用がない事を知ってるからあえて脅しの意味も込めて言っただけなんだが、平然と言ってのけるか。騎士団長なんて地位に居る人間はモノの考え方が違うねぇ。


「ええで。ちょい待ってや」


 騎士団長であろう女性の言葉にうなずいたアニーは、耳に手を当ててパーティチャットを隣の俺に飛ばしてきたので、それを受け取る。


『あーあー。こちらウサン・クセーノやでしかし。どないしたんでっかなまんがな』

『その馬鹿にしたような口調は止めぇや。それよりも少しお願いがあるんやけど……今ええか?』

『別に大丈夫だぞ? ちょうど終わったところだから』

『何かあったんか?』

『ちょっと盗賊に襲われてな。勿体ないから魔物の餌として振る舞っていたところだ』


 冗談交じりの口調で答えてやると、隣のアニーが分かりやすいくらいに大きなため息をついた。

 その態度に、周囲の人間は何があったんだろうと首をかしげるが口をはさんでくる様子はない。ちなみにリリィさんはくすりと笑っただけだ。


『相変わらず男にはえげつないな。それよりもかなり大きなヘマをしてもうた。出来れば……その、エリクサーを使わしてもらいたいんやけど構へんやろうか』

『エリクサーねぇ……。別に構わないが、いつもは表に出したらアカン言ってたじゃないか。一体何に使うんだ? それと量はどのくらいだ?』


 俺の当然の返しに、アニーは若干言葉を詰まらせる。何しろエリクサーは条件付きではあるが死者蘇生すらやってのける。それは大量にあってはいけない存在だ。たとえ経験値稼ぎとして例の魔物に毎日ぶっかけているとしても、そうおいそれと使わせる訳にはいかない。日頃から自分でそう言っているんだ。個人的な理由じゃさすがにこっちも納得せん。どう説明するかね。

 自分で賄えるなら問題ないけど、そう簡単に使えないどころか手にも入らないんだ。唯一の方法である俺から譲って貰うには、納得させる明確な理由は必要だ。


『……実は人を殺してしもうた。罪人やないんでそれを生き返らせるためにどうしてもエリクサーが欲しいんや。それもそこそこの数やからどんくらいの数になるか分かれへん』

『随分と物騒な理由だな。確か麻薬の事をどうにかしようとしてたはずなのに、どんなことをしでかせばそんな未来にたどり着くんだ? しかもこんな短時間で』


 知ってはいるがきちんと説明してもらった。

 麻薬の事。

 領主邸襲撃の事。

 獣人の未来がかかっている事。

 全てを嘘偽りなくきちんと説明してくれたアニーにはかなり好感が持てる。いつもコテージのベッドに寝転がって漫画を読んだりしている姿からはとてもじゃないが想像できないな。


『なるほどな。そう言う理由があるならユニに持って行かせるから自由に使って構わんぞ。こっちはまだ少しかかりそうなんで勝手にやっててくれ』

『なにしとるんや?』

『いやぁ……可愛い女の子に助けたお礼にと食事に誘われてね。少し遅くなるから~』


 それを最後にパーティーチャットを一方的に切ると、アニーは顔を真っ赤にしながら握りしめた両手で机を殴りつけた。


「如何なされたのだ?」

「あんたには関係あらへん。とりあえずウチの知り合いの従魔がエリクサーを運んでくれる事に決まったんで、すぐに門前まで移動させてもろてええか?」

「エリクサーだと!? 貴様等……王都の宝物殿に侵入したのか!」

「アホ抜かせ。ダンジョンで発見したんや」


 ふむ。てっきりスキルの事を明かすのかと思っていたが、するっとダンジョンの話が出てきた。確かダンジョン都市のどっかで取れるんだったっけか。

 すぐに両者の目がこっちに向いたんで魔道具と称したヤジロベーを真実である方向へと傾けてやった。


「良いでしょう。ただし、向かうのは私と貴女だけ。他の連中はここで待機していてもらうわ」

「構へんけど、聖騎士はどないするんや?」

「我は少し領主に問いたい事がある故、いくつかの質疑応答の後にこの街を去るが問題あるまい?」

「……分かりました。くれぐれも愚かな真似はしない事をお勧めします」

「我は見聞を広める旅の最中である。無粋な真似をするつもりは毛頭ない」


 氷のように冷たい言葉に、こちらはいたって平然とした態度でそう返すと、忌々しそうに舌打ちをしてからアニーと共に部屋を出て行った。後は〈万能感知〉でいくつか邪魔になりそうなものを破壊すれば準備完了。これで多少は風通りがよくなっただろう。


「さて領主よ。そなたにはいくつか問いたい案件がある。『正直に』答えて貰いたい」

「なんだ」

「では1つ。貴殿は何者だ? 準男爵でない事は掴んでいる。あの女の目と耳がない今の内に答えてもらおうか」


 俺の質問に対し、準男爵本人は目を見開いて驚いたが、他の連中は騎士を含めて首をかしげたところを見ると、どうやらこの事を知っているのは非常に少ない様だ。

 最初は当然ながらその事実について否定していたが、その度に遮音の魔道具や隠蔽の魔道具なんかを展開させるなどの手を施すと意を決したのか、首に下がっていた魔道具に手をかけた。


「なっ!? あ、貴方は……ムリメ様!」

「こら一体どういう事や……」

「何者であるかな?」

「ぼくの名前はムリメ・カスダ。カスダ準男爵の息子です」

「フム……何故その息子が政をしている。父はご病気か? それとも……」

「それが……ある日突然居なくなってしまい、四方手を尽くしたのですがその手がかりすら掴めず……このままでは統治が立ち行かなくなってしまいますので、彼女の提案でこのような事をしております」

「死んだのではないのであるか?」

「ええ。父がそう簡単に死ぬような人間でないのは領民共々分かっていますので」


 なんでも、個々の領主は頻繁に街を抜け出しては魔物刈り取っているらしい。その実力は折り紙付きで、この辺りの魔物であればまず負けないとの事。


「ふむ……なれば質問2だ。あの女は何者であるか? 悪い言い方になるが、随分と我等の会話に出しゃばっていたように見えたのだが」


 俺の認識では、こういった会話の際に護衛の人間は余程の事でない限りは口を挟まないのが暗黙の了解って奴だと思う。それをああも堂々となんも悪びれる事無く口をはさんでくんのはちょっとどころかかなりおかしい。


「彼女は伯爵様の街からやって来たこの街の新たな騎士団長です。名前はリーディー・エヴラム……だったかな。とても優秀で至らないぼくに代って沢山の仕事をこなしてもらっています」


 これでこれからの道程は決まりだ。シュエイへは寄らないようにしよう。

 先程の俺の言葉に対し、〈万能感知〉が黒く染まっていたのは彼女であり、それが伯爵から寄越されたとなれば背後まで真っ黒な可能性がより濃くなったので、侯爵にはそれとなく理由を告げて別ルートを進む事を受け入れてもらうしかない。何しろすでにアニーとリリィさんはこの街で盛大な騒ぎを引き起こしただけでなく、伯爵子飼いの騎士団長にハッキリと顔を覚えられてしまっている。

 そこにエリクサーなんてトンデモアイテムを持っていると知られたことも付け加えれば、わざわざ敵の懐に飛び込む理由もないだろう。


「なるほど。では彼女がこの地に赴任してから何か変わった事はないか? 例えば特定の商人が頻繁に、それこそ判を押したように同じ時分に訪れるなど。己にとってはほんの些細な事でも、他の者にとっては値千金となりえる場合がある」


 これは何も準男爵に言っている訳じゃない。この場に居る全員に問いかけているんだ。俺みたいに1人で何百何千の動きを確認できるようなチートを持っている訳でもない。こういう情報を得るにはとにかく数がモノをいう。

 しばらく沈黙が訪れたが、ほどなくして衛兵の1人がおもむろに口を開いた。


「そう言えば……最近不思議な人物をよく見かけるようになったな」

「不思議な人物とな?」

「はい。特に決まった時間にという訳ではないんですが、いつもほとんど空の馬車を引いてやって来る女性商人が居るのです」

「ああ俺も知ってる。凄ぇ乳のデカい姉ちゃんだろ? 一度声をかけたけどやんわりと断れたっけか」

「それはお前が下心満載だったからじゃないのか? おれなんかは一回食事に連れて行ったぜ」

「それは先程獣人が言っていた女性か?」

「「「違う」」」


 なんか話がズレているような気がするが、衛兵全員が同じ女性を見かけて声をかけている。ブッシが情報を得たのが人種に対し、騎士連中が声をかけたのは龍族だとの事。そして会話をしたその中の約2割程度が食事ないし酒を飲んだりと、何かしら個人的に顔を合わせていたようだ。

 頻繁に足を運べば衛兵全員と顔見知りになる事もそう難しい事じゃないとは思うけど、だったらなんで個人的に会う人間と合わない人間が出て来るんだ? 言ってはなんだが2人きりで会ったという衛兵達の容姿はバラバラで、敵が多いが中には友人になれそうな奴もいる。


「フム。女性と1人で会った貴殿らに何か共通点はないのか?」

「共通点って言ってもなぁ……」

「そう言えば……また会いたいから時間を作ってくれと言われたかな」

「それ……おれも言われたなぁ」

「こっちも聞かれたぞ」


 ふぅむ。どうやら少しづつピースが集まり始めたみたいだ。

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