case:5 【×三女の場合】Act.1
方程式、三女編突入です。
よろしくお願いします。
起床の時間を告げる目覚まし時計のベルがなる。
のそっと布団の中から重たい頭を起こしかしましいベルを止める。
悔しいかな昨日とは寝覚めが雲泥の差である。
ただ昨日はきちんとスマホの充電をしてから布団に入ったのでよっちゃんとの連絡にぬかりは無い。
ふむ、今日も朝錬は無い様で登校しようとの事である。
自室でできる準備はもちろん昨夜のうちに済ませているためささっと制服を身にまとい居間へ降りることに。
いやしかし、昨日は姉のたくらみのせいもあって食卓には私とお母さん、後は後から来た妹しか居なかったから良かったが、もう素手に姉のたくらみは終わりを告げ(私の学校生活も半ば終わりを告げているが)今日からは別段急ぐ必要がなくなっている。
ということは、だ。
「は、はあぁああ!?おまっ、お前がお姉様とボクと同じ学校の教師だって!?何で黙ってたんだ!!」
「ふんっ、あんたに言ってやる必要は無いわね!それよりあんたは早く登校したらぁ?京ちゃんは私が責任もってエスコートしますから!!」
朝っぱらから騒がしいわけで
「・・・おはよう、お母さん・・・」
「あらぁおはよ~、京ちゃん今日は元気ないわねぇ大丈夫?」
夜の喧騒はご近所迷惑と怒ることもあるお母さんだが朝は基本この通りのんびりとしたものである。
どうやったらこの人からあんな二人が生まれるのか・・・
「あ、お、お姉様おはようございますっ、今日からはボクも登校なのでご一緒に行きましょうねっ」
まるで犬、飼い主を見つけたとたんすりよってお腹をなでろと主張してくるタイプ。
「はぁ?京ちゃんはお姉ちゃんと登校するんですぅ~末っ子は黙って一人寂しく歩いてろっての。ね京ちゃん」
そしてかしましく相手を煽って美味しいところだけを持っていこうとする、猿みたいなタイプ。
実に言葉通りの犬猿の仲である。
「二人は朝食は?」
「食べたわよぉ~京ちゃん今日はコーヒー?牛乳~?」
二人を無視した私の質問にお母さんが答えてくれる。
もちろん私の横ではいまだ口論を繰り広げている犬と猿がいるからなのだが。
「コーヒーで、今日はうんと濃いめでおねがいします」
「はいは~い」
出された朝食をかじり濃いコーヒーを一口。
うん、目が覚めた今日も何とか頑張れそうである。否、頑張らないとなぁ。
朝食を軽く腹に納める。
未だに私とどちらが一緒に登校するかでもめている姉と妹。
私が食事に費やした時間は10分程度だがその間ずっと言い争いが続いていたことも我が姉妹ながらとは思うが、もっと驚きなのは言い争いが長く続けば多少論点に違いが出てくるものだろうが一切論点が変わっていないのだ。流石だ(褒め言葉では無い)。
だが、言い争いに集中しすぎて私自身にまで目が来ていないように感じられた。
苦いコーヒーのおかげか今日はなんだか頭がさえている気がする。
そうこのまま何食わぬ顔で登校してしまおう。
よっちゃんとの約束もあることだしね。
「お母さん私このまま行くね」
「はいは~い」
二人に決着がつかない状態であまり大きい声で言うとこちらにまで飛び火する恐れがあるため、お母さんにだけ聞こえるように挨拶をして、しかし居間を出る時はあえて堂々と出て行く。
作戦は成功である、玄関で靴を履いている間も居間では二人のやかましい声が聞こえてくる。
内心ではしめしめと扉を開けようとしたとき”それ”は起こった。
「けーいーちゃーん!はーあーいー!!」
まったく見識の無い声が家の前から響き渡った。
玄関ドアの覗き窓から外を見てみる。どこか宝月弥生さんに似ている気がするが私はあんな人知らない。
というか私によっちゃんとか言う幼馴染なんか居ない。ことにしたい。
なんて現実逃避していると居間からどたばたと足音。
そしてそんな状況にも関わらず未だに私がボクがと頭を突き合わせていた。
しかしこうなっては皆で登校、というのはあまりうなずかないだろうし、うるさいから一緒したくない。
うん、こうなったら、よっちゃんには責任を取ってもらおう。
「朝からやかましいよよっちゃん」
「お、おはよー今日は充電ばっちりか!!」
「ちょっとあんた邪魔なんだけど!!っていうか何で弥生先輩が!?」
「お前のほうが邪魔ですぅぅうう!?ってそうだったよっちゃんもいるんだった!!」
「お、おはっす~み、皆さんお揃いでぇ・・・ってさっちんその制服・・・」
何にも知らないよっちゃんに一言挨拶を告げる。
どうせこの幼馴染は昨日ト○ロでも見たのだろう、そういった軽率な行動を何度もしてくるのは昔からの馴染み。今更どうのこうの言ったところでどうにもならない。
であるならば、もういっそよっちゃんも巻き込んでしまえ、である。
と、そういえばだがよっちゃんと妹の幸は中学時代の先輩後輩の間柄にもかかわらずどこに進学した、とか聞いていなかったのか。いや妹のことだ私にどうドッキリを仕掛けるかでいっぱいいっぱいで頭から抜けていたのだろう。
「というか何で弥生先輩がお姉さまと一緒に登校しているんですか!?朝錬とかは!?はっまさか・・・」
「そりゃあ同じクラスになれば時間が合えば登校ぐらいするよ、今は朝錬が無いだけ」
妹の矛先が姉からよっちゃんへとシフトする。
「京ちゃん、アレは長くなるわ今のうちにお姉ちゃんと行きましょ?」
と姉の魔手が伸びる。
まぁ私としては静かに登校できれば他に言うことは無いのだが。
「ちょ、ちょい智ちゃんさん私はきちんと約束したんだからこっち優先ですよね!?」
でもなぜかこうなると妹の幸ではなくよっちゃんが口を出し始める。
とにかく常識外れとかには寛容なのだが約束ごとには厳しいところもあるのがよっちゃんの不思議なところでもある。
「それはそいつに言ってくれるかしら?私は京ちゃんと登校できればいいだけ、そこの駄妹が二人きりになりたいとかほざいているだけなんだから」
「はぁ、私は別にお前と行きたく無いだけで弥生先輩がいる分には問題ないんですがぁ?ということでゴートゥースクールスーン!!」
妹のその一言でよっちゃんは『ああ、いつものかぁ』と私がわざと巻き込んだことを理解し、恨めしそうな顔をわざわざ作って近づいてくる。
「さっちんも、学校同じなんだね・・・こりゃ楽しく、あ失礼。うるさくなりそうだね」
何も言い直さなくても正直に言ってしまえばいい。
「うん、正直朝から憂鬱。あれはほっといて私らは行こ」
いまだ続いている姉妹喧嘩にほとほと嫌気がさして、え、いいの?と言う風なよっちゃんすらも無視して歩を進める。
きちんとよっちゃんがついてきている事は真横にいるからわかるが、今のところあの二人がついてきている気配は無い。
これからの朝が毎回こうならないためにも何か対策を考えておかねばいずれ私は不登校になってしまうな。
いや、それもそれでうるさいのか。前途多難である。
登校、朝の大激務を終え(あさのホームルームでは姉の泣き言を利く羽目になったが)今は入学式中。
授業も現代国語、姉の声も今は遠き果てに追いやり耳に入ることはない。
静かな授業。
実に心が和み、昨日からの頭痛も嘘のように消えうせ安寧のひと時を味あわせてくれている。
この瞬間がいつまでも続くことを願って。
『京ちゃぁあんっ!!授業を受ける姿も可愛いっ、あ、教頭先生いまいいところぉぁぁあああっ』
後方のドアから覗いていた変質者は教頭先生によって捕まったらしい一安心である。
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