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モンスターゲート  作者: ケン
第1章 実地研修期間
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第6話

 シャラスと駄弁りながら家に向かって歩いている時にふと空が急に暗くなったので不思議に思い、顔を上げるとそこには今朝、この世界に侵入してきた異怪と似たような姿をした巨大な鳥が俺達の上空に滞空していた。

 今朝の2倍はデカいぞ!

「なんで警報は鳴ってないのになんで異怪がいるんだよ!」

 上空の敵に注意を払いながらも携帯を開いて確認するが、警報に関する情報は入ってきていない。

「今朝倒された奴の体液が動物の体内に侵入してその生物を飲み込む形で復活したんだわ! ほんと人間は作業が荒いんだから!」

 確かに空にいる異怪の全身にはところどころから鳥類が持っていないはずの腕の様なものが体の至る所から生えていた。

 まさか、人間すらも食ったっていうのかよ!

「きゃぁ!」

 異怪が咆哮を上げると衝撃波か何かが発生し、地上にいる俺達を吹き飛ばすんじゃないかと思うくらいに強い爆風が吹き荒れた!

「ひとまず逃げるぞ!」

 彼女の手を取り、慌ててその場から逃げるが俺達がいる場所にはとてもじゃないがあいつの攻撃を凌げるような建物は無かった。

「待って! 子供が!」

 シャラスの声を聞き、彼女が向いている方向を見てみると不運にも公園で遊んでいた親子が異怪に睨まれて動けないでいた。

 警報が鳴っていないから逃げるに逃げられなかったのか!

 このままあの親子を助けに行けば俺達が標的にされる。あの親子を無視して逃げれば俺達は助かるけどあの親子が喰い殺されてしまう。

 選ぶ道でどちらかが死ぬかが変わる……でもそんなもん選ぶ道は最初から決まってる! 俺は中途半端な不良だからな!

「シャラス! お前は先に逃げろ!」

「和也はどうするのよ!」

「あの親子を助けて逃げる! だから早くいけ!」

 シャラスを先に逃がし、公園の中へとはいって行き入口の近くに置かれていたクズ入れを投げて異怪にぶつけると親子から俺へと視線を移した。

「こっち来いよ! てめえみたいなザコは俺がぶっ飛ばしてやる!」

 10人以上の不良に喧嘩をふっかけられても何とも思わなかった俺の全身が恐怖からかガタガタと小さく震え始めた。

 や、やっぱり不良とけんかするのとはわけが違うよな。

「こっちだ!」

 異怪が羽ばたき、空へと上がったのを確認した俺は親子からなるべく離れたところへと向かって走り始めると相手も俺を追いかけてくる。

 警報が鳴っていないってことは聖域隊が来るのだっていつもよりも大幅に遅れるはずだ! 聖域隊が来るまでの間に殺されるような気もするけど、なんとしてでも聖域隊が来るまで逃げ切ってやる!

「うおっ! は、羽が!」

 上空から叫び声が聞こえ、上を向くと上空から俺めがけていくつもの羽がまるでそれぞれに意思があるかのような動きをしながら俺めがけて降ってきた!

 羽を見ながら走り、飛んでくるものを避けるとコンクリートの地面に羽がサクッ! という音を立てて深々と突き刺さった。

 あ、あんなもん俺の体に刺さったら即人生終了もんだ!

「こ、今度は火の球!?」

 相手は嘴から火球を俺めがけて一発吐き出してきた。

 あ、あれも喰らったら火傷じゃなくて一瞬で体が解けちまうぞ!

 そんなことを考えていると背後で大きな爆発が起き、その爆風で俺の体がいとも簡単に持ち上げられ、腹から地面に叩き付けられた。

「うおあぁぁぁぁぁ!」

 痛む部分を押えながら恐る恐る振り返るとコンクリートの地面に大きな穴が開き、辺りには焦げ臭い匂いが漂っていた。

 おいおい。どっかの最終回の”Z”と”ん”を組み合わせた宇宙恐竜みたいな熱球吐くんじゃねえよ……あれを食らえば一瞬で溶けておしまいだ。

「和也!」

 声が聞こえ、振り返ってみれば俺の後方に息を切らしたシャラスが来ていた。

 それを見た相手はシャラスを標的に変えたらしく今までで一番でかい叫び声をあげながら上空から急降下してきた!

「あ、あ」

 思いがけない事態にシャラスは動けないでいた。

「くそ!」






 すぐさま走り出しシャラスを押しだした瞬間、右腕の感覚が突然消失し、俺の耳に肉が抉れる嫌な音と地面に液体がボタボタッとこぼれた時の音が入り、視界には目を見開いて驚きのあまり何も言えずにいたシャラスがあった。

「う、う、腕! か、和也! 腕が!」

 しどろもどろしながらシャラスがようやく動き出した。

 右腕に視線をやるともう目も当てられないくらいにグロテスクな状態になっており関節は変な方向を向き、肉は深く切り裂かれて骨らしき白い物が若干見えるしおびただしい量の血が地面を赤く汚していく。

 ヤバいな……よく、右腕だけで済んだもんだ……。

 傷相応の痛みがあったら、確実に俺は意識を失ってシャラスともどもあの怪物の胃の中に入っていただろうな。

『ガァァ!』

 異怪は嘴から俺の血と思わしき赤い液体をポタポタと垂らしながらその大きな眼球で捉えていた。

 ……イライラするなぁ……あいつの声を聞くたびにイライラする。

「か、和也! ひとまずここは……和也?」

 毎日毎日不良に襲われるだけじゃなくて怪物にも襲われるのかよ……イライラする……イライラするイライラする……イライラするイライラする……殺す!

 その瞬間、腕に刻まれていた変な文字が怪しく光り輝きだして着ている長袖が肩の辺りから千切れ、さらに地面には腕の輝きと同じ色の魔法陣が浮かび上がった。

「お前……殺すわ」

 今の今まで動かなかった右腕が突如として動きはじめ、中で何かがうごめいているかの如くモコモコと腕が動き始めた。

 地面に現れた紋様の怪しい光がさらに強くなった瞬間、風船が割れるように右腕のなにもかもが弾けとび、血も皮膚も無くなって骨だけとなった。

 さらにそこから地面の魔法陣から黒い何かが放出され、骨だけとなった右腕を包み込む。

 魔法陣が放っていた怪しい光の輝きが最大にまでなった直後、右腕に纏わりついていた物がはじけとび、異様な姿へと変貌した右腕が姿を現す。

「これが……俺の特殊な力って奴か」

 形状は人間の腕と似ているが色は人のそれとは大きく外れ、紫を究極にまで濃くした色をしており、手首から先が異様にまで肥大化しており俺の顔だったら簡単に握りつぶせるくらいまでの大きさになっていた。

『グガァァ!』

 空に浮かんでいる異怪は羽を羽ばたかせて滞空しながら俺めがけて口から火球を5発ほど連続で吐き出してきた。

「こんなもの」

 避けずに腕を右に左に大きく揺らして、全ての火球を一つずつ叩き落としていく。

 熱さは一切感じられない。感覚でいえば、鞭をふるってこっちに飛んでくるものを叩き落としていくような感覚だな。

 スゲェ……体の底から力がどんどんあふれ出てくる。

「和也! ボサッとしちゃダメ! 次が来るわよ!」

 異怪は大きな翼をバサバサと羽ばたかせてコンクリートの地面にも突き刺さる程の硬度を誇る羽を何発も飛ばしてくる。

 直後、俺の頭の中に右腕が今の倍以上に肥大化して目の前の羽を全て叩き落とす映像が過ぎた。

 ……俺に命令をするのか……今は従っておくか。

 俺は頭の映像に従って、それと同じような光景を思い浮かべると右腕が紫色に輝いて、倍以上に肥大化した。そして、その肥大化した右腕を大きく振るうとこちらへ向かってきていた羽どもが全て叩き落とされ、地面に落ちると同時に砕け散って消えていく。

『ゴアァァァ!』

「和也! 次が来るわよ!」

 シャラスに言われ、上を向くと異怪がその鋭い嘴を俺に向けながら体を細めて回転しながらもの凄い速度で急降下してくるのが見えた。

 なるほど。火球が駄目なら鋭い嘴で貫通させて殺そうっていうのか。

「よっと!」

 素早く後ろに飛んで、その場から離れるとコンクリートの地面に奴の嘴がザクッと突き刺さって、まるで木の棒が地面に突き刺さって斜めにたっているかのような光景が出来た。

 相手は必死に体をジタバタさせて体勢を立て直そうとするが深く突き刺さったらしくなかなかとれずにいた。

 ……はっは~。これはまたとないチャンスだ。

「なあ、鳥さんよ……さっきはよくもやってくれたな…………死ね!」

 突き刺さったままの相手の嘴を思いっきり殴ってやるとバキィ! という砕けた音ともに凄まじい悪臭がする体液を撒き散らしながら絶叫し、地面にのたうち回っていた。

 鳥は地面でのたうちまわるって結構、レアなシーンかも。

 にしてもあいつがまき散らした体液が凄まじいほど臭い。

 シャラスはいたって平気そうな顔をしているが俺は左手で鼻を摘まんで匂いをかがないようにしておかないと意識が持って行かれそうなくらいだった。

「和也! さっさとあいつを倒さないと聖域隊とかが来るんじゃないの!?」

 おぉ、そうだった。サッサとこいつを倒してずらからないとこんな腕を見られたら俺まで異怪と一触たんにされて殺されてしまう。

「でも、どうやって止めなんか」

 直後、俺の目の前に円が浮かび上がり、その中には先ほど地面に浮かびあがった紋様が描かれていて、その円は勝手に俺から離れていき暴れている異怪の砕けた嘴の部分にくっ付いた。

「……あれを攻撃するのか? 分からねえけどやるか!」

 ギュッと拳を強く握りしめ、相手が飛び去る前に全速力で相手に向かって駆け出した!

 近づいてくる俺に気づいたのか異怪はどうにかして起き上がり、翼を羽ばたかせて空を飛ぼうとするが――――――――。

「とっとと死ね! うらぁ!」

 飛ばれる前に砕けた嘴にくっついた円陣を殴ると、円陣が赤色に輝きだし、異怪はグシャッとつぶれるような音を発して塵一つ残らずに爆発四散した。

 四散した際に道路に散った体液は何故か、一瞬にして煙を上げて蒸発していった。

「……ハハ……ヤ」

「ヤッタァァァァァ! 点数が! 点数が入ってきたぁぁ!」

 なぜか、異怪をこの手で倒した俺よりもシャラスの方が喜び、彼女は嬉しそうに笑みを浮かべながらピョンピョン飛び跳ねていた。

 ……この、ガッツポーズし損ねた俺の右腕は一体どうすればいいんだ。

「流石和也! 私と契約しただけの事はあるわ!」

 誇らしげな表情を浮かべてシャラスは俺の手を握ってゆさゆさと上に下に振りだした。

 いやいや。あんた、契約したその日に俺の首を絞めて殺そうとしていたでは……この音は……聖域隊が来たのか。

 一瞬だけ飛行機が空を飛んでいるような音が聞こえ、空を見てみると遠くの方にこちらへ向かってきている様子のいくつかの飛行物体が確認できた。

「シャラス。喜ぶのは後にして今は逃げるぞ」

「了解!」

 シャラスの手を取り、人外の姿をしたままの右腕を気にしながらも聖域隊から少しでも離れるために、足早にその場を去った。


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