表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
得ると失うの狭間にあるのは  作者: 皆麻 兎
絡め取られし機械人形(マリオネット)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/44

第37話 逃げ行く先にあったのは

「…出発する。乗れ」

バイクのエンジン音が鳴る側で、シェルトが私に告げる。

「う、うん…」

彼からヘルメットを受け取った私は、慣れない手つきでそれを身に着けた。

「沙智もシェルトも…道中、気をつけて」

「フタバ…いろいろとありがとうね」

フェルトの後ろにまたがった時、フタバが見送りに来てくれていたのである。

「…本当は、私も同行してあげたい所だけど…」

「確かに、腕としては申し分ないが、駄目だ。…奴らに機会(チャンス)を与えてしまう」

苦笑いをしながら述べるフタバに、恋人は却下の意思を示した。

この地で出会った魔術師一族の末裔・フタバとフェルトに出逢った私だったが、国立魔導研究所の連中に目をつけられたらしい。そのため、身の安全を考えて国を出る事となったのだ。彼らには人工知能(サティア)の存在を隠さずに話したが、お互い他言無用という約束を交わしたので、ヴィンクラの事も含めて彼らの口から漏れる心配はないだろう。最も、彼らも私達に知られたくない秘密を抱えているようだったから、お互い様かもしれない。

『ログイン出来ない以上、さっさとこの国を出て、行くはずだった時代(ところ)へ行くわよ!』

「う…うん…」

サティアの台詞(ことば)に応えた直後、彼らが私をジッと見つめている事に気がつく。

「…サティアと話していたの?」

「あ…うん」

フタバの問いかけが新鮮に感じたので、私はしどろもどろになりながら答えた。

というのも、これまで訪れた時代では人工知能自体が存在しなかったため、サティアを人工知能(それ)と認識できる人間はいなかった。これは、今いる時代が私の暮らす現代に近い時代故の価値観なのだろう。

こうしてフタバと挨拶をした後、私を乗せたバイクはスラム街を駆け抜けていく。


高速道路(フリーウェイ)に乗るぞ」

「うん!」

スラム街を抜けた後、バイクは荒れた道路から高速道路に到達する。

現代(むこう)では車椅子が足代わりなので、バイクの存在を知っていても乗る機会がなかった。そのため、もしもログインしていれば、知識として保存されていただろう。

 バイクって、こんなに風を切る気持ちよい乗り物なんだな…

私はシェルトにつかまりながら、そんな事を考えていた。

ちなみに、今バイクを運転してくれているフェルトは、元・魔術兵という魔法が使える軍人だったらしい。どういう経緯でスラム街に住んでフタバと出逢ったのかは知らないが、戦闘の腕が相当すごいという事は、ログインしていない今でもよくわかる。

「お前…」

「えっ…?」

この時、シェルトの声が一瞬聴こえたが、走行中という事もあって聞き取る事ができなかった。


「っ!!」

「きゃっ!!?」

突然、何かを感じ取ったシェルトは、ハンドルを逆に回して急カーブの姿勢を取る。

その反動で、車体が大きく傾いた。

「危な…」

「掴まっていろ!!!」

もう少しで振り落とされそうだった私は愚痴をこぼそうとするが、彼の叫び声によってかき消されてしまう。

しかし、その余裕のなさそうな声に対して何かを感じ取った私は、先程よりも強くシェルトの体にしがみつく。

「くっ!!!」

そんな中、彼はハンドルを巧みに操作して、急カーブを繰り返す。

『あれは…魔法の跡!?』

サティアの声を聞いた途端、私は彼が何を避けているのかを悟る。

私達が走っていた場所のコンクリートに、ひびが生えていた。そこには僅かだが、衝撃波が放たれたような跡がある。

『…地面から魔術によって衝撃波を放ち、このバイクを転倒させようって腹かしら。…どうやら、敵とやらが仕掛けてきたのかも…』

「分析している場合じゃないって、サティア…!!!」

私は少し混乱しているせいもあってか、いつものように心の中での会話ができなくなっていた。

「しゃべるな!!…舌をかむぞ…っ!!」

私の叫び声を不快に感じたシェルトから、しかられてしまう。

そして、それとほぼ同時に私たちの真横から発生したと思われる衝撃波を、急カーブによって避けた。こうやって乗せてもらっている身分なのでそれが当然と思うのかもしれないが、このようなやり方で敵の攻撃を避けるのは、普通なら容易ではないはずだ。そこは、シェルトの運転技術が優れているからできる芸当なのだろう。

 …でも、これが魔法による攻撃だとしたら…全て避けきれるの!?

そんな不安が、私の脳裏によぎる。

彼は私を乗せてバイクを運転しているので、敵への反撃ができない。仮に私がログインできていたとしても、走りながら敵の気配を探るのは困難だろう。

「とにかく…振り切るぞ!!」

「わかっ…!!」

シェルトの台詞(ことば)に、私が彼に聞こえるくらいの声で答えた…はずだった。

「ぐっ!!?」

首の後ろに強い衝撃を感じた私は、一瞬だけ瞳を閉じる。

再び()を開くと、目下にはこちらを見上げながら運転するシェルトの姿があった。

『この板みたいな物質(もの)…まさか、磁石!!?』

サティアの声を聞いた途端、自分に何が起きたのかを悟る。

私の首についているヴィンクラが、自分の体と密着している冷たい物質にくっついているのだ。しかし、強烈に密接しているのがヴィンクラの後ろの部分だけだったため、首を吊られているような状況であった。

「沙智…!!くそっ!!!」

真下からシェルトの叫び声が聞こえるが、彼には先程も放たれていた魔法のおかげで、私を助ける余地はなかった。

「この音…ヘリ…!!?」

聞いたことのある騒音と共に、吊り上げられた私の体が空高くへと飛び上がる。

目で確認する事はできないが、おそらくは強力な磁場を放つクレーンか何かを取り付けたヘリコプターが、磁力で私の首にあるヴィンクラを強制的にくっつけたのだろう。人間一人吊り上げてしまうくらいだから、魔術も行使されている可能性が高い。

 首…痛い…よ…

魔法による補助があるとはいえ、今の私を支えているのは、強力な磁場を受けた首にあるヴィンクラのみ。直接首を掴まれている訳でなくても、窒息感を覚えるのは当然だ。

『沙智…!!!』

人工知能(サティア)の声も次第に遠くなる。

薄れていく意識の中で、首の痛みが消えたのを一瞬感じた。それによる安堵なのか窒息死しかけたせいなのか―――――――私は、必然的に意識を失ってしまうのであった。



「っ…!!?」

突如視界に入ってきた光によって、私は完全に意識を取り戻す。

というのも、瞳は閉じたままだったが、意識は少し前から取り戻していた。しかし、周りで話す人達は私がまだ眠っていると勘違いしているようだとサティアが話してくれていたため、ある種の狸寝入りをしていたわけだ。

「ごきげんよう、緑山沙智君」

「貴方は…!!!」

瞳を開いて最初に見えたものは病院の手術室にあるような照明だったが、その直後に覗き込んできた顔を見て私は驚いた。

その声の正体は、フタバの所に居候していた時に出逢った、オルゴ・ミデアーラだったのである。

「奴らは少し手荒な方法を取っていたようですが…損傷はしていないようですね」

そう口にしながら、オルゴは私の首筋にあるヴィンクラに触れていた。

「魔術研究者とやらが…私なんかに、何の用…!!?」

この男がいる事で、今いる場所が何処かを悟った私は、鋭い視線で見上げながら口を開く。

「…フタバさんから聞いたようですね。まぁ、隠すべき身分ではないから良いですが…」

男はポーカーフェイスを崩さないまま、私の問いをはぐらかそうとする。

「とりあえず、話をする前にさっさと済ましてしまおう。…目隠しを」

「何をする気…!!?」

研究者は、部下に目隠しを用意するよう命じる。

不審に思った私は起き上がって逃げ出そうとしたが、鎖のついたリストバンドのような物で両手両足が拘束されていたため、それはできなかった。次の言葉を紡ごうとした私に、彼の部下らしき男性が目隠しをしてきた。それによって、視界が一時的に真っ暗となる。

「痛っ…!!?」

目隠しされた直後は金属と金属がこすれあう音しか聞こえなかったが、突如首に感じた痛みによって、私は歯を食いしばった。

何も見えないので、彼らが何をしたのかがわからない。しかし、涼しく感じ始めた首筋と、痛みの直後に感じた脱力感で嫌な予感を覚える。

 臓器補助機が…!!?

この脱力感は、考古学研究所でヴィンクラをはずしてもらった直後の感覚と似ていた。

「あっ…!!!」

どうやら私の読みは、嫌な形であたっていたらしい。

私に施された目隠しはすぐにはずされたが、オルゴがヴィンクラを両手で持っていたのを見て、先程の痛みがヴィンクラを外した時によるものだとわかったのである。

「”それ”が…狙いだったのね…!?」

「ん…?ああ、痛かったかな?ごめんごめん」

私の視線に気がついた研究者は、飄々とした口調でそう述べる。

私のヴィンクラを部下に預けた彼は、ゆっくりと近づき、私の目の前に立つ。

「その端末を外す方法は、最近発表したばかりだったからね。…君が暮らしていた所ほど、スムーズにはいかない」

「何を言っているの…!?」

その返答に対し、私は違和感を覚える。

いくら鈍い私でも、すぐにわかるような違和感だ。それはまるで、私が「他の時代から来ている事を知っている」と感じさせるような言動だったからだ。

ヴィンクラを外されたので、私の疑問を答えられる存在(もの)がいない。完全に思考が止まってしまった私は、見開いた目で相手を見上げる事しかできなかった。

その様子を察したオルゴは、含み笑いを浮かべながらこう述べる。

「詳細を、語ってあげた方がよさそうですね。まぁ、最初に言える事は…君は我々の”協力者”の手によって、この時代へたどり着くよう仕組まれていた…といった所かな」

「え…」

ただでさえ、事態を把握できていないのに、彼の一言はそんな私に更なる追い討ちをかけたのであった。

その後、今の台詞(ことば)の意味と、彼らの狙いが明らかになるのである。


いかがでしたか。

これまでの回の事を考えると、今回は少し短かったかもしれないです。

というのも、この辺りで区切っておかないと、すごい長い回になってしまうかなと思ったためです。

特に突出して書く事はないですが、今回の部分を執筆するにあたって参考になったのがファイナルファンタジーVII~アドベントチルドレン~です。

あちらでクラウドがバイク乗りながら戦闘したり敵を追ったりするシーンがあったので、それを頭の中で浮かべながら書きました。笑


さて、次回ですが…

敵の狙いが判明すると同時に、これまでの物語で違和感たっぷりだった、ある登場人物の名前が出てきたきたりと…いわゆる「解答編」みたいな話になるかと思いますので、お楽しみに。


ご意見・ご感想があれば、宜しくお願いいたします


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ