20話 小さな仲間
スヴェンさんとの話から家に戻るとレイラさんが朝食を用意していてくれた。
ヤケにニマニマしてるなと思ったら、台所からスヴェンさんの姿が見えたので、オレとスヴェンさんのやりとりを見ていたのだろう。
「ふふ、父親公認の日も近いわね……」
と呟いていたがとりあえず無視して朝食をいただいた。
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「おはようございますー」
「おお、カイトさんおはようございます。これから進級試験の手続きでよろしいですか?」
「あ、ハインスさんすみません。試験は午後からの予定でお願いしたいです。今から午前中は5級のクエストを受けたくて」
「そうでしたか、でしたら午後から始められる様にこの書類にサインだけしておいてください」
ハインスさんから渡された試験申請の書類にサインをする。
「はい、確かに。午後になったらいつ来ても大丈夫な様にしておきますが、日が暮れるまでに来て下さい。それ以降は試験放棄とみなされ一年間受けることができなくなりますから」
「マジですか!?わかりました、なるべく早く受けるように来ますね」
「はい、よろしくお願いします。では、午前中に受けるクエストは、、、」
「町の下水掃除でお願いします」
「おぉっ!受けてくれますか!?あなたはやはり只者ではないです、私の目に狂いはなかった!」
ハインスさんが見たことないテンションで感激している。
「そ、そんなに大変なクエストなんですか?」
「えぇ、やはり体力勝負ということもありますが、一番のネックは『汚い』からでしょうね。5級クエストの中では最高報酬ですが8000ルギと他のクエストを数回こなせばいいですしね。新人冒険者も敬遠するというわけです。あ、期限はありませんのでじっくり取り組んでいただいて結構です」
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ハインスさんが元気よく爽やかに送り出してくれた。よほど誰も受注しなく滞っていたのだろう。ギルドから無償で清掃道具と作業着を貸してくれる始末だ。掃除中に道具を壊してしまっても弁償しなくていいらしい。
オレは以前ゴミ収集やゴミ収集所のバイトもしたことがある。
確かに凄まじい汚さではあったができない仕事ではない。この世界では汚れ仕事は一般受けしないのだろうか。
嫌な仕事を請け負ってこそ信用が集まるということもあるのに。
「なんて思っていたがこれは、、、」
現場に着くと目の前には凄まじい光景が広がっていた。
付近を流れる川から水を引いて町中を流れるように下水道を敷いているわけだが、家庭ゴミや廃棄物、汚物などが一緒くたに捨てられている。
「布で口元を覆っても、匂いがキツい」
とりあえず、どこから綺麗にしていけばいいか大元を探す。徐々にゴミを取り除いても次から次に捨てられたのではいつまで経っても終わりはしない。
下水をたどり何処に流れ着くのか探す。
「、、、ここか」
行き着いた先は川の本流に戻る手前だった。ある程度のゴミをならば川の流れに消えて行くのだろうが、川と下水を塞き止めてる鉄製の柵の前にゴミだまりの沼が出来上がりゴポゴポとガスを出していた。
「凄まじいな、、、こんなの向こうの世界でも見たことないぞ」
とりあえず改善策を考えてみた。
①川に下水が流れるようにする
②家庭ゴミや廃棄物を他の場所に捨てる
③ゴミ捨て場を作り燃やすか最低でも地中に埋めるかする
以上の3つだ。
勝手にゴミ捨て場を作っていいかわからないのでとりあえずギルドに戻りギルドマスターに掛け合うことにした。
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受付でハインスさんに事情を話すとアマンダさんが案内に来てくれた。
歩きながら美人秘書のアマンダさんに
「あの人にアポイントなど必要ありませんよ。いつでも暇だしどうやって抜け出そうかしか考えてませんから」
などと言われながらアジールさんの部屋に案内される。
なかなかサラリと毒を吐く人だ。。。
アジールさんは部屋の机に足を乗せて山積みされた書類の山を眺めていた。
「ほら、仕事してないでしょ?」
アマンダさんのいう通りの姿に乾いた笑いしかでなかった。
「おう、カイトじゃないか!どうした?」
「いや、アジールさんに許可を取りたいことがあって、、、」
オレは訪ねた経緯を話した。
。。。。。
「そういうことか!いいぞ、やってくれ!村の外れに空き地がある。あそこなら町の住人がゴミを捨てに行けるし周りに民家もないからな!なに、心配するな。領主のレニー伯爵からもどんな方法でもいいから下水の美化を頼むといわれてるしな。がははは」
、、、すんなり許可が降りてしまった。
日頃から町の清掃をする清掃員を雇うとか考えろよと思ってしまう。
「特別報酬も出すからな」とアジールさんは言っていたが、出してもらわなければ割に合わなすぎる。
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許可が降りた場所まで戻って来た。
街並みからは少し外れるが大きな穴を掘るには丁度いい。川と下水の境目から近い場所だった。
「さて、急いでやってしまいますか」
今日中にやらなければいけない、というわけではないのだが早めに終わらせたかったのは本音だ。
借りているスコップとつるはしを交互に使い穴を掘る。
ザクッ、、、ザクッ、、、
「ふぅ、、、けっこう大変だな。これって一人でやるようなクエストじゃないんじゃないか?」
1時間ほどで半径3メートル、深さ2メートル程の穴を掘ったのでひと息つく。
レベルが上がり身体能力が上がっているせいか通常では考えられない速さで掘り進めてはいるが、流石に足腰や上半身にこたえる。
「けっこうこういう作業はバイトで慣らしたと思ってたんだけどなぁ。。。ん?」
穴の側の岩に腰掛けていると近くにモンスターの魔素を感じた。
「こんな町中に、、、でも随分反応が弱いな」
辺りを見回すと、遠めの木の陰からこちらを見ている女の子がいた。
10才にならないくらいの子だろうか。金髪のゆるふわウェーブがかかったような髪をしたピンクのワンピースを着ている子がジーッとこちらを見つめている。
「なんなんだあの子。。。おーい、どうかしたのかい?」
声をかけると笑顔でテテテと駆け寄ってきた。
「ねぇねぇお兄ちゃん、何してるの?落とし穴??」
「いや、オレはそんなイタズラ好きじゃないよ。この穴はね、ゴミを捨てるための穴なんだ」
「ゴミ!?お兄ちゃん、あそこの臭いゴミ捨て場を片付けてくれるの??」
女の子はゴミ溜まりのドロ沼を指さして言った。
微弱だがこの子から魔素を感じるのだが、、、
「あそこが臭いからって、あたしの家には友達が遊びに来てくれないの。でも、ピーちゃんがいるから平気だもん!」
「ピーちゃん?」
オレが誰のことを言っているか不思議に思った時、女の子の服のお腹あたりがモゾモゾと動いた。
ピョコンと服の中から一匹のスライムが顔を出す。
ピギー
「うわ、スライムじゃないか。なんでこんなところに、、、」
慌ててスライムを取り除こうとすると、
「ピーちゃんをいじめちゃダメー!」
女の子は頰を膨らませて怒った顔でオレに言ってきた。
「ピーちゃんて、、、このスライム、君のかい??」
「そうよ、ピーちゃんは友達なの。あたしの言うことは何でも聞いてくれるのよ!ね、ピーちゃん」
ピギーと音を立てながら女の子の周りをウロウロ動くスライム。彼女がお手と言ったら体を伸ばして手に触れ、伏せと言ったらベチャーと地面に体を広げて潰れた感じになる。
(言うことを聞いてる。。。これは【従魔使役】というやつか。伝説級未満のモンスターは契りはできないと言っていたしな)
「君、すごいね。スライムと友達なんて。君の名前はなんて言うの?」
「あたしアクア!8才!」
「アクアちゃんか。この辺に住んでるのかい?」
「うん!あたしのお家あそこだよ」
アクアの指差した方向には一軒の木造りの家があった。確かに、ドロ沼から距離が割と近い。
「あたしん家、お父さんとお母さんが二人とも働いてるから誰もいないの。でね、一人で寂しくて友達ほしいなーって思ってたらピーちゃんが現れたの!もう半年も一緒なのよ」
「そっかぁ。ピーちゃんが来てくれて良かったじゃないか」
「そうだよ、それにピーちゃんすごいんだから!見てて!」
アクアはポケットの中から紙くずを取り出した。
「ピーちゃん、お食べ」
スライムがアクアの手に乗り、紙くずを体内に取り込む。あっという間に溶かされ紙くずは消えてしまった。思わず感心してしまう。
「へへー、すごいでしょ!好き嫌いしないで何でも食べちゃうんだから!」
「こりゃすごい。。。」
アクアは自慢気にふんぞり返っている。
スライムにこんな能力があったとは。
これでゴミを食べ尽くしてくれたらなと思うが流石に一匹では無理だろうと思った。
「でね、でね!ピーちゃんに家のゴミを食べさせてたらある日ピーちゃんが二人に増えちゃったの。どんどん増えちゃって十匹を超えたらお母さんが『面倒見切れないから捨てて来なさい』って言われちゃって。でもピーちゃんに一匹に戻れない?ってお願いしたら増えたピーちゃんたちが一つにまとまったの!またお願いしたら増えることもできるんだよ!ね?すごいでしょ!?」
、、、なんですと??
「へ、へー。すごいじゃないか!ピーちゃんは今何匹になれるんだい?」
アクアが上を向きながら顎に指を当てて考えている。
「んーとね、この前全部分かれて見てってお願いしたらいっぱいになっちゃって、100匹までは数えれたんだけど。。。わかんなくなっちゃった」
、、、なんですと!?
もしかしたら、ピーちゃんにゴミを食べてもらえるようになればこの町の下水問題が解決するかも。。。
「ねえアクアちゃん。オレの名前はカイトって言うんだ」
「カイト兄ちゃんね!うん!」
「アクアちゃんは、あのゴミで出来たドロ沼を無くしたいかい?」
「うん!お父さんもお母さんも臭いって困ってるし、お金がないから引っ越すこともできないって言ってたし!それに、臭くなくなったら友達も遊びに来てくれるから、キレイにしたい!!」
「そっか。じゃあオレとピーちゃんと協力して、一緒にキレイにしないかい?」
「ホント!?キレイになったら友達遊びに来てくれるかなぁ?」
「ああ、きっと来てくれるはずさ」
「うわーい!お父さんとお母さんも喜ぶね!あたし手伝う!!」
こうして、クエストの仲間に一人の少女と一匹のスライムが増えた。




