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モンスターゲート  作者: ケン
第1章 実地研修期間
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第1話

 拝啓、世界の平和を守るという超偉大な仕事に没頭して俺の育児を3歳の時点で放置して施設に預けたおふくろと親父へ。

 天気が良い今日、俺――神崎和也の目の前にはクギバットやらバールやらノコギリやら包丁なんかの武器を持ったザコすぎて欠伸が出そうな奴らに周りを囲まれております。それもこれもあんたらが俺の育児を放棄して施設にぶち込んだ所為です。まあ、要するにグレた。

「神崎ぃ! 今日こそてめえを殺す!」

「そんな怖い言葉吐くなよ。お前たちもしつこいな。何回俺に病院送りにされたら気が済むんだよ」

 よくは分からんが俺はこの町で一番強い不良として有名になってしまい、こうして毎日の様に他所から来る不良どもをボコボコにして返しているんだがそれが余計に拍車をかけているらしく、最初は1人だったのがいつの間にか10人、20人レベルの大御所が来るようになってしまった。

 もうマジで勘弁してくれよ。喧嘩するのも体力いるんだけど。今日は5人だからまだ楽だけど。

「死ねやぁぁぁ!」

 後ろからそんな叫びが聞こえ、体を右に傾けるとさっきま俺がいた場所をノコギリが通過していき、地面にぶつかって変な音が鳴るがそんなのお構いなしに相手の顎に思いっきりひじ打ちを食らわせると上手い具合に入ったのか相手は意識を失って倒れてしまった。

「うらぁぁぁ!」

 無謀にも目の前から思いっきり俺めがけて金属バットを振り下ろしてくるがそれを避け、相手の懐に入って全力の腹パンを食らわせると吐瀉物を吐き散らして倒れ込んだ。

「うわ、汚ね」

「や、やべえって! 俺達じゃ勝てねえよ!」

 そんなことを言いながら連中は倒れた仲間を放置して逃げてしまった。

 薄情な奴らだな……まぁ、どうせこの町に車なんて通ってないから車道に寝かせておいても轢かれやしないだろ。

 そんなことを考えながらカバンを肩にかけ、家へと向かってゆっくりと歩きはじめる。

 俺が住んでいるこの町にいる人の数は1万人を下回っており、小学校・中学校は次々に閉鎖されていき、今は2校くらいしか残っていないし高校にしても一クラス分の人数しか集まらないので俺達が卒業すると同時に廃校にするらしい。

 ちなみに3年が60人、俺達2年が40人、1年は20人しかおらず、校舎もボロボロ、部活なんてほとんど不良どもの遊び場にしかなってない。ていうかほとんど不良だ。大体は喧嘩売りに行ってるからいないけど。

 人口分布図なんか10代の若者は120人ちょっとで残りの人間は80以上の高齢者だ。何故こうなったかというと若い連中はみんな都市に行ってしまった。いわゆる出稼ぎ……というには少し違うが大体はあっている。ほとんどの若い連中は都市に出て世界平和のために戦ってるのさ。

 モンスターゲート……そんなものが開いたのは今から100年以上も前の話だ。突然、ブラックホールのような穴が開き、そこから怪物どもが出現し、人類を襲い始めた。その怪物を異物という。たった1年で世界人口の一割が異怪に殺されてしまい、滅亡の危機とか言われたらしいけどそこは人間。対異怪兵器を生み出して交戦し始めた。その兵器っていうのが聖域武装。なんでも聖域とかいう人類の常識が通用しない空間を作り出す武器らしい。で、若い連中はそんな武器を使って戦うために都市へと出ていく。

 そこである問題が出てきた。聖域隊という組織に入って戦いだしたのは良いがほとんどの人間が自分の子供そっちのけで人類を護る戦いに参加するようになってしまい、育児放棄をする親が増加し始めた。その結果、生まれたのが俺みたいな生まれた時から今までずっと施設で育ち、親の愛情を受けたことがないような子供だ。親と会ったことなんて1回もない。そんな子供たちは苛めや差別の対象となり、今社会的な問題になっている。

「別に今更、親の顔なんて見たくもないし会いたくもねえけどな……あーあ。天気は良いのに俺の人生は最悪…………ん?」

 腕を伸ばし、伸びをしようと顔をあげた時に空に突如、大きな穴が開いた。

 ……おいおい。人間が集中しているところにしかモンスターゲートは開かないんじゃねえのかよ!

 慌ててその場から逃げようとした時、モンスターゲートが一瞬で閉じてしまった。

「な、なんだ。焦らせ」

 直後、凄まじい爆音が後方からした!

「な、なんだ!?」

「たっく! 何が安全膜よ! 急にこれに変えろとか言うから変えたら大惨事じゃないの!」

 そんな怒鳴り声が聞こえ、恐る恐る何かが不時着した穴を覗きこむと砂煙が風によってかき消され、穴の中にいる奴とバッチリ目があった。

 黒いローブを身に着け、人差し指に黒いリング、肩ほどの長さの黒髪に美少女と言っても差支えない程に整った顔、そして背中から生えている2対の黒い翼。

 まるで何かに引きつけられているかの様に目が合ったその時から俺はその少女から目が離せなかった。

「……ねえ、見てないで手、貸してよ」

「あ、あぁ悪い」

 少女に手を伸ばし、手と手が触れあった瞬間、静電気のようなものが起きたかと思えば俺の右手の甲から熱を感じ、慌てて右手の甲を見てみると見たこともない変な文字が浮かび上がった。

「な、なんだこれ!?」

 何度かゴシゴシ擦ってみるがもう皮膚自体に刻まれているかのように消えない。

「……う、嘘でしょ!?」

 少女はそう言いながら自力で深い穴から飛び出ると俺の右手を掴んで自分の近くまでもっていき、マジマジと手の甲を見る。

 なんなんだよ……空から明らかに人間じゃないような少女は落ちてくるし、手の甲には変な文字は浮かび上がるし……マジで俺、何かに呪われてるのか?

 そう思っていると急に少女はヘナヘナと力なく地面にへたり込んでしまう。

「お、おいいきなりどうしたんだよ」

「終わった…………もう留年確定よー! うわーん!」

 へたり込んだかと思えば今度は大きな声で泣き叫び始めた。

 ど、どうすりゃいいんだよ……とにかくこの場からさっさと逃げないと聖域隊が来たら速攻でこいつ殺されるか研究対象にされるぞ。

「とりあえず俺の家に来い」

「うぅー! バカ!」

 少女の手を取り、俺は自分の家まで小走りで向かった。











 木造建築の3階建てのアパートが俺が今住んでいる家だが住人は俺以外にはいない。

 理由は俺が住んでいるところを嗅ぎつけてくる不良どもがわんさかそこら辺に集まり、近隣住民が外も出られないと言う事で俺が引っ越してきたや否やわずか1カ月で住人が俺一人だけになってしまった。

 ちなみにワンルーム程度の広さ。

カバンを適当な場所に置いて冷蔵庫からペットボトルを取り出し、食器棚から二人分のコップを取り出して茶を入れて彼女に渡すと彼女は不思議そうな顔でコップの中に入っているお茶を眺めた。

「ねえ、これって人間の飲み物?」

「そうだよ。そっちには……えっと、あんた達が住んでいる世界にはねえのかよ」

「冥界」

「は?」

「だから、私が住んでいる世界の名前は冥界」

 冥界……ということはこいつ、悪魔なのか? いや、でも冥界に住んでいるから悪魔っていうのは創作上の設定かもしれないし……黒い翼があるから……コウモリとか?

「その冥界って言う場所にはお茶はねえの?」

「いや、飲み物はあるんだけどさ。初めて見る色だったから」

 茶を飲みながら彼女の全身を見てみた。

 背中には今は折りたたまれて、見えなくはなっているが黒い翼が2対4枚あった。

 それ以外は人間と同じような姿をしているけど、逆にそのたった一つの点だけでもう人間じゃないっていう証明になっている。

 髪の色も派手な色じゃなくてよく見る綺麗な黒だし、かといって外人みたいに目の色がカラフルになっているって言う訳でもない。翼がなければ人間って言われても納得する。

 着ている服は膝丈の黒いスカート、フードがついた七分丈の黒い上着を羽織っていて右手の人差し指にはおしゃれなのかは知らないがリングがあった。

 雰囲気とかは人間と何ら変わりないんだけどな……でも、今俺の目の前にいるのはモンスターゲートからこっちの世界に落ちてきた俺達とは異なる存在。

「うぇっなにこれ」

 そう言いながら少女は不味そうな顔をする。

「何ってお茶だけど」

「これがお茶……よくこんなまずいもの飲めるわね」

 まぁ、人間が飲むものだから悪魔さんが飲んでも美味しいとは限らないわな。それで美味しいとか言ったら共通の飲み物だしな。それはそれで凄いけど。

「まあね……ねえ、お菓子ない? 最近、食事にハマってるのよね~」

「ないな。俺、お菓子とか嫌いだから。ていうかハマるってどういうことだよ」

「そのままの意味よ。私たちには食事っていう習慣はないの。だから最近、若い子たちの間で食事っていう遊びが流行っているのよ。あ、でも最近じゃ上流貴族の間でも食事が出来るっていう事が一種のステータスになっているらしいけど」

 なんか凄いな。向こうさんからしたらごく当たり前のことを言っているだろうけど俺たち人間からしたら異常な事のように聞こえる。

「さっさとお前のこととこれ、教えてくれよ」

 手の甲にある変な文字を指さしながらそう尋ねる。

「私の名前は……えっと、人間に分かるように発音するとシャラス・イグリスト。呼び方はあんたの好きに呼んでもらっていいわ」

 シャラス・イグリスト……なんだ、案外外国の人の名前みたいな名前しているんだな。今時のキラキラネームみたいな変な名前とかついているのかと思った。

 にしても悪魔か……モンスターゲートから出てくるのは何も怪獣映画に出てくるような巨大な化け物ばかりじゃなくて人間みたいな姿をした奴もいるのか……っていうことはモンスターゲートの向こうは何かしらの世界が広がっているって話か。

「俺は神崎和也」

「へぇ~。和也か……じゃあさ、早速で悪いんだけどさ……死んでくれる?」

 そう言いながらシャラスは笑みを浮かべつつ、俺の首元に手を伸ばしてくる。

 言っていることとやっていることが全く正反対だがとりあえずシャラスの手首を掴んで止めさせる。

「離しなさいよ!」

 悪魔と言っても大体は人と同じなんだな。人間の女子みたいにひ弱だな……それにしてもこいつの腕かなり細いな。まさか、片腕で相手の両腕を制限できるとは思わなかった。

 掴まれている手首を離すべく、必死にジタバタとシャラスは暴れ出すが所詮彼女も女の子。男子よりも比較的に筋肉量が少ない女の子が喧嘩ばかりして筋肉も程良く付いている俺に力でかなうはずもない。

「いきなり、死んではないだろ」

「だって……だって、あんたが私の契約物になったんだもん!」

「ごめん。全く意味が分からん」

 契約物になったからってなんで俺が殺されなければならん。ていうか、まず契約物っていう時点で俺は理解不能だ。

「その契約っていうのはこいつが関係しているのか?」

 シャラスの手首を掴んでいた手を離し、手の甲に書かれている変な文字を見せると不機嫌そうな表情を浮かべてシャラスは首を上下に小さく振った。

「もうこの際だから最初から最後まで説明するわ。私たち悪魔は人間でいう高校2年生の年齢になると半年間、人間界で実地研修みたいなのをするのよ」

「その実地研修で何をするんだよ」

「色々あるんだけど例を挙げれば人間が異怪って言っているやつを倒すのよ。そいつらには個体ごとに点数が決められていてね。そいつらを倒すことによって成績に入れられるの。それで一つ規則があるのよ……いったん、整理する時間いる?」

「お、おう。いったん整理させてくれ」

 シャラスは悪魔であって、悪魔は俺達でいう高校2年生の年齢になると人間界にやってきて異怪を倒して、点数を稼ぐ…………ふむふむ、何となくわかってきたぞ。

「それで? その規則っていうのは?」

「私たち悪魔が異怪を倒してはいけない」

 ……それって実地研修の意味ねえじゃ 普通、実地研修って自分がしてなんぼのことだろ。それを自分がしてはいけないって……自分がしなきゃ研修の意味ないだろ。

「なんで、シャラスが手を下しちゃいけないんだよ」

「そこで重要になってくるのが契約よ。人間界に来たらまずしなきゃいけないのは己に変わって異怪を倒す力を手に入れなきゃいけない。それが契約。こっちの世界で最初に触れた生命体と強制的に契約が結ばれる。その契約を結んだ奴を使役して異怪を狩らせることで点数を稼ぐのよ」

「つまり、契約するに値するほどの強さを持った奴を探すのも研修のうちだと」

「そう言う事。過去にはものすごく強い存在と契約した方もおられるわ」

 成程ね。物を見る目も大事だという訳か。それで、最初に触れたのが俺だったから強制的に契約が結ばれたってわけ……勘弁してくれよ。あんな化け物と戦うなんて俺は嫌だ。

「俺、異怪なんかと戦いたくないぞ」

「そんな事言っても契約したんだから仕方がないじゃない」

 性質が悪いのはその契約を行うきっかけを作ったのは俺自身だってことだよな。あの時、俺がこいつに手を差し伸べずにいつもみたいに空から降ってきた奴をそのまま無視して家に帰っていればこんなことにはならなかったんだ。

「なあ、契約を取り消せたりしないのか?」

 そう尋ねるがシャラスは首を左右に振った。

「無理よ。大昔から悪魔は人間と契約を交わして代価を得る代わりに欲望を叶えるっていう関係。その時の契約は目的を達成すれば消える。でも、私と貴方の間に結ばれた契約はただの契約じゃない。主従関係を決める特別な契約なの。両者ともにその契約は自分では取り消せない。その契約はあんたが死ぬか、私が死ぬまで続くわ」

 俺が死ぬか、こいつが死ぬまでこの契約は生きるのか……ハァ。あと80年くらいは異怪と戦わなくちゃいけないって言うのかよ。勘弁してくれ。

「あ、ちなみに私たち悪魔に寿命は無いし、契約を結んだ生物はその生物の理を抜けるから同じように寿命なんてないわよ。死ぬ原因は悪魔に関しては病気か外部からの攻撃によって殺されるくらいのもんね。契約物は病気にもならないから外からの攻撃で殺されるくらいしかないわ。冥界に長生きしている悪魔はいっぱいいるわよ。一番長くて、かれこれ1000年以上だったかしら」

「もうマジで死にたい」

 シャラスからの止めの一撃を受けて、俺は畳に手をついて絶望した。

 てことは俺が死ぬには異怪みたいな化け物に喰われて死ぬか、心臓をグサッと包丁かなんかで突き刺されないと死なないってことか。

 なんか何万年後の俺とか気を狂わしてそうだよ。

「そんな訳だからこれから少なくとも何万年と付き合う事になるからよろしく。和也」

 さっきまでのふてぶてしい顔をどこへ行ったのやら、シャラスは満面の笑みを浮かべて俺に手を差し出してきて握手を求めてきやがった。

 とりあえずシャラスの傍にいないと気が狂いそうなくらいにクソ長い人生をどう生きていくかなんて分からないからな。

「とりあえず、よろしく」

 渋々ながら、俺はシャラスの実地研修とやらの点数を稼ぐための道具として生きることを強いられてしまったけど、彼女の手を取って軽く握った。

懲りずに新作です。よろしくお願いします

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