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モンスターゲート  作者: ケン
第1章 実地研修期間
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第8話

 シャラスを連れてこの町に唯一、残っている食べ物屋へと向かう。

 幸いな事に依頼主と会った場所から近かったので数分でたどり着いた。

「ここが?」

「ああ。2枚目の紙は……これは」

 2枚目の紙を見てみるとそこには『M2S4N5A3R1G1W1S1G1S4』と意味が全く分からないものが書かれていた。

 M2? 全く意味が分からん。何故にローマ字と数字が散りばめられているんだよ。

「なになに? あら、簡単な暗号じゃない」

「お、お前これ分かるのか?」

「もちろん。私昔から暗号とか大好きで自作の暗号とか作ったものよ。これはある規則があってね。ローマ字と数字がある場合はローマ字だけに注意すればいいのよ。例えば最初のM2というのはM……つまり“ま”行の2番目を表現しているの」

「お、お前天才か……ってなんでお前、悪魔の癖に人間の言葉知ってんだよ」

「学校で習ったのよ。ほらさっさと読む」

 シャラスの助言をもとに暗号を文に直していく。

「えっと、みせの……うらがわ……を……さがせ……店の裏側を探せ!」

 暗号が分かったところでヌクヌク停の裏側に回ってみるがそこはゴミ箱の様な場所で特に何もおかしなものなどは見つからない。

「ねえ、ここ見て」

 シャラスに言われてそこを見てみるとゴミ箱の隣にある地面が不自然に少しだけ盛り上がっている。

 手で掃っていくとそこにあったのは小さな木箱。埋まっていた木箱を取り出し、箱を開けてみるとやはりそこには2枚の紙が入っており、1枚目には『この町にある高校へ向かえ』と書かれており、2枚目にはやはり意味不明の文が書かれている。

『学楽校山の夕木高の下花を探せ。楽山夕高花を引け。左から右を引け』

「とりあえず高校に行かない? そこでこの暗号考えましょうよ」

「そうだな」

 シャラスの提案を受け入れて、高校へ向かう途中にも俺は紙に書かれていた内容の事を考えていた。

 なんか違和感があるんだよな……。それにあの依頼主の言動も気になるし。

『私が私に話しかけてくる人にこれを渡せって』

 なんで私を2回も言ったんだ……自分が自分に頼みごとをしたとでも言うのかよ。

 そんな事を考えているといつの間にか高校の門の前に着いていた。

「それじゃ暗号を」

「いや、もう暗号は分かったわよ」

 ……こいつは本当に暗号オタクかよ。

「この文と、この文見て何か気付かない?」

「…………何かあるのか?」

「左の文中にある漢字と右の文中にある漢字が一緒なのよ。そして、引けっていう言葉に従って左の文にある漢字を消していくと」

 シャラスの助言に従って右の文から左の文にある漢字を引くとある一文が出来上がった。

『学校の木の下を探せ』

 その文に従い、校舎の裏側に生えている立派な木へと向かい、その下を見ると木と同じ色で見えにくいが木箱があった。

「これで最後だと良いけど」

 3つ目の木箱を開いて中身を見てみるとそこには113病室、矢島弘子と書かれた紙が入っているだけでそれ以外には何もなかった。

「113病室」

「…………行こう。近くに病院がある」

 シャラスを連れて学校から少し離れた所にある病院へと向かう。

「ところでこんなさびれた町に病院あるの?」

「あるわ、ボケ。まあ、そのほとんどの入院患者が不良だけどな」

「へぇ~。なんで?」

「……さあな」

 その入院患者が入院するハメになった原因が俺にあるなんてことは絶対に言わないでおこう。ていうか俺に殴りかかってくる奴が悪いんだよ。勝てない戦いに挑む奴らの神経が全く俺には理解が出来ない。俺にだって勝てない存在はある……俺だったらその存在に遭遇したら真っ先に戦う事を止め、生き延びることを真っ先に考えて行動する。

「ん、ここ」

「近いわね」

 学校から徒歩五分の場所にこの町で一番大きな病院がある。元々は別の場所にあったみたいだけど子供たちが集中しているからという事でここに移されたみたいなんだが結局、その集中する筈の子供たちはいなくなり、病院が移った意味は無かった。

 そのくせして器具も人材も集まっているって言うから不思議だよな~。

 今じゃ腕が良い医者がいるからという事で治療が出来ないという烙印を押された患者が最後の砦としてこの病院を訪れているらしい。

「シャラス。これから起きることは絶対に外に話すなよ」

「なんで? ここ病院でしょ?」

「良いから。分かったな?」

「……まあ、良いけど」

 そう言い、病院の玄関のドアを開けた瞬間、何かが俺の頬のスレスレを通って行った。

 俺はなれたものなんだがシャラスは突然の事に驚きを隠せないでいた。

 そりゃそうだ…………初めてこの病院に来たやつなら誰でも中に入った瞬間にメスを投げられたらそりゃ驚くわな。

 俺の前には受付があり、そこにムスッと不機嫌そうな表情を浮かべている受付嬢らしきナース服を着た看護士さんが座っている。

 本来ならこういうのは医療事務員という人の役割なんだがそいつらが口をそろえて“この病院にもういられない!”とか言って全員辞職を叩きつけてこの病院から出て行ったそうだ。

「あ? 和ちゃんじゃないの」

「だからその呼び方で俺を呼ぶなって言ってんだろ。クソバ」

「ふん!」

「きゃっ!」

 再び俺の頬スレスレのところをメスが飛んでいく。

 流石に相手は看護士だから俺に傷をつけるようなことはしない。だから飛んでくるメスを避けようとすれば逆に怪我を負ってしまう。

「ていうか、医療に従事している奴が医療器具投げていいのかよ」

「残念ながらこれは不良撃退用のメスに似せたナイフよ。で? ご用件は? あんたの頭をグチャグチャにしてほしい? あんたが孕ませたそこの女の中絶?」

「不吉なこと言ってんじゃねぇよ。113号室の矢島って子に会いたいんだ。この病院に入院していると思うんだが」

「あぁ、面倒くせぇ」

 そう言うと不良看護士はぺらぺらと入院患者の名前や部屋番号が書かれていると思われるノートをめくっていく。

「ね、ねえここ本当に病院?」

 シャラスが耳元で恐る恐る聞いてきた。

「あぁ、病院。それもただの病院じゃないぞ。不良の間では武装病院、地獄病院とか言われて陰で恐れられているからな。で? 矢島って子はここの病院の113号室なんだろ? さっさと会わせてくれよ」

「うるさいわね。面会するのにも今じゃご両親の許可がないといけないのよ! あぁもう! なんであいつら電話に出ねぇんだよ!」

 別にこんな武装した病院に不良なんか乗り込んでこないのにその両親は許可制にしたのかよ……あぁ面倒くさい。

「あ、どうも~。わたくしナースの三山と申しますけども~」

 ようやく繋がったのか先程とは180度コロッと態度を転換させて電話の向こうにいるご両親に話しかけていた。

 やっぱ、女の人って凄いわ。いくら怒っていても電話がくればコロッと態度を入れ替えられるからな。

「はい、では~。ふぅ、許可が出たから行っていいわよ」

「たっく。ところであれもう止めたのか?」

「あ? あぁ、あれね。院長に言われてなくなく止めたわよ。なんでも看護士がしちゃうちの病院の評判が悪くなるだろって」

「そりゃそうだろ。手首に打つバカがどこにいるんだよ」

「はぁ!? 手首に打った方が良いって知らないのかよ!」

 こいつ、会話だけ聞いていたら重度の薬物中毒患者にしか見えないぞ。

「はいはい。俺達は行くわ」

 そう言い、不良看護婦に別れを告げて113号室を目指して歩いていると突然、シャラスが肩をつついてきた。

「あ? なんだよ」

「ね、ねえさっきの話……まさか」

「あぁ。栄養剤の話か?」

「は?」

 シャラスは何故か素っ頓狂な顔をした。

「あの看護婦、注射器で直接栄養剤ぶち込んでんだと。なんでも食事をするのが面倒くさいから看護士の知識を利用してああやってんだと。今の悩みは夏でも長袖を着ているから警察官に勘違いされる事らしい」

「……な、な~んだ! てっきり薬物でもしていたのかと思ったじゃない」

 まあ、あいつの出身校は俺と同じ不良の巣窟の高校でそこで毎日、包丁片手に暴れていた事はこいつには言わない方が良いだろう。

 教員の話曰く、俺達の代が最も悪いらしい。

 まあ、毎日のようにボヤ騒ぎが起きて消防車が来たり、不良じゃない奴を集団でボコボコにリンチしてパトカーが校庭に止まっていりゃ最も悪い代なんて言われるわな。

「お、着いた。失」

 ドアを開けると目の前に広がっている光景に思わず口を止めてしまった。

 ベッドの横になっているのは女性。もう何年も前から屋内で眠っているのか肌は驚くくらいに白く、その腕はかなり細い。

 でも俺はそんな事よりも別の事に驚いていた。

 ……そう言えば俺達に最初の暗号を渡した子に似ているような気が……。

「あら? お見舞いの方?」

 後ろから声をかけられ、振り返ると器具を持った受付にいた看護士とは別の看護士が立っていた。

「ええ、まあ……あのこの人は」

「この子は矢島弘子さん。5年前だったかな? 頭を強く打ったきり目を覚ましていなくてね。何も病気な所は無いんだけどね」

 5年前から眠っているのか……それじゃあ、俺達に紙を渡したのは一体誰なんだよ……まさか、私が私に紙を渡せ……これは文章通りの意味だとすると……この人自身が俺達に紙を渡したってことなのか。

「あら? 弘子のお友達?」

 振り返るとそこには親御さんと思わしき夫婦がいた。

「いえ…………これを解いていっているとこの部屋にたどり着いたんです」

 そう言い、紙が入った3つの木箱を夫婦に渡すと2人とも驚いたような顔をして受け取った木箱をジッと見つめていた。

「これをどこで?」

「小さい女の子から渡されたんです」

「そうですか…………あの子、昔からナゾナゾを作るのが大好きでね。まさか眠っていながらも誰かにナゾナゾを解かすなんて」

 夫婦はどこか嬉しそうに、そしてどこか哀しそうな表情を浮かべて3つの木箱を軽く握りしめていた。

「良ければこれ、あなた達が持っていてくれないかしら」

 そう言われ、俺は女性が差し出した木箱と手紙を受け取った。

「きっと、この子もナゾナゾを解いてくれた人に持っていてほしいと思うから」

 ご両親と少し会話を交わした後、長居する事なく、すぐに病室から出た。












「なんだか不思議な依頼だったわね」

「そうだな。まさか、俺達に紙を渡したのが眠りの少女だったなんて」

 自分が作ったナゾナゾを誰かに解かせたい…………その気持が生んだ奇跡なのか。それともただ単に眠りの少女に似ている子が俺達に渡してきたのか。最初は妹だとも考えたけどご両親から聞いた話では一人っ子らしい。

 俺は心霊現象とか霊の類は信じないんだが……今回ばかりはその認識を改めてそう言う類の物が存在するということを思わせる一件だったな。

「……人間界の夕日は綺麗ね」

 シャラスに言われ、空を見てみると確かに目の前に広がっているオレンジ色の景色は綺麗なものだった。

 水平線に沈もうとしている太陽、そしてスピーカーから聞こえてくる懐かしさを感じさせる音楽……ほんの数年前まではこの時間帯になると親と一緒に帰っている子供が見られたんだけどな。今となってはそんな風景を見ること自体が稀になってしまった。

 この日本という国で最も少子高齢化の煽りを受けていると言っても良いくらいだな。

 子供の数は年々減少し、老人の数が増える一方。それどころか、この町から若い人たちが次々に都会へと出ていく影響でこの町には娯楽関連の施設が少ない。

 こんな所で店をオープンしてもほとんど客が来なくて数カ月もすれば潰れるからな。

「向こうの……お前達悪魔が住んでいる世界に夕焼けは無いのか?」

「ないわね。悪魔の世界って人間界みたいに四季はあるけど空の色はいつも、同じだもの。だから人間界の夕焼けなんかを見に行くツアーだってあるわよ?」

 おいおい、人間界の夕焼けでビジネス始めるなよ……まあ、売れてんだろうな。

「今日の晩御飯、何が良い?」

「……人間界の食べ物なら何でも」

「ちゃ、ちゃんと人間界のも作れるわよ? でも、経験がないだけで」

「それで作れないと言わずしてなんと言う?」

 そう突っ込んでやるととシャラスはバツが悪そうな表情を浮かべてプイッと不貞腐れたように俺から視線を逸らし、スタスタと歩く速度を速くして歩きはじめた。

 聞かなくても拗ねていることが分かるな……分かりやすい女だね~。

「ちゃんと、俺が教えるから頑張ろうな」

「むぅ! 子供扱いしないでよ! これでもあんたの10倍は生きてるんだからね!」

 10倍……今、俺が16だから……ひゃ、160歳!? いや、まあ人間じゃない生物の寿命が異様な事なんかあることだろうし……つまり、悪魔からすれば160年生きてようやく人間の16歳と同じなのかよ。

「悪魔って人間に比べて10倍ほど成長が遅いのよ。だから、人間が16年間の間に成長する事が悪魔では160年かけないと成長し切らないってわけ」

「となるとお前は熟女か」

「誰が熟女よ!」

 思いっきり、シャラスに踝をつま先で蹴飛ばされ、痛みの余り踝を抑えながら道路にしゃがみこんでしまった。

 う、うごぉぉ! 急所を蹴られる位に超痛い!

「全く! これだから人間の男はデリカシーがないって言われるのよ」

「すいません」

 ぺこぺことシャラスに平謝りしながら自宅に向かって、ふたたび歩きはじめた。

「でも、不思議な事も起こるものね」

「まあな。こんな依頼よくあるのか?」

「少なくとも先輩方からは聞いたことはないわね」

 ポジティブに考えれば歴代の人でさえ経験していない貴重な体験を経験することが出来た……そう考えておくか。

「で? 今日の晩御飯は何をするのよ」

「簡単な焼き飯にでもしようかと……ところでお前料理の基本知ってるのか?」

「……」

「料理の“さしすせそ”言ってみろよ」

 そう言うとシャラスは歩きながら腕を組んで、考え始めた。

 ちなみに砂糖、塩、酢、醤油、味噌。順番はどうでもいいからこの五つさえ言う事が出来れば良いんだが……俺の予想では言えないな。

「さ、さんま?」

「そこからだな」

 その日の晩、家の台所で俺が付きっきりで指導したことにより人間の食べ物に近い食材が完成した。

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