サイドストーリー ロシア編
サイドストーリーの様な感じです。
第4話
喫茶店を後にした3人だが、何かを思い出したかのように坂口が喋った。
「そういや、俺の友人にコテッコテの戦車好きがいてな。」
それがどうしたんだと顔に書いてある日下部に対して、もう一文付け足しがあった。
「そいつ、手練れのエンジニアでさ、5年前から現在進行形でロシアで単身赴任しながら廃棄された戦車や銃を復元するって言ってよ…。」
それを聞き日下部は話に入って大声で喋ってきた。
「まさかとは思うが…。そのエンジニア…!?」
「あいつ…。戦車好きだからなぁ…。下手すりゃその可能性も…。でも日本人だから安心しろ…。安心しろ…。」
「安心しろの説得力がないんだが…。」
他の人間が。しかも民間人が戦車娘とパートナーとなる可能性がここで上がってきた。だが相手は日本人。安心できるだろうと思っていたが。だが、日下部の考えは甘かった………。
2016年 5月30日 AM 2:27 ロシア アパチートゥイ郊外 ガレージ
「ふぅ…これで…完成した…!やったぁぁ…」
掠れた声で喜びを上げるこの男。
名前は 須藤 礼二 某重工業会社のエンジニア 今は大規模農業の農業機械のエンジニア 1986年 5月30日生まれ ロシアに単身赴任して5年になる。
彼の趣味はソ連、ロシア兵器集め。日本に居た際はレプリカを収集してたが、単身赴任でどうせロシアに行くならぜひ本物をといい、廃棄されたモノを自らの足で手に入れて故障などしているモノを各パーツを外し、使えるものを組み合わせて直してきた。1年の間で、トカレフ、シモノフ、モシン・ナガンなど、銃は全て直しコンプリート。しかしそれだけでは飽き足らず、そこから4年、今度は戦車に手を出し廃棄された様々なモデルのT-72のパーツ、モジュールを拾い復元しながら修復してきた。砲塔、車体は秘密裏に入手し、復元に4年掛かったがついに完成した。動力もしっかり動く、砲塔も旋回できるし、砲弾も込めれば本気で撃てる。本物のT-72を今日完成させた。だが彼にそれを動かす気は無い。あくまで観賞するだけのものだから。なら何故全て使えるまで復元したのか。おそらくエンジニアとしての意地なのだろう。
「あぁ…6連勤と復元の徹夜の連続で身体がもたない…。」
ここまでかと思うほどの執着する性格。趣味に溺れる人はこうなるんだと思わせる例だ。
「でも…綺麗だ…量産性と火力を求めたフォルム…。祖国ソ連の力をと言わんばかりのせんしゃ…。」
だが喋る言葉が遠くなるにつれて身体が床に近づくように倒れていった。当たり前だ。6連勤と徹夜なんて無茶をやる。いくら1日休みがあるからと言っても寝るのは4時間。残りの20時間は修復に時間を費やしていたのだから。それを4年間。常人ではありえないほどだ。
ふと腕時計の日付を確認すると「5月30日」と表示されていた。
「そうだ…今日おれのたんじょうびだっ…。ぐうぜん…だな…おれと…お前のたん…じょうびだ…おめ…でとぅ……。」
息を引き取るかのように目を閉じて眠りについた須藤。彼の満悦の寝顔を見ると、今回の達成感が伝わってくるようだ。
そして、その時は訪れる。
同日 AM 8:03 同所
「………きて…。………てばぁ。」
何か俺に話しかける声が聞こえる。お願いだ…もう少し寝かせてくれ…。
「もう!!起きてってばぁ!!」
甲高い大声と強烈なビンタを顔面に食らった。それには流石の須藤も跳ね起きる。
「んんっ!?なんだ!?ダレナンア!?」
寝起きのせいでろれつが回らない。PCの様に、起動まで時間がかかる様に少しずつ目覚める。目を開けると、目の前には女の子が立膝をしてこちらを見ていた。赤に近い金髪を二つに束ねた髪。そして透き通るような青い瞳。ロシア人のようだ。
「いい加減起きてくださいよ同志。もう朝ですよ?」
同志??何を言っているんだこの女の子は???とまるで理解していない須藤。だが彼は彼自身の大問題に気づく。
「おい!!私のT-72は!?どこいった!?」
彼の苦労の結晶とも言えるT-72がガレージから消えている。須藤は女の子に向かって問いかける。
「なあ君!ここにあった戦車を知らないか!?」
女の子が答える。
「同志、何を言っている。私はここにいるぞ。」
ここにいる?何を言っているんだこの子は??それより復元した戦車が無いのだ。訳の分からない事を言っている彼女なら何かしら分かるはずだ。彼は女の子に向けてもう一度聞く。
「お嬢ちゃん、ここのガレージにあった、でーーっかい乗り物を知らないかい?」
「何度も言っておるだろう同志、私がそのT-72だと何度も…。」
「笑わせるな。じゃあ証拠を見せてもらおうか!!」
気が動転してるのか確信が欲しいと思われる須藤。少女はそこまでして信じないか、という様な顔をしていた。当たり前だ普通はありえない事なのだから。
少女が目を閉じると身体からまばゆい光が現れた。それと同時に腕には砲塔、背中にはAV型の840馬力のエンジン。その他外見とパーツは廃棄されていた様々なモデルの使える部分を合わせたせいか、その部分の特徴とも言える所が表になって表れている。須藤は確信した。間違いなく私の復元した戦車だと。
同日 AM 8:17 キーロフクス ロシア陸軍特殊技術科研究
ビーッ!ビーッ!
館内にアラートが鳴り響く。大勢の研究員が大急ぎで配置に着く。
「アンノウン波動探知!!」
「波動値は??」
「計測に手一杯!すいません。」
「座標は?」
「アパチートゥイ郊外です。早速出向きますか??」
「当たり前だ。何があってもヤツを確保せよ!」
同日 AM 8:49 須藤宅 ガレージ
須藤はこの擬人化する出来事をT-72から聞き把握した。だが…。
「同志須藤の誕生日は5月30日。仕事の日も休みの日でも私の復元作業ばっか。おまけに食事はインスタントばっかり。死ぬわよ??」
何故俺がこんな娘に説教を受けているんだと複雑な心境の須藤だが。誕生日も知ってて俺の日課、作業中に語っていた仕事の内容までも喋る。改めて確信する。
「でも、今こうして居られるのも貴方のお陰だけど…///」
少し照れている。これがツンデレというものなのか、この身に実感する。
「それよりお腹すいたんだけど、何かないの?」
「え、飯なら横のドラム缶にあるぞ?」
「馬鹿ね!この身体でオイル飲めって殺す気!?人間の食事をとらないといけないの!!」
甲高い声で怒られる。お前の事情は知らねぇよ…。
と、渋々ガレージの隅にある食糧箱の中からインスタントラーメン、使い捨てフォーク2つとつけっぱなしのポットを持ってきた。
「結局インスタントなのね。」
「うるせぇ、エンジニアは時間がねぇの。」
時間が無いって。こんな事に費やすからよと言おうとしたT-72だが。この言葉は流石にまずいと思い口にするのを止めた。
ポットのお湯を入れて3分待つ。気まずい沈黙が続く。
3分後
「おし出来た。食うぞ。頂きまーす。」
「イタダキマス?」
初めて聞く言葉に首をかしげるT-72。それに須藤が答える。
「頂きまますは日本での食事の挨拶だ。って、お前日本語喋れるんだな。」
今更な回答に飽き飽きするT-72だが、素直に答える。
「ずっと貴方の独り言を聞いて覚えたわ。」
無意識に語り掛けてた事を独り言と呼ばれると恥ずかしい。須藤は少し目を逸らした。
「ま、改めて、頂きまーす。」
蓋を開けると美味しい香りが溜まった湯気が舞う。それに食欲をそそられ2人のフォークが麺を刺した時だった。
ドンドンドンドンッ!!
荒いノックをする音がした。
食事を止め、急ぎ玄関の方へ向かいドアを開ける。すると目の前には小銃を持った軍服姿の兵士が数人立っていた。外の奥を見ると装甲車が数台停まっていた。すると玄関の前にいる兵士が口を開いた。
「Mr.Sudou。貴方に少しお話があるのですが、ここでは何なので、私達と一緒に。」
ちょっとチグハグな日本語で話しかける兵士。須藤はそれに対し流暢なロシア語で答える。
「ロシア語は喋れます。あなた方の上官を出して頂けないだろうか?」
すると、兵士の後ろから体格の良い髭を生やした男が現れた。胸には数個の勲章がついていた。
「いきなりの訪問を許してほしい。貴方方の力を借りたくてここに来た。悪いが、もう一人、貴方の家にいるお方も一緒に来てほしい。」
最後の文脈を聞いた時、須藤は嫌な予感がした。ガレージは防音で音漏れもないはずなのに。何故もう一人いると分かる??須藤は大人しく、兵士の言う事を聞いた。
「分かりました、連れてきます。私達に何もしませんよね?」
「安全は保障します。さあ。」
兵士が催促する。須藤はT-72をガレージから呼び出し、兵士らと一緒に装甲車へ乗車した。
装甲車で移動している際、須藤の頭の中は考え事で一杯だった。
((何故俺らの力が必要なんだ。俺はただのエンジニアだ。もしかして彼女があの戦車だということに何か軍が感づいたのか…?))
考え事をしていると装甲車が停まった。予兆もなかったせいか、停止したせいで須藤は兵士の身体へもたれかかるように流れていった。兵士に一声謝る。装甲車の後部のドアが開き兵士が降りろと呼ぶ。装甲車内が暗かったせいか、外の光に幻惑され目を閉じる。光に慣れ目を開けると、そこは軍の施設だった。
次回でこの回は完結。戦闘パートあります。初めて書く戦闘パートなので上手く書けるかわかりません。
ではまた次回………