32話 初めてのエルフはあがり症でした
エルフ。。。
オレも何処かで聞いたことがある言葉だ。
物語やファンタジーの世界で出てくる種族、だったかな?
長めの先の尖った耳が特徴的で、美形が多い長命種という知識くらいしかないが、確かに目の前のこいつは美形だった。
「何をしている。サッサとまくぞ」
「お、おぅ。リンダ、立てるか?」
「う、うん」
オレはリンダを立たせて森の外へと走った。赤髪のエルフも後ろについて兎たちの追撃をはねのけている。岩や木の蔓など、様々な自然の地形が兎たちの動きを阻んでいた。
森を抜け兎が追ってこないのを確認すると乱れた息を整える。
「はぁ、、はぁ、、、、、助けてくれてありがとう。君は、、、?」
「ふっ、勘違いするな。たまたま居合わせた場所で貪り食われたしたいの異臭など嗅ぎたくないと思っただけだ」
オレたちの方を見ずに赤髪のエルフは言い放つ。
「でも、助けてもらったのには変わりないから。ありがとう!」
リンダがにこやかに言うが赤髪のエルフは更にそっぽを向いてしまった。
「、、、、、べつに」
んん?
なんだろうこの感じは?
なんか可愛らしいというか微笑ましいというか、そんな感覚がする。
「あたしはリンダ!こっちはカイトね。あなた、名前はなんて言うの?」
「。。。。。ボソ」
「えっ?なーに??」
リンダがエルフに近寄るとススッと距離を空ける。
「ピ、、、ピートだ!それ以上近寄るな人間の女!!」
後ろ向きだが長めの耳が赤くなるのが見えた。
「失礼ね!ちゃんと自己紹介したんだからあんたもこっちむきなさいよ」
にじり寄るリンダに更に距離をとるピート。あ、こいつもしかして。。。
「、、、、、」
「ねえっ!聞いてるの!?」
リンダがグイッとピートの肩を掴む。
「ふ、、、ふひゃあぁぁぁっっ!!!」
登場の第一印象はクールな美少年だったが、リンダに慌てふためくその姿はもはや三枚目でしかなかった。顔は美形だが。
「え、、、あたし、何もしてないんだけど」
「う、うるさい!寄るな、女め!!」
女性が苦手な美形エルフ、、、か。
なかなか面白い。
くっくっくと笑いをこらえるオレにピートが睨みつけ叫ぶを
「わ、笑うな人間め!!それより、なんだお前!?何を飼っているんだ!そんな凄まじい獣臭と魔素、考えられるものじゃないぞ!!」
ん?こいつ、ウルハのこと気付いてる?
そう思った時、ペンダントがわずかに震えて声がした。
[やかましいわね。。。咬み殺すから、出しなさい]
「お、おい。ダメに決まってるだろ。いきなりそんな物騒な…」
[貴方の可愛い獣魔が『獣臭い』とまで言われているのよ?少しは腹が立たないのかしらこの男は。。。]
「何をゴチャゴチャ言ってる!?サッサと説明しろ!さもないと、、、」
ピィーッ!
と指を口に当て、ピートが口笛を吹く。
森の中から魔素を感じる。
ひとつ、ふたつ、、、十匹以上か。こちらに向かって来た。森の中から出て来たのは焦げ茶色の毛を纏った犬、、、いや、狼だ。
「ふふふ、サッサと正体を明かせ。さもないと森の番人リーブウルフの餌にするぞ。こいつらは単体ではDランクモンスターだが、徒党を組むとCランク冒険者のパーティーも全滅させるからな」
ピートが不敵な笑みを浮かべこちらを威嚇してくるが、、、
「伏せ」ザッ
オレの掛け声と共に狼の群れは一斉に伏せ出した。
「おすわり」ザザッ
今度は一斉に澄ました感じでおすわりした。
「ゴロン」
狼たちは腹を見せ、ハッハハッハと地面にゴロゴロ転がっていく。
「な、、、なんでだ?気位の高い狼が何故人間言うことを。。。まるで飼いならされた犬じゃないか」
ピートが驚いてワナワナしている。
[あるじ様、出してちょうだい]
「いや、、、お前、出したらこのエルフ咬むだろ」
[何言ってるのかしらこのバるじ様は。当たり前でしょ?こんな下等な狼を差し向けられて、バカにしすぎにも程があるわ]
「ならダメだ。咬むなら出さん。無駄な殺生はいけないよウルハ」
[、、、わかったわ。咬まないから]
「爪、その他攻撃も一切ダメだぞ」
[ちっ、、、、わかったわよ]
「お前、、、舌打ちしたろ」
[さっさと出さないかしらこの愚図あるじ様は]
くっ!、、、この。。。
「変なことしたらすぐに戻すからな」
[あら、ならこの場の全員が認識することのできないスピードで咬みまくれば問題なさそうね]
「。。。。。」
[冗談よ、怒らないで。ちょっと主人と戯れたい私の甘え方よ]
「どんだけ物騒な甘えだ。。。『出てこいウルハ』」
光と共にウルハが現れる。
人型ではなく、金色の巨大な狼が。
「なん、、、だと。。。」
ウルハの魔素に当てられ、ピートがガタガタ震えている。
狼たちはすでに地べたに這い蹲り身動きが取れないようだ。口から泡を吹いて気絶してる狼もいる。
[私を獣臭い、と言ったわね?]
「は、、そ、、、それ、、は。。。」
ピートはもはや声も出せない。
リンダも久々にウルハの姿を見てすくんでいる。昨日とは違う人型ではなく、魔素も抑えてないからだ。
[獣臭いわね。。。散りなさい]
ウルハが言いながら狼たちに目線を向けるだけで子鹿のように震える狼たちはヨタヨタと森の中へ消えていった。気絶したやつは仲間にくわえられ引きずられている。
[私は、獣臭い?]
ウルハが口を開けゆっくりとピートに近づく。
「こら、そこまでだ」
[、、、冗談よ]
ウルハの前足を掴み止める。
お前、ちょっと冗談じゃなかったろ?
ピートはヘナヘナと座り込んでしまった。
「ちょ、、、お前、漏らしたな」
美形エルフの下半身は濡れていた。
まぁ、無理もないか。。。
「ふ、、、ふふふ、、、こんな化け物。規格外だ、、、、、」
あらら。ショック受けすぎだろ。完全に放心してやがる。
[汚いわね、小便臭い]
「こら、ウルハ!女の子がそんなこと言ったら、メッ!!」
あ、いかん。
モヤを叱りつけるときみたいな口癖が出てしまった。
怒ったか??
[、、、そ、そうね。少しやり過ぎてしまったかもしれないわね。。。反省、するわ]
ん?なんだこの反応は?
てっきり咬むわよ発言でもしてくると思ったが。
[お、、、お腹が空いたわ。昼食の時また出してちょうだい]
そう言ってそそくさとウルハはペンダントに戻ってしまった。
「ウルハちゃん、、、」
リンダがボソリと呟いた。
ウルハちゃん?
ちゃんていう年頃なのか、あいつは?
[何を考えているのかしら?咬んで使えなくするわよ]
何をだよ!?
こえーよ。心読むなよ。
「それよりカイト、この人どうする?」
目玉をまん丸にしてオレを見上げ地面に腰を落としているピートがいた。
「あんな化け物を。。。」などと言うその目にはオレが恐ろしく見えているらしい。
「うーん。なんか少し廃人になりかけちゃったし、家に連れて帰って洗わせるか。そろそろ昼だしオレたちもメシにしよ」
「うん!わかったわ」
ピートの背中をパンパンと叩き、意識をはっきりさせた後、オレは家にくるように説得した。ピートはすっかり怯えておりバツが悪そうにしていたが、案外素直に言うことを聞いて家に連れて行くことができた。




