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モンスターゲート  作者: ケン
第1章 実地研修期間
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第28話

 長い長い夏休みも終わり、普段の生活が始まってから早1カ月が経ち、月はすでに9月を回っており、もうあと10日もすれば10月に入るというところまでやってきた。

 もうすぐ冬が始まろうとしている月がやってきていると言う事だがそれと同時にシャラスたち悪魔の実地研修期間もあと10日ほどで終わりを迎えようとしている。

 俺達が稼いだ点数は既にシャラスが今まで抱えてきた赤点の借金を完済どころかおつりが帰ってくるほど稼いでおり、これで無事に卒業もできるらしいことを昨日の晩に鼻息を荒くしたシャラスに教えられた。

 まあ、それを聞いて俺もホッとしたんだが……何故俺が他人の卒業がどうのこうのでホッとするのかがイマイチわからない。昔は他人のことなんてどうでもよかったのに。

 にしてもこの半年間……いろいろあったな。シャラスと初めて依頼をこなすために駆け回ったし、ナロスタとか言うやつと初めて異能を発現させたし、イッサ、アスムなんかと遭遇したし……決意もしたし……色々と濃い半年間だった。

 …………なあ、シャラス……お前は……どうだった?












 シャラスがこの世界にいるのも今日だけとなった日の真夜中、俺達はいつも通りに依頼を解決するために真夜中の街を歩いていた。

 今日で最後の依頼と言う事もあってか俺たちの間にはどこか気まずい空気が流れており、さっきから事務的な会話しかできていない。

 …………なんでだろうな……シャラスが今日で冥界へ帰るって言われても……なんかな……。

 最近の俺はどことなくおかしい。

 アスムとシャラスが仲良く遊んでいるのを見るとイライラしたり、シャラスのことを護るとか突然言い放ったりと色々とおかしい。

「あ~……そう言えば今日で終わりだな。実地研修」

「そ、そうね」

 ……また会話が途切れちまった。

「ね、ねえ!」

「お、おう」

 シャラスは恥ずかしそうに顔を赤くしながらも何かを決めたような目で俺を見てくる。

「じ、実はさ……実地研修が終了したら契約物は主との契約を取り消すか否かを選べるんだけど」

 …………マ、マジでか。てっきり永遠にこのままの契約が続くのかとばっかり思ってたわ。

「続けるを選んだらどうなるんだ」

「一緒に冥界へ行って契約続行の了承を貰うのよ……あ、あと儀式もするわね」

「はぁ……ずっと冥界暮らしなのか」

「た、多分選べると思うわ……なんせ例外中の例外みたいなもんだし」

 ……契約物であることを望むか否かで俺の生活がガラッと変わるってことか……それを否定すれば俺は人間としての生活が戻ってくるし、人間として戻れる。でもそれを受け入れればシャラスの契約物として死ぬまで傍に居て戦うと…………まあもう俺の答えは決まってるようなもんだけどな。

「シャラス。俺は」

 答えを言おうとしたその時、視界に黒い羽根が1枚入ってきたかと思えば次々と無数の黒い羽根が空から落ちてくる。

 なんだこれ……明らかにカラスの羽根だけじゃ説明つかないだろ。

「う、うそ……なんで……」

 シャラスはその黒い羽根が落ちてきている光景を見てどこか恐怖にも似た感情に震えている。

「か、和也! すぐにここから逃げるわよ!」

「お、おいいきなりなんだよ! ていうかこれなんなんだよ!」

「いいから! そんな事よりも早くしないと」

「早くしないと何が起こるんだい?」

 そんな優しい声が聞こえ、俺が振り返ろうとしたその瞬間、腹部に凄まじい衝撃が走り、口から血反吐を吐きながら近くの電柱に直撃した。

 ガハッ! な、なんだ一体!

 痛む腹部を抑え、口から吐き出された血反吐を裾で拭い、前方を見てみるとそこには4対の翼を折りたたみ、ニコニコと笑みを浮かべている若い男が立っていた。

 だ、誰だあいつは……。

「やあ、久しぶりだね。シャラス・イグリスト」

「ま、魔王様……な、何故ここに」

 ま、魔王!? あんなヒョロヒョロの奴が冥界のトップの魔王!?

「何故って君を迎えに来たのさ。あと1時間ほどで実地研修も終わることだしね」

「わ、私はそんなの頼んだ記憶は」

「そうだね。でもこれは僕の意思さ。僕がしたいから来た……それに絶対に僕と帰らなきゃいけない理由が君にはあるからね」

 そう言うと魔王は俺の方を見てくる。

「君は人間と契約を交わしてはならないという掟を破ってしまったからね。見逃してあげようかなとも思ったけど君の契約物が目覚めた力がこれだから」

「うらぁ!」

 奴が喋っている間に後ろへ回り込み、異能の腕で横から殴り飛ばそうとするが片腕だけで止められてしまった。

 ヒョロヒョロでも冥界のトップの魔王ってか!

 すぐさま切り替え、奴に蹴りを入れようと足を振るうが高く跳躍されて避けられてしまった。

「契約物がただ単に火を使う能力だったり重力を操る能力だったらこちらも無視はしたんだよ。まあ研修終了後に契約は破棄させるつもりだったんだけど……でもその能力が目覚めてしまった以上、こちらとしても無視はできないんだよね」

「な、何故ですか!」

「うん。君は知らなくていいんだよ……さて。君を連れ戻す理由だがもう1つあってね……君のその溢れんばかりの魔力が欲しいんだよ」

 ……どういうことだよ。シャラスは魔力がないっていう烙印を押したのはこいつらだろ……なのに何で今更シャラスが持ってる大量の魔力を狙ってきたんだ……ついこの間まで殺す殺すとか言っていたはずなのによ…………。

「ほんと大臣は何でこんな大切なことを隠してたのかな……まあ彼も秘匿罪で豚箱行だけどね」

 秘匿罪……つまり大臣ってやつはシャラスに魔力が大量にあるってことを黙ってたのか……でもなんでそんなことあいつが黙ってる必要があるんだ……。

「それともう一つ……彼の右腕も貰おうと思ってさ」

 そう言いながら奴が魔方陣を展開したので腕で防ごうとすると前に魔法陣から火球が放たれ、直撃し、爆風で大きく吹き飛ばされてしまい、コンクリの地面を何度もバウンドしながら飛んでいく。

 な、なんだよあの速度……反応しきれねえ!

 空中で姿勢を立て直し、着地すると同時に奴めがけて駆け出し、右腕を振るうが今度は見えない壁に阻まれ、奴まで拳が届かない。

「こんのー!」

 右腕が紫色に輝きだし、見えない壁が砕け散る音が聞こえ、拳が奴めがけて向かっていくが今度はすぐ目の前で強い風が吹き荒れ、俺を簡単に吹き飛ばした。

「くっ! なんだあいつ!」

「もう止めて和也! あんたじゃ敵いっこない相手よ!」

「ここで俺が闘うのを辞めたらお前が連れて行かれんだろうが! それで向こうで何されるか分かんねえんだぞ!」

 あいつが言っていた人間と契約することが冥界での掟だとしたら相当重い罰が課せられるはずだ……下手したら死刑とかだってあり得るんだ。

「安心しなよ。死刑になんかしないからさ……まあ魔力抜いちゃうからそれで死んじゃうかもね」

「結局は死刑のようなもんだろうが!」

 右腕を巨大化させ、拳を握って奴めがけて叩き落とすが2枚重ねで魔法陣が奴の頭上に出現したかと思えばそこから雷が放たれ、俺の拳とぶつかり合う。

 ぐぬぬぬ! な、なんて威力だ!

 腕が紫色に輝き、奴が発動した魔法を無効化するがさらに雷が放たれ、俺の腕が軽く吹き飛ばされた。

 くそ! 無効化してもそれを上回る威力で放たれたら反応できねえ!

「ん~。やっぱり継承通りの能力だね。魔法の無効化に加えて対象者に腕を突き刺し、魔力を引き抜くことができる。その力でアスム君の中で暴走した魔力を外へ出したんだね。まあ、植えつけられた精神体も一緒に抜けたのは偶然だろうけど」

「継承? 何の話だ」

「こっちの話だよ」

「和也!」

「お、おい!」

 突然シャラスが俺の腕を掴んだかと思えば足元に魔法陣を展開し、魔王から離れたいかの様に転移し、全く見たこともない場所へと転移した。

 鬱蒼とした森の中であることだけは分かるがここが本当に日本という国なのかもしくは外国なのかすらさっぱり分からない。

「ど、どこだよここ」

「分からない……でも魔王様とは闘っちゃダメなの。あんたなんかじゃ絶対に勝てない」

「わかってるわ、そんなこと……護るって決めただろ」

「だとしてもよ……」

 シャラスは俺の手をギュッと強く握ってくる。

 …………どうしろっていうんだよ。

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