最終話
元々考えていた最終話です。ちょっと評判がよろしくないのでまあ、事実上の打ち切りです。こんな作品を読んでくださってありがとうございます。それでは。
聖と魔をその身に宿すものが現れし時、世界を覆う闇は払われ、地上に光が降り注がん。
魔と聖をその身に宿すものが現れし時、世界を闇に覆い尽くし、悪しき光を滅するだろう。
聖と魔。その2つをその身に宿らせし、“人”が現れし時、世界に希望の光と絶望の闇を降り注ぎ、その力のもと、世界を平定へと導く。
右腕には悪魔、左腕には天使を宿した姿に俺はなっていた。
…………もしかしてさっきの体全体が引っ張られる感じは悪魔の右腕が俺を引き寄せていたからなのか……通りで天使の力がやけに強くなったりしたはずだ。
切断されていた腕も元に戻り、拳を開いたり閉じたりするが違和感なく動く。
「せ、聖と魔が1つに……そんなバカなっ! 人間が……人間が伝承に書かれている存在だというんか!」
怒りに満ちた声で叫びながら魔法陣を展開し、巨大な火球を俺に向かって放たれてくるがその火球を視界に入れた瞬間、勝手に火球が消滅するとともに魔王が軽く吹き飛ばされる。
すげえ……少し睨み付けただけであいつの魔法を掻き消せるのか……通りでさっきから力が溢れてくるのを止められないわけだ!
「魔王。全力で避けろよ……今の俺は力が溢れすぎてるからな!」
全身から魔力が解放され、周囲の地面が抉られ、両腕がそれぞれの色に輝きだす。
そして一気に駈け出すと目の前の重ね合わせられた巨大な魔法陣が壁のように立ちはだかるが1セット目は悪魔の右腕の力で無効化すると同時に砕き、2セット目は天使の左腕の力で魔法陣そのものを消滅させ、まっすぐ奴に向かって走っていく。
「人間の分際で!」
奴が掌に地面を叩きつけると俺を中心として黒色の魔法陣が展開される。
「無駄だ!」
天使の左腕を白銀に輝かせ、地面の魔法陣を殴りつけるとガラスが砕けるような破砕音が鳴り響くとともに魔法陣が消滅する。
そのまま全速力で走っていき、そして。
「おらぁぁ!」
「ぐぼぁ!」
「もういっちょ!」
奴の腹部を左腕で殴りつけ、怯んだところを右腕で顔面を殴り飛ばす。
「せいぃ!」
「がぁ!」
腹部を全力で蹴り飛ばすと鈍い音が響くと同時に奴が血を吐き出しながら吹き飛んでいき、跳躍して奴の真上に移動した後、悪魔の右腕で奴の顔を殴りつけ、地面に叩き付けるとデカい穴が開くとともに大量の砂埃が立ち込める。
いける…………この力ならこいつをブッ飛ばせる!
「人間が……人間が悪魔の上に立つことなんて許されない!」
そう叫ぶや否や魔王の全身から漆黒の魔力が解放されていき、周囲の地面に亀裂が入るとともに大きな穴が開いていく。
あの魔法で俺をぶっ潰そうって話か…………。
その時、頭の中でまた映像が流れ始め、両手から白銀に輝くオーラと漆黒のオーラを放出し、それらを合わせたものを相手に向かって蹴り飛ばしている映像が見えた。
……よし。
その映像通り、両手に力を入れると2つのオーラが放出されてそれらが1つに合わさっていく。
奴の目の前に巨大な漆黒の魔法陣が出現し、そこに魔力が集まってくる。
「これで止めだ! 魔王!」
「しねぇ!」
奴の魔法陣から極太の漆黒のレーザーが放たれた瞬間、生成していた球体を悪魔の右腕で殴り飛ばした瞬間、2つが真正面からぶつかり合って周囲に衝撃波が放たれる。
「もういっぺん吹き飛べぇぇぇぇぇ!」
今度は天使の左腕で球体を殴り飛ばした瞬間、拮抗していたものが徐々に球体が押し勝っていき、レーザーを掻き消しながら突き進んでいく。
「ぼ、ぼくは魔王だぞ! それなのに! それなのになんで人間なんかにぃぃぃぃぃぃ!」
球体が魔王に直撃した瞬間、白銀のオーラと漆黒のオーラが混ざり合った光の柱が空に向かって立ち上ると同時に爆風が俺達に向かって放たれてくる。
な、なんて爆風だ! 吹き飛ばされる!
姿勢を低くし、どうにかして爆風に体を持っていかれないようにする。
爆風が弱くなっていくのを感じ、顔を上げるといまだに光の柱が立ち上っており、爆発の中心部分はこちらからでもえげつないくらいに深く穴が開いていると分かるくらいにぽっかりと穴が開いている。
…………確実に魔王は消滅したな。
「和也!」
「神崎和也!」
2人の声が聞こえ、振り返ると2人がこちらに向かって走ってきていた。
やっと……やっとあいつに笑顔が見れたな。
「あんたまさか本当に伝承の力を発動させるなんてびっくりしちゃったわよ!」
「まあな。イスラ、ありがとな」
「礼には及ばん…………やったんだな」
「あぁ。元凶は全て……潰したさ」
あれから一カ月、騒乱の元凶だった魔王が死んだことにより、徐々に天界と冥界は落ち着きを取り戻し、今は事後作業に入っていると聞く。
俺も数週間ぶりに人間界に帰ってきたんだが出席日数が足らないことが判明し、留年が確定していたのでもう面倒くさかったので退学届けを出してきた。
まあなんか校長は若干、喜んでたけど。
イスラは天界に一回戻って事後処理を手伝っているらしく、毎日忙しそうに走り回っているらしい。
シャラスも冥界に戻って事後処理をしており、ここ一カ月は2人とも会えていないが今日、二人がこちらへやってくる日だ。
そんなことを思っていると俺の部屋に時空に歪が発生し、イスラとシャラスの2人が出てきた。
「久しぶりだな、神崎和也」
「久しぶりね、和也」
「おう。忙しそうだな」
「そりゃそうよ。こっちは一階死刑になりかけた身だし」
そりゃそうだ。
「で、今日は人間界を案内してくれるのだろ」
「あぁ、じゃ行くか」
まだこの世界を変えることはできていない。でもそれを成し遂げることができるかもしれない力と仲間は手に入った。あとは永遠にも長い寿命を使ってゆっくりとこの世界を変えていくさ。
あいつらと同じような境遇の奴らが二度と、この世界に出てこない為にもな。




