4話 金狼と火の鳥
激しい衝突音をたてながら赤と金の光はオレ達の方へ向かって来る。
「カイト!モヤ!二人は下がっていろ!」
金髪のリーダー、ジェイルがオレ達二人に叫ぶ。
「わ、、わかった。モヤ、こっちだ!」
オレは慌てて萌山の手を引き急いで樹の後ろに身を隠す。
「みんな、来るぞっ!」
ジェイルが両刃の剣を鞘から抜き身構える。青髪の女性リンダは弓、緑髪の男トッポは大斧、他のメンバーも各々の武器を手に構える。
徐々に近付く2つの光は樹から50mほど離れた場所まで来るとガンと一際大きな音をたてぶつかり消えた。
音がなくなり辺りを夜の静寂が包む。
オレは樹の陰から萌山の手を繋ぎながら静かに様子を伺う。手から萌山の震えが伝わる。それもそうだ、オレだって怖い。
「油断するなよ、まだ近くに居るはずだ」
ジェイル達は警戒を解かず武器を構えたまま周りの様子を伺う。
「へっ、来るなら来いってんだ!」
トッポが己を奮い立たせるように口にした。言葉とは裏腹に頬に汗が伝わっている。
その時、、、
ザッ!
いきなり、メンバーの目の前に巨大な獣が現れた。体長3mほどの四本足で立つ獣。体はふさふさの金毛で覆われている。
巨大な金色の狼だった。
「あっ、、あ、、、」
その場の全員が声を失い立ち尽くしている。それもそうだ。ジェイルが今までに討伐してきたモンスターの中でも、群れで村一つ壊滅に追い込むバイトウルフや、集団でジワジワと獲物を狩るファングコヨーテなど、目の前の圧倒的な獣と比べたらチワワにしか思えない。
オレは見たことのない化物に対する恐怖よりも、シルクのようにキラキラと輝きを放つ金色の狼の美しさに目を奪われていた。
そいつは、目の前にいる武器を持った人間たちには目もくれず、ただ一点樹の上を見上げていた。
すると、上の方。
樹のうえから声が響く。
「おやまぁこんなところに人間が。。。ねぇ、クソ犬さん?そろそろ七日七晩経つし、おやつでも欲しいわねぇ」
決して大きな声ではないがハッキリと耳に響く女性のような綺麗な声が聞こえる。
オレは金狼から見えないように少し離れた場所に動き樹の天辺を見上げた。
頂上の枝に真っ赤に燃える大きな火の鳥がいた。金狼と同じ位でかい。
文字通り、メラメラと身体全体が炎に包まれている。扇型の鱗のような羽が何枚も連なってできた長い三本の尾が特徴的だ。
停まっている枝や葉が燃えていないのが不思議だが、伝説上の生き物のような鳥を見てそんな疑問を考える余裕などない。
「やはりアホ鳥は意地が悪いですねぇ、わざわざこの者達に解るように人間の言葉で言うとは。。。下卑た人間など私は喰えませんがねぇ」
金狼が口を開き喋った。こちらも女性の声だ。見た目の迫力とは裏腹に透き通るような、腹に響くような声に一同緊張が走る。
カシュッ!
「えっ?」
リンダが弓を構えながら間の抜けた声をあげた。
先頭に立ち剣を構えていたはずのジェイルの身体が消えた。いや、正確には彼の『両足』だけが大地を踏みしめている。
気付けば火の鳥が一同のど真ん中に居る。
オレは目を疑った。さっきヤツはこのばかでかい樹の頂上に居たのだ。それが今は地上に居て、何かを口の中で噛んでいた。
モグ...モグモグ......モグ...
「プッ!」
カランッ......
火の鳥が何かを口から吐き出した。
見覚えがある。
あれは、ジェイルの剣をだ。
ヤツはジェイルを喰ったのだ。
「っ~~~!!」
リンダが声にならない悲鳴をあげ、下半身を濡らしその場にヘナヘナと倒れこんだ。
「ジ、、ジェイルが殺られた!あいつはレベル26なんだぜ!?王宮騎士団にも入れるような奴が一瞬でっ......た、、たすけてくれぇ!!!」
トッポが叫びながら逃げ出し、他の四人もたまらず駆け出す。
「うわぁっ!」
「ぎゃっ......」
「ひっ......」
「......」
一瞬で回り込む火の鳥はたちまち男たちを食い尽くす。
金狼はその光景をただ単に眺めていた。
仕事の休憩中に流れているテレビを何の気なしに見るかのように。
アイツは人は喰わないのか??
トッポの胴体も消え、残るは動けないリンダとオレ、オレの後ろでガタガタ震える萌山の三人だけだった。
「お、、、おにい、、、ちゃん。。。」
「だ、、大丈夫だ。。。お前はオレが、守る」
なんとも説得力のない言葉だが、恐怖でパニックを起こさないだけマシだった。
「おやまぁ、そんなところにも。。。」
火の鳥がオレ達の方へ首を向ける。
「むっ。。。その人間は、、、」
金狼がオレたちを見て何か言ったがそんなのは気にしてる場合ではない。
(やばいヤバイヤバい.........どうする!?)
まずい、どう足掻いても逃げれる気がしない。
「ふ、、、ふふふふふふ。はははははははは!!」
突然火の鳥が笑い始めた。
「ごらんなさいクソ犬さん!こんなところに神に愛されし者たちがいますわよ!こんなにも加護を受けて。。。この人間たちを食べたらどんな力が手にはいるか......あぁ。。。」
火の鳥は赤い瞳をギラリと光らせ、オレたちにも見えるスピードでゆっくりと羽ばたいた。
「いただきますっ!!」
ヤバい、殺られる!
咄嗟に萌山に覆い被さる。
ザシュッ
「きゃあっ!」
何かが当たる音がして萌山の悲鳴が聞こえ身体がビクリとする。
「っ~~~.........」
痛みは、、、、、ない。
身体の下の萌山もふるふる震えたままだ。
一体なにが。。。??
恐る恐る顔を上げると、目の前に金色の柱があった。
金狼の後ろ足だ。
オレと萌山を攻撃してきた火の鳥からまもるように金狼が立ちはだかっていた。
「、、、どういうつもりですか?クソ犬」
火の鳥の声がする。
「くっくっく、、、アホ鳥に神の力を手に入れられてもわずらわしいとおもいましてねぇ」
「なっ、、、!?そのために我が身を犠牲にしたというのですか?」
ポタ、、、ポタ、、、、、
火の鳥の攻撃を受けたのであろう金狼の胴体から赤い血が滴り落ちていた。
「お、、お前、大丈夫か。。。?」
声をかけてみるが返答はない。
「くく。なぁに、この程度なら貴方程度ハンデにもならないでしょう」
金狼の挑発に火の鳥を取り巻く炎が激しく燃え上がる。
熱い。
離れているのに火傷しそうな勢いだ。
「ふふふ......強がりを。なら、今すぐ楽にしてあげるわ!」
火の鳥は再び高く高く舞い上がる。
「終わりよ!最速のスピードでその土手っ腹に穴を開けてあげましょう!!」
ロケットエンジンのような爆炎をあげ、一本の槍のような姿勢をとり金狼めがけ急降下を始めた。
。。。カシュッ
ズザザザザッッッ!!!
勝負は一瞬だった。
もちろんオレには何が起こったのか全く理解できない。ただ、二匹がぶつかった後に地面に倒れている身体の半分をなくした火の鳥が目に入った。
「ふむ。。。やはり火の鳥だけあって、火が通りすぎていますねぇ」
ぷっと口の中の異物を吐き出すように尾の一枚を吐き出す金狼。
火の鳥は、もはや動かない。
そして、金狼がオレ達の方を向きグルルルと喉をならす。
「助けてくれた、、、わけじゃないのか?」
オレが小さく呟くと、金狼は言った。
「神の加護を受けた人間か。。。その身を食らえば私も更なる力を得られるでしょうかねぇ。。。」
金狼が牙を剥く。
蛇に睨まれた蛙という言葉を体験するとは思ってもいなかった。
ダメだ、震えが止まらない。
身体はピクリとも動かない
ここで、死ぬのか。。。
そう思ったとき。
「お、、お、、お兄ちゃんを食べさせない!あたしを食べなさい!!」
両手を広げ、恐怖で動けなくなった兄を恐怖で震えながら守る妹がいた。