15話 初クエスト達成
「午前中に来たばかりなのにね」
ハーネスト平原にある初心者向けダンジョンの前にオレとリンダは立っていた。
「まあ、目的が違うからね。とりあえずキュア草採取優先で行こうか」
クエストを再認識しオレ達は洞窟に入っていった。歩くこと10分ほどしてから、
「、、、まだ出るの?」
午前中に五十匹は殲滅したであろうゴブリンが集団でまた現れた。
パッと見で十匹くらいはいるだろう。
「どんだけ繁殖期なんだよ。。。とりあえず、倒しますか!」
オレは太刀を握りしめゴブリンに向かっていく。
「援護するわ!」
リンダが弓を引き絞る。
午前中よりもゴブリン達の動きが鈍く見える。体も軽く感じるし、オレが早くなったのかゴブリンが鈍くなったのか。。。
まぁ、レベルアップのおかげだな。
錆びたナイフを振り上げ向かってくるゴブリンを頭のてっぺんから一刀両断する。
横から体当たりして来たゴブリンを返す刀で横一閃なぎ払う。
反対側から飛び込んで来たゴブリンの攻撃を避けようとすると、そいつの眉間に矢が突き刺さり地面に倒れる。
午前中よりも明らかに倒しやすくなっている。恐らく、リンダ一人でも対応しきれるだろう。
『レベルが上がりました。身体能力が向上します。【戦闘スキル】間合い〈序〉を習得しました』
おっ?レベルアップしてスキルが手に入った。なになに、
【戦闘スキル】間合い〈序〉〜自分の間合いに入った敵意に対して即座に反応できる。半径1メートル以内。
なるほど、これは便利そうだ。自分を中心に半径1メートルの球体で結界を張るような感覚になる。後ろからの不意打ちにも対応できそうだ。
集団の最後の一匹を倒し地面に吸い込まれていくのを確認すると、消えた後に木造りの宝箱が出現していた。
「あっ、珍しい!レアドロップよ」
今まで倒したゴブリンは全て魔石を落としていた。くすんだ緑色の魔石は二束三文にしかならないようだが、宝箱は初めてだ。
「宝箱が現れるのはダンジョンだけなの。ダンジョン以外ではモンスターの死骸は消えないし、通常は出ない珍しいアイテムが入っているのよ」
そんなことを聞いたら開けたくてたまらなくなってくるじゃないか。
オレは宝箱を開けてみる。
中にはナイフのような刃物が入っていた。
「『ゴブリンダガー』じゃない!?武器としての性能は大したことないけど、シリーズものでコレクターの中で人気の品だわ」
なるほど、ダガーか。
ちょっとオシャレなナイフみたいだ。
柄のところに『D』と彫られてある。
あぁ、ちなみにアレルガルド言語に当てはめたアルファベッドだから実際はDとは書いてないんだよ。
「AからZまで集めたらオークションでかなり高額になるらしいわよ。豪邸一件分くらい買える金額になるらしいわ!」
「へー、そりゃすごいな。なんかのタイミングで集まるかもしれないし、とっておこうか」
オレはゴブリンダガーを袋にしまった。
「もう少し行ったところに確かキュア草があったわ、行ってみましょ」
リンダと共に奥に進んでいく。
「あ、あれよ」
リンダの言う通りキュア草が一本生えていた。白くて鐘のような形をした花が特徴的だ。
「一本だけだったみたいね。もう少し進みましょうか」
午前中ゴブリンを相手にしていた場所よりも奥に進む。途中スライムが数匹でてきたがあまり気にせず、向かって這ってきたやつだけ踏み潰し、ぷぎーと音を立てて消えていった。
「あっ、みてみて。階段よ」
「下に降りる階段か。。。どうする?」
「あたしは別に大丈夫よ、カイトにまかせるわ」
「じゃあ、降りてみようか」
午前中は行けなかった地下二階へと降りる。降りた先には沢山の、、、
ゴブリンが居た。
「繁殖期にしても、増えすぎだろっ!」
オレとリンダは迫り来るゴブリン達を切って射って切って射って切って射って切って射って切って射って切って射って、、、
『レベルが上がりました。身体能力が向上しました。【戦闘スキル】間合い〈中〉を習得しました。【能力スキル】魔素感知〈中〉を習得しました』
レベルが11になった。
あれだけ倒せば当然かと思いながらも、午前中に倒した数と変わりないが1しか上がらないところをみると前より上がりにくくなっている。
戦ってる時に【戦闘スキル】間合いがすごく役に立った。半径1メートル以内に入る敵の数や攻撃してくる位置がすぐにわかる。感覚を集中すると魔素感知も同時に発動しているのだろうか敵の動きも手に取るようにわかった。倒し終わる頃には間合いと魔素感知が〈中〉に上がっており、スキルを確認すると間合いは3メートルに伸びていて魔素感知は精度が上がっていた。
「はぁっ、はぁっ」
「もー、疲れたー!」
「はは、でも午前中より楽に片付けられたね」
「そーだけどー!はーしんど」
ふぅ、としゃがみこむリンダ。
「どーしよか?ここら辺で戻る?」
「大丈夫よ!さっさと採取してクリアしちゃいましょ」
倒した中からレアドロップの宝箱が出てきていたので回収する。
中にはゴブリンダガー『H』が入っていた。体感的に五十匹に0〜1個でドロップするという感じかな。シリーズ全部集めるとなったら骨が折れるな、これは。
地下二階を進むとすぐにキュア草を三本採取できた。残るは六本で達成だ。
「ん〜、なかなか生えてないわね。運が良ければ1箇所に10〜20本くらい固まって生えてるのに」
「まぁいいさ。気長に探そう」
歩いていると天井から不穏な感じを感じた。進むに連れて強まっていく。
「リンダ、天井に何かいそうだ。気をつけて」
「わ、わかったわ」
オレの後ろにリンダがピッタリくっつく。
数メートル歩くとハッキリわかってきた。
天井に三匹モンスターがいる。
「あそことあそことあそこ、三匹モンスターがいる」
「えーと、、、あっ!見つけた。魔素感知ができると便利ね。あたしも覚えれないかな」
天井に三匹の大きなコウモリのようなモンスターが逆さにぶら下がっていた。
「ジャイアントバットよ。すばしこいから気をつけてね。とりあえず、あたしが射るわ」
リンダの放つ矢が一匹のジャイアントバットの胸を射抜いた。ボトリと地面に落ち消えていく。残りの二匹がこちらに気付き飛びかかってきた。
「く、、かなり早いな」
「飛んでたら狙いがつかないじゃない」
チョロチョロと周りを飛び交うので的を絞りにくい。だが間合いに入ってくるとすぐにわかる。
目で追うよりも目を閉じて感覚で探ってみることにした。
「ちょっ、カイト!危ないわよ!!」
半径3メートルはオレの間合い。
神経を研ぎ澄ます。。。
「そこだ!」
キィー!
と一声あげ一匹のジャイアントバットを両断した。
「もう一丁!」
頭上後方から飛びかかってきたジャイアントバットを振り向きざま切り捨てる。
「すごい。。。」
集中力をあげれば結界のように自分の周りを守れるな。慣れるまで使い込んで行こう。
オレたちは先に進んだ。途中大きな蜘蛛のモンスターが出てきたがリンダに射抜かれていた。
「見つけたわ!これで八本目ね、あと少しよ」
地下三階に降りる階段の手前でキュア草を見つけた。地下三階に降りるとすぐに五、六本生えていたので十本揃えることができた。
「やったわ、十本達成よ!」
「これでクエスト達成できるなそろそろ戻ろうか」
「うん、お腹空いちゃった。早く帰ろう」
オレたちは来た道を戻る。帰り道でもモンスターが出てきたが数匹なので問題なかった。
地下三階までで出てくるモンスターは、
・スライム
・ゴブリン
・ジャイアントバット
・ビックタランチュラ
の四種類だった。
初心者向けとあってそこまで強くないモンスターだけのようだ。ゴブリンの数は異常だったが。
洞窟の出口が見え、オレたちは外に出た。
「あー、戻ったわね」
「そうだな、けっこう時間経ってたんだな。ギルドに戻って家に帰るか」
外は日が落ちて夕暮れ時だった。
ーーーーーーーーーー
完全に陽が落ちる前に町に戻りギルドに入っていった。
「ハインスさん、キュア草を採って来ました」
「お、早いですねぇ。新人とは思えないです。リンダさんが活躍したんですね」
「それもあるけど、カイトの強くなる速度が早いのよ。あたしは後方から支援きてるだけだったわ」
「そうですか、期待のルーキーですね。それでは、キュア草をこちらに」
オレはキュア草を十本取り出しカウンターに置いた。
「、、、はい、確かに。それではこちらが報酬の5000ルギです」
「ありがとうございます」
オレは報酬を受け取りがま口に入れる。
「ねぇハインスさん、キュア草採取のクエストにしては報酬が高めじゃないですか?」
「はい、普段は3000ルギ程なんですがキュア草の良く取れる平原の洞窟がゴブリンの繁殖期になってまして」
「、、、みんな知ってたんだね」
「ええ、冒険者にとって情報は大事ですので。リンダさんはご存知なかったんですか?」
「お父さんに朝聞いたばかりよ」
「そうですか、スヴェンさんから。あの方も優秀な冒険者だったと聞きますので、何かあれば助力を得るといいでしょう」
「あと、聞きたいんですが。オレのレベルが11に上がったんですけど、進級試験は受けれるんですか?」
「おお、そうなんですね。では、こちらの板に手を置いていただけますか?」
ハインスさんがカウンターの壁についているガラス板の様な物を指差した。
「こう、ですか??」
板に手を置くと小さな青白い炎がいくつも灯り始めた。
「十、十一。。。はい、カイトさんは適正レベルに達しているので昇級試験を受けることができます。今から手続きしますか?」
「いえ、今日はもう帰って休みます。明日また受けに来てもいいですか?」
「そうですね、クエスト後なのでそれがいいでしょう」
「あ、あたしもやる!」
リンダが手を置くと炎が16個灯った。
「お、リンダも上がってるじゃないか」
「へっへーん。あたしだって頑張ってるのよ。すぐにカイトに追い越されそうな勢いだけど、、、」
「いえいえ、リンダさんもすごいですよ。カイトさんは明日4級試験を受けるとして、リンダさんも3級試験を受ける日も近いんじゃないですか」
「よし、負けないからねカイト」
では明日また、とハインスと挨拶しオレたちはギルドを出た。
「今日も疲れたわね、さぁ帰りましょ」
オレとリンダは家に向かって歩き始めた。
ーーーーーーーーーー
「まぁ、すごいじゃないのカイトさん」
夕食をスヴェンさん、レイラさん、リンダと4人で囲みオレは料理にがっついていた。
「ふん、レベルが低いうちは上がりやすいからな」
「あなたっ!カイトさんとても早いペースなのよ、自信持っていいわ。明日の試験もきっと受かるわよ」
「ふぁい、がんばりまふ!」
口いっぱいに料理を詰め込んで返事をした。
「そういえばリンダ、4級の昇格試験てなんだったの?」
「んーと、あたしの時はゴブリン10匹と対戦だったわ」
そうか、なら問題なさそそうだなとオレは安心した。
「まぁ、試験官によっても内容が変わるからな。特にあの親父の試験は意地が悪いからな」
「アジールさんのこと?あたしの時は違う人だったわ」
ギルドマスターの時は難易度が上がるのか。出て来そうだな、あの人。
オレはお腹いっぱい料理をいただいた。
レイラさんがコーヒーの様なものを出してくれる。
「コーシー好きなのね、カイトさん」
コーシーというのか、ほぼコーヒーだな。
オレはブラックが好きだったがコーシーはほんのり甘みがある。美味しいからいいが。
「あ、レイラさんこれが今日の報酬です」
オレはがま口から500ルギを取り出しレイラさんに渡す。
「あらあら、こんなことしなくていいのに」
「いえいえ、働かざる者食うべからずですので、納めさせてください」
「ふん、当然だな。精々稼いで来やがれ」
「あなたっ、もう!カイトさんありがとうね」
「レイラさんの料理凄く美味しいので、かなり満足です。こちらこそありがとうございます」
「あら嬉しいわ。これはリンダにもしっかり料理を教えておかないといけないわ。ね、リンダ?」
「あ、あたしだって料理くらいできるわよ」
「まずは卵焼きを焦がさないで作れる様になりましょうね」
「〜〜っ」
リンダは恥ずかしそうに俯いてしまった。あまり料理は得意では無いのか?
「さ、二人とも身体を拭いて今日はゆっくり休みなさい」
「はあい」
この世界に風呂はないらしい。あるのかもしれないが、まだ見たことはない。
熱い風呂に浸かりたいなと思いながら洗面所でタオルで身体を拭いて頭を水で洗い流す。
「お待たせリンダ、、、ん?どした?」
上半身裸でズボンだけ履き、タオルを首にさげたままリンダに呼びかけると、ほんのり顔を赤らめたリンダがオレを見ていた。
「、、、けっこうガッチリしてるのね」
「あらあら、いい身体ねえ。これはリンダが見惚れるのはわかるわぁ」
レイラさんがニヤニヤしながらオレとリンダを見ている。
「お、おい!オレの方が逞しいんだからな!」
スヴェンさんが競う様に上の服を脱ぎ始めた。
うん、少年の体だ。
確かに引き締まった身体をしているが…
「〜〜っ、み、見惚れてなんかないし!」
リンダは勢い良く洗面所に駆け込みドアを閉めた。
「どうしたんだ、あいつ?」
「あらあら、鈍いわねぇカイトさんは。あんなにリンダを誘惑しといて」
「えっ?オレは何も、、、」
「てめぇ、細切れにしてやる。。。」
ギャーギャーと喚き始めたお子様を抱きかかえレイラさんが「ゆっくり休んでね」と二階に送り出してくれた。
階段を上る途中、
「孫が産まれたらあたしたちもお爺ちゃんお婆ちゃんね、ふふふ」
「なにぃっ!そんなことさせるか、させてはたまるかぁっ!!」
と声が聞こえて来たがとりあえず無視して部屋に入っていく。
「はぁっ、今日もかなり疲れたな」
いつの間にか整えられたベッドに横になる。いい匂いがする。レイラさんに感謝だ。
「明日は進級試験、か。早く強くならないと」
疲労と満腹感で満たされたオレは目を閉じるとすぐに眠ってしまった。




