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モンスターゲート  作者: ケン
第1章 実地研修期間
29/42

第29話

 いつやってくるかもわからない奴から見つけられない様に鬱蒼とする森の中をただひたすら2人で走り続ける。

 シャラス曰く、魔王は生まれた時から魔王としては魔力が少ない体だったらしい。が、それでも魔王になれたのはそれを補っている才能らしい。少ない魔力で強力な魔力を発動し、相手を一撃のもと潰していく。その戦闘スタイルで立ちふさがる敵を倒していき、魔王の地位を手に入れたらしい。

シャラスに聞いたその話と魔王が言っていた大臣がシャラスには大量の魔力があることを黙っていたことを併せて考えれば奴は魔王からシャラスを離すために殺そうとしていたということかもしれない。

 わざわざそんなことしなくてもシャラスを人間界に何かしらの方法で追放すりゃよかったろ……まあそれでも魔王は気づいたら追ってくるだろうけど。

「ハァ……何で私ばかりこんな目に合うのよ」

「……お前自身、魔力があるかないかは分かんなかったのかよ」

「徹底的に魔法というものから遠ざけられていたから……授業でも私だけ教材は配ってくれないし、私にだけ教室変更の連絡来なかったり……もう嫌」

 ……そこまでして徹底的に魔法をシャラスから遠ざけなきゃいけない程、魔王は危険な奴だってことなのか? というよりもなんでシャラスの魔力を狙うんだ……もしかしてさっき言っていた魔力が魔王としては少ないってことに関係しているのか。

 とりあえず今は逃げるしか方法無い……あの短い中での戦いで分かった……今の俺じゃあいつには絶対に勝つことはできない。

「安心しろ」

「え?」

「何が何でもお前を護ってやる。絶対に」

 シャラスの頭に手を置こうとしたその時、森の木々をなぎ倒すほどの凄まじい強さの風が吹き荒れ、思わず姿勢を低くした。

「やっと見つけた……もう追いかけっこはお終いにしようよ」

 異能を発動し、シャラスを護るように立つ。

「悪いがお前にシャラスはくれてやる気はない」

「……なるほど。確かに人間と悪魔は太古から交流はあったらしいから信頼関係の構築はさほど難しくはない……でも人間と契約されると僕が困るんだよね」

「知るかボケ。誰と契約しようがそいつの勝手だろうが」

「ちゃんと掟として知らしているはずだよ。人間とは契約するなってね。先代の魔王である僕のお父様も言っていたじゃないか。人間と契約してはならないって。交流することは認めるってね」

「んなこと知るか!」

 右腕で殴り掛かるがまたあの目に見えない壁で防がれる。

 クソ! あの見えない壁をなんとかしない限りこっちの攻撃は通らねえ!

 必死に見えない壁を突き破ってあいつを殴り飛ばす方法を考えるが全くいい案が出てこず、奴の笑みを見ていると余計に腹が立ってくる。

 巨大化させてパワーで押しつぶそうとしてもそれ以上の力で押し飛ばされるし、かといって魔法を突き破ることができるあの力で殴りつけても連続で貼られたら反応できないし……くそ!

「こんなものかい? やっぱり伝承通りとはいかないか……でも安心して。その伝承は僕が引き継ぐ。君は元の人間に戻って安寧の生活をするといいよ」

 奴が目の前に魔法陣を展開した瞬間、俺は奴を倒すことを諦めてシャラスを抱きかかえ、全速力でその場から駆け出し、奴から少しでも距離を開ける。

 やっぱり俺なんかじゃどうしようもないくらいの化け物だ! 助けも誰も来てくれない! ここはあいつから逃げるのが最善策だ!

「和也……もう良いよ」

「何言ってんだよ! あいつに連れてかれたらお前どんなことされるか分かんねえんだぞ!」

「人間と契約した私が悪いのよ……そもそも私なんかが生まれたから」

「馬鹿か!」

「っっ!」

 大きな声で怒鳴りつけるとシャラスは驚きの表情で俺を見てくる。

「生まれちゃいけない奴なんてこの世にはいないんだよ! もしそんな奴がいるんだとしたらそれはお前なんかじゃない! 待ってろ、俺が絶対にあいつから逃げて」

「だから無理だって」

「っ! ぐあぁ!」

「和也!」

 右の方から声が聞こえ、そちらの方を振り向こうとした瞬間に右肩あたりに凄まじい痛みと衝撃が走り、抱きかかえていたシャラスを落とし、木の太い幹に背中から衝突し、口から血反吐を吐きだした。

「逃げて! 和也!」

 そんなシャラスの悲鳴が聞こえた瞬間、全身を殴打するような連続した痛みが俺を襲い掛かり、何もできないままただひたすら見えない打撃に殴られていく。

 打撃を全身に食らい、意識が遠のきかけるが痛みでまた意識がこっちに無理やり戻され、シャラスの悲痛な叫びが聞こえてくる。

 ようやく痛みがなくなり、解放されたがもう指一本すら動かせる気はしない。

「和也……和也!」

 うっすらと目を開けると目の前に涙をポロポロ流しているシャラスが俺の頬を両手で包み込むようにして俺の顔を見ていた。

 …………泣く……なよ。

「もう止めてください魔王様! 私ならついていきますから! だから……だからもうこれ以上、和也を傷つけないでください!」

「うん。いい選択だよ、シャラス・イグリスト……ただ僕は彼の右腕もちょうだいしたいんだよ」

「な、何故ですか! 和也の右腕は伝承の力なんかじゃないはずです! あれは聖と魔の力を扱うものが使った力です! 和也は私としか契約していないから魔の力しかありません!」

「ん~。教養は良い君なら気づいてると思うんだけどな……聖と魔の力をその身にいれればそれで伝承の力は完成するって」

 奴らの言っていることは分からない……ただ……ただ俺がやらなきゃいけないことは。

「和……也」

 血をボタボタと垂れ流しながら立ち上がり、奴を睨み付ける。

 俺がやらなきゃいけないことは今、こいつを護るってことだけなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!

「うおあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「和也ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 獣のように叫びながら全身全霊の力を右腕に注ぎ込み、今までにないくらいに紫色に輝かせながら今だに笑みを浮かべている奴めがけて全力で拳を振り下ろす!












 無情にも俺の耳に入ってきた音は奴を殴る音ではなく、見えない一撃によって肩の付け根から俺の異能の右腕が切断される聞きたくない音だった。

 一瞬の出来事に痛みも感じず、奴の手に自分の異能の右腕が捕まれているのを見ながら俺は両膝を地面につき、そのまま倒れ込んだ。

 ……あいつを……シャラスを護れないだけじゃなくて…………あいつを護るための力すらも奪われたのか……俺は……。

 今になって切断された箇所が痛み出し、俺の視界に大量の真赤な血液が流れてくるが切断された部分に温かいものを感じ、目だけを動かしてその部分を見てみると治癒の魔法でも使っているのか手を淡く輝かせているシャラスが俺の傷口に触れていた。

「ごめん……ごめんね和也……私が……私が貴方を契約物なんかに選んでしまったから……」

 “バカか”―――そんな一言を言いたくてももう言葉すら出せない程、痛みが全身を一瞬にして何往復も駆け巡る。

「行くよ、シャラス・イグリスト。君が掟を破った罰は向こうで決めよう」

「はい……さよなら……和也」

 シャラスは涙を必死に我慢しながら今まで以上の満面の笑みを浮かべると魔王が開いた黒い渦のようなものの中に向かって歩いていく。

「…………」

 黒い渦に入る前にシャラスは一度、俺の方を向くがすぐに前を向き、黒い渦の中へと入るとその後ろから魔王も渦の中へと入り、渦が消滅した。

「……くそ……く……そ……シャ………………ラス」











「所長! 女の子のあたしばっかりに荷物を任せるんじゃなくてちょっとは持ってくださいよ~!」

「握力100超えてて趣味はダンベル上げのお前に言われたかねえわ。ていうかお前、本当に筋肉あんの? 鍛えてるにしては細くね?」

「失敬な! あたしは女の子らしさを残しながらきちんと鍛えて……しょ、所長! あ、あれ!」

「あ? ……わぉ。これは掘り出し物……って言ってる場合じゃないな……まだ生きてる。このまま研究所まで連れてくぞ。お前、担げよ」

「やですよ! 所長が担いでください!」

「ちっ……わ~ったよ」










「どうやら悪魔に技術などを提供している人間たちのアジトが分かったみたいですね」

「ええ。今まで冥界の防御網によって隠されていたようですわ」

「で、どうすんの? 皆殺し? じゃああたしに行かせろ! 最近、暴れられてねえからな!」

「NO.4。天使がそんなこと言ってはいけませんわ」

「黙ってろよNO.3! あたしは殺したいんだよ!」

「NO.3もNO.4も少し落ち着きなさい……こんなときNO.1がいらっしゃれば」

「とりあえず行かせる天使はもう決めてありますわ。NO.12入りなさい」

「はい」

「NO.2として貴方に命じます。悪魔に手を貸す哀れな人間どもを抹殺してきなさい」

「かしこまりました。必ずやご期待に添える結果を出して見せましょう」

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