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モンスターゲート  作者: ケン
第2章  天使
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第31話

 昼飯を食い終わった後、男どもの嫉妬の眼差しを一身に受けながらも朝倉嫁と共に食堂を出て悪魔がこちらへ技術を学ぶ際にこちらへ飛んでくるという時空の歪がある場所にやってきた。

 そこは厳重に警備されており、ここに来る間に何回警備兵に俺だけが止められたか……まあ、地元で一番の不良の頭とか勝手に言われてた所以として喧嘩ばかりしてきたせいもあっただろうけど。

「ここが」

「はい。ここが悪魔さんが通ってこられる時空の歪です。悪魔の方々が言うにはこの時空の歪は魔力を一定量所持している方なら通れるそうです」

「……よし」

 息を吐き、全力でその時空の歪に向かって駆け出し、通ろうとするがまるで何かに中へ通ることを邪魔されているかのように体が時空の歪の中に入ることができない。

 そのまま無理やり中に入ろうとするが何か見えない力によって強く吹き飛ばされ、背中から床に叩き付けられてしまった。

「がっ! なんでだよ……魔力が一定以上あれば入れんだろ」

「今のお前じゃ無理だっつうの」

 後ろからそう言われ、振り返ると朝倉旦那が白衣のポケットに手を突っ込んで呆れた様子で俺のことを見ていた。

「どういう意味だ」

「異能を失ったお前に歪を通れるほどの魔力が残ってねえってことだよ。今のお前は普通の人間よりもわずかに多く魔力を持ってるってだけの人間と同じなんだよ」

 ……くそ!

 朝倉妻に支えられながらどうにかして立ち上がる。

 ならどうすればいいんだ……時空の歪からも魔力が少なすぎて冥界に行くことはできない……かといって個人が冥界に連絡を取ることなんてできない……。

「お前、何でそんなに冥界に行きたいんだよ」

「助けなきゃいけない奴がいんだよ」

「……お前の契約者か?」

「あぁ……護るって決めたんだ」

「……そんな状態で行っても殺されるだけだろ」

 朝倉旦那のその一言に俺は何も言い返せない。

 確かにそうだ。このまま行ったとしても俺は悪魔に殺されるだけで何もできやしない……でも……でも冥界にはイッサやアスムがいるんだ。理由を話せばあいつらだって手を貸してくれる。

「……はぁ。お前が冥界に行きたい理由は分かった。ただそのままで行っても無駄に殺されるだけだ……ついてこい。いいもん見せてやる」

 そう言われ、朝倉妻に支えてもらいながら朝倉旦那の後ろをついていくと時空の歪があった部屋を出てまっすぐ歩いていき、エレベーターに乗り込んで上の階へと向かう。

「ここは層によって悪魔に伝えている分野が異なる。この最下層では日常生活で使われる分野、そこから徐々に分野が変わっていき、最上階は……兵器だ」

 兵器と言われ、一瞬俺の頭の中に世界を歪めたあの兵器のことが思い浮かぶと同時にエレベーターの扉が開き、支えられながらエレベーターから出るとそこには見覚えのある兵器が多数、並んでいた。

 ……聖域武装……。

 壁には世代ごとに並べられているらしい聖域武装があり、左端の聖域武装は一番古い世代なのかただのパワードスーツになっているが右に行くにつれて様々なものが新しくつけられていき、一番新しい右端の聖域武装はもうパワードスーツというよりも鎧に近かった。

「聖域武装……名前くらい知ってんだろ」

「あぁ……忘れたいくらいにな」

 こんなものがあったおかげで世界は平和を保たれているがこんなものがあったせいで俺達施設出身者は酷い差別を受け、あんな最悪な事件が起きた。

「悪魔に人間の技術を教える代わりにこっち側に悪魔の魔術を教えてもらっているんだ。聖域武装はそれらと人間の技術を融合して生み出されたいわば究極の武装だ」

 視線を聖域武装が置かれている方とは反対の方へ向けると扉が一つあり、近づくと自動で扉が開き、俺の視界に聖域武装の開発の様子が広がる。

 朝倉旦那は入ったすぐのところに置かれているテーブルから1本の鞘に収まっている刀を手に取って刀を抜き、それを俺に手渡してくる。

 持ち手の部分を強く握りしめると刀身が淡く輝きだす。

「人間にも魔力は微量ながらあってな。悪魔にとっちゃ玩具みたいなもんでも異怪には十分通用するすげえ兵器だ。まあ、普通の刀としても使えるから一応、悪魔でも切られたら血は出る」

「…………」

 これでシャラスを取り戻せるとは思わないが少なくとも一方的に殺されることは無くなるだろう……あとはどうにかして冥界のイッサたちと連絡をつけることが出来たら。

「ん、あ? 悪い」

 朝倉旦那がポケットから携帯を取り出し、工具の音で騒がしい部屋から外へと出て行った。

「っ!」

「あ、また幻肢痛ですか?」

 突然、右腕にまたあの痛みが出てきて朝倉嫁に支えられながら近くに置かれていたソファに座り込み、痛む個所はないがとりあえず方の付け根のところを抑える。

 こればっかりは慣れそうにない……痛みが出てくる時間もまばらだしな。

「痛み止めが効けばいいんですが……効かないんですよね。幻肢痛って」

「らしいっすね」

 まあ、痛み止めって痛みを止めるって書くくらいだからな。俺の場合、痛んでいる右腕がもう存在しないから痛み止めなんか飲んでもどの痛みを止めるんだって話だよな。

「……ところでなんですけど」

「はぁ」

「ウーパールーパーって今でも人気ですか?」

 ……こいつはこんな糞真面目な顔をしながら何を聞いているんだろうか……別に聞いたことがないというわけではないけどウーパールーパーが流行ったのって1990年代くらいじゃなかったか? 少なくとも俺が生まれるか生まれてないかの境目くらいだと思うんだが。

「昔は人気みたいだったらしいっすよ」

「やっぱりそうですか……いや、ここで働いていると外の情報があまり入ってこなくなるんですよ」

 外の情報が入ってこない代わりに技術だけは外へ輸出するほど先へ行っているってわけか。

「それになんでここの職員全員が白衣だと思います?」

「……全員が開発者だからじゃないんっすか?」

「ぶっぶ~。正解は……あまりにも情報が入ってこなさ過ぎて一昔前に流行ったオシャレファッションをして赤っ恥をかくからです」

 ……この様子だと実際にそんなことがあったんだな……ていうかそんなこと俺にとっちゃどうでも良いんだよ。重要なのはどうやって冥界にいるイッサたちに連絡を取るかだ。既に研修期間は終わっているから冥界に帰ってるだろうし。

「っ! な、何!?」

 その時、俺達がいる室内にけたたましいサイレンが鳴り響き、作業をしていた連中全員がその作業をストップさせて鳴り響いているサイレンに不安の色を浮かべる。

 サイレンが鳴りやみ、今度は放送が入る。

『全職員に連絡。天使と思われる存在の侵入を確認。各自の持ち場から離れないでください。繰り返します。施設内へと天使と思われる存在の侵入を確認』

 まあ、悪魔がいれば天使もいるか。

「ど、どうしよ!」

「とりあえずここにいればいいんじゃないんっすか」

「で、でも亮さんがまだ外に!」

 その時、扉が開いてちょうどいいタイミングで朝倉旦那が入ってきた。

「亮さん!」

「和美。お前はここに居ろ」

「でも亮さんは!」

「俺はここの所長として指揮を執る。天使なんかにぶっ潰されてたまるか。良いな、ここに居ろよ!」

 そう言い、朝倉旦那は不安げな表情を浮かべている嫁さんを残して部屋の外へと出ていき、俺も部屋から出て奴の後ろを追いかけていく。

「ってなんでお前まで来るんだよ!」

「一応これでも契約物だ。避難誘導には役立つぜ」

「……とりあえずついて来い」

 そんなわけで朝倉旦那と一緒に階段を駆け下りていき、時々扱けそうになりながらも最下層へと向かうとあちこちから火の手が上がっており、そこら辺に瓦礫がいくつも転がっている。

「おい大丈夫か!」

「退け、俺が退かす。うらぁ!」

 瓦礫の下敷きになってしまっている職員を見つけると朝倉旦那を少し離し、全力で瓦礫に蹴りを加えると簡単に吹き飛んでいき、向こうの方で粉々に砕け散った。

 そこから壁伝いに走りながら朝倉旦那と一緒にがれきに埋もれて動けなくなってしまっている職員がいないか確認していく。

「誰かいるかー! いたら返事しろ!」

「っ! 伏せろ!」

 炎が一瞬揺らいだのに気づき、朝倉旦那を伏せさせるとともに俺もその場に伏せた瞬間、さっきまで俺の顔があった場所を光り輝いている矢のようなものが通過していき、壁に突き刺さると大きな爆発を上げて壁に大きな穴をあけた。







 っっ! なんつう威力だ……これが悪魔じゃない種族……天使か……。

 顔を上げて前方を見ると炎の中に巨大な斧のようなものを持っている天使らしき存在の影を見つけ、腕がないせいでバランスがうまく取れず、フラフラしながら立ち上がって睨み付ける。

「天使のくせに酷ぇことすんだな。向こうじゃ天使は救いの手を差し伸べてくれる良……」

 そこで俺の言葉は止まってしまった。

 炎の中から白い斧を持った女性の天使が現れたんだがまるで初めてシャラスを見た時の様にその女性から目が離せなくなってしまった。

 肩のあたりまである白い髪、膝丈の白いスカートを履き、上にはフード付きの白い服を身に纏い、背中からは2対の純白の翼をはやしている。

 …………なんだ……この感じ…………シャラスと初めて会った時のような……。

 あちらも俺と全く同じ状況に陥っているのかさっきからずっと俺たちの目線はぶつかり合っている。

「…………お前、誰だ」

「私はNO.12。悪魔に協力している愚かな人間どもを抹殺しに来た」

 そう言いながら奴は容赦なく巨大な斧を振りかざしてくる。

「うぉ!」

 姿勢を低くして奴が振りかざしてきた斧を避けるがどこのマンガだと突っ込みたくなるくらいに切れ味が鋭く遠く離れた壁に横にまっすぐ斬り筋が入った。

 あ、あり得ねえ。斬撃飛ぶってどこの三本刀の剣士だ!

「哀れな人間どもに主の祝福を」

 そう言いながら奴は平気な顔をして俺たちめがけて容赦なく斧を振り下ろしてきた!

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