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モンスターゲート  作者: ケン
第1章 実地研修期間
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第5話

 シャラスに言われて腕時計を見てみると時計は既に8時50分を指し示していた。

「これ、今日の弁当箱。自信作だから」

「ああ、悪いな! 行ってくる!」

 俺は忘れ物を受け取り、ダッシュで学校へと向かったがシャラスとの契約で大幅に強化された肉体を持ってしても、間に合うことはできず遅刻になると思われたのだが今回は警報が鳴ったとのことで特別に遅刻を取り消してくれることになった。

 まあ、今さら遅刻を取り消してもらおうが何してもらおうが俺の成績が超低空飛行から高度飛行になる訳じゃないんだけどさ。

「ち~す」

 俺が教室に入った途端、廊下にまで楽しそうな声が響いていた教室が一気に静かになり全員が俺の方へと視線を向けていた。

 …………そこまで俺が登校してこないことを祈っていたのかよ。

「か、神崎君。怪我は無かったかい?」

「こっち見れば分かるだろ」

「そ、そうだね。で、でも今は板書している最中だからさ」

 俺と視線を合わせないためか、それとも俺の顔自体を見たくないのか黒板で板書を書いていくがチョークを持つその腕は震えており、黒板に書かれている文字は波のように揺れていた。

 そして、その板書をノートに写している奴らも俺と目を合わせたくないらしくずっと下を向いてペンを走らせていた。

「ま、良いか」

 そう呟き、俺の座席に向かった。

 自分の席へと座りぼんやりと授業を受けるがどうも、教師は俺と目線を合わせたくないらしく俺の方を一切、見ない。

 ふと、思う。どこで俺は人生を間違い、こんな状況になってしまったのか……と。

 近所には白い目で見られ、人を殺した事があるだとか警官を平気で殴った事があるだとか、何もしていないのによく警官に止められて何をしていたんだとか聞かれるし、女を次々にとっかえひっかえして孕んだらそのままポイ………そんな根も葉もない噂が徐々に悪い方向へと大きくなっていった。

 勝手に不良たちの中で俺がこの町の頭とか言われ、毎日のようにバットなんかを持った奴らが俺に襲いかかってくる。

 暇つぶしが出来るから別に嫌じゃないけど、その度に俺の評判はマイナス成長をする。

「先生。因数分解ミスってるけど」

「ひっ! す、すみません!」

 この数学の教員は相当、気が弱いらしく俺がミスを指摘するだけで何度も頭を下げて年下の俺に敬語で謝り、慌ててミスを修正した。

 と、そこで授業終了を知らせるチャイムが鳴り響き教師は慌てて教材などをひとまとめにして脇で挟み、こちらを向いた。

「で、では授業を終わります!」

 そそくさと教師は教材等を持って慌てて教室から出ていってしまった。

 さらには教室にいる生徒達も皆、一様に教室から自然を装いながらも違和感バリバリの歩き方で外に出ていってしまった。

 こうして俺は毎日、休み時間の間はボッチになってしまうのだ。まあ、基本的にこの学校に友達どころかこの学校の教師の名前も生徒の名前も誰一人として名前を知っている奴はいない。逆に全校生徒は俺の名前を知っているけど。

「……相変わらず休み時間のくせに静かな教室だな」

 学校の休み時間と言えば普通はワイワイガヤガヤと生徒たちの談笑が聞こえるものなんだけど、俺が入学した年のクラスは休み時間中は誰一人として物音をたてなくなり、今年はどうやら休み時間になったら全員他のクラスへ遊びに行くという方針に変わったらしい。

「暇だ。暇つぶしが出来る物なんか何も持ってないし」

 今時珍しく経済力がないので娯楽関係の物は買った事がない。

 漫画も読んだことはあるものの立ち読みにとどまり、買った事はない。もちろん、ゲーム、小説、服、パソコンなども一切買った事がない。大体は親父が昔着ていた服をそのまま着たり、おふくろが使わなくなったパソコンなんかを使っている。

 そのパソコンも先月、寿命を迎えて永眠したんだけど。

「エライ暇だわ…………帰ろうかな」

 別に俺が無断で早退しても誰も咎める奴はいない……でも早退したら早退したで、面倒くさい連中に喧嘩ふっかけられるだけだし。

「あ~。早く終わらねぇかな」

 そんな事を言っていると次の時間の開始時刻である事を知らせるチャイムが鳴り響き、ぞろぞろと外にいた連中と教科担当の教師が教室に入ってきて授業が始まる。

「神崎、お前いたのか」

「悪いな。学校の恥で学校のクズの俺は今日も元気に登校しました!」

 今入ってきた頭ハゲ散らかしている爺は生徒指導部長なる役職をしており、毎度毎度俺に出会えばいつ学校をやめるんだとかクズは消えろとかいう教師。

「お前みたいな邪魔な生徒は早く消えて欲しいもんだ」

 そう言ってクソ爺はいつものように授業を始める。

 相当、俺が気にくわないのか何もしていないのに急に怒鳴り散らしてきたりもしたが華麗にそれらをスル―していき、授業が終わればまた他の奴らは教室から出ていく。

 そしてその次の教師は俺に目を合わせず、まるでもともと存在しないこの様に俺を扱ってそのまま授業を進めていく。

 そんな感じで授業を消化していき、お昼休みになったがまた教室にいた連中は他のクラスへと移動し、俺だけになってしまった。

「今日の昼飯♪」

 ま、別に俺一人で飯食おうがボッチだろうが俺は別に気にしないんだけどな! さてさて! シャラスが作ってくれたお昼ご飯はどんなんかな~?

 こんなクズみたいな人生を送っている俺でも女性関係に関しては一切の経験がないチェリー坊やなのであって人生で初めての女の子の手作り弁当という奴を食べることにドキドキしているのである。

 ワクワクしながら弁当のふたを開けると―――――――――。

「…………ふぅ」

 中身をみた瞬間に小さなため息を一つついてそのままそっとふたを閉めた。

 ……これ、弁当箱だよな? ビックリBOXとかじゃないよな?

 それらをよく確認しながらもう一度、弁当箱を開けて中を見てみると中に入っている食材はどこからどう見ても人間の物ではなかった。

 ミミズのような紫色の生物を一纏めにしてこんがりと焼いた理解不能な食材、弁当の面積の半分を占めている米らしき紫色のアリの卵の様な食材、そして極めつけはミミズのような紫色の生物が置かれている下の辺りに―――――――。

『ウギャギャギャ!』

 何かの生物の頭だろうか。何故か大笑いしながら弁当の上でモソモソと動いていた。

 さらに気持ち悪い事にミミズのような生物をまとめて焼かれたものもワサワサと動いており、大笑いをする生物の顔面に絡みついている。

 気のせいだと思いたいがアリの卵みたいなものの中で何個かコロコロと動いているような気が…………気のせいだ。絶対に気のせいだ!

 ……悪魔の食文化を考慮しなかった俺が悪いのか、それともこんなゲテモノ以上の弁当を作ったシャラスが悪いのか。ていうか悪魔に食文化なんざないって言ってただろ……ろくなもん食ってないんだな。

 一度、小さくため息をついたあと、俺は静かに弁当のふたを閉じ、カバンの中に弁当を入れて一階にある学食へと向かった。

「おばちゃん。から揚げ2個」

「あんたそんなヒョロイ体しているんだから2個と言わず5個くらい食ったらどうだい?」

「今日も俺に金を使わせたいのか」

 カウンターに立っているおばちゃんは笑みを浮かべて俺の言った事に首を振った。

 このおばちゃん、何が何でも金を生徒に使わせたいらしくいつもサービスで大盛りにしておいたから20円アップとかで臨時収入を得ているようなおばちゃん。

 どいつもその程度なら良いかって考えて20円払っているがこの学校の全校生徒から20円を徴収すれば軽く2000円は行く。全員から徴収できなくても毎日続けていれば相当の額になる。

「ほい、オマケしておいたから」

「金は払わんからな。100円」

 カウンターに定価の値段だけ払って人間に生まれて良かったという喜びを一人で噛みしめながら学食で一人ポツンと飯を食い、その後の授業も無事に消化して放課後となった。

 当然、俺が部活に入っているはずもなく授業が終わればすぐさま俺は家に帰宅する訳で誰かと駄弁るわけでもない。たまにバカな不良というある意味お友達関係の奴らが絡んでくることもある。

「あ、お帰り」

 後ろからそんな声が聞こえ、振り返ると昨夜の依頼で貰った服を着て近くの銭湯にでも行っていたのか、洗面具を持ったシャラスがいた。

 ていうか、今あいつが持っている洗面具って俺が使っていたのじゃ。

「どうだった? 私特製悪魔流スタミナ弁当は」

「あれを人間に食わせようとする方が間違っていると俺は思うな」

 そう言うとシャラスは腕を組み何やらブツブツとつぶやき始めて自分の世界に入ってしまった。

 もう2度とあんな気持の悪い弁当は見たくない。

「あ、もしかしてミミンバ嫌いだった?」

「ミ、ミミンバ?」

「うん。あの細長い奴」

 ああ、あのミミズみたいなやつで何匹かで一纏めにされていたゲテモノ以上にグロテスクな食材の一つか。ミミンバか…………ビビンバみたいだな。

「とりあえず歩きながら話す」

 そう言い、歩き始めるとシャラスも俺の隣について歩きはじめた。

「悪いけど、今日の弁当は手つかず」

「な、なんで!?」

「お前、あのグロテスクな物を人間の俺に食えというのか!? 勘弁してくれ。できれば、人間が食べている物を弁当に突っ込んでほしい」

「むぅ。確かにいつもの感じで作ったし……分かったわ。今度からこっちの世界の食材で作った物を弁当に入れるわ」

 その後も、いくつか雑談を交わしながら帰路を歩いているとこの前の無駄に時間を潰した公園が見えてきた。

 時間も時間なので公園には子供が数人、遊具で遊んでいるがその数はかなり少ない。

 バブル崩壊に続き、少子化の影響も受けさらにここから引っ越す人たちが増えたためにこの町の子供の数は減少しおばあちゃん、おじいちゃんと呼ばれる年齢の人たちの数がグンと伸びてしまった。

 ちなみに異怪がめったに来ないことで有名なこの町に何故、子供を連れた親子なんかが引っ越してこないのかといえば第一に挙げられるのは娯楽施設などの不足があげられる。

 第二に治安の悪さ。近年、犯罪発生率は上昇傾向にあり、さらに不良がそこらにいており、よく殴りあっているのは見る。それに土地代なんかも高いから全国平均でも家賃は比較的高い傾向にある。だから、あまり子供連れが引っ越してくることはなく爺さん、婆さんなんかが老後の生活として引っ越してくる。だから高齢化の速度が年々は早まる。。

 市はなんとか町おこしをしようといくつもの事業やマスコットキャラなんかを出してみたが全てが不評。それ以来町おこしをしようという人はいなくなってしまい、さらに町の廃れていく速度が速くなってしまった。

「ねえ、和也」

「ん?」

「この町ってなんだか寂しいわね」

 シャラスの様に外からこの町に入ってきた人間は決まってそう言う。

 確かにこの町には病院は少ないし、ゲームセンターなんか存在しないしファーストフード店だって片手でピースを作るくらいに必要な指の数……あ、そう言えばあそこの店、この前潰れたんだったな。だから今は一店舗しかないのか。

 バカみたいに公園だけが周りにあり、それを潰すにも金がかかるし修繕するにも金がかかる。それに市の財政はかなり悪いらしいので公園を潰したり修繕したりなどの金をかけていられるほど余裕はないみたいで公園も作られた当時の状態で置かれているから老朽化が進み過ぎて鉄を使っている遊具は錆びだらけ、砂場は何年も掘られ続けていないせいか不自然なくらいに綺麗になっている。

「まあな。でも、元々ここに住んでいる爺さん婆さんはみんな口を揃えてこう言うぜ。自分達が若いころはこの町も活気にあふれていて、子供の笑い声がそこらで聞こえたって」

「昔と今では風景が違う。そんな事は当たり前なんだけどこの場所はそれが進む速度が速かったって言うだけの話ね」

 そう。この町だけが進む時間が早くなっている……そんな錯覚に陥ってしまうくらいにこの町は寂れている。

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