5話 変わる妹
日野立萌山18歳。
オレの妹だ。
口うるさくオレのやることなすことにいちいち首を突っ込んでくるやかましいやつ。
小さい頃は泣き虫で、近所の悪ガキによくイジメられて泣いていた。
萌山の泣き声が聞こえると、オレはすぐに駆けつけて行って悪ガキ共を蹴散らした。別に正義の味方を目指していたわけではないが、兄として妹を守るのは当然だと思っていたからだ。
そんな、いつも守っていた妹が、とんでもない化物を前にオレを守るように立ちはだかっていた。
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「バ、、、萌山!逃げろっっ!!」
オレはそう叫んだ。
つもりだったが声が全く出ない。
動け!叫べ!妹を逃がせ!
頭の中では警報が鳴りっぱなしだ。
だが、19年間連れ添ったオレの体は一向に言うことを聞いてくれなかった。。。
そして、金狼が震え始めた。
「くっくっくっくっ、、、、、」
ヤバいっ!完全に怒らせた!!
「あーっはっはっは!!」
いや、完全に笑っている。
「こんな人間の小娘が、私を前に意識も失わずよくもまぁ。。。くっくっく、、、」
金狼が声を出して笑い下を向いた瞬間、オレと金狼の目の前を炎の柱が横切った。
オレの前に立っていたはずの萌山の姿が、ない。
「はははははぁっ!手に入れた、手にいれましたわぁぁぁっ!!!!」
声のする方を見ると、萌山が横たわり炎に包まれている。オレはたまらず声をあげた。
「も、、、萌山っ。。。モヤぁぁーっっっ!」
「くっ、、、アホ鳥め、油断しましたねぇ。。。」
メラメラと燃え盛る萌山。
「た、、たす、、、妹を。。。萌山を、助けてくれぇっ!!」
オレは恐怖も忘れ、金狼の足にしがみついた。
『スキル:恐怖耐性〈序〉を習得しました』
ウルサイッ!!!
そんなことはどうでもいい。
萌山が、妹が、、、死ぬっ!!
「落ち着きなさい人間。。。あれをご覧なさいなぁ」
金狼の言葉に萌山の方へ振り返る。
すると、燃え盛る炎の中萌山がゆっくりと立ち上がった。そして、こちらを向く。
「。。。ふむ、少し動きにくいですわこの身体」
「!?萌山の声じゃ、、、ない」
立ち上がった萌山からは、オレの知っている声ではなく金狼の言うアホ鳥(火の鳥)の声だった。
萌山はゆっくりと左手を上げオレに向ける。
「ちぃっ!!」
金狼の舌打ちのような声が聞こえた瞬間、目の前に現れた金毛の身体にオレは吹き飛ばされた。
ゴゥッ
萌山の手のひらから収束された炎がレーザーのように発射され、金狼の胸を貫いた。
グォンと一吠えし金狼が倒れ込む。
「ふむ。。。威力はまぁまぁですわね、前よりも上がっている気がしますわ」
自分の手のひらを見ながら萌山が言う。
そして突然、膝をつきうずくまった。
「痛っっ、、、さすがに喰われた身体のダメージはすぐには回復しないようですわね」
バサッ
萌山の背中から羽が生えた。
アレは、、、火の鳥の羽だ。
「今日はこのへんでお別れしましょうクソ犬さん。また会えたらいいですわね、まぁその傷で生きてたら、の話ですが。。。」
バサッバサッ、、、
萌山がオレの知らない表情で笑みを浮かべ、空へと飛んでいった。
オレはただ、地面に膝をつき呆然とそれを見ていた。