その復活は希望
いやー書いたかいた、いつもの3話分くらい書きました。
なので、分割した方がよかったんじゃないかと思われる部分もありますが、ご了承ください。
「クク、久しぶりだなダアト、イズモ、そしてリリス……」
かつて遊斗さん達が禁遊屍人を葬ったはずの墓場に、死んだハズのユートさんが……いえ、死んだユートさんの姿をした別人が墓石に腰掛けながら、ボク達を見下していた。
「小杉ユート……? いえ、偽物……ね……!」
「やっぱりこうなっちゃうのね……」
「フハハ、素晴らしい作戦だろう?」
「まったくもって素晴らしい作戦だね、禁遊屍人……考えがグズ過ぎてヘドが出る程だよ……」
久しぶりに本気で怒った気がする。というより、最後にキレたのはいつだったであろうか。それほどまでに、禁遊屍人は邪悪そのものであり、悪魔よりも極悪非道だった。
「貴様らが動揺で攻撃を渋っている間に俺様だけが攻撃出来る。俺様に残された命が小杉遊斗から奪い取った分ただ1つだと知ったときには流石に焦ったが……この姿で腰抜け3人を相手すれば残るガキふたりなどオマケにすらならねぇんだよ。てめぇら3人まとめてあの世に送って」
「その慢心、下の下の下」
ボクの目の前にいたユヅキちゃんが呟いた直後、禁遊屍人の体は地面に叩きつけられた。まるで不可視の巨人が禁遊屍人を掴んで地面に叩きつけたかのように
「……ママ、さっき言ってた通りにユヅキちゃんが始末していいの?」
「……やってしまいなさいユヅキ。あなたが……仇を取りなさい」
親ではなく、情を捨て去った非情な司令官として命令した。非情にならなければ禁遊屍人を倒すことなど到底かなわないのだ。
「ユヅキちゃん、僕からもお願い……そいつを狩っちゃって」
「ママ、お兄ちゃん……分かった、ユヅキちゃん頑張る」
ユヅキちゃんは禁遊屍人へと飛び掛かり、地面に叩きつけるようになぐり、そして掬い上げるように殴り飛ばした。
「ぐ……子供の分際で……」
「……そろそろ、流石のユヅキちゃんも限界かも……」
起き上がろうとしている禁遊屍人を見下ろしているユヅキちゃんが、早くも限界を訴えていた……
そんなユヅキちゃんを見て、リリスさんの後ろにいた兄とボク、ダアトちゃんがユヅキちゃんに駆け寄ろうとしたのだが、ユヅキちゃんは皆をかばうかのように手で制した。
「さっきから我慢してたけど……かつてのお兄ちゃんを行動をもって侮辱し続ける禁遊屍人には……我慢の限界かも……!」
直後、ユヅキちゃんは右腕を大蛇に変え、禁遊屍人へと……ユートさんの姿をした禁遊屍人へと喰らいついた。
「死んだ人を弔うのは良いけど、そのせいで仇を討てなくなるのは愚かしいの。でも……そんな人の心につけこんで悪事を働くゴミグズは許されない」
僕たちに、そして禁遊屍人に言い、そして噛みつかれ身動きの取れない禁遊屍人へ、今度は小さな尻尾を大きな蠍の尻尾へと変化させ、突き刺した……
「……ユーちゃんには……さすがに見せちゃダメね?」
リリスさんがユー君(仮)の目を両手で隠すも、既に遅かったのだろう、リリスさんにしか聞こえないような小さな声でうわごとのようになにかを呟いていた。
「キサ……マ……」
「うるさい。お兄ちゃんを一度殺した奴が喋らないで。一分一秒でも早く死んで。『七蛇竜』」
瀕死の禁遊屍人に対して足掻かせるまもなく大技らしき……どころか必殺技らしき技を放ち、ユヅキちゃんによって周囲は黒い霧の中に包まれた……
そしてあとに立っていたのは体力1ぐらいのユー君(仮)と、彼に抱きつくユヅキちゃんとリリスさんだった。
「……神河イズモ、無事か?」
「はい、なんとか」
何があったかわからない。だが、確実に言えることがあるとすれば、ユヅキちゃんの手によって禁遊屍人は完全に死んだということだけは確かだ。
だが、何故ユヅキちゃんと軽く喧嘩したダアトちゃんはまだしも、ボクまで巻き込まれた理由が分からない。あるとすれば……強いて言うなら、本当に強いて言うなら、移動する際ボクがユー君(仮)を背負っていたというぐらいしかない。
「もー、ユヅキちゃんったらダアトちゃんやイズモさんまで巻き込んで! ダアトちゃん大丈夫?」
「大丈夫よ……私が丈夫なのはわかっているでしょう? 元小杉ユート?」
「えっ!? な、なんなのダアトちゃん、僕は小杉ユートって名前じゃ」
「だから『元』って付けたのよ。元小杉ユート」
「ギクッ」
ボクもさっきから……というより、双子に会ったときからいくつも引っ掛かることがあった。主にユー君仮の仕草とユヅキちゃんの言葉に。
そういえば、最初に違和感を抱いたのは元ユートさんがユヅキちゃん達の喧嘩を仲裁するときだった。確かあのとき、ユートさん(仮)は『ダアトちゃん』と呼んでいた。名乗っていないのに、名前を知っていたかのように『ダアトちゃん』と呼んでいた時点で怪しむべきだったのだろう。
「あらあら、まさかひとりも騙せなかったなんてね」
「うっ」
「迫真の演技の1つもできないなんて、なったばかりとはいえインキュバス失格ねユートちゃん」
「うぅ……」
「もうやめてください! ユートさんのライフは1ポイントなんですよ!」
笑顔で責めるリリスさんからユートさんを庇いながら、いつの間にかダアトちゃんを連れて離れた墓石の陰にいたユヅキちゃん達の話に耳を傾けてみた。
「……ダアトちゃんさん、ユートお兄ちゃんを奪ったら……どうなるかわかってるよね?」
「ふざけないで、近親相姦が許されるのは神話のなかだけよ」
……聞かなかったことにします。さすがクイーンサキュバスというかディアさんの妹というか、話の中身が大分危なかったです。
「……ところでリリスさん、なんで誰にもユートさんの」
「ディアちゃんとパパには伝えてあるわ」
「……家族以外の誰にも伝えてないんですか? ミラさんやシーホースさんや真理ちゃん、それにイアリちゃんにも……アリスちゃんにさえ」
「秘密にしておきたいからよ。ユートちゃんの安全のために……」
「へ?」
そっとユートさんの背中を押し、禁断のエロエロやっちゃってと小声で囁きながらダアトちゃんとユヅキちゃんの間に放り込みながら言う言葉ではないなと思いながら、その言葉の真意を聞いてみた。
「今のユートちゃんの状態を分かりやすく説明すると、まだ魔力をうまく制御出来なくてインキュバスとしての魔力を少しずつ垂れ流している状態なの。でも、少しずつ回復する人間とはちがって寝れば完全に回復するから心配はそんなにいらないんだけど……その垂れ流してる状態が問題なの」
「リリスさんの親としての態度も少し問題がある気もしますけど……それはまた後で話しましょうか。今はユートさんの事が優先ですよね」
言った直後、ユートさんにのし掛かるユヅキちゃんとユヅキちゃんを止めようと必死なダアトちゃんを見て、前言撤回した方がいいのかなと思ったけれど、危なくなったら加勢しようかなと考えて先を促した。
「ユートちゃん……子供のインキュバスが魔力を垂れ流してる状態っていうのは、親や大きな魔力を持った人以外を無意識のうちに魅了し続ける、少し危ない状態なの。これでも少しマトモにはなったんだけど……まだ完全にはコントロールしきれていないの」
「それと皆さんに伝えてないことに、どういう関係があるんですか?」
「今のユートちゃんを、ユートちゃんに飢えた女の子の前に出すことを分かりやすく例えるなら……ピラニアの群れに肉のドレスを着た牛を放り込むようなものかしらね?」
「凄く危険というのがよくわかりましたけど、現状から既に色々な意味で食べられそうになっているんですけど……」
妹に脱がされかけながらも必死に抵抗するユートさんを指差しながら言った。
リリスさんの目的がまるで分からないのはいつもの事ですけど、さすがに子供に対して放任的過ぎるのではないですかね……
「それじゃあイズモちゃん……もしイズモちゃんから誰かに話したりしたら……わかっているわよねぇ?」
「心配せずとも、ボクって口が固いですから。絶対、真理ちゃんにも言いませんから」
別れ際の笑顔での脅迫に苦笑いしながら、少し嫌な予感を感じながらも、禁遊屍人を滅ぼしたことの報告のためにダアトちゃんと一緒に天界へと赴いた。
「なーるほどね……ユートはそっちにいたんだ……」
イズモの服に潜ませていた自身の一部によって大半のやり取りを盗み聞きしていた真理が、布団の中でほくそ笑んだ。
「ボクが今から遊びにいってもお兄ちゃん的に問題はないよねー」
次の日、イズモは笑顔でキレかけているリリスに呼び出されたが、ダアトによってアリバイが証明されたためにイズモに関しては不問となった。
なお、真理がひどいお仕置きをされたのは言うまでもない。
真理ちゃんとダアトちゃんがユート復活を知っていたのはこんな理由です。
ちなみに、この時点でエキドナさんも魔力による誘惑には耐えられますが……それとこれとは別ですね。ルパンタイブ不可避です。
なお、魔女先輩の場合はユートの無意識の誘惑に素が出てあたふたするかもです。先輩は受けは割と弱いですし