第39話
翌日の朝早くに目を覚ました俺は身支度を済ませ、宮殿の外に出て地上を明るく照らしている太陽のボーっと眺めていた。
今回はぐちゃぐちゃ複雑に混ざり合いすぎている……本当に魔王が主導して冥界と天界を戦争状態に陥れようとしているのか? だとしたらNo.4の行動はよく分からない。ただ単に両国を戦争状態に陥れたいのであればNo.2とNo.3を力を奪って殺す必要はないはずだ。冥界の方で天使による事件だと錯覚させればいいだけだからな。それにNo.4よりも魔王の方が地位も上だ。そっちの方が遥かに動きやすいと思うんだが……連中の思惑なんか考えても仕方がない。俺は俺のやるべきことをやるだけだ。
ただ……1つだけ不安がある。あの時、魔獣を生み出す奴と戦ったとき、今までにないくらいに強い力が一瞬だけ体の奥底から出てきた。
「あれはいったい何なんだ」
「随分と早い目覚めだな」
「イスラ……いつごろ出発できる」
「もう準備は終えている……天界のことはNo.5にお任せした……行こう。貴様の大切なものを助けに行くために」
「悪いな、付き合わせちまって」
「気にするな……私は貴様の契約者だ」
そう言いながらイスラは小さく笑みを浮かべる。
待ってろよ、シャラス……必ず俺がお前を助ける。何が何でも。
決意を新たにしながら門の代わりに結界が張られている場所にまで向かい、イスラに結界を部分的に解除してもらってそこから天界の外へ出て冥界へと向かう。
「ここから冥界は歩いて5時間ほどで着く。それほど険しいわけではないが……向こうからの妨害のことを考えれば少し不安だがな」
「いいや、大丈夫だろ」
「何故だ」
「……俺の知り合いが上手くやってくれているさ」
「えー!? あの怪物腕が来るの!?」
「しー! アスム、あまり大きな声で叫ばないの」
「シャラ姉をあたしたちで助けに行こうよ!」
「ねえ、このがきぶっ叩いていい?」
「何言ってんのよナロスタ……いい? 私達じゃシャラスを助けることはできない。でもあいつが来れば話は別。今はじっと我慢するときなの」
「うぅー……早く助けに行きたいのに」
「大丈夫よ。なんかあいつ天使と契約してたし」
「……はぁ? あんた頭大丈夫?」
「っ! あんた、誰に口きいてんの?」
「あんたこそ。あたしこれでも主席成績だけど? 一点も稼げなかったナロスタさん」
「あ、あれは戦った相手が悪いだけだし! あ、あたしだってあいつと戦ってなかったら主席狙えるくらいには強いんだけど」
「はぁ……でも本当だとしたら和也って」
「ま、多分そうでしょうね……なんで人間と契約しちゃいけないか分かった気がするわ」
「うらぁ!」
冥界までの道のりをひたすら歩き続けているが先程から魔獣との遭遇が半端なく多く、撃退し続けているが俺の力に引きつけられているのかは知らないがさっきからどこからともなく溢れ出てくる。
「普段はここまで多くはないんだがな!」
「もう空飛ぼうぜ!」
「空にもいる!」
そう言われ、一匹を殴り飛ばした後にチラッと上を見てみるとプテラノドンみたいな魔獣がビュンビュン隊列を成して飛んでいる。
天界で魔獣を呼び出す悪魔と戦ったから誰かがどこか見えないところで操ってるのかと思うけど……見る限りはどこにもそんな奴はいないみたいだけどな。
「行くぞ!」
「おう!」
向かってくる最後の魔獣を倒し、空にいる魔獣にも気を付けながら冥界へと続く道をひたすら走り続ける。
冥界への道は天界と違ってちゃんと整備されていて人間界の方の様に綺麗にはなっているがいかんせん襲い掛かってくる魔獣の数が天界の比ではないのである意味向こうの方が楽だった。
そのまままっすぐ走り続けると前方に森が見え、迷わずにその中へ入り込むと大量の木々が俺達を遮ってくれているおかげか上からプテラノドンのような魔獣たちの慌てた様子の声が聞こえてくる。
「いくら何でも魔獣多すぎだろ」
「冥界の妨害かもしれん。天使、悪魔の両方に裏切り者がいるとなれば互いに連絡を取り合っているだろうからな。私たちが冥界へ向かっていることがすでに漏れているかもしれん」
ていうことは俺らに邪魔されたくない計画が始動してるってことか……でもナロスタがシャラスはひっそりと殺されるって言ってたよな……何でヒッソリとなんだ……シャラスに意識を集中させるのではなくて戦争の方に集中させるためか? でもそれだとわざわざ公表する意味はないよな……。
「うぉ!?」
突然目の前に大木が俺達の行く道を塞ぐようにして倒れるとともにゴリラのような姿形をしている魔獣が俺達の方を睨み付ける。
「次から次へとっ熱!」
左腕を変化させようとした瞬間、俺の頬のすれすれのところを火炎放射が通り過ぎていき、あまりの熱さに思わず大きな声をあげながら火炎放射から顔を逸らした。
……ってまさか!
懐かしい出来事にまさかと思い、後ろを振り返ると予想通り、俺達の後ろにはイッサとその契約物であるライがいた。
「イッサ! なんでここに」
「話は後よ。ナロスタが結界を部分的に弱めてくれているからそこへ転移するわ。あんたも早く!」
「あ、あぁ」
イッサが展開した黒色の魔法陣の上に乗った瞬間、視界を覆い尽くすほどの輝きが放たれた。
輝きが収まるのを感じ、ゆっくりと目を開けると先程の森の中ではなく、黒い門の内側にいた。
「ここが冥界……」
周囲の景色は何ら天界と変わりはないが唯一違うのは天界が白塗りの建物が多かったのに対し、冥界の建物は黒塗りの建物が多いことだ。
天界では黒は悪魔を連想させるから、冥界では白は天使を連想させるから少ないのか。
「ふぅ……ていうかあんたいつの間に髪の毛染たの」
「あ、忘れてた。イスラ」
そう言うとともにイスラが指をパチンと鳴らすと白かった髪色が元の色に戻っていき、それと同時にイスラが着ているローブや髪が黒く染まっていく。
準備が良いことで。
「で、状況はどうなってんだよ」
「どうもこうもないわよ。冥界は天界との戦争一色。まあ最近の世代は天使=悪っていう教育植えつけられてきた奴らだから仕方ないっちゃ仕方ないけど」
「そうか……シャラスは」
「今は何も。恐らく牢獄ね……牢獄と言っても罪人が入れられる地獄の一番下の層の一つ上……あそこは冥界の監視下にあるから今のあんた達じゃ入れないわ」
「じゃあどうやって」
「……とりあえず私の家に行くわ」
そう言うとイッサはそれぞれの足元に黒い魔法陣を展開し、転移を発動させると一瞬目の前が真っ暗になったがすぐに元に戻り、外からイッサの部屋らしき広い室内に一瞬で移動した。
何回体験しても慣れないな。
「あぁ、そう言えばあんたの家の両親」
「今はそんな話をしている場合じゃないわ。あんたは黙ってて」
今までにないほど怒りを露わにしながらキツイ言葉でナロスタにそう言う。
……いつも冷静なこいつがここまで怒るとはな。
「……ごめんなさい。シャラスの刑が執行されるのは明日。明日の早朝に地獄からシャラスは地上の一般の牢獄へ移されてその後、冥界政府の建物の屋上で刑が執行されるわ……その時を狙う」
「行けるのか? 特にイスラは天使だから感づかれるんじゃ」
「そこはそこの天使が力を抑えれば済む話よ……ただ冥界政府の警備は厳重だし、政府の建物周囲には結界が張られていて外から許可なしに侵入するのは難しいわ」
「…………いや、出来る」
そう言うと一瞬、イッサは驚いた表情を浮かべて俺の方を見てくるが俺が以前、悪魔の腕で魔法を無効化したことを思いだしたのかすぐに納得の表情に変わった。
「天使の腕でもできるの?」
「むしろ天使の腕だからだろうな。悪魔独自の魔法でもこいつの天使の腕の力なら無効出来る。私は実際にその現場を見た」
「…………まあ、この際だから天使だ云々かんぬんは除外してあんたを信じるわ……和也がその力で政府の建物を覆っている結界を破った後、私とアスム、ナロスタが派手に暴れて注意を引きつけるからその間にあんた達は屋上に向かって」
「え~。私も?」
「当たり前よ。どうせあんた卒業確定なんだから少しくらいいじゃない」
「いや、冥界の中枢を攻撃してる時点でもう重罪人なんだけど……でもまあいいや。最近、ストレスたまりまくってんのよね。周りの連中は一点も稼げなかったとかでおちょくってくるし……どっかの誰かさんのせいなんだけどね~」
ほんとこいつ嫌味な奴。




