case:2 【×長女の場合】Act.1
ピピピ カチッ!
さて、今日から新学期である。
体調も絶好調、寝起きもさっぱりで目覚まし時計もすぐに止めれた。
ただ不覚だったのが昨日の騒動のせいでスマホの充電を忘れてしまい、現在電源が切れてしまっていると言うことだけだ。
まあ普段からあんまりつかわないから問題は無いのだが。
私は前日から準備は済ませているので身だしなみを調え制服を身にまとい自室をでて居間に向かう。
「あ、京ちゃんおはよぉ~」
「おはようお母さん、姉と妹は?」
「ん~?智ちゃんはぁお仕事で~幸ちゃんはぁまだお部屋みたいよ~」
いつものんびりとした雰囲気のお母さん、専業主婦で家の事はだいたいいつもお母さんがしてくれている。
朝ごはんもお弁当もお母さんが用意してくれているから実質家で一番の力の持ち主、まさに縁の下の何とやらと言うやつだ。
「姉は最近ずっと早いね、赴任先の学校も教えてくれないし。嫌な予感しかしないけど」
「そぉうね~けど京ちゃんだって毎朝学校でもないのに早かったじゃない~はいこれ~、今日は何にする~?」
「今日はコーヒーでおねがい」
「は~い」
我が家は朝は基本トーストなのだが飲み物はコーヒー・牛乳・オレンジジュースから選べる仕様になっている。
お母さんが出してくれたトーストを一口かじりながら姉の思惑を少しばかり予想してみる。
どうせ赴任先を言わないのは私の通っている学校に赴任して驚かしたい。とかそんなんだろうと思う。
妹もそんな感じだし。
ただ、我が姉はそれだけでは終わらない。
私が姉と同じ中学に上がったときはわざわざ学校まで来て次女自慢とかを始めたぐらいだ。
高校にあがった時はあらかじめ釘を刺しておいたし、研修とかが忙しくてそれどころではなかったのだろう、学校まで来ることはなかったが。
ただ、もし本当に姉の赴任先が私の高校だったら正直何が起こるか予想ができないのが姉の恐るべきはた迷惑な思考回路と行動力なのである。
「あ、幸ちゃんおはよ~、幸ちゃんは牛乳~?」
と考えているうちに、丁度お母さんがコーヒーを入れてくれたところで妹が起きてきたようだ。
「ええ、おはようございますお母さんとお姉様」
「ん、おはよう妹よ」
私はお母さんのいえれてくれたコーヒーをブラックで一口すすり、妹の挨拶を返しては妹を見ることなくテーブルの上の新聞を手に取った。
「・・・。・・・・・・お、おはようございますお姉様!!」
「ん、おはよう妹よ・・・お母さんまた物価が上がるらしいね」
「そうね~でもお父さんもがんばってるからまだ大丈夫よ~はい、幸ちゃんは牛乳ね〜」
再度妹が強調して私に挨拶をしてくる。
だが私は甘くない。何度挨拶されようとただただ返事するだけなのだ。
なんと、物価高騰の裏には地球温暖化による潮の流れや天候の変化が今年度は顕著に現れているらしい。
お母さんも特に何も言うことなく妹の分のトーストと牛乳を食卓に並べていた。
「~~~~~っ、お姉様、ボクを見て!!」
と、何の反応も無い私を見てとうとう妹は強行手段に打って出た。
まぁ、そういわれてしまっては見ないわけにもいかない。
仕方なく新聞を置き妹に視線を向けた。
すると妹は(無い)胸をそらしドヤ顔全開でその身に纏っている服を自慢げに誇張していた。
「なんだ妹よ、似合っているじゃないか」
「えっ、そうですか!?えへへ、お姉様にほめられ・・・って違います、いえ違わないんですが今はそれが欲しい訳ではなくもっとこう、『えっ同じ高校なの!?』とかっ『何で教えてくれなかったの!?』とか驚きが欲しいんですよ!!」
そう、妹が着ている服は私と同じ高校の制服なのだ。
私の高校の入学式は明日なのでいささか気が早い気もするが妹の性格上我慢できずわざわざ見せに着てきたのだろう。
だが
「いや、知ってるし。事前登校の日に着てたじゃん。」
私は知っていた。
うまく見られないよう登校していたようだが、帰ってきたときに制服姿の妹を見ていたのだ。
だからまったく驚きは無い。
「っな!!??そ、そんな、ボクの計画が・・・一体どこで!?~~~はっ、ならお姉様もっと褒めて!!」
「んじゃ、お母さんいってきます」
「は~い、気をつけてね~」
朝食を終えた私は残っていたコーヒーを飲み干し何かわめいている妹をそのままに居間を後にしたのだった。
通学路、特に何事も無く私は学校へと到着した。
誰かと一緒に登校する、と言う事が無い私は一人クラス割り表の前に静かに佇んでいた。
「ふむ、今年は二組か・・・」
さて自分のクラスもわかった事だしさっさと教室にでもいって読書でも
「ちょ、ちょちょいちょいちょいっ、京ちゃん何しれっと学校まで来てるの!?私めちゃ待ったんだけど!思わず京ちゃんママに聞いちゃったじゃん!!」
と思ったら校門の方から一人、私の友人が走ってきた。
「ん?なんの話?」
「はえ?今朝メッセ送ったじゃん」
・・・なるほど
「ごめん昨日スマホの充電忘れて電源切れてた」
彼女は私の幼馴染で去年同じクラスの宝月弥生通称よっちゃん。
家族ぐるみの付き合いで彼女とは昔から一緒に登校しており今では彼女が所属している陸上部の朝錬が無い時は一緒に登校しているような仲である。
「ちょいともうさぁ、いい加減生活の中にスマホを埋め込む勢いで使い込もうよ京ちゃんはさあ、まったく」
とかいちいちぐちぐちいいながらも許してくれるのがこの幼馴染のいいところでもある。
「ところで京ちゃんは何組だった?」
「二組、よっちゃんのは見てないやごめん」
いやいいよいいよ、と軽い調子でクラス表を見に行ったよっちゃんはすぐに戻ってきた。
しかも満面の笑みで。
「いっえ~い、京ちゃんとまた同じクラスでした~」
戻ってくるときの表情からそうであろう事はわかったが、それにしても同じクラスとはよっちゃんとは苗字が藤間と宝月で出席番号は近いというのに。
まぁクラス表でも自分のクラスだけ確認するとなるとあんまり他の人のことまでは目がいかないから仕方ない、と自分自身に言い訳してみる。
「よかったね、おめでと」
正直私としてもクラスに知り合いがいるというのもうれしい事なのだがそれを素直によっちゃんに伝えようものならば途端に調子に乗り始めるので言ってやりはしないが
「そいえばさー、先輩達が噂してたんだけど定年退職した久川先生の代わりの数学の先生、若くて美人だそうのなんだけどさ・・・智ちゃんさんだったりする?」
教室へ向かう途中思い出したかのようによっちゃんが部活動で出たであろう噂話を口に出す。
普段であれば適当に相槌でも打っておく所なのだが、如何せん今回は話が話だけに無視出来なかった。
ちなみに智ちゃんさんとは家の姉の藤間智のことである。
「いや、そういった話は特に聞いてないけど・・・でも赴任先は決まったとは言ってた」
何かと対立する姉妹ではあるが私の下も上も私を驚かすことが好きなのは唯一の共通点ではある。
だが妹とは違い姉の方は限度というものが人よりいい加減に過ぎるところがある。
今回の噂に関しても私の思い違いだといいのだけれども姉が赴任先を言わない、ということがあるだけにひしひしととてつもない不安を感じてしまう。
仮に新任の教師が姉だとして妹の様にただ驚きが欲しい、と言うだけならまだいいがそれ以上の事をする可能性もある。
正直ただの噂程度であって欲しい。
「え、それ過去の智ちゃんさんからしたらもはや確定じゃね?」
「・・・いや、言わないで。まだ決まった訳じゃないし」
幼馴染の言葉に朝から私は頭を抱えそうになる。
うん、今日はもう帰りたい。そう思った休み明けである。