私が弟にとられそうです
『彼氏が弟にとられそうです』の続編にあたりますが読まなくても大丈夫です(´▽`*)
「えー?田中さん彼氏いるの?うっそー!」
会社の先輩で超リア充女子の小倉愛から合コンの頭数合わせに誘われた。
私こと田中シオン22歳は誠実にお付き合いしている彼がいるので勿論断ったのだが、どうも小倉先輩は私に彼氏がいる事を信じていない。
それもしょうがない……かもしれない
私の容姿は至って平凡な顔立ちにストレートボブヘアで可もなく不可もなく、性格も特別活発でもなく地味でもない。はっきり言って普通である。
それに比べ小倉先輩はいつもキラキラしていて……そんな彼女からしてみれば私に彼氏がいるように思えないのだろう。
「すみません、だから他をあたって下さい」
私は困った顔をして小倉先輩に言うと、人を小馬鹿にしたような笑いを浮かべて
「じゃーさー、今度の花見の時、連れてきてよー」
まるで「どうせ嘘なんでしょ?」という顔をしている。
さすがに私はムッとしてつい、勢いで
「わ、わかりました!」
と、啖呵を切ってしまった……
「勇希ーどーしよー泣」
私は家に帰るとリビングのソファで体育座りをしてスマホをいじっている義弟の勇希に泣きついた。
親が借りてるマンションでふたり暮らしをしており、2つ年下の勇希は黒く鬱陶しい前髪の隙間から私をチラ見してまたスマホに視線を戻し尋常じゃないスピードでタップしている。相変わらずのゲームオタクっぷりだ。
「大黒さんに言って来てもらえばいいじゃん」
スマホを見ながら最もな意見を言う勇希の横に座り私はがっくし肩を落とし落ち込んだ。
そう、それが出来たら良いのだが……
私の様子をみて勇希が首を傾げ
「……何かあった?」
珍しくスマホから視線を私に移し心配してくれた。
何だかんだ言いながらお姉ちゃんを心配してくれるのね。嬉しいよー弟よ!
私は勇希がいない方にカラダを倒しソファにもたれかかった。
「……ケンカしたの……」
私の彼は大黒悠人26歳で雑誌編集の仕事をしていて、勇希のバイトの上司でもある。そんな彼と付き合って半年、初めてケンカをした。ケンカの理由は……その……付き合って半年もなるのに彼がキス以上をしてこない事に私が不安になった訳で……
「へー」
勇希はまたスマホに視線を戻しあまり興味がないような返事を返す。私はそんな勇希に構わず勝手に話続けた。
「付き合ってもう、半年だよ!なのに……その……ねえ!勇希は彼女いないの?」
「いるように見える?」
う……もさったい真っ黒な前髪に細身の体つきに冴えない服のセンス。360度オタクにしか見えないので彼女いるように見えません!
「じ、じゃーもし彼女が出来たら半年もキス以上しないとかって出来るものなの?」
私は顔を赤くして横目で勇希を見ているとスマホをタップする指が止まり固まった。
「……それ、俺に聞くの」
「う……」
確かに……悠人さんは勇希のバイトの上司で姉との関係を相談されても答えにくいかも。まして、セクシャル面の事なら尚更だ。 私のバカバカバカ! 少し反省していると勇希が立ち上がり
「俺だったら我慢出来ないと思う」
小さな声でつぶやき自分の部屋に入って行った。
そうか……そうだよね……
私はソファに顔を埋めて深くため息をついた。
もう、かれこれ3日間悠人さんと連絡を取っていない。優しくて大人で私の趣味にも理解力があって彼の事が大好き。私は自分の部屋のベッドに寝転び本棚に並んでいる沢山の刺激的な漫画やアニメやゲームソフトやDVD等を遠目に眺めていた。
やっばり、私に魅力がないからだろうか
嫌われていると思ったことはなかったけど、キス以上しないということは女性として悠人さんの欲求が湧かないのだろう。悠人さんは今、ギャルゲー雑誌編集の仕事をしているらしく刺激的な情報が溢れている。そんな彼女らからしてみたら私なんて……ギャルゲーのキャラ達に嫉妬をして目に涙が溜まった。お気に入り乙女ゲーキャラがプリントされている抱き枕に顔を押し当てる。
あ、シミになっちゃう……
そして、イソイソとウェットティッシュで抱き枕の涙後をふいた
日曜日、特に予定もなく家でうじうじしていると勇希が珍しく買い物に誘ってきた
「姉ちゃん早くー」
「わかってるわよ!ちょっと待って!」
大型家電量販店でスタスタ歩く勇希はチェックのシャツをズボンinしてワインレッド色の大きなリュクを背中に背負って歩くのがめちゃくちゃ早い。私はそこそこお洒落をして少しヒールがある靴を履いてきたのでそのスピードについていけなかった。
「もうちょっと女性に速度合わせなさいよ!!」
「えー色々回りたいしー」
仕方ないと歩くスピードを落として私の斜め前を勇希が歩く
何で横に並ばないのだろう……勇希のお目当てはやはりゲーム売り場で新作の狩ゲーを買いに来たらしい。
「珍しいわね。勇希が特典つき先行予約販売を買わないなんて」
「ん?これ姉ちゃんのだよ」
勇希はレジで支払いを済ませ今買ったばかりのソフトが入った袋を私に差し出した。私はキョトンとしてゲームソフトを受け取ると勇希はリュクサックからいつの間にか持ってきた私と勇希の3DSを取り出し
「ひと狩り行こうぜ?」
長く鬱陶しい前髪で目は見えないが口元がニヤッと笑っている勇希を見て私は勇希なりに私を励ましてくれているのだと気付き嬉しかった。それから私たちは近くのショッピングモールのフードコートに向かいふたりで3DS通信をしてゲームをしていた。初心者の私はクエストに行き詰まる度に勇希に助けてもらい数時間ゲーム三昧だ。操作方法が難しく、目が……疲れるゲームだ……
「あら?田中さんじゃない?」
聞き覚えのある女性の声に振り返るとそこには小倉先輩がとびっきりなお洒落をして少しイケメンな男の人と立っていた。私は普通に「偶然ですねー」と挨拶をすると勇希は顔を背け俯いている。小倉先輩は手にゲーム機を持った私たちをジロジロ見てクスリと笑い
「まさかー、その人が田中さんの彼氏?」
「いえ、弟ですよ……」
その人を小馬鹿にしたような話し方に私はまた少しムッとしてしまった。小倉先輩はこういう話し方をする人だと私はわかっているが勇希はきっと傷ついただろう。
「そう、じゃ今度の花見に彼氏?見せてね、じゃね」
わざとらしくイケメン彼氏の腕にしがみつき、嫌味な笑顔で手を振って去っていく小倉先輩に私は苦笑いを浮かべ手を振り返し勇希を見ると俯いたままゲーム画面を眺めている。
「勇希、なんかごめん。あの先輩「誤んなよ!」」
私の言葉を遮ります少し強い口調で言った勇希の表情は見えない。それでもきっと悲しい顔をしているのだろうなと姉の勘でわかる。私は自然と俯いている勇希の頭に手を伸ばし撫でていた
いつもなら「やめろよ」と言って払いのけるのに勇希は黙って俯いたまま大人しく撫でられていた。
それからゲームをやり疲れたので夜ご飯の材料を買って家で作って食べる事に決まった。食品売り場で勇希が籠を持って私が材料を入れていく。端から見たら、やっぱり私達はカップルに見えるのだろうか? 籠の中を見るといつの間にかお菓子と食玩が増えている。
ガン⚪ムフィギア……それ高いやつだよね?
勇希は何食わぬ顔をして誤魔化しているが夜ご飯の材料の買い出しは私が支払うので食玩を売り場に返した。
「けち……」
こういう子供っぽい勇希に私はホッとして笑った。
よし!帰ってご飯食べたらまたゲームしよう(狩りにいこう)!
勇希に買ってもらったゲームソフトのおかげで私は無駄にスマホを眺める時間が少なくなった。悠人さんからの連絡を待つよりもハマってしまったゲームに夢中になっていた。
決して彼を蔑ろにしてる訳じゃなく、ある意味現実逃避だろう
そうこうしていると会社主催の花見の日がやって来た。この花見は家族など呼んで楽しむ行事なので彼氏や彼女を呼ぶ人も少なくない。結局私は、悠人さんに2週間連絡していない。
彼から連絡がないということは……これが噂の自然消滅ってやつか
私はかなり落ち込みながら仕事が終わって花見会場に向かった。桜は丁度満開の時期を迎えており、ライトアップされた夜桜から時々はらはらと花びら散り落ちる。幹事グループが花見会場を見事に作り上げており、もう20人ぐらいでフライング宴会が始まっていた。私もその中に混ざり、ビールをもらい飲み出すと一時してあまり聞きたくない声が聞こえてきた。
「お疲れさまですーあら、田中さんもう来てたの?早ーい」
小倉先輩のちょっと鼻につく高めの声に私は苦笑いを浮かべていた。今日も自分はイケてる女子よと言わんばかりにキラキラしている彼女は今、彼氏と自然消滅したかもっと思っている私には眩しすぎてめまいがする。
「あれー?彼氏さんは?」
少しわざとらしく聞いてくる小倉先輩に私は手を振り
「今日、予定があって来られないらしいです」
バレないように嘘をついたが、そんな私を見透かすように人を小馬鹿にしたような笑いを浮かべている小倉先輩は私に言った。
「じゃ弟くんでも呼べば良かったのに」
でもって……
勇希をバカにしたようにクスクス笑う小倉先輩に私は顔を曇らせる。私の事はいくら言われても我慢出来る。でも、勇希の事を馬鹿にするのはとても腹が立って許せなかった。
私は少し睨み気味で小倉先輩の方を向いて
「小倉先輩も彼氏さんいらっしゃらないみたいですが?」
「……私?あー別に彼氏ひとりじゃないし」
ぬぁ?彼氏ひとりじゃないって?
私はなんと恐ろしいリア充女子と呆れた顔していると花見の開会式が始まった。社長の挨拶が終わり乾杯の音頭で皆が一斉に飲み出すと本格的な宴会が始まる。私は小倉先輩と関わりたくないので出来るだけ彼女のいない所に行くが今日に限って小倉先輩が私に付きまとってきた。
「ねぇー田中さんの彼氏ってどんな人?てか、彼氏本当にいるの??」
お酒も入り小倉先輩の嫌味度は更にレベルアップしている
私も多少お酒を飲んでおり、こんな強敵モンスターから逃げるしか方法が思いつかない。
ああ、大樽爆弾が欲しい……誰かこいつを麻痺させて捕獲してくれ。そんな風にゲーム脳になっている私の耳元で小倉先輩が甘く囁く
「男、紹介してあげよっか?」
お酒臭く甘い吐息に私は顔を歪め身を少し引く
「だから……彼氏いますから……紹介とかいいですって」
「じゃーなんでそんな欲求不満な顔してるの?」
は?
私は驚き赤面して小倉先輩を見ると彼女が悪魔の微笑みを浮かべていた。私……そんな顔をしていたのだろうか? 確かに悠斗さんに相手にされず欲求不満っちゃーそうだろうが、顔に出る程!?
両手で頬を抑え更に顔を赤くして俯いた
「田中さん……かわいい」
頭の上から降り注ぐ妖艶な声に私は動揺していると背後から声をかけられた
「やっと見つけた……」
聞き慣れた声に私は振り向くとそこには……
あれ?勇希がいない?
周りをキョロキョロと見回しても私が想像している勇希の姿が見当たらなかった。
幻聴?幻聴なのか?!
目の前に立っている、細身のイケメンは苦笑して私を睨んでいるが……
「どこ見てんだよ」
真っ黒だった髪はライトブラウンに染められ短くなって無造作にアレンジしてある髪にくっきりした瞳とスッと通った鼻筋にやたらキレイは顔をしており、服装もいつものオタク?ファッションではなく白いシャツに黒のジャケットを羽織ってデニムのダメージ加工パンツにカーキのハイカットブーツを履いている。
誰だ!このジャ○ーズ風な若者は!どこにそんな服隠していたの?
周りの若い女の子が「あの人かっこよくない?」っと小声で話しているのが聞こえるぐらいのイケメンから私の弟の声が聞こえる。
小倉先輩も目の前のオシャレイケメンに釘付けになっていた。
「……遅くなってゴメン」
少し照れながら視線を逸らしている勇希がなんでココにいるのか解らずキョトンっとしていると私の肩に手を回しグイッと身体を寄せて小倉先輩の方を見た。
「俺の彼女なので変な誘いはやめて下さいね」
ニコリっと笑っている勇希だが目が笑っていない。
小倉先輩は顔を引き攣らせ「じょ、冗談よ冗談」っと言ってその場を逃げるように去って行った。
私は勇希の顔を見て目を細める
「いつから私の彼氏になったの弟よ?」
「だって姉ちゃん困ってたんだろ?この恰好じゃあの弟とは思わなだろうし」
確かに。姉である私も今だにここにいるイケメンがあの勇希とはまったく思わない。
「どうしたの?その恰好」
「バイトの服借りて来た」
バイトの服?ギャルゲー雑誌編集の?
私が首を傾げると勇希は小さくため息をついて
「なんだっけ?読モってやつの撮影用衣装だっけ」
なんの雑誌のモデルだ!?コスプレには見えないが……
「急きょ雑誌枠が足りなくてモデルの手伝いをして、それ以来たまにメンズファッションモデルのバイトしてるんだよ」
勇希がめんどくさそうに説明した後、会社の女の子が一人両手にビールを持って近づいてきた。顔を赤くして目をハートマークにして勇希に飲み物を進めて、ついでに私にもビールを渡してきた。お酒を進められ少し困ったように飲む勇希を見て、更に周りに女子が増えていく。一応この場では彼女であるはずの私の存在がまるで空気のように扱われているような気がするが気のせいだろうか? 次から次へとアルコールを進められ、女子免疫力の弱い勇希は断る事も出来ずどんどん飲んでいく。
私はだんだんと心配になり止めに入ったが遅かった……イケメンの頬は赤くなり目がトロンっと蕩けている。周りの女子はきゃーきゃーっと喜んでいるが私は青ざめた。
「ゆ、勇希飲みすぎだよー帰ろう」
私はビール2杯ぐらいでやめておいたのでそこまで酔っぱらっていなかったが、勇希は軽く5杯は飲まされている。足取りはしっかりしているが潤んだ瞳が周りを悩殺して何とも危険を感じる
私は勇希を囲む女子たちから救い出しタクシーに乗って帰る事にした。勇希はテンションが上がっているのかニコニコしてずっと私と手を繋いでいる。マンションの前につき、タクシーを降りてロビーに入ろうとした時
ひとりの男の人の影が見えた
その表情は無表情でこちらを見て目を細める。久々の悠斗さんは相変わらずイケメンで仕事帰りなのかジャケットに仕事用のカバンを持っている。
「悠斗さん?」
いつも笑顔だった悠斗さんがあからさまに不愉快という顔をしてこちらを睨んでいる事に私はハッと我に返った。夜遅くにイケメンに化けた酔っぱらいの弟と手を繋ぎタクシーで帰ってきた私
悠斗さんはどう見えているのだろう。
「……」
悠斗さんは視線を逸らし私たちの横を黙って通り過ぎる歩いて去って行こうとした。
完全に誤解している!
焦った私は勇希から手を離し悠斗さんを追いかけようとしたが勇希が痛い程手に力を込めて離さない。
「ちょ、勇希離して!悠斗さんの所にー」
力のこもった手をグッと引き寄せ勇希は私を抱きしめた。私は驚いて身動き出来なくなり顔を赤くする。
「嫌だ……」
小さな声で呟く勇希の声は震えていた。
同じぐらいの身長の勇希に力強く抱きしめられ今まで感じたことがない感情が溢れてくる。
勇希は私の弟で小さい頃から一緒に育った家族。
そんな勇希はいつの間にか大きくなって……まさか、血がつながっていない勇希は私の事を
でも……でも……
私は力一杯勇希を突き放し顔を真っ赤にして俯いたまま顔を見ないようにした。
「……ッ、勇希ごめん!!」
その場に勇希を置き去りにして悠斗さんが歩いて行った方向に走って追いかけた。走ってたった2杯のビールのアルコールが酸欠にさせ頭がぐらぐらする。それでも辺りを見回し悠斗さんの姿を探す。道路を渡った先でタクシーを停めて乗り込もうとしてる悠斗さんの姿を見つけ焦って道路を横断すると車にクラクションを鳴らされた。その音に悠斗さんは気が付きこちらを見て驚いている。
「待って!お願い待って!!」
大きな声を出し道路を渡りきりタクシーに乗ろうとしていた悠斗さんの所に駆け寄った。悠斗さんはタクシーの運転手に謝罪をしてタクシーは離れて行く。私は悠斗さんの傍で息を整えた。
「……あんな無茶したら危ないよ」
いつもの優しい声が静かに聞こえ、私が顔をあげると悠斗さんは少し悲しい顔をしていた。
「だって……悠斗さんが行っちゃうと思ったから……」
「シオン無理しなくていいよ。他にいい人が出来たなら仕方がない」
他にいい人?
そんな人いない、あれは弟だし……
「あれは勇希だよ!」
「え?」
やっぱり、悠斗さんは誤解していた。目を丸くして気まずい顔をしている悠斗さんだったが何か考えて顔を曇らせた。
「ねえ、シオン。スマホ番号変えた?」
突然変な事を聞いてくる悠斗さんを不思議に思い首を振ると更に苦虫をつぶした顔になる。
「……あいつ……」
話が見えてこない
「悠斗さん?」
私を見るといつもの様な笑顔に戻り右手を私の頭に乗せてゆっくり悠斗さんの胸に引き寄せる。悠斗さんの心地よい心臓の音が聞こえる。私の髪を撫でながら
「ごめん。俺誤解してた。あいつに騙されていたんだ」
「騙されていた?」
「何度電話しても着信拒否になるし、勇希君に相談したらシオンのスマホの番号変えたって言われて、俺そんなに嫌われたのかと思った」
着信拒否?私は着信拒否にした事もスマホの番号を変えた事もない。カバンの中に入っているスマホを取り出すと悠斗さんがスマホを取り上げ操作し出す。パスコードを入力してとお願いされ入力すると着信拒否設定画面に登録した覚えのない悠斗さんのアドレスが入っている。
まさか……勇希……
彼ならきっと私のスマホを操作する事もパスワードも解る気がする。何故かって?3DSのパスワードも同じだから……
私は沸々と怒りが湧いてきた
「……俺はシオンを傷つけたくなくて、一歩を踏み出せないでいたんだ。シオンの気持ちも考えないでごめん」
小さく微笑み謝る悠斗さんに私はグッと涙を堪える。
ああ、やっぱり私は悠斗さんが好きなんだ。
一緒に居るだけでドキドキして、ちょっとした言葉に傷ついて
こんな気持ちになるのは悠斗さんだけだ。
「私もゴメン……」
言いたいことは沢山あるけど、今は謝るだけで精一杯だった。悠斗さんは黙て私の手を取り繋ぐと微笑み「さて、誤解も解けたことだし」と言って私の家の方向に歩き出した。
なんだかただならぬオーラを放って私の家に入ると酔っぱらっていた勇希はリビングのソファで横になって眠っていた。そんな幸せそうに眠っている勇希を悠斗さんは絶対零度の瞳で見下ろしている。
こ……怖い……
「ぐぅわああああああ!!!」
次の人の朝、勇希の悲鳴が部屋中響き渡った。
私は驚き飛び起きて勇希を見に部屋に行くとベットでぬくぬくの眠っている悠斗さんとパソコンの前で項垂れ震えている勇希の姿が目に入る。
結局あれから悠斗さんは次の日が休みなので、勇希をそのままソファに寝かし自分は勇希の部屋で寝ると言って泊まった。
少し甘い時間を過ごしたが、まだ一線は越えていない……その後、悠斗さんが何をしたのか私は知らないが、勇希の様子から生易しい事ではない様だ。
「し、信じられない……こんな……」
スマホを手に持ち小刻みに震えベッドに寝ている悠斗さんを涙目で睨みつける。
「なんであんたがここで寝てんだよ!!スマホのゲームアプリ勝手にアンインストールしてるしパソコンのデーター全部跡形もなく消してるし……提出期限間近なんだぞ!!」
髪を切ってイケメンになっている勇希は涙目で悠斗さんを罵っている。私はその様子を苦笑いを浮かべ眺めて、心の中で『自業自得だろう』っと思って朝食の準備をする事にした。
私のスマホを勝手に操作して悠斗さんにデタラメ吹き込んで私と悠斗さんを別れさせようとした事はおそらく間違いない。このくらいの報いで済んで良かったわねっと言いたい所だ。
勇希の部屋からまだ勇希の罵倒が続いている。あー!バイトの仕事のデータもないっとか、これで困るのは大黒さんじゃないかっとか。
朝食の準備が出来上がった頃、悠斗さんも起きてきて笑顔で私に爽やかにおはようの挨拶をする。私はその笑顔にキュンっとなってヘラッとのろけ笑顔になるが、悠斗さんの後ろから現れたこの世の終わりといった表情の勇希にゲンナリした。
朝食を食べながら昨日の事を聞くと勇希は首を傾げて
「姉ちゃんを迎えに行った所までは覚えているけど?その後何かあった?」
……飲み過ぎて覚えてないのか……
私はあえて何も言わないでおこう。
もし、もしも勇希に告白されたら、私は困ってしまう。
今、この関係を壊したくない。
仲の良い姉と弟じゃいられなくなってしまうのが怖い。
美味しそうに私が作った朝食食べているふたりを眺めて、今この瞬間の幸せを噛みしめた。私は二人をリビングに残し「着替えて来るね」と自分の部屋に戻った後、ふたりが何を話していたか私は知るよしもなかった。
「……俺まだ諦めませんよ…」
「……望むところだ」
〜続きはまた今度〜
今回テンション低めでスミマセンo(>_<)oもっと、明るく書きたかったのですが、他の連載と同時進行してたらテンションが下がってしまった……
最後まで読んで頂きありがとうございます(´▽`*)