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モンスターゲート  作者: ケン
第1章 実地研修期間
19/42

第19話

【施設出身者集団自殺か?】

 7月末、10数人に及ぶ飛び降り自殺した生徒が発見された。15階建てのビルの屋上から手をつないで一緒に飛び降りたとされている。自殺までの経緯は不明だが昨今、問題となっている施設出身者に対する過剰なまでの差別が原因と考えられており、自殺した生徒達は皆、在籍していた中学で想像を絶するいじめを受けていたなどの情報が報じられており、施設出身者に対する過剰なまでの差別の社会問題化が浮き彫りとなった。






 数日後、俺はイッサにシャラスを任せて家から歩いて15分ほどの距離にある施設に向かってゆっくりと歩いていた。

 あれが7月の終わろうとしていた日だった。授業が終わり、施設に帰ると珍しく俺が一番最初に帰ってきてて不思議なこともあるもんだなと思いながら先生と一緒にまだ小さいガキどもと遊んでいるとパトカー数台が施設の前に止まり、慌てた様子の警察官が2人入ってきて連中が集団自殺したことを告げ、俺にガキどもを任せて先生は遺体が収められている場所へと向かった。

 小学生の頃から片っ端から奴らを殴り飛ばしていった俺とは違ってほとんどの奴らはその醜い悪意に立ち向かう事もなく、ただずっとその悪意を受け止めざるを得なかった。

 その日以来、キチガイ思考の大人共の姿は見えなくなり、手のひらを反すように支援の申し出が殺到したがそのほとんどが1度、先生の支援の申し出を拒否した奴らばかりだった。

 結局、先生はそんな奴らの支援を全て突っぱねた。お前達が殺したんだって叫んでな……あの時の先生の叫びは未だに頭にこびりついて離れない。

 そんなことを考えているとガキどもの楽しそうな声がチラホラと聞こえ、顔を上げると施設の門の前にいつの間にか立っていた。

 相変わらず他の町からこっちの高校に来た馬鹿どもによる落書きが消えない。

「和君」

「ども」

 門を開け、中に入るとガキたちと遊んでいた先生が俺に気づき、こちらに近づいてくるとガキどももそれに習って俺に近づいてくる。

 …………5人か……やっぱり俺がいた頃に比べて少ないな。

「せんせー。このおにいちゃんだれ?」

「むかーしにここにいた人よ」

「神崎和也っていうんだ。よろしくな」

 ガキどもの視線に合わせてしゃがみ込むとちょっとは怯えた目をしていたが俺の指に触れ、握りしめると同じ温かみを感じたのか小さく笑みを浮かべた。

 こいつらも俺と同じように両親の愛も顔も知らず、金だけ支払われて他人に育てられているのか……聖域隊さえなければこいつらは普通に親の顔も知り、愛も受けて育ったんだろうな……全てはモンスターゲートが開き、異怪がこの世界に現れたせいだ。

 施設の中を見てみるとブランコも古くなって危なくなってしまったのか子供が使えない様に周りに作が置かれているし、ゾウさんの形をしている滑り台ももう元の色が何色かさえわからないくらいに汚れている。

「良かったら遊んであげて」

「もちろん……じゃあ、何で遊ぼうか」

 そう言うとガキどもが手を上げ、サッカーやバスケ、野球、竹馬などと連続で全く異なる遊びをしたいと言い出すがとりあえず全部受け入れて2年ぶりに施設の小さなグラウンドで遊び始めた。










 遊び疲れてしまったのかガキどもは施設内にある大広間に敷かれている布団でぐっすりと眠っており、その寝顔は健やかなものだった。

 大広間に繋がる扉をゆっくりと占め、2階の住居スペースに上がり、居間のテーブルに就くとお茶を出され、ありがたく一口飲むと懐かしい味が口の中に広がる。

 懐かしいな……ここにいた頃は毎日のように飲んでたな……。

「高校はどう?」

「まぁ、変わらずですよ。毎日の様に喧嘩売られて買ってって日々っす」

「そう。喧嘩も程々にね」

 程々にしたいけど全国からわざわざ来るからな~。マジで全政界から俺という存在の記憶を消去出来たらどれだけ楽か。

 ふと壁に目をやるとここが開設されてから今まで卒業していった連中の写真が1枚1枚丁寧にはられているが貼られている写真のほとんどの奴はもうこの世にはいない。

 ほんとなんで子供の俺らが差別されなきゃいけないのかねぇ……聖域隊に入って育児放棄した親どもを差別しろって話だ……下で寝ているやつらもいずれは差別の対象になるのか……。

「…………今月からまた子供が預けられるの。3人も……まだ生後半年の赤ちゃんをね」

 そう言う先生の表情は今にも泣きそうなものでコップを潰すんじゃないかと思うくらいに握りしめている。

 先生だってもう結婚して子供もいてもおかしくない年齢なのに今でも1人なのは……この施設に追随している差別のせいなんだろうな。

「確か俺は」

「生まれて1週間。まだ肌が赤かったわ……それを平気な顔でお願いしますだなんて……ちゃんと月々の生活費は支払われてる?」

「まあ……ギリギリですけど」

 聖域隊が無ければ俺たちのような施設出身者が差別されることは無かっただろうが聖域隊がなければ異怪によってこの世界は滅んでいるだろうな。

「知り合いの施設の所長さんから連絡が来てね……就職できた子はほとんどいないって。就職できても鬱なんかになってすぐに辞めるんだって……」

 国の政策で施設出身者に対して支援が成されているが逆にそれがキチガイ思考の大人たちを炊きつけてしまい、余計に差別が助長した。まぁ、それもあの集団自殺があってからは鳴りを潜めているけどまだ完全には消えてない。

 施設出身者は高い確率で自殺し、たとえ自殺しなくても真っ当な人生を送る事は出来ない。一生、施設出身者と言う事だけで差別され、希望する職業にすら就けず、愛する人も子供を持つことも許されず、一生1人で孤独に生きるしかない。政治家はそれを無くすと声を大にして言っているがそんなもの選挙期間中だけだ。選挙が終われば誰もそんなこと言わない。それにインターネットが発達しすぎたこの時代、たとえ隠していても知らないところから漏れ出し、気づかないうちに排斥される。

「……」

 何も話し出せず、居間には沈黙が流れる。

 壁にかけられている時計を見ると既に4時を回っており、外を見ると遠くの方の空が夕焼け色に輝いており、太陽も半分以上沈んでいる。

「そろそろ帰ります」

「そう……また今度」

 また会う日は7月末のあの日。









 その日の晩、いつも通りに依頼をこなしているがシャラスの精神状態はいつも通りとはいかず、さっきからひと言も喋っていない。

 イッサからこいつの過去は聞いたが俺に一体何ができる……所詮、俺は中途半端な不良だ。喧嘩はできるけど勉強はできないし、運動だってそこそこ…………。

「なあ、シャラス」

「……なに?」

「少し調べて欲しいことあんだけど」

「なによ」

「依頼の報酬でなんか遊具とか譲ってくれる奴ねえの? 竹馬とかの遊び道具でも良い」

「どうしたの急に」

「いいから」

 タブレットを取り出し、画面に指を走らせるがシャラスの表情はまだ暗いまま。

「あった……けどどうすんの?」

「良いから。んじゃその依頼行こうぜ」

 そう言うとシャラスは小さくため息をつくが何も言う気にならないらしく、タブレットに依頼主がいる場所を表示しながら歩いていく。

「どんな依頼だ?」

「なんか……最近真夜中に物音がするから屋根裏を調べてくれって。それが出来たら使わなくなったサッカーボールとかくれるらしいわよ」

「そうか」

 そこからは互いに一言もしゃべらずにまっすぐ依頼主の家へと向かって歩いていく。

 死ななきゃいけない運命……この世界で言えば施設出身者が当たるんだろうか……もしくは異怪か……どちらにせよ、そんな運命はぶっ潰すに限る。死ななきゃいけないんだったら生まれてこないからな……よくすべてに生まれてくる意味があるとか言うが……ま、そんなもんだろ。

「ここね」

 到着したのは2階建ての木造造りの古い家。

「…………ここって」

「知ってるの?」

「言ったろ。この町のことを俺以上に知っているのは1人しかいないって。ここは龍さんの友達の弟の安田さんが住んでる家だ」

「えらく細かく知ってるのね」

「そりゃ子供の頃はかなり世話になったからな」

 この町にいるのはほとんどが老人。それ故に小さな子供が引っ越してくると町総出でその子供を可愛がるし、一人でいれば必ず声をかけて一緒に遊ぶか施設まで連れてきてくれる。だからそいつからすればこの町に住んでいる老人全員がじいちゃんばあちゃんみたいなものだ。

 インターホンを押すと杖歩行の安田さんが出てくる。

「おぉ! 和也君じゃないか! 随分と久しぶりだねぇ」

「うっす」

「そこにいる女の子はこれか?」

 ニヤニヤした笑みを浮かべながら安田さんは小指を上げる。

「ちげえよ。で、物音がするんだろ」

「お、和也君が直してくれるんかの。まぁ、頼むわ」

 安田さんの案内のもと、家の中に入ると早速どこかからかゴトゴトという物音が聞こえてくる。

 どうせネズミ……では無さそうなんだよな、音を聞く限りでは。じゃあなんだ……とりあえず見るか。

 2階に上がるがここで一つ問題が起きた。

「……安田さん、はしご壊れてるけど」

「あれま」

 半分のところにある接続部分からバキッと言っており、屋根裏に接続されている部分を見ても結構錆びついていたりするところがあるのでこのまま登ったら確実に折れる。

 ……仕方がない。

「おいシャラス」

「…………」

「はぁ……てい」

「イタッ! 何すんのよ!」

 下を俯いてボーっとしているシャラスの頭に思いっきりチョップを打ち込むと久しぶりにシャラスの怒鳴り声が聞こえ、表情にも一瞬だけ生気がよみがえった。

「とりあえず肩車するからお前見てくれよ」

「…………変態」

 なんで……ってこいつまさかローブの下、直に下着きてるのかよ……服貰ったんだからそれ着ておけよな……はぁ。

「じゃあ俺をお前が肩車するか?」

「…………絶対に見ないでよ」

「見るか」

 しゃがみ込むとシャラスが俺の肩に足を乗せたのでそのまま立ち上がり、彼女の頭がちょうど屋根裏へ続く穴に入る位置に立つ。

「どうだ、見えるか」

「ん~。もうちょっと右」

 そう言われ、2歩右に動く。

「どうだ」

「…………降ろして」

「は?」

「良いから降ろして! すぐにここから逃げるわよ!」

「どうしたんだよいきなり」

「良いから!」

 シャラスに急かされて彼女を床に降ろした瞬間、屋根裏から木材を突き破ったような音が響き、慌てて家の外へ出て確かめる。

 屋根の上には大きく翼を広げているバードタイプの異怪が立っている。

 そのまま異怪は翼を大きく羽ばたかせて夜の空へと消えていった。

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