16話 瀕死
「ん、、、ト、トイレ。。。」
夕食の後身体を拭いてからベッドに横になり、いつの間にか眠っていたようだ。
トイレに行きたくなり目が覚めてしまった。
ジャーーー
この世界のトイレは水洗である。
最初は気づかなかったが、水桶の水がなくなるとせき止められていた水が再び桶に溜まる仕組みだった。
「まだ夜中か。もうひと眠りしよう。。。ん?」
スヴェンさんとレイラさんの寝室から何やら声が聞こえてくる。
「あん、、、めったら、、なた。、、えちゃう、、ら、、、」
「、、、てるから、、、ぶだよ。ほら、、、ひさ、、ぶ、、、に」
。。。。。聞かなかったことにしよう。
オレは足音を立てず二階へと戻っていった。
『【戦闘スキル】隠密行動〈序〉を習得しました』
シーッ!シーーッ!!
。。。まさか聞こえてないよな?
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「あらおはようカイトさん」
「ふん、まともに起きれたじゃねーか」
レイラさん、つやつやしてる。。。
「おはようございます。あれ、リンダは?」
「あの子ったらまだ寝てるのよ。カイトさん、悪いけど起こしてきてくれない?」
「わかりました」
オレは顔を洗った後リンダを起こしに階段を上がっていった。
「おーいリンダ。もう朝だ、、、ぞ」
ベッドの上には寝返りをうったのか仰向けのままパジャマをはだけたリンダがいた。
上着はめくり上がり下乳が見え、下はズボンが膝までずり落ち白い下着が丸見えになっている。
「ん、、、朝、、、?」
ドアを開けた音で目を覚ましたリンダの半分閉じている目とオレの目が合った。
「いや、、、オレは、、、リンダを起こしてくれとレイラさんに、、、、、」
しどろもどろに言い訳するオレを不思議そうに見たあと、リンダは目線を下げ自分の姿を確認した。
「〜〜〜っ!!スケベーーーッ!!!」
枕やら何やら色んな物が飛び交って来たので【間合い】で察知し急いでドアを閉める。
「ご、ごめん!ワザとじゃないんだ」
「うるさい!あっちいけー!!」
二階でギャーギャー騒いでいる時リビングでは、、、
「お前、ワザとカイトに行かせたろ?」
「あらあら、あの子の寝相が悪いの教えるの忘れてたわ。今日は怒らないんですの?」
「ふん、朝からいちいち怒ってられるか」
どうやらスヴェンの賢者タイムが残っていたことでオレは命の危機を免れたようだった。
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「もうっ、お母さんも信じらんない!」
プリプリしながらリンダは昼食を食べている。
「あらまぁ、気の抜いた下着でも履いていたの?だめよぉ女の子はいつでも勝負なんだから」
「ちょっ、勝負下着なんかあたし持ってないわよ!!」
「あら、困った子ねぇ。あたしのヘソクリで用意してあげないと」
「。。。。。」
オレは一言も発言できずに黙々と朝食をいただいていた。
「たく、女ってのは朝からギャーギャー元気だな。おいカイト、今日中にダンジョンは攻略できそうか?」
ナイス助け舟!流石はスヴェンさん、元1級冒険者!!
「は、はい。何事もなければ今日の午前中には攻略できるかと」
「、、、ちっ。早いじゃねーか」
「えっ?なんて言いました?」
「ふふ、カイトさん気にしなくていいわよ。この人、自分があの洞窟を攻略するのにもっとかかってたから嫉妬してるだけよ」
そうか、若かりしスヴェンさんもあそこで。。。
「くだらねぇこと言ってないで、サッサとメシ食ってダンジョン行ってこい!」
「は、はい!」
オレは急いで朝食をかっこむ。
リンダは怒ってるのか考え事をしてるのかわからない表情で朝食を食べている。
(勝負下着って、、、男の人はそっちの方がいいのかしら??)
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朝食の後、オレたちはハーネスト洞窟の入口に来ていた。
「さて、サクっと最下層まで行きますか」
「えぇ、水筒も用意してあるわ」
スヴェンさんの指示でオレとリンダは洞窟の最下層にある回復の泉の水を汲みに行くのだ。その水はポーションと同じ作用があるらしく、小さな傷くらいしか治すことができないが冒険者には広く愛用されているらしい。
オレたちは洞窟に入って行った。
地下三階までは昨日よりもスムーズに進むことができた。おなじみのモンスターと数回戦闘があったが、ゴブリンの大群はあらかた片付けることができたようだ。
「一応キュア草も採っておきましょ。ポーションの原料にもなるし、使い道はあると思うから」
リンダの意見で途中で見かけたキュア草も数本採取しながら進んでいく。
地下四階へ降りる階段を見つけた。
「ここから先は初めての場所ね。気をつけていきましょう」
地下四階を歩いていると背後に敵の気配がした。
「リンダ、あぶない!」
背後から飛びかかって来たゴブリンを魔力感知で察知し間合いに入って来た瞬間斬りつけて倒す。
その勢いでビックリしたリンダが足元の石につまづき転びそうになる。
「きゃ、、、」
ガシッ
「大丈夫か、リンダ」
太刀を振り抜いた体勢からオレはリンダの腰に手を回し抱きとめる。
華奢な腰回りは力を込めたら折れてしまいそうだ。
「〜〜〜っ、だ、、、大丈夫!ありがと!」
リンダは真っ赤になりオレからパッと離れた。
(もぅっ!お母さんが変なこと言うから意識しちゃったじゃない!。。。今日の下着、子供っぽいかなぁ、、、じゃなくて!!)
オレは離れてウネウネともだえているリンダを見つめ大丈夫そうだと安心した。
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「着いたわ!回復の泉よ」
なんやかんやで最下層の泉まで来た。
地下五階に降りてからは4級モンスターが出ないか警戒していたが、雑魚モンスターの魔素以外は感知できなかった。
リンダが水筒に水を汲んでいるのでオレは周囲を警戒して見張っていた。
「よし。これでスヴェンさんの指示は達成だな。地上に戻ろう」
オレたちは泉を後に来た道を戻ろうとした。そのとき、
後方、泉の奥の方から5級モンスターのよりも大きな魔素を感じた。後ろを歩いていたリンダに叫ぶ。
「リンダ、後ろに何かいる!こっちへ!」
「えっ?」
急に言われたリンダは不意に後ろに振り向いた。それと同時に、
シュンッ、、、ザシュ!
風切り音と共に一本の矢が飛んで来た。
その矢は振り向いたリンダの腹部、鎧で覆われていない部分に突き刺さった。
「ぐっ、、、、」
「リンダっ!!くそっ!!!」
オレは矢の飛んで来た方向に走り出す。
暗闇の中光る瞳、赤茶けた肌のゴブリンが弓を抱えゲラゲラと笑っていた。
「こいつ、、、喰らえ!」
向かって来たオレに矢を構える暇もなく赤茶けたゴブリンを両断する。
すぐに地面に吸い込まれ消えていった。
モンスターを倒したオレはすぐにリンダに駆け寄った。
「ぐっ、、は。油断、したわね。。。」
「喋るな!今矢を抜いてやるから、少し痛いが我慢しろ!」
木の矢は背骨などは外れて背中から突き出ていた。オレはリンダの体を支えたまま矢じりを折り矢を一気に抜く。正直こんな行為はしたことがない。手が、震える。
『【能力スキル】恐怖耐性〈中〉を習得しました】
「がっっ!は、、、」
リンダが血を吐く。どうやら矢の先に毒は塗られていないようだった。物語などではこれで死に至ることも多いからな。
元々血を見るのは苦手な方だが、手に入れたスキルのおかげで割と落ち着いていれる。
「タイミングが良いのか悪いのか。。。回復の泉の水をかけるからな、しみるぞ」
鎧のインナーを捲り上げお腹と背中側の傷口にかける。リンダの顔が痛みに歪むが、傷口が塞がっていく。完全ではないが傷が塞がり血が止まった。
「よし、これでなんとか。。。」
「がはっ!」
リンダは更に口から血を吐いた。
「なんでだ。。。これは、内臓の損傷か、、、この位置だと胃のあたりだな」
膝で抱えているリンダを見ると顔色が悪くなって来ている。
「リンダ、しっかりしろ!この水を飲むんだ!胃に空いた穴を塞ぐんだ!!」
意識が朦朧としているのか、リンダからの反応がない。
水筒を開け、口に水を流し込む。
「がほっ!げほっ!」
飲み込む力がないのかすぐに吐き出してしまった。
「くそっ!なんとか飲まさないと。。。」
次にする行動は一瞬で頭に浮かんだ。
恥とか遠慮とかはオレの中には微塵もなかった。ただ、そうするべきだと体が動く。
水筒の水を口に含み、そのままリンダの口に合わせた。
「ん、、、ぐっ、、ゲホ!」
むせてはいたがリンダの首が飲み込むように動いたのを確認した。
「、、、血と一緒に少しは飲み込めたか。もう少し飲ませるぞ、我慢しろ」
オレは再び口に回復の泉の水を含み、リンダに口移しする。
次はむせることはなかった。
「、、、よし、さっきより入った。もう一度だ」
更にリンダに口移しで水を飲ませる。
、、、全部で10回ほどリンダに口移しで水を飲ませると、水筒は空になりもう一度泉から汲み直した。
意識はなくしているが眠っている。
顔色も元に戻っているから胃の出血は止まったのだろう。
「ひとまず応急処置できた、な。でも急いで家に戻ってレイラさんたちに伝えなければ」
元高ランク冒険者のあの夫婦なら傷の処置の仕方くらい知っているだろうと思い、リンダをおぶっていくことにする。
リンダの鎧を外し身軽な服一枚にして、鎧を袋にしまい込む。
着ていたコートを帯代わりにリンダとオレの体に巻きつけ、左手でリンダをおぶり、右手で太刀を握りしめた。
「よし。リンダ、すぐに連れて帰ってやるからな」
背負うリンダの膨よかな胸が背中に当たっているが、この場面でそんなことを考える余裕はオレにはなかった。
来た道を駆け抜けて出口を目指す。
帰り道に限ってモンスターが飛び出してくるのだが、
「邪魔だ、どけぇー!!」
出てくる側から太刀でなぎ払っていく。
天井からオレたちを狙うジャイアントバットが【間合い】に入ると勢い良くジャンプし切り落とす。
少し距離を空け棍棒を投げつけようとするゴブリンに一気に詰め寄り斬りはらう。
『【戦闘スキル】瞬地〈序〉を習得しました』
新しく手に入れたスキルの説明を見る余裕はなかったが、敵との距離を一気に詰めることができ次々と出てくるモンスターを倒していった。
。。。。。
「はぁっ、はぁっ、、、、出口だ!リンダ、もう少しだぞ!!
洞窟の入り口を飛び出し、一気に町まで駆け抜ける。
家にたどりつき勢い良くドアを開ける。
レイラさんが昼食の準備をしてスヴェンさんがテーブルに座っていた。
「お、帰ってき、、、リンダっ!!」
スヴェンさんが背負ったリンダを見て駆け寄る。
「カイト、何があった!?」
「はぁっ、はぁっ、、、最下層で現れたモンスターの矢が刺さって、応急処置はしたんですが、、、」
「レイラっ!リンダを見てくれ!!」
バタバタとレイラさんが駆け寄ってくる。
「これは、、、大丈夫よ!命の危険はないわ。二人とも、リンダを部屋に運んでちょうだい!」
洞窟の最下層から走り続けてきたオレよりもスヴェンさんの方が素早く動く。
「カイト!お前はそこで休んでろ!」
体の小さなスヴェンさんが自分より大きなリンダをヒョイと軽がる抱き上げる。そのまま二階の部屋へと上がって行った。
レイラさんも寝室から薬箱を持って二階に上がって行く。
(あとは、二人に任せよう。。。)
オレは床に座ったまま壁に背を預け、二階に続く階段の上を見上げた。




