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モンスターゲート  作者: ケン
第1章 実地研修期間
13/42

第13話

 あぁ……もう…………痛みも…………感じ……ねえ。

 ボタボタと傷からあふれ出てくる血、口から血を吐き出しながら今にも倒れそうになる体をひざに手を置いてどうにかして倒れないように支えるが足はガタガタ震えており、少しでも気を抜けば地面に倒れ込んでしまいかねない。

「あ? 倒れない系? じゃあ、もうちょっとやっていいわよね?」

「ごっ!」

 そんな声が聞こえたかと思えば、突然、腹部の辺りに白くて毛に覆われた太くて強靭な足が見えた。

 そのまま体が後ろに持って行かれ、腹部の鈍痛を感じるよりも前に硬いものに当たったような痛みが背中に何度も現れ、その後にまるでザラザラしたもので背中を強くこすられるような痛みが走り、ようやくその後に腹を蹴られた際の痛みを感じた。

 もう、腕にも足にも力が入らずただただ太陽に腹を向けるように地面に横になっていると誰かに無理やり立たされ、次の瞬間にはまた硬い物に背中をぶつけたような痛みが何度も走った。

「あ、ストップストップ」

 そんな声が聞こえたかと思うとクマが俺の胸倉を掴んでいた手を離し、地面に落とした。

「シャラス、あんたの契約物。今にも死にそうだけどそれでも戦わす?」

 そんな問いが投げかけられるがそれに対する答えがシャラスの口から吐き出される事は無かった。

「わ、私は……」

 その後に言葉は続かなかった。

「さっさと決めなさいよね~。こいつが死んだらあんた冥界に強制転位されて留年確定よ? ただでさえ、あんたは必修科目の点数がヤバいのに」

 女は普通の音量で喋っているんだろうけど……俺には何故か、大音量の音楽をイヤホンして聞いているような感覚だった。

「優柔不断で決めなきゃならない時に決められない…………その所為で一体何回、自分の損失を与えてきたか分かっているの?」

「わ、私はちゃんと決めてるわよ!」

「じゃあ、早く決めなさいよ。このままこいつを殺しても良いのか。それともこいつにまだ戦わせるのか。まあ、どっちが正解の判断かは分かるわよね?」

 相手の質問にシャラスは顔を俯かせたまま、何も話そうとしなかった。

 …………どの道……このまま戦わせるっていう……選択をしても……俺が死んで……あいつが留年することは確実じゃねぇか……それを変える方法はただ一つ……俺がこの勝負に勝たなくちゃならない。

「……ああ、もう良いわ。どのみちあんたあっち戻ってもろくな人生送らないだろうから……ここであたしが楽にしてあげるわよ」

「待……てよ。悪……魔は手を……出しちゃ……いけないんじゃねぇのかよ!」

「確かにそう。でも殺すのは悪魔じゃない。契約物だもの」

 クマがそれを聞いてかデカイ足で地面を凹ませながらゆっくりとシャラスに近付いていくのが薄眼で分かった。

 肝心のシャラスは恐怖からかその場から一歩も動けずにいる。

「あんたいろんな奴から嫌われているものね~。魔法は基礎中の基礎のやつくらいしか使えない訳だし、勉強も一般科目は大丈夫みたいだけど必修科目の魔法・魔術科目はもう赤点だしね。お陰で赤点のシャラスとか言われているんでしょ? それでよく学校をやめないわね」

「だ、だって父様と母様が行けって言うから」

「じゃあ、両親が死ねって言えば死ぬの?」

 そんなものは極論だ―――――そう言いたかったが本来、酸素を運ぶべき物が入っている血液が大量に体外へ流れている所為か頭がボーっとしてきているし、何より今にも意識が飛びそうなくらいの痛みが全身を駆け巡っている。

 このまま何もしなければシャラスは殺され、俺は人間に戻るらしい……でも、よくよく考えてみればこの傷で生きられるはずもない。人間に戻ればそれで終わり。

「じゃ、そういうことで。バイバイ」

 その一言が発せられ、白クマがその腕を振り下ろした。

 








 ――――――何故かは知らない。

 ――――――何故かは知らないけど体が勝手に動いて気付いたらシャラスの前に立った。

 ――――――気付いたら辺りに肉に何かが刺さるような不快音が聞こえ、大量の血しぶきが宙を舞い、地面にボタボタと落ちていくつもの赤い汚れを作りだした。

「う、嘘でしょ」

「か、和也?」

 本来だったら俺がこいつを……シャラスを護る意味はない。

 でも、目の前で人が殺されそうになっているのを…………黙って見ているほど俺は……クズじゃない。

 肩に噛みついている白クマの頬辺りをギュッとつかんで、そのまま力を入れていく。

「確かにそっちでは…………こいつは……落ちこぼれかもしれない…………でもな」

 徐々に白かった奴の頬の毛が徐々に赤くなっていく。そして――――――

「そんな理由だけで…………こいつの命を消していい理由にはならないだろうが!」

 グシャッという音が聞こえ、視界に赤色ではない液体が飛び散り、肩に突き刺さっていた牙が抜けて白クマは頬を押えながら痛みにのたうち回った。

「がぁ……ぁ」

 突然、足から力が抜けて地面に両膝をついてしまった。

「そこまでの傷を負っても死なないとはね…………もう限界なんでしょ? そうに決まっている! あんたはシャラスと契約したクズ! グジャスには絶対に勝てない!」

 あぁ……イラつくなぁ……本当に…………イラつく…………その声も……その白い毛も…………お前の存在が何もかも……イラつく。俺が全部。

 ―――――――――無かったことにしてやるよ。

 直後、以前と同じ色をした魔法陣が俺の真下に出現し、それに伴って今までなかった紋様が右腕に現れ、それが光り輝きだすとそれに呼応してなのか俺の腕がモコモコと俺の意識とは別にまるで何かが中で動いているように思えるくらいに動きだした。

「…………潰す」

 直後、皮膚も血も右腕の何もかもがはじけとび、骨だけになると魔法陣から黒い何かが放出され、骨だけとなった右腕を包み込み、さらに傷ついた俺の体にも黒い何かが張り付いた。

「さあ……潰すぞ」

 そう呟いた直後、右腕を包み込んでいた黒い何かが辺りに放出されると異様な姿に変化した右腕が露わになった。

 究極にまで色を濃くした紫の腕、手首から先の拳が肥大化しており5本の指の先端はかなり鋭く尖っている。さらに、さっきの戦いで負った傷も完全に治っている。

 まだズキズキとした痛みは残ってはいるが……十分に戦える。

「へ、へぇ。中々面白い異能じゃないの。でも、所詮は人間もどき!」

 頬を赤く染めた白クマがその大きな腕を振るって俺を殴り飛ばそうと振りかぶる。

「うらぁ!」

 相手の腕が振るわれるよりも前に俺の大きな拳が奴の顔に沈みこみ、俺の何倍も大きい巨体をいとも簡単に向こうの方へ殴り飛ばした。

 うん……やっぱり、今までの鬱憤を全て溜めこんだ一発っていうのはスッキリするな。

 女悪魔はあり得ないといった様子で俺を見ていたが、すぐに白クマが飛んでいった方へと顔を向けて、名を叫ぶ。

「バカな……人間が…………ここまでの力を! グジャス!」

 白クマは怒り狂った様子で咆哮をあげながら俺へとものすごい速度で向かってくる。

 グジャスが通り過ぎた直後に発生する突風は地面に次々と1本の道が出来そうなくらいにでかい跡を残していく。

 白クマが横なぎに振るった腕を後ろへと体勢を傾けて避けるとそのまま足も同時にゆっくりと白クマの腹めがけてあげていく。

「らぁっ!」

 白クマの腹を思いっきり蹴りあげて宙へと上げ、さらに上へ上がった奴に腕を向けると腕がゴムのように伸びて、奴の顔面を大きな拳でわしづかみにするとそのまま地面へと叩きつける!

「おらぁぁぁぁぁ!」

 奴を地面に叩きつけた瞬間、地面に大きな穴が開き、さらにそこからシミが広がるようにヒビが走り、俺に暴風が叩きつけられた。

 あぁ~。超スッキリする! さっきまでの分を何倍にもして相手に返すって超最高!

「お?」

 白クマは怒りの咆哮をあげながら再び俺に向かって一直線に向かって駆け出してきた。

「おう、この程度で死なれたら困る」

 白クマの両腕の爪による凄まじい速度の連撃を服に掠ることもなく、全てを完全に避けていく。

 見える! さっきまで見えなかったあいつの攻撃が今は全てはっきりと見える!

 この腕の力を発動したらどうやら俺の身体能力も爆発的に上がるらしい。

 そんな考え事をしながらでも相手の連続攻撃を避ける事が出来る。

「らぁ!」

 相手の連撃を避け、一瞬の隙をついて相手の腹を思いっきり右腕で殴ると相手は口から唾液の様な物を吐き出し、腹を押さえて数歩後ろに下がった。

「グジャス! 何を人間相手に手間取っているのよ! さっさと殺しなさい!」

 主の怒声を聞き、叫びをあげながら今度はその太くて白い足を俺にはなってきた。

 それをしゃがんで避けるが相手はすぐさま足払いをかけてくる……がそれを軽くジャンプして避け、そのままの勢いで相手の顔面を蹴り飛ばすと鼻から赤い血しぶきが辺りに散った。

「今度は俺からの攻撃だ」

 腕を鞭のように地面に叩きつけると、右腕が紫色に輝きだし、倍々にその大きさを大きくしていく。

「うらぁ!」

 数倍の大きさになった腕を振るい、拳で相手を殴り飛ばすと思いのほか白クマが遠くの方にまで飛んでいってしまった。

「まだまだ! うおらぁ!」

 大きさを元に戻し、腕を伸ばして相手の顔面を掴んでそのまま腕を大きく弧を描くように振り上げ、そのまま地面にたたきつける!

「だぁぁぁ!」

 自分で言うのも何だが…………圧倒的。さっきまでの絶望的劣勢がうその様にひっくり返った。それほど、俺が使う能力が強いということか……。

 白クマは叫びをあげながら砂埃をたてて立ち上がり、大きく口を開けたかと思うとそこに力が凝縮していっているのか光が集まりだした。

 素手で殺せなくなったのなら能力で殺すのか? 甘いな。

 最大にまでチャージされた極太のビームがこちらに向かって放たれるが右腕をそっと前にかざすとそこから俺を避けるように2つに分かれて、後ろの方へと消えていく。

 数秒たった後に着弾したのか背後で爆音とともに爆風が吹き荒れる。

 さっきの一撃で俺を殺す気満々だったのか片腕だけで防がれた事に白クマは口をあんぐりと開けて驚きをあらわにしていた。

「何をそんなに驚いているんだよ……まだ、隠している力があるんだろ? その王冠、ただの王冠じゃないんだろ? さっきの様子見るに王冠のとんがっているところを突き刺して内部に強烈な震動を送り込んで内部から破壊……そんなところだろ」

 図星なのか白クマはさらに頬を大きくヒクヒクさせる。

「来いよ。それとも、負けましたって白旗上げて降参するか? 俺はそれでも良いぞ? 俺みたいなクズ野郎に負けたお前達の顔を拝んでみたいし」

「――――――ッッッッッッ! グジャス! 殺せ!」

 掛け声に合わせて白クマが地面を砕く程の脚力を発揮して王冠を俺へ向けながら結構な速度で俺に向かってくる。

 普通だったら避けて、隙だらけの背後から一撃を加えるもんだが……ここは敢えて、真正面から奴の攻撃を受け止めるとしようか。

「うらぁ!」

 王冠と繰り出した俺の右腕がぶつかった瞬間! 俺が立っている地面が大きくへこみ、辺りにヒビが走る―――――が、それだけだった。

 派手に爆発が起きるわけでもなく、俺が血を噴き出して倒れるわけでもなくただ単にそれだけしか起きなかった。

 もっと言えば後ろの方に突っ立っているシャラスにだって被害はまったく無い。

「残念だな、白クマ……お前が持っている王冠の威力は全て……俺の腕以下だ」

 己の最大の技を片腕で防がれてしまったからか白クマはその瞳に恐怖という炎を灯し、全身をガタガタと震わせながら見てくる。

 さっきまでの強気の威勢はどこへ消えたのやら……。

 王冠を強く握るとビシッ! とヒビがいくつも入り、あっけなく金色に輝く王冠が空中に大小様々な破片を飛ばしながら砕け散った。

「悪いがまだ殺さねぇぞ……死なない程度にグチャグチャにしてやるからな…………その白い毛なみを全部真っ赤にして、その両腕両足引き千切って! 口の中にある歯も舌も全部引っこ抜いてから殺してやるからよぉ! 楽しみに待っておけよ! なあ! 白クマ!」

「グジャス! どこへ行く!」

 ドスを利かせた低い俺の声を聞くいや否や、白クマは絶叫をあげながら突然、背を向けて一目散に主であるはずの女悪魔を放置して逃走した」

「俺ってさ。やられたら何万倍もの返しでやり返すって決めてあるんだ」

 右腕に力を入れると紫色に輝きだし、手の甲から魔法陣が出現してそのまま大きさを拡大しながら一目散に逃げている白クマを追いかけていく。

 魔法陣が白クマに到達すると奴の四肢を拘束し、腹部にミニサイズの魔法陣が現れた。

 その様子はまるでクモの巣に引っ掛かった蝶のようでさらに魔法陣から電流でも流れているのか拘束された白クマは苦悶に満ちた声をあげる。

「そんじゃ、止めと行きますか」

「ま、待った!」

 駆け出そうとした時に外野の声が響き、俺はそちらへ顔を向けると女悪魔が焦った様子で俺に近づいてきていた。

「なんだよ。今いい所だろ。邪魔するなよ」

「あ、あのさ。あんた達を襲った事は謝るからグジャスを倒さないでくれない?」

「意味分かんね。俺はあいつを倒すぞ」

「お願い! に、2度とあんたたちの前に現れないから! こんな所で研修は終わりたくないの!」

 女悪魔は今まで散々、クズクズ言って見下していた存在の俺に頭を下げやがった。

 ……プライドは無いのかよ。負けた事を潔く認める気もなしか。

「ひとつ言っておいてやる。俺ってさ、自分で言うのもなんだけど不良って奴なんだよ」

「そ、それがなによ」

「不良って止めてって言われて止める奴なんかいないから」

 女悪魔の絶望したような表情を見てから、腕に力を込めて白クマに向かって走り出す。

 白クマに近づいていくにつれて奴の腹に展開されている魔法陣の輝きが強くなっていき、さらに俺の腕も輝きを強くしていく。

 さっきまでのボコボコにした分を!

「てめえの命で勘弁してやる!」

 魔法陣に叩きこんだんだが以前の異怪のように爆発四散はしなかった。

 ん? 前と同じように魔法陣殴ったんだけどな……前みたいに弾けないし。

「前の異怪と一緒にしちゃ駄目よ!」

 前の異怪が一発。で、こいつが一発じゃ死なない……一発で駄目なら何発もぶつけりゃそれで良いじゃねぇか!

 腕に力を込めると先ほどの魔法陣が無数に出てきて白クマにペタペタっとくっついていく。それを見て白クマは表情を徐々に引きつらせていく。

「つうわけで死ねぇぇぇぇ!」

 1つの魔法陣を白クマごと殴りつけると体中にひっついている魔法陣の輝きが最大になり、白クマの全身に連続で衝撃が走っていく。その衝撃は奴を貫通して後ろの地面に何度も何度も穴を開けていき、大量の砂を空中に巻き上げた。

 白クマの至る所から赤い血があふれ出し、さっきまで白一色だった毛が徐々に赤色に染まっていく。

 おぉ~。真っ白だったのが真っ赤になったな……ざま~みろ。

 心の中でそう言い、後ろを振り返ってシャラスのもとへと歩き出した直後、後ろで何かが爆発したような爆音が鳴り響いた。

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