小夜物語such a small tales in long nights 第23話 廃金坑の探険 adventure of ruined mine
「おい、今日はあの金山の穴に行こうぜ」
尋ねてきた良太はそういった。
もちろんそういわれた伸介にも異存はあるはずもなかった。
「じゃあシャベルと懐中電灯持ってくか?」
伸介は急いで家の中に入って懐中電灯を捜し始めた。
さてそもそもこの二人がその金山の穴というのは
この地方では戦国時代に金鉱脈がいくつもあって
ちょっと裏山へ入ればいまだにいくつもの
狸堀りの金鉱の坑道跡がぽっかり空いているのだった。
良太と伸介が棲んでいたのは、山梨県の山村で
あの武田の隠し金山があったという伝説の黒川谷にも近いところだった。
ただ、、少年たちが言う金山の穴というのは
実はもっと下って江戸時代に金山師が金鉱探しで「試掘」した穴の跡だという
のが真実らしい。あるいは銅とかの狸掘り跡だという説もある。
しかし少年たちはもちろん金が出た穴と信じ切っていて
そういう認識しか持っていなかったことは言うまでもない。
その穴を探ればまだ、金が出る、、
そんなワクワクした少年の冒険心が躍動していたのだ。
だが困ったことに?
少年たちは金というものは実物は見たこともなかった。
少年たちの家に金の指輪一個あるわけでなし、
今から50年以上も前の山村である。
そして少年たちの家はもちろん貧乏農家である。
家には金どころか銀すらない。
あるのは銅の青錆の吹いた薬缶くらいだった。
だから少年たちは金というのはキラキラ光るあの延べ棒状のものが
穴の奥の岩の割れ目にでも
挟まっているくらいの貧弱な知識しかなかったのである。
まあ
実際製錬しない前の金鉱石というのは
白い岩に小さい粒状の金が散乱してるだけですよ。
肉眼では判別できないくらいです。
ごく、、まれに1センチくらいの大きな金のナゲットが露頭してることもありますが、、
まあ、まれですね。
ところで、、、
砂金となれば
この黒川渓谷、鶏冠山一帯の沢筋には、むかーし、むかしの奈良・平安時代?ころには
砂金がたっぷりあって
朝日、夕日に川面がキラキラ輝やいていたという伝説もありますが
それから1000年後の昭和時代ではもう砂金など取りつくされて
ほとんどありませんでしたがね。
さて、、、前置きが長くなりすぎました。
その日、、、
昭和36年のある秋晴れの日、
良太と伸介は二人でしゃべると懐中電灯を持って
長靴を履き、裏山へと分け入ったのだった。
しばらくけもの道を行くと小さな沢があり
そこを越えてさらに行くと次第に上り勾配が急になって、、
その先にちょっとした平地がある。
そこを下るとまた今度はやや大きな沢があって
その対岸にはいくつかの穴が今も開いているのが見えるのである。
それが金山の穴である。
中にひときわ大きな穴があって
そこは、坑道の高さが1メートル以上もあろうか。
少年ならゆっくりとくぐれる高さである。
二人が目指したのはその穴だ。
懐中電灯を点灯していざ
穴の中へ
実は二人は大人たちから穴に入ってはいけないと
きつく言われていたので今まで入ったことはなかったのだ、
確かに手掘りの狸堀の坑道はいつ崩れてもおかしくないし危険極まりないのは当然だ。
さて穴の中は土臭くて数メートルも行くと岩盤になり
懐中電灯で照らすとその岩盤は
確かにキラキラするのである。
(まあ私の見立てではそれは石英とか雲母とかの反射でしかないのでしょうが。)
「おい光ってるぜ」良太が言いました。
「そうだなこれが金かな?」
「でもこんなに簡単に金があるなら大人はなんで取らないんだろうな?」
「この金を取って売ればあんな泥まみれになって畑するより千倍マシだろう?」
確かにその御高説はもっともなことだったが
伸介は思った
「大人だってばかじゃない。これがほんとに金なら、とっくに掘って売ってるだろう。金じゃないからほったらかしにしてるんだろう?」
さらに坑道を進むと、、そうだな、、入り口から10メートルくらいで
穴は行き止まりだった。
二人はがっかりしてしまった。
もっと深くて、、うねうねとどこまでも坑道が続いていて
その先には、、黄金の延べ棒が光り輝いている、、
そう信じていたんですからね。
、まあ、、それでは金鉱脈ではなくて、、「埋蔵金」ですかがね。
少年たちに金鉱脈と埋蔵金の区別などつくはずもなかったのでしょうね。
少年たちはがっかりして穴を出ました。
記念に途中の岩盤の光るものをシャベルですこしとって外へ出ました。
でも外へ出てそれを見ると
ただの火打石(石英)だったのが少年にも、分かったので
捨ててしまいましたがね。
こうして少年たちの冒険は終わりました。
見ると、、、
秋晴れの一日ももう終りかけていて
山の方から冷たい風がひゅうと吹いてきました。
終り
㊟この物語はフィクションであり、
地名・人名などはすべて仮名・仮称です。
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