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モンスターゲート  作者: ケン
第1章 実地研修期間
7/42

第7話

 走ることおよそ10分。誰にも合う事なく無事に、俺達は住み家である見た目オンボロアパートの自宅へと帰ってくることが出来た。

 近所の人と遭遇しないか冷や冷やしたぜ。ただでさえ評判が最悪なのにこの状態の右腕を見られたらあっという間に俺が異怪っていう勘違いが広まってしまう。

 未だに人外の姿のままの腕を見ながらもポケットから鍵を取り出して、中に入った。

「ふぅ。とりあえずは安心だな」

 家の中に入り、ようやく俺は一安心することが出来た。

 家の中にさえ入れば誰かに見られる心配も無くなるし、聖域隊に怪しまれる事も無い…………ただ、流石にこの腕だけはどうにかしないと学校にも行けねえ。

「へえ。こんな力もあるのね」

 シャラスは人外の姿となった右腕を興味深そうに見ながら時折触れたり叩いたりして俺の力の分析の様な物をしていた。

「これ、どうしたら戻るんだ?」

「だいたい契約物の力は焔を操ったり身体能力が格段に上がったりするんだけど自らの肉体を変質させる能力なんて初めて見たから……多分、元の腕の姿を頭に思い浮かべれば戻るとは思うんだけど」

「元の腕を浮かべる……よし」

 シャラスに言われたとおり、異怪に傷つけられるよりも前の右腕の姿を頭の中に思い浮かべると人外の姿となった右腕が淡い光を放ちながら紫色に輝きだし、その輝きが消えると同時に元の姿に戻った。

「あ、戻った」

 試しに2・3度、腕に力を入れてみるが力が目覚める前と何ら変わりない感覚だし動かす時に違和感を覚えると言った事も無い。

 何か、俺は凄い力を手に入れたみたいだな。

「でも、良かった。あんたの力が目覚めてくれたおかげでこれから点数がバンバン稼ぎたい放題だわ! これで私の留年の危機は去ったも同然ね! ハハハハッハ!」

 シャラスは狂ったかのように天井を見上げて両手を広げて喜んだ。

 点数ね……そういえば。

「さっきの奴は何点なんだよ」

「あ、そこら辺はもうすぐ来ると思うんだけど」

 すると、来客を告げるインターホンの音が部屋に響いた。

 久々のインターホンの音に少々、興奮しながらも玄関を開けるとそこには黒子さんの格好をし、背中に大きなリュックサックの様な物を背負った人物が立っていた。

 顔を隠しているから男か女かもわからない。ずっと、黙ってジーっとこっちを見ているからなんか怖くなってくる。

「……だ、誰?」

 俺がそう言うと、黒子さんは何も言わずに背負っていたリュックサックから一台の機器を俺に渡してそのままドロンと煙を上げて消えてしまった。

 比喩とかじゃなくて本当にアニメとかで見る感じでドロンって消えた。

 ……あれは黒子さんじゃなくて忍者だったのか。

 「これは……携帯か?」

 渡された機器は薄くて長方形の形をしていた。

「あ、来たのね」

 後ろからヒョイとシャラスが長方形の機器を取り、手を翳すと電源が入り、画面にみたことも無い文字がずらずらと2行ほど続いたあとにトップ画面らしき画面に変わった。

 なんか、数年前に話題になったスマホみたいだな。

「それなんだよ」

「ああ、これ? これはね、人間界で研修を行う悪魔に渡される機械よ。異怪を1体倒した人たちに順次、支給されるもの。言うなら連絡用の携帯みたいなものよ。これでどんな種類の異怪を倒したのか、また何点点数が入ったのかなんかも確認できるの。えっと、さっき倒した奴の点数は~」

 手慣れた手つきで画面上に指を走らせていくと、画面に何行にも分けられたスケジュール表の様な表が現れた。

 その1行目に何故か、日本語で今日の日付とバードタイプという文字があった。

「たとえば今日倒した異怪はここに表示されているようにバードタイプっていう種類の異怪で倒した日付、時間なんかも表示されるの。たまに数分単位でズレてることもあるけどね。点数は……は?」

 説明をしながら画面の端から端を目で追いかけていたシャラスの顔が突然、あり得ない物を見た時のような表情に変わった。

 何度も画面上に指を走らせるがシャラスの表情はいっこうに変わらない。

「どうしたんだよ」

 俺も不思議に思い、彼女の後ろから顔をのぞかせて小さな画面を覗いてみると一番端っこに数字の1と書かれている。

「…………さっき、倒した奴の点数が……1点」

「それって何点満点中の1点だよ」

 100点満点中ならほとんど価値は無いに等しいけど、5点満点くらいだったら無価値という訳ではなくなる。

「せ、1000点満点中の1点」

 その言葉を聞き、俺は悟った。

 ―――――――あぁ、こいつ……留年確定したなと。

「ま、まさかあいつバードタイプの中でもザコの中のザコ……それならこの点数はあり得なくもないわ。でも、まさか一点だなんて」

 どの様に点数配分されているのかは知らんが、強さごとに点数が上がっていくみたいだな。強ければ強いほど点数は高くなり、弱ければ弱いほど点数は低い。

 つまり、さっきの異怪は超がつくくらいに弱かったという訳か……その超がつく程の相手に苦戦した俺はいったい何なんだって話だな。

「ま、まあどんどん異怪を倒していけば問題ないわよ! ねえ! 和也!」

「悪いけど異怪がこっちの地方に来る前に大半が聖域隊に殺されているぞ。大体、この町はほとんど異怪が来ないことで有名なんだから。むしろ、異怪が出てくる穴があるんだけどその穴は日本海上空にあるんだよ。ここはその穴がある地点とは真逆の都道府県」

 そう言うと、シャラスは今にも泣きそうな顔を浮かべて俺を見てきたがそんな顔をされても俺には何もできず、ただただ彼女の愚痴を聞くしかなかった。

 流石に契約についての愚痴はなかったけど、そもそも普段の学校のテストが難しいだとか授業の進行速度が速すぎてついていけないだとか、最終的にはこんな研修なんか存在していること自体がおかしいとまで言い切った。

「じゃ、じゃあ私は依頼で点数を稼ぐしかないってことじゃない!」

「俺にきれられても何も出来ない」

「ハァ……せっかく、異怪を倒して点数をバンバン稼いで私は何もしないで行けるって思っていたのに……まさか、肉体労働で稼がなきゃいけなくなるなんて……ハァ」

 そんなに絶望の色に染まった顔をされたら、なんか俺までブルーな気持ちになってくるじゃねぇか。まあ、俺はこいつの契約者だから一応は依頼というのにも手伝う事は手伝うが……多分、難易度は低いんだろうな。

「っっ! 早速依頼の知らせ!」

 機械がブルブルと震え、シャラスはパーっと表情を明るくさせて画面上をもの凄い速さで指を走らせて操作をしていく。

「そういえばこの前の依頼は手紙で来たよな?」

「まだこっちの世界に来て異怪を倒していなかったからよ。機器を持っていない人には冥界がこっちに依頼内容とかが郵送されるのよ」

 なるほどね…………仕方がない。俺もその依頼っていうやつを手伝いますかね。

「手伝うぞ。俺も」

「何当り前のこと言っているのよ! 行くわよ! 和也!」

「へいへい」

 そんな訳でシャラスとともに向かった先は近くにある一軒のお家だった。

 以前の様に超豪邸という訳ではなく、俺からすれば現実味がある普通で、理想的なお家で駐車スペースあり小さな庭あり犬小屋あり、そして2階建てといういかにも平凡で幸せそうな暮らしをしている――――――と思われるお家だったが、何故か玄関先にはとてもその風景には似合わないようなガラの悪い奴らが溜まっていた。

 ヤンキーのアイデンティティーなのか知らないが全員が金髪、さらにズボンを腰の辺りにまで下げ、うんこ座りをしながら学生服をダラしなく着た状態でタバコを吸っていた。

 いわゆる腰パンか……パンツ見せながら歩いてあいつらは恥ずかしくないのかね。

「えっと、依頼内容は玄関先でたまっているガラの悪い人たちを追い返してくださいだって。ちなみに今回の代価は……昨日の晩御飯だって。まあこの程度の依頼なら相応の代価かしら。どうする? 一応、拒否することもできるけど」

「是非、やろう。ていうかこういう系の仕事は俺専門だ。それよりもこういう小さな依頼で稼がないとお前留年確定だろ。とにかくお前は隠れてろ。この前の異怪とは違って数分でケリをつけてやる」

 シャラスを安全な場所に隠して気合いを入れ、ガラの悪い奴らに近づいていくとその1人が俺に気づきうんこ座りなる体勢から煙草をくわえたまま俺に近寄って来た。

 不良が近くに寄ってきた瞬間、たばこの臭い匂いが俺の鼻をついてくる。

 臭! 一時期タバコ吸っている男ってかっこいいとか言われる時代があったらしいけど……まさか、こいつらもそう思っている奴らか?

「今お前、がん飛ばしただろ」

 がん飛ばす――――――要約すれば『お前、俺に喧嘩売っただろ』

 そんな感じの意味なんだが……俺1回も使ったことねえし。

 まあ、正直こんな事を言うやつはたいしたことは無い。こんなセリフを言った時点で自分は弱い不良ですって言っているようなものだ。可愛いものだね。頭を撫で撫でしたいくらいに可愛いな。

「飛ばしてねぇよ。ていうか、自意識過剰か」

「あ? てめえこら殺すぞ」

 はい、出ました! この単語を言えば絡んだ奴は恐れおののくって勘違いしていますね! まあ、気弱な奴だったら通じるかも。

「はいはい、殺せるのなら殺してみろよ。その前にお前ら、ここ退け。この家の人達が迷惑って思っているんだよ。不良でも人様に迷惑かけちゃいけないって分かってんだろ」

「知るかよ、そんな事。俺らは優斗に金借りに来たんだよ。てめえはどっかに消えろ、カス。しばくぞ」

 金を借りにきた……ということは、こいつらはこの家の優斗っていう奴を自分たち専用のATMかなんかだと思っているってわけか……他にもやらかしてそうだな。

 大体、金を恐喝している奴は他にも色々な事をやらかしている場合が多い。

「金ねえ……どうせ、お前達の事だから学校でもそいつ苛めてるんだろ? 借りるって言っておきながら返さないんだろ? 金が欲しいんだったらバイトでもして稼げ。金を恐喝するって人間がやる行動の中で一番ダサいぞ」

「あぁ!? 喧嘩売ってんのかごらぁ!」

 家の前にたまっていた十人程の不良共が1人の怒号に呼応するかのように立ち上がって俺を睨みつけてくる。

 珍しいな。この町の不良共は俺の顔は知ってんだけど……もしかして、最近この町の高校に転校してきた奴か。

 まあ、うちの高校って結構、不良の受け皿高校となっている面もあるしなぁ……まあ、そいつら全員いつの間にか俺に反抗しなくなったけど。

「今ここで金を出せば許してごぁ!」

 少しイラッと来たので喋っている相手の鼻を潰す勢いで思いっきり殴ってやると目に涙を浮かべて血が流れ出てくる鼻を押さえて2歩、3歩後ろに下がった。

 全く、最近の奴らは鼻を殴られたくらいでへたれるから張り合いがないわ。

「て、てめえ! 訴えるぞ!」

「じゃあ、俺はお前達を恐喝で訴えよう。お前達は色んなことをしてそうだな。例えばそのタバコ。知ってるか? 百害あって一利なし。吸うなら20歳を超えてからって保健の授業で習わなかったか? 肺は汚れるし、将来病気なんかを起こすかもしれないんだぜ?」

「そんなこと知るか!」

 そう言いながら金髪、耳にイヤリングの1人が殴りかかってきた。

「まあ、病院に行かない程度には手加減してやるから」

「調子こいてんじゃぎゃぁ!」

 なんとなく顔がいらついたから近づいてきた奴に回し蹴りを喰らわすと首にジャストミートしてそのままコンクリートの壁に顔から激突して鼻から血を流し、さらに地面に後頭部から落ちるという負のコンボで1人死亡した。

 あら。コンクリの道路に後頭部からぶつけたらそりゃ痛いわ。

「弱。高校生なんだからもうちょっとは鍛えろよ」

 まあ、人じゃなくなった分だけ力が上がったみたいだからこれでも力は抑えているんだけどな。たぶん、本気でしたら…………今の奴の首の骨は確実に折れているな。

「たまたま当たったからって調子こいてんじゃねぇぞ!」

 次に殴りかかってきた奴の拳を真正面から鷲掴みにして掴んだまま、コンクリの壁に向かって投げつけると壁にひびが入るくらいの勢いで激突した。

 あ~あ。コンクリの壁直すのにも金かかんだぞ。

 どうやらさっきの光景を見て腰が引けたのか、残りの奴らが顔に恐怖を浮かばせて俺の事をまるで怪物でも見るかのような目で見てきた。

「さっきまでの勢いはどうしたよ。さっさとかかってこいよ」

「ば、化け物だろ!」

「こ、こいつまさかか神崎和也じゃ!」

「そうよ! こいつはこの町で悪魔と称され、警察官でさえ恐れ慄いているというあの最悪の化け物の神崎和也よ!」

 なんでお前が俺の紹介をしてるんだよ……別に良いけど警察が俺をおそれおののいているっていうのはマジなのか。

「ひぃ! ゆ、許して」

「そんな訳に行くか」

 とりあえずお灸を添える形で半泣きになっている奴らをボコボコにしていく。

 逃げようとすればあいつらが着ている制服の襟を掴んで引き戻す。

「フィニッシュ」

「ごぶぅ!」

 最後の一人の腹を全力で蹴飛ばし、コンクリートの地面に倒したところでお仕置きタイムなる一方的なボコボコ劇は幕を閉じた。

 シャラスと契約する以前にもともと、喧嘩の毎日だったから自然と一撃で相手を沈める殴り方とかも覚えたし、そこら辺の不良共には十人程度なら余裕で勝てる。

 流石にそれ以上は俺も何発かは殴られそうだったけど、シャラスと契約した時点で身体能力がグンと伸びているから多分無傷で勝てると思う。

「ほら。サッサと謝れ。不良になるのは自由だけど人様には迷惑かけるな」

「す、すみませんでした」

 不良共は全員、目に涙を浮かべながら俺に謝罪していき、帰ろうとしたけど近くの奴を無理やり玄関にまで引っ張ってきた。

「俺に謝っても仕方がないだろが」

 インターホンを鳴らして中の人を呼ぶと、エプロン姿の母親らしき女性とジャージを着た少年が家から出てきた。

 その少年は不良たちの姿を見るや否やすぐに視線を逸らした。

 ……ふむ。あの少年を見る感じではやっぱりこいつら苛めていたか。

「ほら、全員土下座」

「は、はぁ!? 何で俺らが」

「こうなりたいか?」

 満面の笑みを浮かべてそう言いながら近くにあった電柱を軽く殴りつけると殴った部分に亀裂が走った。

 それを見た不良共は渋々ながら全員道路に凸を付けて家の人に土下座をした。

 母親らしき女性は笑って、二度と家には来ないこと、そして今度、息子を苛めた場合は学校に連絡することを約束させるとそのまま不良たちを解放した。

 ……多分、うちの学校に連絡しても何も動かないと思うんだが。

「ありがとうございました」

「いえいえ、こういう事には慣れておりますので」

「じゃあ、これ昨日の晩御飯の残りです。それじゃあ」

 母親らしき女性は白飯とおかずが入ったタッパを俺に渡すと息子の肩を抱いてそそくさと家の中へ帰っていった。

 …………まあ、あいつらよりも俺の方が怖いわな。

「でも、良かった。今晩の飯はこれだな……で、次の依頼は?」

「えっと今度は……あっちね」

 シャラスの案内を受け、依頼主のもとへと向かうとそこにいたのは5、6歳くらい女の子だった。

「き、君が依頼主?」

「ううん。私が私に話しかけてくる人にこれ渡せって」

 女の子が渡した物を受け取る。

 それは小さな木の箱で、ふたを開けて中身を見てみるとそこには2枚の紙が入っていた。

「バイバイ」

「あ、ちょっと!」

 シャラスの静止の声を聞かぬまま、女の子は足早に消えていった。

「依頼の内容は?」

「分からないの。画面には普通に女の子のところに行けっていうので終わっているから」

 つまり、この依頼は達成されたということか……でも、気になるな。

 俺は封筒の中に入っている紙を取り出すとそこには丁寧な字で成立している文と意味が通らない不成立の文が書かれていた。

「この町のもっとも早いたべものや?」

 1枚目の紙にはそう書かれていた。

 最も早い食べ物や……これってファーストフード店を遠回しに言っているだけなのか? でもファーストフード店はもう潰れたから……食べ物やと言えばヌクヌク停しかないしな……とりあえず、ヌクヌク停に行くか。

「お前も来るか?」

「もちろん。私は貴方の契約主よ」

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