23話 魔素を感じ取れ
「ぬくくっ、、、重い。。。」
オレは男五人がかりで馬車の荷台の残骸のような大きなゴミを押してゴミ穴に戻って来た。
そろそろ陽が傾き始めていたので他の大人達も穴に戻っている。
「よいっ、、、しょ!!」
オレ達は大きなゴミを穴の中に投げ入れた。すでに200匹くらいに増えたスライム達が次々にゴミを消化していっている。
「あの。。。」
見た覚えのない顔の婦人が声をかけて来た。
「アクアの母でミネルバと申します。カイトさん、でしたか?今回はこのようなことをしていただいて、ありがとうございます」
品の良い感じの優しそうな女性はアクアの母親だった。
「ああ、アクアちゃんの。いえいえ、アクアちゃんの協力のおかげでこういうことができたんです。ぜひとも褒めてあげてください」
「ええ、もちろん。もう少ししたら主人も帰って来ますので、今日はうんと褒めてあげるつもりです。私は以前アクアのスライムを捨てて来なさいって言ってしまったこともありますから、もう一度謝らないと。。。」
「そうでしたか。では、ちゃんと伝えてあげてください。きっと喜びますから」
「えぇ。それで、アクアはどこに??」
オレは穴の周りに居たアクアの姿を探す。
「あれ?さっきまでここに。。。あのー、誰かアクアちゃんを見た方はいませんかー?」
ゴミ集めから帰って来ていた集団に呼びかけるが誰も見ていないと口々に帰ってくる。
「おかしいな、、、どこへ??」
そのとき、少し離れたゴミ沼の近くに居た子供達が叫んだ。
「見てー!これ、アクアちゃんの靴じゃない!?」
「早く早く!誰か来てー!」
「おーい!!」
オレは大人達とゴミ沼の方へ駆け寄る。
「っ!?これは、アクアの!!」
ゴミ沼の縁で、片方だけ取り残された靴を見てミネルバさんが大声で狼狽える。
「まさか、この沼に。。。」
「探せ!探せー!!」
「道具、長い道具を持ってくるんだ!」
大人達が口々に叫ぶ。
「アクア!アクアーー!!」
ミネルバさんが泣き叫ぶ。
「ミネルバさん、落ち着いて!アクアちゃんは必ず助けます」
「お、お願いします!お願いします!!うぅぅ。。。」
靴を握りしめ涙を流すミネルバさんを沼から離し、ゴミ沼に飛び込む。
「アクアちゃん!どこだ!」
腰まで浸かり手探りで周辺を探す。
川はせき止められているとはいえ流れがあると思い境目を探してみる。
手や足にはゴミの当たる感触しかない。
「くそ、、、くそっ!オレが、、、目を離さなければ。。。!!」
必死で沼の中を探すが感触はない。
そこら中を闇雲に手と足で掻き探る。
[臭い]
「あぁっ!?」
こんな時に誰が言ったんだと腹が立ち周囲の人を見渡す。
そんなことを言いそうな輩は見当たらず、大人達は皆必死で泥やゴミにまみれアクアを探している。
[こんなゴミ臭い所、早く離れなさい]
頭に響くこの声、聞いたことがある。
「、、、ウルハ、、か?」
[私の声を忘れるなんて、とんだ主ですねぇ。低脳すぎて呆れます]
「くっ、、今はお前にかまってられねぇんだ!アクアが、、、!!」
[探りなさい]
「あ?なにをだ!?」
[、、、やれやれ、ここまで低脳とは。魔素以外なにを探るのですか?]
魔素、、、そうか!
スヴェンさんが言っていたな。。。
オレは動きを止め、目を閉じる。
周りは大人達のアクアを探す声や音がひしまいている。ミネルバさん、他の子供達は泣き崩れている。
「集中しろ、、、」
沼の中一帯へと意識を張る。
「アクアちゃんのわずかな魔素を感じるんだ。。。」
自分の体を中心に周りの魔素を感じ取る。
(一番大きい魔素の流れは、自分か。。。血流のように魔素が流れるのを感じる)
1メートルほど離れた場所に小さな魔素を感じた。急いでそこに手を伸ばす。
「ここか!。。。ピーちゃん!?」
手を伸ばした先にはスライムの感触、目を開け掴んだ手のひらを見るとドロにまみれたピーちゃんがいた。
[、、、ハズレ]
「うるせー!早くしないと、、、」
[落ち着きなさい。そんな小さなスライムですら見つけれるのですからできるはず。自分の体を中心に、水面に波紋が広がるように探りなさい]
波紋、、、波紋か。。。
船のレーダーみたいに。。。
トクン、、、
『【能力スキル】魔素感知〈終〉を習得しました』
「っ!?そこだっ!!」
ゴポンッ
オレは目を閉じて沼の中に潜り込んだ。
目を閉じていても見える。。。いや、感じる。
伸ばした手の先に小さな体の感触があった。一気に引き寄せ、水面に顔を出す。
「ぶはっ、、、誰か!引き上げてくれ!」
オレは手を差し出す大人達に引き上げられアクアを抱きかかえ、ゴミ沼を出る。
「くそっ、泥がひどい!」
そばに流れる川に飛び込んだ。顔は浸からないように水をかけ汚れをとる。
「アクア!しっかりしろ、アクア!」
「、、、ぅ、、ゲホッ!、、、ゴホッゲホッ!!」
水や泥を吐きアクアが咳き込んだ。
「アクア!よかった、川の水を飲むんだ!」
川の中でアクアを抱きかかえアクアに水を飲ませる。
「ゴホッ!ゴホッ、、、」
「アクア、ちょっとごめんな!一回吐き出してもらうぞ」
むせ返るアクアの口内に指を入れ喉の奥を触るようにする。
口の中に指を突っ込まれたアクアは一気に胃の中の物を吐き出した。
「おぇっ!!、、、、ゲホッ!ゴホッ!」
「、、、よし、そんなにドロは飲み込んでいなかったな。アクア、聞こえるか?水を飲むんだ。口をゆすぐようにして、ゆっくりでいいから」
アクアはオレの言うことに従い水を飲む。
胃の中にゴミやドロが入ってたら後で体調を崩すかもしれないからな。
「アクア、、、もう大丈夫だ!」
オレはアクアを抱える体勢から抱っこの体勢に持ち替える。
「カイ、、ト、、お兄、、、ちゃん」
まだ苦しさがあるのか、涙目になっている。
「ご、、ごめんなさい。。。あたし、、ゴミ沼に、、、」
「いいんだ、いいんだよアクア。無事でよかった。。。」
関が切れたように泣きじゃくり始めるアクア。川からあがるとミネルバさんも駆け寄ってきた。
「あぁ、、、アクア、アクア!!」
「うぇーん、、、こわかったよぉ、お母さーん!!」
アクアを抱きしめて涙を流すミネルバさん。他の大人達も安堵の表情を浮かべている。
「カイトさん、、、ありがとうございます。ありがとうございます。。。」
「いえ、、、オレがアクアちゃんから目を離さなければ。。。」
「いえ、あなたがいなければアクアは、、、うぅ。。。ありがとうございます」
俯いたオレの背中を誰かがバンと叩いた。
「あんたがあの子を突き落としたわけじゃないんだろ?どんな時でも事故は起こるさ。それより、あんたが助けたんだ!胸張りな!」
振り向くと防具屋のおばさんが満面の笑みでオレを見ていた。
「。。。はい」
周りの大人達から一斉に拍手喝采が起こった。




