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#1 神の土下座

つたない文章に注意。温かい目で見てもらえると幸いです。


「喜ぶがよいぞ飛鳥恭弥。有象無象にしか過ぎない人間ごときヌシは、全知全能の創造神であるこのワシの眼鏡に適い、異世界へ転生する権利を手に入れたのじゃ。泣いて喜ぶがよいぞ。というか泣いて喜べ」


 一体いつの間に現れたのか。目の前でふんぞり返ってやがるのは、腹が立つほど尊大な口調をしながら胸を反らし、青い髪にサファイアの双眸半眼で胡坐をかく俺を見下ろし、全く似合ってない長い口髭に飯粒とソースをつけて淡々と飯を喰らうモモヒキ腹巻(ラクダ色)姿の10歳くらいのクソガキ。それが自分を創造神とか宣い、おっさんであるこの俺に泣いて喜べとか言いやがる。

 大人っぽい格好と言動をしたい年ごろなんだろうけど、明らかに方向性を間違ってんな。一体誰を参考にしたのか知らんけど、似合ってない事すら分からないとは……確実に黒歴史決定コースだ。


「おい人間。創造神であるこのワシが下々である貴様に直々に声をかけているのだぞ。一言一句漏らさず聞いておるのか!」

「聞いてる聞いてる。神(笑)がキモデブオタクのおっさんである俺に何の用があんだ?」


 とりあえず座ってるって事は、ここに地面があるんだろう。

 真っ白な空間に、畳を四枚敷いて神を名乗ったガキが座ってるからその辺りは理解できるけど、これが無かったら天井も床も境目がない真っ白な空間って異様な光景に奇妙な感覚になりそうで結構危ないから助かるな。


「まずはこの中から紙を引いてからじゃ」


 どうやら俺の質問をはぐらかすつもりらしい。まぁ、怪しさしか感じられない誘いだが、引けというのであれば引いてやるか。きっとそうしないとこの状況がいつまで経っても好転しそうにないし、こんな辛気臭いとこにいつまでも居たくねぇってのもあっからな。


「まぁ……いいか」


 仕方なくちゃぶ台の上に置かれた唐草模様の箱に手を突っ込んでそれを2枚取り、出されたお茶をすすりながら開いてみると、中には255と数字が書かれてる以外は何も書いてない。一体何がしたいのか分からん。

 たとえ夢だったとしても、なんちゅう夢を見てんだろうな。神とか言われても、俺はそう言った信者を集めるための作った与太話の類は一切信用していないのに……。


「数字はなんじゃ?」

「ん? 255だ。こりゃ一体なんなんだ」


 食べ終わった食器を片付けながら尋ねられたのが腹が立つが、俺が数字を伝えた途端にビックリしたのか。手を滑らせて皿を落とした訳だけど、それが畳をすり抜けて何の音もたてずにぐんぐんと小さくなっていくのを目の当たりにして、一体どうやって浮いてんだろうと畳を少しの間眺めていると、よっぽど信じられなかったんだろうな。わざわざ奪い取ってまで数字の確認をしやがった。


「ううむ……有象無象の人間にしては内包エネルギーが多いから大きな数字が出るとは思っておったが、まさかここまでとは思いもせんかったわい。さすがワシが選んだだけの事はあるわ。グフフ……これで奴等に一泡吹かせる事が出来るじゃろう」

「その数字が一体何なんだってんだよ。引いてやったんだからさっさと答えろ」

「これは貴様が異世界で暮らすために必要な、いわゆるチートを手に入れるためのポイントじゃ。これは歴代でも最高の数値。さすが儂の目に留まっただけの事はあるわい。褒めてやろうではないか」


 どうやら俺は逸材だったらしい。しかし、自分で言うのもなんだが俺はちゃんと仕事はしていたけど引きこもりでここ何年も家から出てないし、飯も出前で日用品はアマゾ〇なんかで簡単に手に入る時代だから何の不自由もなく暮らしていたおかげと言うかせいというか、現在の体重は100キロを超えてる。


「で? 俺が逸材なのは分かったが結局何をさせたいんだ?」


 結局そこに行きつく。

 箱から紙を引かされたり。逸材だと褒められたりとのらりくらりと論点をずらされたが、要点については全くと言っていいほど触れられていない。さすがにこれ以上はぐらかすつもりなら手が出るな。


「そんなの異世界への転生に決まっとろうが。最初にそう言ってやったじゃろ。これだから人間というのは面倒臭いわい。偉大なる創造神であるこのワシに選ばれたのじゃから、もう少しくらいは頭の回る男だと思っておったが、そこに関しては期待ハズレじゃな」


 やれやれと言った感じで首を振りながら肩をすくめる姿が何ともムカつくが、確かにそんな事を言っていた記憶がある。それにしても異世界か……ますますもって夢じゃなくて漫画やラノベのテンプレみたいな展開になって来たな。

 確かに異世界転生なんて憧れるシチュエーションの1つたけど、それはあくまで学生時代の話。今は30代ギリギリ前半のおっさんがそんなセリフを聞いてひゃっほいと喜ぶのは、厨二病をこじらせた大人になり切れていない大きな魔法使い予備軍だけだろうな。もちろん俺は、イチモツを含めて大人だからそう言った連中と比べてそこまでテンションは上がらないが、神を名乗るこのガキの言葉が少し引っかかる。


「転生って事は……俺は死んだって事なのか?」


 転移であれば特に引っかかる事はなった。しかし転生となると話は別だ。

 そう言えば、こんな状況になる前の記憶が曖昧だ。何とか思い出せるのは、動画投稿サイトのマイ〇ラ動画を見ながらいつもみたいにピザを食ってた事。そっから先の記憶があったりなかったりでどうも曖昧だが、恐らくはそういう事なんだろう。


「その通り。ヌシは元の世界でついさっき死んだのじゃよ。食い物を喉に詰まらせてのぉ」


 ある意味衝撃的すぎる死因だ。年寄りでもないなのに詰まらせるってどんだけ詰め込み食いをしてたんだよ俺……。

 あれだけ不健康に暮らしておきながら、大した病気にもならずに平々凡々と過ごしていたのにまさか過ぎる結末だな。きっと死体を発見した奴は食い意地張りすぎて草。とか言って笑われるだろうな。


「……よし。死んだのは受け入れるとして、お前はこんな俺を異世界に転生させて何をしろってんだ? 言っとくが運動はからっきしだぞ?」

「随分とあっさりしとるのぉ。今までの連中はもっと暴れたり喜びで発狂したりしとったもんじゃぞ?」


 なんか妙にガッカリしたような物の言い方をしながらそっと金属バットを背中に隠した。きっと言葉通りに暴れたり喜びに泣き叫んだりしてたらあれで問答無用で黙らせられるところだったんだろうが、そうは問屋が卸さない。おっさんの冷静さを甘く見ちゃいかんよ。

 もちろんそう簡単に割り切れる程に心の整理がまだ付いていないけど、そんな事をしたって無駄なのは何となくだけど分かる。なんたって夢じゃないんだからな。

 それに……死因がもの凄く情けないから、死んで悲しいってより死因がそれで恥ずかしいって感情が勝ってるっていうのもそれを助けてくれてた。

 とにかく俺は死んだ。自覚はないけどこんなヘンテコ空間で神を自称するガキがいるんだからな。だったらこのタイミングで遊びで付き合うって意識から真面目な方向にシフトチェンジしますかね。


「大人だからな。それよりさっさとこっちの質問に答えろ」


 何度か本題を話すように促してるはずなんだが、この馬鹿は一向にスタートラインに立つ気配がないのがこの上なく腹が立って仕方がない。このままコイツに付き合ってるといつか本気で殴っちまいそうになるが、とりあえず我慢我慢。


「それはな……」


 何故ミリオ〇アのみ〇もんたばりに間を置く。何を勿体ぶってるの知らんけど、ここから万が一にも口でドラムロールでもしようものなら容赦なくその頭に拳骨を叩き落としてやろうと決めていたけど、それは別の意味で必要になった。


「特に決まっておらん!」


 ハイ。断罪決定。俺はどこかから聞こえてくるかもしれない児童虐待の声なんか知った事かと内心で怒鳴り声を上げながら立ち上がって、拳骨ではなく背中を見せるほど振りかぶってからのナックルアローをクソガキのその顔面に叩き込んでやったけど、まぁこの身体だ。脳内シミュレーション通りにいかずに3メートルくらいしか吹っ飛ばなかった。

 まぁ、それでもこいつをぶん殴れたことに関しては随分なストレス解消になったな。


「ふぅ。スッキリした」

「ぬぅおおおおお……たかが人間のくせに神に向かって手を上げるとは何事じゃ!!」

「俺は無神論者だから神だの悪魔だのってのは一切信じねぇんだわ。だからその願いも受けねぇし」

「何故じゃ!? ヌシは二度目の人生を異世界で過ごしたいと思わんのか!」

「微塵も思わないな。だからさっさと天国に連れてけ」


 転生を希望してる前提で話を進められても困るんだよなぁ。

 俺としては飛鳥恭弥の人生はそこそこ楽しんだから未練なんて大してないし、異世界に復活させてやるって言われてもパソコンもアマゾ〇もない世界なんて面倒臭すぎる事この上ない所で生きていける自信がない。

 そもそも。今は異世界への転生より草木になって日がな一日光合成でもして、全身で風を感じながら一生を終える方がよっぽど魅力的だ。時間に追われずのんびりゆったりと時の流れに身を任せ……想像するだけで心安らぐな。


「確かに貴様は天国行きらしいが断るっ! 転生すると言わん限りここに居てもらうぞい」

「分かった。ならばその首を縦に振るまで、R-18も真っ青な拷問を続けるとするか」


 殴れるって事は触れるって事だ。こちとらデブだけど34の大人で、神は10程度のガキ。まぁまぁ筋肉はあるから子供に負けはしないだろう。

 まずは憎しみしか感じない綺麗な顔をタコ殴りにして。

 それから指を一本一本へし折っていって、それでも駄目なら生爪を剥いでからそこに塩を擦り込む。

 これも耐えるとなると、最近知った絶対に耐えられない拷問っていうのを試してみるのもいいかもしれない。シンプルだけど滅茶苦茶キツイように見えたが、仮にも神を名乗ってるんだ。本当に死にはしないだろう。

 そんな考えが顔に出ていたようで、神を名乗るガキが伸身に捻りを加えたバク宙からの土下座なんてウルトラCを披露してくれた。


「ごめんなさい。ちゃんと説明するから殺さないで下さい」


 それはそれはもう綺麗な土下座だった。俺が土下座名人だったなら、土下座七段くらいなら与えてしまうかもしれない。もちろんそんな段位は存在しないのであしからず。

 しかし困ったな。これほどまでに綺麗な土下座を見せてもらったとあっては無碍に断るのも悪いと思えてくるから不思議だから土下座って不思議だ。別に急いでる訳じゃないし、おひねり代わりとして話くらいは聞いてやるとしよう。


「なら理由を聞いてやるから手短に理由を話せ。痛い目に合いたくないだろう?」


 そう告げて再び座布団に腰を下ろしてやると、土下座をしていた自称・神は年相応の子供みたいにぱっと明るい笑顔を浮かべながら、どこからともなく現れた戸棚からお菓子を差し出し、そして俺の対面に腰を下ろすとようやく話が始まった。

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