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#97 残酷な聖騎士の提案

「さて。まずは話し合いの場を設けさせてもらいたいのだが」

「この状況でよくそんな事が言えるわね。頭は大丈夫かしら?」

「至って正常である。貴殿等の怒りはもっともだが、こちら側にも麻薬をのさばらせていた不手際と言い分が存在している事を忘れてはならぬぞ。まずは腰を降ろすがよい」


 面倒なんで殺意を振りまく。それもこの場に居る全員が吐き気や恐怖で失神しかける程の濃密な一撃を。

 あまり女性にこういう真似はしたくはないが、会話が成立しないんであれば仕方ない。こっちはさっさと旅立つために、アニーやリリィさんに納得してもらうためにいろいろと事情を聴き出したいだけなんだからな。


「いいでしょう。そちらの要件を受け入れます」


 まぁ、既に戦力となる連中もほとんどいないんだからな。受け入れる以外に道はない。何しろ俺という圧倒的戦力の前に騎士団長一人程度ではどうにもならない。あっちもそう判断しての返答だろう。


「準男爵をここに」

「少し待ってなさい」


 という訳で準男爵の登場だ。裏で麻薬を売りさばいている人間にしては随分と気が弱そうだし、線も細いし何より顔色と目の下のクマが病弱さを強くしてる。こいつぁ頭脳労働タイプらしい。


「貴殿がカスダ準男爵であるか?」

「その通りだ。わしがこの地を治めてやっているモノスゴ・カスダである」


 意外だな。随分と気弱そうに見えるってのに態度だけはなかなかデカい。それに言葉遣いが見た目に似合わんほど尊大なのが妙な違和感を感じるし、変な反応も〈万能感知〉がキャッチしてる。

 少ない経験則で魔法っぽく見えなくもないが、どうもそれにしては少し反応に違うのでじっと見つめてみると、どうやら首にあるネックレスがその正体らしい。どうやらこれは、魔道具の反応らしい。多分だが身を護るためのモンだろう。あれが強気の正体か……。


「我はマジ・ツェーゾ。早速ぶしつけな質問をしてすまないが、貴殿は本物で間違いなのだな?」

「当たり前だろう。聖騎士如きが領主の顔も知らぬとはどういうことだ!」

「我は聖騎士の命を受けて間もない若輩者ゆえ申し訳ない」


 〈万能感知〉には何の反応もないし、ブッシ達に目を向けても間違いないとの頷きを得はしたんだけど、何故か〈万能感知〉からは嘘を示す黒の反応で目の前のもやし準男爵が染まっていく。

 話の流れ的にはこいつが準男爵じゃないって判断できるが、そこを突っ込むと時間がかかりそうだし取りあえずは様子見と行くかという事で右に傾けておく。

 その方法は〈身体強化〉をマックスにした状態で、目にも留まらぬ早業で触るだけの単純な仕掛けだが、この世界の人間に見破れるとは思ってない。その危険があるとしたらアニーの〈鑑定〉だろうけど、その辺の対策としてちゃんと〈偽装〉でそう言うモンだと言う事にしてあるので問題ナシ。


「真実であると理解した。なればこちらの嘆願を聞いてもらってもよいだろうか」

「特別に許可してやる。言ってみろ」


 ここで俺が麻薬の事をペラペラと喋り出すのは齟齬が生じるだろうから、ここから先はアニーやリリィさんに任せる事にする。俺は時折疑問に思ったものに対して質問をする程度でとどめておくとしよう。


「ウチはアニー言う商人や。今日ここの商人ギルドに足を運んだ際、ちょいとした事からそこに飾られとる龍断ち言う剣に傷をつけてもうたから買い取ったんやけど、それが剣に偽装された〈狂乱種〉の麻薬やったんよ」

「ほぉ……あの剣は見事な物だと思ってたけどそんな秘密が隠されていたとはね。確かその麻薬は大変に危険なために世界中で取り扱いが禁止されているものの1つだったかしら。この度の襲撃はそれが関係していると言う事を言いたいの?」

「そんな物がこの街のギルドに堂々と置かれていたのか。ならばこの件は王都の商業ギルド本部のグランドマスターに抗議してしっかり罰を与えるように文を出しておいてやる。感謝するんだな」

「何言っとるんや。あんたもその商売の片棒担いでんやろうが!」

「なんだと?」

「なんですって?」


 牙をむき出しにした怒りの表情で怒鳴りつけたアニーの態度に、準男爵と騎士団長であろう女性が同時に驚愕を露にした。その態度に〈万能感知〉は片方だけに嘘の判定を下した。つまりは知っているという事だ。

 こういうのがあると、とても白々しい物に見えるから不思議だ。まぁそんな疑問を口を挟む事無く続きに耳を傾ける。


「き、貴様……自分が何を言っているのか分かっているのか! 一介の商人如きが貴族を罪人扱いするなど不敬罪だ! 今すぐこいつを牢にぶち込め!!」


 準男爵のその発言で背後に居た騎士が武器に手をかけたが、俺が殺気を放つだけですぐに怯む。その隙に苛立ちを露わに机を殴りつけたのはブッシだ。


「知り合いの情報屋が教えてくれたんや。そいつが言うには、ワレが隠れて獣人の地位を落とす法律を通すためにワイ等を暴れさせ、民意を思い通りの方向に導くてなぁ! ワレこそ牢屋にぶち込まれて死罪にならなアカンやろうが!」


 その圧力に準男爵が若干怯んだものの、斜め後ろに立つ騎士団長は涼しい顔を崩さないまま口を開く。


「何を仰っているのか理解できませんね。この世のどこに準男爵が商業ギルドと手を組んで入手する事すら禁止されている〈狂乱種〉と関わっていたという証拠があるのですか?」

「そんなん情報屋が――」

「ではその人物をここに連れてきなさい。貴方の妄言が嘘ではないと言う確かな証拠を提示しなさい。でなければこの場に居る全員を不敬罪で即刻死罪とします」


 確かにそうだな。ここまでの話はすべて証拠がない。俺は〈万能感知〉で大体間違っちゃいないのを理解してはいるが、騎士団長の言う通り確たる証拠はない。

 何も知らないのであれば、いつも通り公務をしていたら突然獣人が屋敷に大挙として襲い掛かって来たとしか認識できないな。ここには商業ギルドのマスターもいなければ件の情報屋もいないんだ。てっきり異世界だからその程度の認識で何とかなるのかと思ってたけどやっぱダメらしい。


「こちらの罪状は窺った。なれば証拠を提示すれば問題ないのだな?」

「出来るものならどうぞ」

「ではこれを使用すれば事足りるであろう。真偽を白日の下へと晒す魔道具という触れ込みで購入した物なのだが、存外使える物ぞ?」


 俺の発言に対し、準男爵側は明らかに苦虫をかみつぶしたような表情に。

 その逆にアニー達側は、殺意を抑え込んでいい事を聞いたと言わんばかりの笑みを浮かべる。

 当然ながらそれを簡単に受け入れる程あちら側も易くない。


「その魔道具が本当に真偽を計れるのですか?」

「では実験を兼ねて簡単な問いをいくつかしよう。まずはそこの娘」

「ウチか?」

「うむ。必ず肯定するように。貴殿は女か?」

「馬鹿にすんなやあああああああ! 立派な女に決まってるやろうがあああああ!!」


 突拍子もない質問にアニーがブチ切れしながら連打連打。

 これには準男爵側からもお前馬鹿だろ的な冷たい視線が注がれたが、気にする事もなくヤジロベーが真実と判断して右へと傾く。


「次の質問は貴殿に」

「構わないわよ」

「必ず肯定するように。愛し合っている異性または同性がいるか?」

「……いるわ」


 当然のようにヤジロベーが否定の左に傾く。それを見た騎士団長が射殺せるんじゃないかってくらいに鋭く睨み付けて来るが、この場に居た全員がきっとそう言う所が居ない原因なんだろうなぁと理解しただろう。


「これでどちらに傾けば真偽であるのかを理解しであろう。早速始めよう。準男爵殿、貴殿は商業ギルドのマスターと手を組み、獣人迫害のために此度の騒動を引き起こしたか?」

「わしがそんな事をして何の得になると言うのだ馬鹿馬鹿しい」


 うん? おかしいな。てっきり嘘の反応が出るもんだとばっかり思っていたが、まさかの真実か。

 疑問は残るがあまりちんたらやっていると俺が操作してるってバレるかもしれんからな。右に傾ける。

 その瞬間。獣人達が目を見開いて驚いていたが、あちらの騎士団長も表情には出さなかったが内心ではかなり驚いていたのは一体どういう事だ?


「なるほど。準男爵は関わっていないらしい」

「信じられへん! ワイが聞いたのは準男爵は獣人を毛嫌いして人種の領域から追い出そうと〈狂乱種〉を買いあさっとると聞いとるんや!」

「フン。誰に入れ知恵されたか知らんが、獣人は肉体労働として役に立つ種族だ。それを追い出せば工事や外壁補修などの工期が遅れ、その分余計な金がかかる。迫害する必要性がない」


 準男爵側が多少口が悪いけど、どちらの発言にも嘘がない。人間の力でいくらクズで役立たずとはいえ神の力に抗うのは無理だろうと考えると、どちらかが騙されている――この場合はブッシがと考えるしかない。


「さて……準男爵がシロと出た以上、怪しいのはその情報屋となる訳だが風貌は憶えているかな」

「人種の女や。黒い髪でドワーフみたいにちっこい奴や」

「どこに行けばよいのかな」

「今行っても会えへん。そいつはひと月に一度程度の間隔で知り合いの酒場にやってくるから、次にくんのは20日以上先や」

「では後の事はそちらに任せよう」

「ええ。全力で事にあたらせてもらうわ」


 とりあえずこんな所か。両者共に血生臭い結果となり、人種と獣人種に大きな溝を作る結果となってしまったが、俺には関係のない事だ。

 2人も正気に戻り、とりあえずの解決を導いた以上はここに留まっているとこの時間にどこに居たんだってなりそうだから、すぐにでも帰ってユニ達と口裏を合わせておきたい。


「では……これにて一件落着で良いな?」

「何を馬鹿な事を! 既に死者が多数出ているのよ? そんな事をした獣人に対して無罪放免なんて判決を出したらそれこそこの街は悪の巣窟になるわ!」


 確かに。人殺しをしておいて無罪にしたなんて話が広がれば、世界中の犯罪者たちがこのネブカに押し寄せて来るだろう。目的はもちろん犯罪行為の無罪化。

 普通に考えればそんな条件はとてもじゃないが飲めないし、飲ませられるとも思わない。事実ブッシ達ですら、おいおいこいつ何言っちゃってんの? みたいな怪訝な表情を俺に向けている。


「然り。だが我が出来るのはここまでだ。いかな聖騎士であっても死者をどうにかできる力など存在せぬ。ここから先は貴殿等の誰かが責任を取るしかあるまい? 全員というのは労働力の観点から見ても愚策との言質を得ている以上、代表数名の首を差し出すのが道理であろう」


 俺は誰が悪いのかをつまびらかにしただけだ。これで第三者が悪意を持って獣人と人間を争わせようとしていた事が両者の間での共通認識が出来上がった訳なので、後は互いに落としどころを探るしかない。

 とは言っても、死者に対する謝罪と言うのは難しいだろう。普通ならな。

 俺の言葉に対し、誰がこの責任を――つまりは首を差し出すのかという結論に対し、アニーとリリィさんが不敵な笑みを浮かべた。


「なぁ、死者がゼロになったらこいつ等ん罪はゼロにしてもらわれへんやろうか」

「気は確かかしら? 死んだ人が生き返るなんて不可能に決まってるじゃない。それこそ初代法王が使えたと言われている〈死者蘇生(レイズデッド)〉かエリクサーぐらいでしかありえないわ」

「それが出来る言うたらどうする? もちろん他言無用とさせてもらうで」

「……いいだろう。本当に死んだ騎士が生き返ったんだとしたら、獣人共の罪をなかった事にしてやろうではないか」


 アニーの提案に対し、準男爵が少し悩んだが提案を受け入れた。

 その事に対して騎士団長であろう女性はかなり驚いている様子であったが、口を挟むような真似はしなかった。

 しかし。このままでは完全にもみ消すと言うのも無理のある話だ。ここは一肌脱いでやるか。


「それならば、此度の騒ぎは訓練の一環とすればよいのではないか?」

「訓練の一環?」

「然り。身体能力の優れる獣人達を暴漢共と仮定した本格的な訓練と銘打っておけば、強引にもみ消すより住民達に悪印象を抱かせぬと我は愚行するがいかがかな?」

「なるほど。貴様の提案の方が強引にもみ消すより住民への悪印象も少なかろうがそれを受け入れぬ者共が居たらどうするつもりだ?」

「それこそ死罪でもなんでも好きにするといいではないか。死から引き揚げてもらっておきながら、街に要らぬ禍根を生み出すような者達など必要あるまい?」


 更に付け加えるのであれば、対象は本人ではなくその親類――特に妻や子供などを処刑台に立たせて断罪するのが効果的であろう。悪人だって誰だって自分の肉親は可愛いと思っている可能性が高いからな。

 まぁ……聖騎士としてこの場に居る俺がそんな事を言えば、獣人からも準男爵側からも汚物を見るような目で見られるのは確実だろうから詳しく説明はしなかったが、随分と聡い連中が居るようで、何人かが俺を本当に聖騎士か? みたいな目を向けてきたが無視した。

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