第40話
その日の晩、俺達はイッサの家で晩御飯を食べさせてもらうことになったんだがテーブルの上に広がっている豪華? な食事を見て俺だけ、驚きのあまり食事が通らない。
皿の上で未だに触手がうねうねしている太いミミズのような生物、不気味な笑い声を上げている金太郎飴のような大根の様に白いもの、アリの卵かと思いたくなる白い楕円上の物など正直に言えば食欲が一切湧かない最悪な食事だ。
だが昔からそんなものを食べてきているイッサやナロスタ、そして後で合流したアスム、イスラなどはうまそうに食べている。
「あんた食わないならも~らい」
「お前らよくこんなもん食えんな。ていうか悪魔に食事の習慣ないんじゃねえのかよ」
「まあパーティーみたいな感じよ。美味しいでしょ?」
「怪物腕文句言わずに食べろよ~」
「……俺の味方はお前だけだ、ライ」
珍しくライと意見が一致した。
ライも凄まじいこの食材に鼻で食材が乗せられている皿を押し出し、腹這いになっている。
「ていうか天使もこんなもん食うのかよ」
「無論だ。人間は違うのか?」
「なんか人間の食事って死んでる食材を食べてるみたいな感じよね。新鮮新鮮って言ってるわりには」
ナロスタ。確実にお前たち悪魔や天使は新鮮の意味をはき違えているぞ。
そりゃ人間にだって生きているものをそのまま頂く食材はあるが……ここまで見栄えが悪い食事は経験したことねえんだよ。
だが腹が減って仕方がないので一番、マシなアリみたいな卵を1つ、いただく。
…………不味くはないんだが美味くもない。
食べたのに食べた気がしない食事から2時間ほどが経過し、俺とイスラは俺達専用にイッサが用意してくれた部屋にいた。
まさか部屋に風呂まで完備されているとは……リアルにホテルだな。
「……悪魔も想像とは違っていたな」
「どんな教育うけてきたんだよ」
「悪魔は人間を引きこんで愚かな存在へ突き落とし、天使を闇に染める……いつしか後者の分はあまり強調されなくなり、前者の部分だけがやたらと強調されるようになったらしい。悪魔は人間を引き込む、そして引き込まれた人間も悪魔と同様に愚かであると……まあ、お前の仲間がその枠組みに入らない悪魔なだけかもしれんがな」
恐らくその考えの方が正しいんだろう。おかしな考え方をしてるやつとは大体戦って俺がぶっとばして終わりだからな……。
「お前の救いたいシャラスというやつも奴らと同じようなのか?」
「まあそうだな……人の冷蔵庫の食材食い尽すけど」
「そ、それはあれだな……」
リアルにあの時はぶちぎれたからな……その所為で壁に穴開けてしまったんだが。
「なあ、悪魔と天使が共存するってのはどうなんだ」
「どうだろうな……互いに今まで不可侵だったからな……触れ合わず、何も見ない……そんな関係が今まで続いてきた。だからこそ冥界と戦争状態に陥るという状態が戸惑うんだろう」
確かに天界で戦争とか言われた時、住民の反応はイマイチだったからな……まあNo.2と3が悪魔に殺されたって流布された時はあれだったみたいだけど。
「なるほどな…………明日いけるか」
「当たり前だ。天使の力、見せてやる」
そう言いながらイスラが拳を突き出してきたので俺も拳を突き出し、コツンと合わせた。
「……眠れん」
どうも明日の朝、シャラスを助けに行くと言う事が重くのしかかっているらしく普段はすぐに眠れるんだが今日はなかなか寝付くことが出来ず、外の風にあたろうと思い、部屋を出ようとしたのだが窓から飛んだ方が早いと思い、窓を開けて下に降りた。
「ふぅ。やっぱこっちの方が早い」
「あんたはいったい何をしてんのよ」
「……い、イッサ。いたのか」
後ろを振り返れば呆れた顔のイッサが。
ちょうどイッサの隣が開いていたので俺もそこに座る。
「まさかあんた天使と契約していたなんてね」
「まあ止まれぬ事情があったんだよ」
「そう……あんたは本当に悪魔と天使、両方と契約したのね」
「……伝承ってやつか」
そう言うとイッサは静かに首を縦に振る。
「魔と聖を宿すもの。世界を闇に覆い尽くし、悪しき光を滅するだろう……それが伝承よ」
確か天使の方でイスラから聞いたのは聖と魔をその身に宿すものが現れし時、世界を覆う闇は払われ、地上に光が降り注がんだったよな……天界では聖が最初に来て払われるのは闇、でも冥界では魔が最初に来て払われるのは光……まあ、そりゃそうだよな。悪魔に伝わる伝承なのに聖を最初に持ってくるような伝承はないわな。
「もしかしたら本当にあんたが世界を救うかもね」
「まさか。俺みたいな中途半端な不良が世界なんて救ったら世も末だろ」
「そうね。末どころか滅亡ね」
それは酷いと思うんだが。
「…………悪かったな。シャラスのこと護れなくて」
「……相手はあの魔王……仕方ないでしょ。あの時のあんたじゃ相手が逆立ちして戦ってくれてもかないっこない相手よ」
そう。それほどあいつは強かった……でも今は違う。天使と契約したことで新しい力も手に入ったし、何より今は仲間がいる。イスラ、アスム、イッサ、ナロスタ、ライ……俺は一人でシャラスを救いに行くんじゃない。
「このメンバーなら必ずやれる」
「…………重要なのはあんただけどね。あんたが魔王様からシャラスを取り戻せばそれで終わりよ」
「そうだな」
「……ところで大臣のこと、覚えてる?」
確かアスムに別の人格を植え付けてシャラスを殺すオーダーを与えたオーナーだったよな。
「でも確か殺されたんだろ」
「表向きはね……でも恐らく地獄の最下層の牢獄に閉じ込められていると思うの……そしてシャラスと同時にひっそりと殺されるわ。多分」
「……大臣はいったい何がしたかったんだ」
「恐らく大臣は早くからシャラスが膨大な魔力を宿していることに気づいていたのよ。それを魔力を欲している現在の魔王に気づかれない様にシャラスを魔力無しと判定させ、シャラスが魔法を使えないように仕向けた……全ては冥界のためにね……」
冥界のため……良いように言えば愛国心から来る行動なんだろうが俺に言わせれば1人の命よりも愛国心を優先させた奴としか見えない。
「私は許さない。シャラスの人生を壊してまで冥界を救う意味なんてない……もっと別のやり方があったはずよ。その所為でシャラスは人生を壊され、落ちこぼれと呼ばれ、両親の愛情すら壊された…………大臣は私が潰す。この手で」
そう言うイッサの手は強く握られていた。
…………。
「前から気になっていたんだがお前は何でそこまでシャラスを護るんだ。対人恐怖症なんて言う設定を自分に押し付けて自分の人生を半分捨てたようなことして……お前はシャラスに何を救われたんだ」
「シャラスはね……私の人生に光を注いでくれた……シャラスがいなかったら私はとっくの昔に死んでた……今の私はシャラスのお蔭ともいえる……だから私は決めた。たとえ私の人生を捨てることになったとしてもシャラスを助けるって」
「それはナロスタが言っていたお前の両親が関係してんのか」
「……」
そう尋ねるがイッサは何も言わない。
両親…………当分、このことは何も聞かないことにしよう。
「シャラスを無事救えたら……イスラと話をさせるつもりだ」
「あの天使と?」
「あぁ……イスラは悪魔と話をして自分の考えで悪魔が憎むべき存在か否かを決めたいらしい」
「…………そう。それは良いことなんじゃないかしら。今まで触れ合わなかった2種族が触れ合おうとする……私は良いと思うわ。まあ老人どもがどういうか分からないけど」
「何も言わせねえよ。俺がな」
「……そろそろ寝るわ」
「俺も寝るわ。おやすみ」
「ええ、お休み」




