34話 8歳の高給取り
昼食の後、オレはリンダとピートと三人でギルドに向かう前にアクアの家に向かった。ウルハは眠いわと言いペンダントに戻りお昼寝中だ。
「すごい、、、人の町はとても賑やかなんですね!」
「エルフの里は違うの?」
「里はなんかこう、静寂が基本だったので。エルフは基本大人しい人が多いですから」
「そうなんだ。ね、エルフの里って遠いの??あたし行ってみたいなぁ」
「距離的にはかなりありますね。それに、恐らく人間は入れないと思います。今まで入った人を見たことがないから」
「多種族を毛嫌いする、ってやつか」
「はい。なんだか息苦しいところ、っていう思い出が多いですね」
そんな話をしているうちにアクアの家が見えてきた。途中でゴミ沼のあった場所を見てきたが綺麗な水が流れていた。
「あっ!カイトお兄ちゃんだ!」
家の前にアクアがいた。
オレを待っていたのかこちらへ走って向かってくる。アクアの声を聞いてミネルバさんとご主人らしき人が家から出てくる。ヒョロッとしているがとても優しそうな雰囲気の男性だ。
「カイトさん、いらっしゃい。こちら、主人ですの」
「はじめまして、あなたがカイトさんですか。話は妻と娘からかねがね。私はライトと申します」
「はじめまして。アクアちゃんが活躍してくれたおかげでスッカリキレイになりましたね」
「ええ、そうみたいで。それで、妻と昨日話し合って見たんですがアクアがしたいというなら許可してもいいかなと」
「そうですか。アクアちゃん、とっても大事なお仕事だけど頑張れるかい?」
「うん!ピーちゃんと一緒にやる!」
「そっか。よく決めてくれたね。ではライトさんとミネルバさん。アクアちゃんと一緒にギルドについて来てもらってもいいですか?」
「はい、そのために今日は仕事を休みにしていたので」
「そうでしたか。では、行きましょうか」
「うん!」
そして、オレたちは6人でギルドに向かった。
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「おお、カイトさん!待ってましたよ。こちらは下水掃除の報酬です。リンダさんもお受け取りください」
ハインスさんが受付でドサっと袋を二つ出してきた。オレの袋の方がリンダのより圧倒的に大きいが。。。
「ありがとうござい、、、って、こんなに!?」
「ウソ!あたしも10000ルギ入ってるわ」
「はい。申し上げた通りクエスト参加者には全員支払われておりますのでお納めください。カイトさんは初日の分も合わせて20000ルギ。それとは別に特別報酬として50000ルギ支払われております」
「うわぁ、70000ルギも。。。」
いきなり七万円もらったようなもので、けっこうな大金だ。
「はい。カイトさんにこのクエストを受けていただいたおかげで町もキレイになりましたし、それに見合っての報酬ですので」
「でも、それをいうならアクアちゃんの報酬は、、、??」
「はい、勿論ぬかりはありません。ただ、今日会う予定をしていたのでギルドマスター直々にお渡しするそうです。そちらはアクアさんのご家族の方ですね?こちらへどうぞ」
そう言ってハインスさんはアマンダさんを呼び、オレたちはギルドマスターの部屋に通された。
「おっ!きたな。ご足労感謝する。ギルドマスターのアジールだ。まぁそこにかけてくれ」
そう言うとオレはアクアと両親をソファに座るようにすすめた。
オレとリンダとピートはソファの後ろに立つ形になる。アマンダさんはアジールさんの横だ。
「では、アクアちゃん。コレが今回の下水掃除の報酬だ。ご両親、一緒に受け取ってくれ」
ドサっと大きな音を立ててテーブルに袋が置かれる。明らかにオレの報酬袋よりも大きいのがわかる。
「えっ、、、こんなに!?」
アクアの両親が中をあらため困惑の声をあげる。
「ああ、町の大問題が一つ解決されたんだ。その立役者となったんだから当然だ。それに、これは伯爵の意向でもあるからな。10万ルギある、収めてくれ」
「じゅ、、10万。。。オレたちのひと月の稼ぎより多いじゃないか。。。」
この町の大人の平均月収は7〜8万ルギと以前に聞いたことがあるので、大金だ。
「えへへ〜、アクアすごい?お父さん?」
「あ、ああ。。。すごいぞ、凄すぎて父さん声も出ないよ」
「アクア、すごいわね。おめでとう」
大金をもらったことよりも両親を驚かせたことや褒められたことの方がアクアにとって嬉しそうだ。
「さて、ここからが本題なんだが。ご両親とも聞いてるとは思うが伯爵からのお達しでアクアちゃんに町の美化師としての依頼がきている。内容としてはカイトが掘った穴を町のゴミ捨て場と定め、町中のゴミが集められるようになる。そこに集まったゴミをアクアちゃんにスライムで処理してもらうというのが仕事の内容なんだが、どうかな?」
アジールさんの問いかけにライトさんが答えた。
「はい。妻とアクアと3人で決めたのですが、お受けしようと思います」
「そうか!?それはよかった!断られたらまたゴミ問題ができてしまうところだった。いや良かった!では、正式な契約書に目を通してサインしてもらおう。アマンダ!」
「はい。では、こちらをご覧ください」
アマンダさんがさも当然のように用意しておいた書類をテーブルに出し両親に見せる。
「がはは、まぁそんなに難しいことは書いていない。毎週定期的にゴミを処理することや病気や怪我で処理できなくなったらすぐにギルドに連絡すること、くらいか」
ライトさんがミネルバさんと隣同士で契約書を読んでいると、二人の顔が見る見る内に驚愕の表情に変わっていった。
「はい、、、あ、あの。内容に関しては全く問題無いのですが、きゅ、、給料が。。。」
「ああ、それなら町の公的機関として税金から支払われることになってるから未払いの心配はすることないぞ?む、もしかして月20万ルギじゃ足りなかったか??」
「「に、20万!?」」
オレとリンダは思わず声を揃えて出した。
ピートは金銭感覚があまりないのかよくわからない表情をしている。
「い、、いえ。とんでも、、ないです」
ライトさんが驚きながら呟く。
「がっはっは、確かに子供が稼ぐような額じゃないな。ああそれともう一つ、ゴミ捨て場の近くじゃ臭いやなんや居心地が悪いだろう?契約と一緒に新しく住居を立てる手筈になっているから引っ越すといい。場所はこのギルドの近くだ。もし嫌ならば住居の話は無しにするが、どうする?」
そう言うとアマンダさんが住居の見取り図らしき図面を出してきた。
「こんな豪邸、、、立派な家じゃないですか!?で、でももしもアクアが仕事が嫌になったりしなくなってしまったら。。。」
「がっはっは、その時はその時だ。あとで請求するなんて野暮な事は言わねえよ!まぁ、何度も言うがこのお嬢ちゃんはそのくらい偉業を成したし成せる力がある、ってことだ」
「マスター、アクア様が驚くのでその下品な顔をしまってください」
「アマンダ、、、顔はしまえねぇよ」
「補足として説明を。。。この美化師としての契約は1ヶ月毎に自動更新する仕組みにしております。つまり、アクア様が嫌気をさしたり何らかの事情で美化師としての仕事を続けられなくなった場合は申し出ていただければすぐにその任は解かれるものとなります。小さな子供の将来も考えて、動きやすくはしてありますのでご安心を」
「そ、そうですか。。。アクア、ちゃんとできるか?」
「うん!しつこいよお父さん、嫌いになっちゃうよ!」
そんな事を言われたライトさんはオタオタしまくっている。
「がっはっは!じゃあ、契約成立だな」
「かしこまりました。それではご両親のお名前と、最後にアクア様の直筆のサインをこちらに、、、」
そうしてアクアは契約書にサインしてパームラの町の美化師として就任した。
新しい住居はかなり人手を多くし速攻で建てるらしく1週間以内に完成するそうだ。
その年で親よりも高給取りになるとは。。。
「、、、では、私たちはこれで」
「またね、カイトお兄ちゃん!新しいお家ができたら遊びに来てね!!」
「ああ、必ず行くよ」
「ホント!?じゃあ、約束だよ!」
そして、アクアは両親に連れられて帰って行った。
「ふぅ、、、そんじゃあカイト、お前の番だな」
「はい、伯爵に会えばいいんですか?」
「ああ、今の間に屋敷に連絡してすでに迎えが来ているはずだ。なあアマンダ?」
「ええ、ぬかりはございません」
流石敏腕美人秘書。仕事ができる。
「詳しくは伯爵に聞いてくれ、頼んだぞ」
アジールさんに言われてオレたちは部屋を出る。
ギルドの受付に戻ってくると、黒の執事服を着た老紳士が立っていた。
「カイト様でございますね?お迎えにあがりました」
ピンと背筋の整った姿勢で深々と挨拶をしてきた執事に連れられギルドの外に出ると、馬車がありそれに乗せられた。
「では、たいした時間はかかりませんのでお待ちください」
オレたち3人は馬車に乗り屋敷へと向かった。




