MOTHERS
(無言じゃない帰宅)
彼は遊斗だがユートだ。
ある日、親にきちんとした説明をした方がいいと言われ、僕は母さんと一緒に僕の実家を訪れることになった。厳密には生前の僕、小杉遊斗としての僕の実家ではあるのだが。
今僕が悩んでいるのはその『生前の実家』というところなのだ。
なんだかんだで1年半程顔を見せていなかった上、今の僕はかつてよりも幼く10歳の頃のような見た目で成長が止まっているのだ。
どこかの見た目は子供で頭脳は大人な名探偵君みたいだとラトには茶化されたがそれはそれとして、母さんも父さんも分かってくれるだろうか、僕のややこしい現状を。
戸籍上では僕はリリスさん達の手回しによってまだ小杉家の人間にはなっているが、DNA的にはリリスさんの家族なのだ。気持ち的にはどうなのかと言われれば、どちらも家族だという気持ちだから、どちらか選べといわれても僕には選べない。それ程に、どちらの家族も大切なのだ。
ちなみにユヅキちゃんは話をややこしくしそうだったので置いてきた。
「うぅ……緊張するなぁ……」
実家の……かつての実家の玄関の前に立ち、まずは深呼吸しながら呼吸を整える。
1年半マトモに会えなかったとはいえ家族は家族なのだ。だから今更固くなる必要は……
ピンポーン
「えぇ!? ま、まだ心の準備が……!」
『はーい、リリスさんとゆーちゃんですねー? 今鍵開けに行きますねー』
母親の間延びした言葉遣いに懐かしさを覚えながらも、どうか何事もなく無事に終わらせてほしいと願った。
「お待たせー、ってあら?」
辞書の若々しいという言葉の具体例として載せたい位に若い……久しぶりに会ったからか、僕の母親のハズなのに大学生くらいにしか見えなかった……母さんは、体が縮んでしまった僕と隣に立つリリスさんを交互にみてこういった。
「もしかして、ゆーちゃんの隠し子とその母親かしら?」
「全然違うよ母さん! ていうか、その推理が根本的に色々とおかしいことに気付いて!」
「あらーそのツッコミはゆーちゃんねー」
「ツッコミで気付くの!?」
不本意ながらも母親にはなんとか分かってもらえたようだった。
「なるほどーつまりリリスさんがゆーちゃんを子供にしたのですかー」
母さんの膝に載せられながら、借りた猫のように大人しくしていた。というより、母親2人の会話なのでそうするしかなかった。
「ええ、詳しい事は訳あって端折るけれど、色々とやむを得ない事情があったのよ」
「ありがとうございますー可愛いですねー子供になったゆーちゃんはー」
「ぅぁっ、頭撫でないでよ母さん~もう僕子供じゃないんだからー!」
「でもゆーちゃんは今子供よー」
「あ……確かにそうだけどさ……」
「それに、ゆーちゃんがうちのゆーちゃんじゃなくなっても、ゆーちゃんは私の子供なのよー、ゆーちゃん? だから、私にたんと甘えていいのよ」
「……母さん」
母さんがそう言うのなら遠慮なく甘えようと、そっと後ろの母さんに体重を預けた。
「ところでリリスさん? ……ゆーちゃんに姉妹はいるのかしらー?」
あらら、話がよからぬ方向に進む予感しかしない。向こうでもメールでやりとりはしてたんだけど母さんはさり気なく好きな子がいるのか聞いてきたから、既に嫌な予感がする。
「既婚者の姉と……ユートちゃんにべったりの妹が1人よ」
「結婚させましょう。ゆーちゃんの戸籍をそのままにして。そしたらリリスさんが幸せ、私も幸せ、その妹ちゃんも幸せに」
「母さんはいったい何を考えてるの! 仮にも僕の妹なんだよ!? それに……」
「それにー? なしてー?」
「…………好きな人が……」
「あらー成長したわね、ゆーちゃんもー」
「インキュバスらしからぬ純情さねーユヅキちゃんにも見習ってもらわないとー」
「もう! 母さんだけじゃなくてリリスさんまでー!」
予想していたとはいえ、リリスさんにまで弄られ撫でられ、結局抗議してもやめてくれなかった。
メタトロン「この時無茶苦茶ブックスしているであります」
マコト「デートだったから。デートだったから」